労働法
労働基準法、労働契約法、最低賃金法、男女雇用機会均等法、労働組合法、育児介護休業法など労働者に関する法律をまとめて「労働法」と呼んでいます。
労働基準法
法定三帳簿とは、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿のことです。
労働者名簿
労働基準法第107条は、「1.使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。2.前項の規定により記入すべき事項に変更があつた場合においては、遅滞なく訂正しなければならない。」
法第107条第1項の労働者名簿(様式第19号)に記入しなければならない事項は、同条同項に規定するもののほか、労働基準法施行規則第53条により、次に掲げるものとする。(一)性別,(二)住所,(三)従事する業務の種類,(四)雇入の年月日,(五)退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。),(六)死亡の年月日及びその原因とする。常時30人未満の労働者を使用する事業においては、従事する業務の種類を記入することを要しない。
- 労働者名簿の記入事項
- (1)氏名
- (2)性別
- (3)生年月日
- (4)住所
- (5)従事する業務の種類(常時30人未満の労働者を使用する事業においては、記入することを要しない。)
- (6)雇入の年月日
- (7)退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)
- (8)死亡の年月日及びその原因
- (9)履歴
賃金台帳
労働基準法第108条は、「使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。」と定め、則第54条で賃金台帳の記入事項を定めています。
- 賃金台帳の記入事項
- 使用者は、法第108条の規定によつて、次に掲げる事項を労働者各人別に賃金台帳に記入しなければならない。
- (1)氏名
- (2)性別
- (3)賃金計算期間
- (4)労働日数
- (5)労働時間
- (6)法第33条若しくは法第36条第1項の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合又は午後10時から午前5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時)までの間に労働させた場合には、その延長時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
- (7)基本給、手当その他賃金の種類毎にその額
- (8)法第24条第1項の規定によつて賃金の一部を控除した場合には、その額
- 前項第六号の労働時間数は当該事業場の就業規則において法の規定に異なる所定労働時間又は休日の定をした場合には、その就業規則に基いて算定する労働時間数を以てこれに代えることができる。
- 第1項第7号の賃金の種類中に通貨以外のもので支払われる賃金がある場合には、その評価総額を記入しなければならない。
- 日々雇い入れられる者(1箇月を超えて引続き使用される者を除く。)については、第1項第3号は記入するを要しない。
- 法第41条各号の一に該当する労働者については第1項第5号及び第6号は、これを記入することを要しない。
労働者、事業とは
- 労働者、事業とは
- 事業の定義を知らなければならない理由は、就業規則の届出など労働基準法の適用が事業所単位で行われているからです。
- 第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
- 事業とは
- 行政解釈では、「事業とは、工場、鉱山、事務所、店舗等の如く一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行なわれる作業の一体をいうのであって、必ずしもいわゆる経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指称するものではないこと。(運用の基本方針(2))
- 1.従って一の事業であるか否かは主として場所的概念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として分割することなく一個の事業とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業とすること。
- 2.しかし、同一場所にあっても、著しく労働の態様を異にする部門が存する場合に、その部門が主たる部門との関連において従事労働者、労務管理等が明確に区分され、かつ、 主たる部門と切り離して適用を定めることによって労働基準法がより適切に運用出来る場合には、その部門を一の独立の事業とすること。例えば工場内の診療所、食堂等の如きはこれに該当すること。なお、個々の労働者の業務による分割は認めないこと。
- 3.また、場所的に分散しているものであっても、出張所、支所等で、規模が著しく小さく、組織的な関連ないし事務能力等を勘案して一の事業という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱うこと。例えば、新聞社の通信部の如きはこれに該当すること。」 (運用の基本方針(3)、昭和22.9.13発基17号、昭和23.3.31基発511号、昭和33.2.13基発90号、昭和63.3.14基発150号、平成11.3.31基発168号)
- 「労務管理が一体として行われていない建設現場等の場合は、直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱われる。」(昭和63年9月16日付け基発第601号の2)
- 労働者
- 第9条の労働者であるかは、基本的に、事業に使用される者であるか、その対償として賃金が支払われるか否かによって判断します。
- 業務委託契約と請負契約と雇用契約の違いを理解することが必要です。
- 労働基準法上の労働者の判断基準については、厚生労働省(旧労働省)の研究会が、裁判例、学説、解釈例規の事例などを整理し、昭和60年12月19日に「労働基準法研究会報告 労働基準法の労働者の判断基準について」という報告書を発表しています。
- 労働者性検討専門部会報告は、旧労働省の労働基準法研究報告会労働契約等法制部会が、建設業の個人事業者(一人親方)や芸能関係者の労働者性の判断基準についてまとめた報告です。
- インターンシップ
- 行政通達は「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる」としています(平成9年9月18日基発第636号)。
業務委託契約と労働法
労働基準法第9条では、「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働性が認められる場合、契約の解消は解雇とみなされる可能性があります。
- 労働者かどうかの判断基準
- 「使用される者」:使用者の指揮命令に服した労働を意味します。「使用従属性」といいます。
- 使用従属性
- 要素:「指揮監督下の労働」に関するものと「報酬の労務対償性」に関するもの。
- 指揮監督下の労働
- 判断要素:仕事の依頼、業務従事の指示などに対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無、など。
- 報酬の労務対償性
- 判断要素:報酬の算定、支払いの方法、など。例えば報酬が労働の結果より時間給を基礎に計算されている場合は、報酬は使用者の指揮監督下で一定時間労務を提供していることの対価と判断されます。
- 労働者のその他の事実
- 採用・委託の選考過程が正規従業員の採用同様、報酬を給与所得として源泉徴収されている、労働保険の適用、服務規律の適用、など。
賃金
- 賃金とは
- 給与計算等の事務を行う場合、どこまでが給与かを知らないと計算できません。また、社会保険、労働保険などでは根拠法令が違いますが、その内容はほぼ同じです。
- 第11条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
- 行政解釈では、賃金について「(一)労働者に支給される物又は利益にして、次の各号の一に該当するものは、賃金とみなすこと。(1)所定貨幣賃金の代りに支給するもの、即ちその支給により貨幣賃金の減額を伴ふもの。(2)労働契約において、予め貨幣賃金の外にその支給が約束されてゐるもの。(二)右に掲げるものであつても、次の各号の一に該当するものは、賃金とみなさないこと。(1)代金を徴収するもの、但しその代金が甚だしく低額なものはこの限りでない。(2)労働者の厚生福利施設とみなされるもの。(三)退職金、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の恩恵的給付は原則として賃金とみなさないこと。但し退職金、結婚手当等であつて労働協約、就業規則、労働契約等によつて予め支給条件の明確なものはこの限りでないこと。(労働基準法の施行に関する件,昭和22年9月13日,発基第一七号)」としています。
残業代請求(国際自動車事件)最高裁判決
固定残業代制度の裁判に影響を与える重要な判決です。
時事ドットコムニュース(2020年03月30日)によると、『時間外労働を抑制する目的で歩合給から残業代を差し引くタクシー会社の賃金規則の適法性が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は2020年3月30日、労働基準法に反すると判断、「割増賃金が支払われたとは言えない」と述べ、会社側逆転敗訴を言い渡した。同様の賃金規則は運送業界で広く採用されているといい、判決は一定の影響を与えそうだ。』とのことです。
残業代が増えると歩合給を算定する際に残業代と同額を差し引かれるので、売り上げが同じ場合は残業時間が多くなっても賃金が変わらない仕組みなのですが、よくもこんな仕組みが今まで労働組合も黙認してきたのかとあきれるばかりです。東京地裁平28.4.21では、この時間外・休日・深夜労働による割増金に相当する額を算定基礎額から控除して歩合給を算出する賃金規則の定めが、労働基準法37条および公序良俗に反せず、有効であるとされたのですから、労働基準法の趣旨を裁判官が全く理解していないといえます。
朝日新聞デジタル(2020年3月30日20時38分)によると、『運輸業界で同様の仕組みをとる会社は珍しくなく、「実質残業代ゼロ」などと批判されてきた』とあります。
- 歩合給の計算で残業代を控除
- 日本経済新聞(2020年3月30日)の記事によると、『タクシー会社の国際自動車(東京)の運転手らが、歩合給の算定で残業代を差し引く賃金規則は無効だとして未払い賃金の支払いを求めた3件の訴訟の上告審判決が30日、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)であった。同小法廷は「(規則は)労働基準法の趣旨に沿うものとは言いがたい」との判断を示し、審理を東京高裁に差し戻した。
- 判決などによると、国際自動車の運転手の賃金は、深夜手当や休日手当といった残業代、交通費を運転手の売り上げに基づく額から控除するなどし、歩合給を算出した。残業代が増えると歩合給が連動して減り、売り上げが同じ場合は残業時間が多くても賃金が変わらない仕組みだった。この賃金規則は既に改められたという。
- この日の第1小法廷の判決は「売り上げを得るために生じる残業代を経費とみなし、運転手に負担させているに等しい」などと指摘。賃金規則は時間外労働の対価の支払いを求める労基法の趣旨に反すると判断した。その上で「実質は歩合給としての支払いが予定されていた賃金の一部を、残業代として置き換えている仕組みだ。残業代のどの部分が時間外労働の対価に当たるかは明らかではない」として、労基法が定める残業代が支払われたとはいえないとした。』
- 暁法律事務所
- 「国際自動車事件、最高裁で勝訴判決」の記事からみますと、この法律事務所は正しく労働法を理解しています。
労働時間
- 労働時間
- 給与計算では残業、休日出勤など割増賃金を計算するため、労働時間について知っておかないと計算できません。
- 第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
- 法定労働時間
- 1週間の法定労働時間と1日の法定労働時間
- 行政解釈では、「法第32条第1項で一週間の法定労働時間を規定し、同条第2項で1日の法定労働時間を規定することとしたが、これは、労働時間の規制は一週間単位の規制を基本として一週間の労働時間を短縮し、一日の労働時間は一週間の労働時間を各日に割り振る場合の上限として考えるという考え方によるものであること。 1週間の法定労働時間と1日の法定労働時間とを項を分けて規定することとしたが、いずれも法定労働時間であることに変わりはなく、使用者は、労働者に、法定除外事由なく、1週間の法定労働時間及び1日の法定労働時間を超えて労働させてはならないものであること。なお、1週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り、日曜日から土曜日までのいわゆる暦週をいうものであること。また、1日とは、午前0時から午後12時までのいわゆる暦日をいうものであり、継続勤務が2暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも1勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「1日」の労働とするものであること。」と説明しています。(改正労働基準法の施行について,昭和63年1月1日,基発第1号、婦発第1号)
- 所定労働時間
- 法定労働時間と所定労働時間の区別は、残業における割増賃金を計算する上で重要です。使用者は,法定労働時間内で労働者を働かせる時間を自由に設定できます。所定労働時間とは、法定労働時間の範囲内で使用者が決めた労働時間のことです。例えば、午前9時始業で午後5時終業(1時間休憩)の会社の所定労働時間は7時間です。
- 労働基準法は、法定労働時間を超えて労働させた場合,法律で決めた割合以上の割増賃金を支払わなければならないと定めています。所定労働時間を超えて労働させた場合、法定労働時間に達する部分までは割増賃金を支払う義務はありません。通常の1時間当りの時間給に労働時間数を掛けた賃金を支払えばOKです。しかし、会社の就業規則で、所定労働時間を超えたら割増賃金を支払うと規定してあれば、法定労働時間に達しない部分も割増賃金がつきます。
休日
- 休日
- 第35条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも1回の休日を与えなければならない。2 前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。
- 行政解釈では、「休日とは単に連続24時間の休業」ではなく、「暦日を指し午前零時から午後12時までの休業と解すべき」としています。(昭和23.4.5基発535号)
- 休日の振替と代休
- 行政解釈では、「(一)就業規則において休日を特定したとしても、別に休日の振替を必要とする場合休日を振り替えることができる旨の規定を設け、これによって休日を振り替える前にあらかじめ振り替えるべき日を特定して振り替えた場合は、当該休日は労働日となり、休日に労働させることにならない。(二)前記一によることなく休日に労働を行った後にその代償としてその後の特定の労働日の労働義務を免除するいわゆる代休の場合はこれに当たらないこと。」と説明しています。(昭23.4.19基収第1397号、昭63.3.14基発第150号)
- この休日の振替の手続きについては、「業務等の都合によりあらかじめ休日と定められた日を労働日とし、その代わりに他の労働日を休日とするいわゆる休日の振替を行う場合には、就業規則等においてできる限り、休日振替の具体的事由と振り替えるべき日を規定することが望ましいこと。なお、振り替えるべき日については、振り替られた日以降できる限り近接している日が望ましいこと。」としています。(昭23.7.5基発第968号、昭63.3.14基発第150号)
- ただし、休日の振替に当たっては、注意すべきことがあります。休日の振替と時間外労働の割増賃金の関係です。行政解釈ではこのことについて、「就業規則に定める休日の振替規定により休日を振り替える場合、当該休日は労働日となるので休日労働とはならないが、振り替えたことにより当該週の労働時間が一週間の法定労働時間を超えるときは、その超えた時間については時間外労働となり、時間外労働に関する三六協定及び割増賃金の支払が必要であることに注意されたい。」としています。(昭22.11.27基発第401号、昭63.3.14基発第150号
- 休日の出張
- 出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として扱わなくても差し支えない。(昭23.3.17基発第461号、昭33.2.13基発第90号)
年次有給休暇
- 年次有給休暇
- 第39条 使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
- 年次有給休暇の意義
- (年次有給休暇に関する最高裁判決)昭和48年3月2日、労働基準法第39条の解釈について最高裁第二小法廷判決がなされたので、今後における同条の解釈運用は左記によって行なうので、遺憾のないようにされたい。
- (1)年次有給休暇の権利は、法定要件を充たした場合法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまってはじめて生ずるものではない。同条第4項の「請求」とは休暇の時季を指定するという趣旨であって、労働者が時季の指定をしたときは、客観的に同項ただL書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしない限り、その指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。
- このように解するならば、年次有給休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」というような観念を容れる余地はない。
- (2)年次有給休暇を労働者がどのように利用するかは労働者の自由である。しかし、労働者がその所属の事業場においてその業務の正常な運営の阻害を目的として一斉に休暇を提出して職場を放棄する場合は、年次有給休暇に名をかりた同盟罷業にほかならないから、それは年次有給休暇権の行使ではない。
- ただ、このようにいえるのは、当該労働者の所属する事業場で休暇闘争が行なわれた場合のことであって、他の事業場における争議行為に休暇をとって参加するような場合は、それを年次有給休暇の行使でないとはいえない。(昭48.3.6基発110号)
- 年次有給休暇請求の要件の継続勤務の意義
- 60歳定年後、再雇用になった場合やパートから正規社員になった場合などの有給休暇の取扱いです。
- 行政解釈では、「継続勤務とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう。継続勤務か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであり、次に掲げるような場合を含むこと。この場合、実質的に労働関係が継続している限り勤務年数を通算する。
- (イ)定年退職による退職者を引き続き嘱託等として再採用している場合(退職手当規程に基づき、所定の退職手当を支給した場合を含む。)。ただし、退職と再採用との聞に相当期聞が存し、客観的に労働関係が断続していると認められる場合はこの限りでない
- (ロ)法第21条各号に該当する者でも、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合
- (ハ)臨時工が一定月ごとに雇用契約を更新され、六箇月以上に及んでいる場合であって、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合
- (ニ)在籍型の出向をした場合
- (ホ)休職とされていた者が復職した場合
- (ヘ)臨時工、パート等を正規職員に切替えた場合
- (ト)会社が解散し、従業員の待遇等を含め権利義務関係が新会社に包括承継された場合
- (チ)全員を解雇し、所定の退職金を支給し、その後改めて一部を再採用したが、事業の実体は人員を縮小しただけで、従前とほとんど変わらず事業を継続している場合(昭63.3.14基発150号)
- ※法第21条各号に該当する者とは、日日雇い入れられる者、2箇月以内の期間を定めて使用される者、季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者、試の使用期間中の者です。
出向者
- 出向労働者に対する労働者災害補償保険法の適用について
- (昭和三五年一一月二日)(基発第九三二号)(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)
- ある事業(以下「出向元事業」という。)に雇用される労働者(以下「出向労働者」という。)が、その雇用関係を存続したまま、事業主の命により、他の事業(以下「出向先事業」という。)の業務に従事する場合における労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)の適用は、左記のとおりとするので、関係事業主に対し、この旨指導されたい。
- 記
- 一 出向労働者に係る保険関係について
- 出向労働者に係る保険関係が、出向元事業と出向先事業とのいずれにあるかは、出向の目的及び出向元事業主と出向先事業主とが当該出向労働者の出向につき行なつた契約ならびに出向先事業における出向労働者の労働の実態等に基づき、当該労働者の労働関係の所在を判断して、決定すること。
- その場合において、出向労働者が、出向先事業の組織に組み入れられ、出向先事業場の他の労働者と同様の立場(ただし、身分関係及び賃金関係を除く。)で、出向先事業主の指揮監督を受けて労働に従事している場合には、たとえ、当該出向労働者が、出向元事業主と出向先事業主とが行なつた契約等により、出向元事業主から賃金名目の金銭給付を受けている場合であつても、出向先事業主が、当該金銭給付を出向先事業の支払う賃金として、労災保険法第二五条〔現行徴収法第一一条第二項。以下同じ〕に規定する事業の賃金総額に含め、保険料を納付する旨を申し出た場合には当該金銭給付を出向先事業から受ける賃金とみなし、当該出向労働者を出向先事業に係る保険関係によるものとして取り扱うこと。
- 二 前記一の後段に係る事務取扱
- (一) 保険料の納付について
- 出向元事業主が、出向先事業主との契約等により、出向労働に対して支払う賃金名目の金銭給付を、出向先事業に関する労災保険法第二五条に規定する賃金総額に含めたうえ、保険料を算定し、納付させること。
- (二) 平均賃金の算定について
- 出向労働者につき業務上災害が発生し、保険給付のため平均賃金を算定する必要が生じたときは、出向元事業主が、出向先事業主との契約等により、出向労働者に対して支払う賃金名目の金銭給付を、出向先事業が支払つた賃金とみなし、出向先事業の出向労働者に対し支払つた賃金と合算したうえ、保険給付の基礎となる平均賃金を算定すること。
- この場合には、出向元事業主の上記金銭支払明細書(ただし、前記平均賃金を算定するための所要時間内に支払われたものに限る。)について出向先事業主の承認をうけ、これを補償費請求書に添付して提出するよう受給権者を指導すること。
- なお、前記平均賃金の算定が、労働基準法第一二条第二項の規定によるべき場合で、出向元事業の賃金締切日と出向先事業の賃金締切日とが相違するときは、それぞれに係る部分について各別に計算し、両者の合算額を、保険給付の基礎となる平均賃金とすること。
- (三) 休業補償費のスライドについて
- 労災保険法第一二条第四項の規定による労働基準法第七六条第二項の規定の適用については、「出向先事業場における同種の労働者」を「同一の事業場における同種の労働者」として取り扱うこと。従つてたとえ、出向労働者が災害後出向元事業に復帰している場合であつても、同様であること。
- (四) 保険料率のメリツトについて
- 労災保険法第二七条〔現行徴収法第一二条第三項〕の規定の適用については、出向労働者に対する保険給付を、出向先事業に対する保険給付として取り扱うこと。
- 三 禀伺
- 前記一の出向労働者の労働関係の所在の判断等について、疑義ある場合には、その具体的事業を具し、本省労働基準局長あて禀伺すること。
新型コロナウイルス感染症の労災補償
「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(基補発0428第1号 令和2年4月28日)
「新型コロナウイルス感染症に係る労災補償業務の留意点について」(基補発0203第1号 令和2年2月3日)。)
- 新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて
- 基補発0428第1号令和2年4月28日
- 新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)に係る労災補償業務における留意点については、令和2年2月3日付け基補発0203第1号で通知しているところであるが、今般、本感染症の労災補償について、下記のとおり取り扱うこととしたので、本感染症に係る労災保険給付の請求や相談があった場合には、これを踏まえて適切に対応されたい。
- 記
- 1労災補償の考え方について
- 本感染症については、従来からの業務起因性の考え方に基づき、労働基準法施行規則別表(以下「別表」という。)第1の2第6号1又は5に該当するものについて、労災保険給付の対象となるものであるが、その判断に際しては、本感染症の現時点における感染状況と、症状がなくとも感染を拡大させるリスクがあるという本感染症の特性にかんがみた適切な対応が必要となる。このため、当分の間、別表第1の2第6号5の運用については、調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とすること。
- 2具体的な取扱いについて
- (1)国内の場合
- ア 医療従事者等
- 患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となること。
- イ 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの
- 感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となること。
- ウ 医療従事者等以外の労働者であって上記イ以外のもの
- 調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。 この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断すること。
- (ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務
- (イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務
- (2)国外の場合
- ア海外出張労働者
- 海外出張労働者については、出張先国が多数の本感染症の発生国であるとして、明らかに高い感染リスクを有すると客観的に認められる場合には、出張業務に内在する危険が具現化したものか否かを、個々の事案に即して判断すること。
- イ海外派遣特別加入者
- 海外派遣特別加入者については、国内労働者に準じて判断すること。
- 3労災保険給付に係る相談等の取扱いについて
- (1)本件に係る相談等があった場合には、上記1の考え方に基づき、上記2の具体的な取扱い等を懇切丁寧に説明するとともに、労災保険給付の対象となるか否かの判断は、請求書が提出された後に行うものであることを併せて説明すること。
- なお、請求書の提出があった場合には、迅速・適正な処理を行うこと。
- (2)本件に係る労災保険給付の請求又は相談があった場合には、引き続き、速やかに補504により当課業務係に報告するとともに、当該請求に対して支給・不支給の決定を行う際には、当分の間、事前に当課職業病認定対策室職業病認定業務第一係に協議すること。
裁判例
- アートコーポレーション
- 2020年6月25日、横浜地裁(新谷晋司裁判長)は、引っ越し大手「アートコーポレーション」(大阪市)の元従業員3人が、未払いの残業代の支払いや、作業で損害が生じた際の賠償費用として賃金から天引きされていた金額の返還を求めた訴訟で、約209万円の支払いを同社に命じた。
- 判決によれば、同社では引っ越し作業で損害が生じた場合に、作業リーダーが賠償する規程があったが、実際には事故の有無を問わず出勤1日につき500円が賃金から控除されるなどしていた。判決は「規程に基づく賠償金とは到底認められない」と指摘し、全額の返還を命令。また朝礼などの時間を勤務時間と認め、未払い残業代の支払いも命じた。規程は現在は廃止されているという。
「法」という字について
- 「法」の「去」の説明
- 『漢字文化資料館(WEB)』によると、法の古い字形(灋)のうち、現在の字形で省略された部分(廌)は、『大漢和辞典』によると、タイあるいはチと読み、前に「解」という漢字をつけて、カイチ(獬廌)と読んで、動物の名前を表す漢字です。「解」に「けものへん」を付けて、「チ」の方は「豸」に置き換えて表します。
- 『大漢和辞典』には、「人の闘うのを見れば其の邪悪なものに触れ、人の論を聞けば不正の方を噛むという」と記載されています。
- 「法」の「さんずい」の説明
- 『漢字文化資料館(WEB)』によると、3つの説があります。1つ目の説は、『さんずいの「水」は「水平」の意味で、基準・標準を表している』ということです。つまり、善悪を判断できるという霊獣カイチと、基準・標準とを組み合わせて、世の善悪の標準を示す「法」という漢字ができあがっています。
- 2つ目の説は、『この字は、まわりをぐるりと水で取り囲まれた小島に、霊獣カイチを閉じこめた図を表している』ということです。そうすると、自由に動き回ることはできないので、そこから転じて、私たちの生活を規制する「法」という意味になります。
- 3つ目の説は、古代中国の裁判では霊獣カイチを2匹用いました。この2匹を争わせて、勝った方が裁判に勝利します。敗れた霊獣カイチは、水に流されてしまうのです。「法」に「さんずい」が付いているのは、この「水」を表しています。