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Kita No Charappa



爺様釣法アユ編 


意外に釣れる(こともある)爺様釣法
<高齢者に優しいアユ釣りの提言>

アユ釣り現場における判断能力や運動能力の衰えは加齢に伴って如何ともし難く、既に後期高齢者真っ只中の自分の場合には、それまでは全く考えもしなかった様々の不幸に見舞われることがあります。
ちょっとした瀬の渡渉に不安を感じて尻込みしてしまったり、流れの中で体勢を保つことがでずに落水したり、跨いだ石が越えられなくて派手な尻もちをついたりなど、恥ずかしい思いをするだけならまだしも、命の危険を感じる場面に遭遇することも少なくありません。
実釣においては少し強めの風が吹いただけで、ロッドの保持がままならず、アユ釣り歴50年を超える爺様の身体が記憶しているイメージに沿った竿捌きができないなど、様々な場面で臨機応変の対応ができないことが、あまりにも多くなっていました。
加えて近年の地球温暖化による気象の激変、海や河川環境の変化、魚病の蔓延などによる野アユの絶対量の減少も身にしみて感じられ、釣趣は年々下降線を辿っております。
さらには野アユの生態の変化も顕著で、これまでのような野生の本能丸出しの個体が少なくなっているように思われます。
流れに沈めさえすればガツンときた昔とは違って、様々のテクニックを駆使しなければ思うような釣果が得られない時代になってしまった気がします。
体力では敵わぬまでも、これまでの長い釣り人生で身に着けてきた釣技を以てすれば、まだまだ若い者には負けるはずはないと意地を立てて臨んだ釣り現場では、そんな環境の変化や自身が思っている以上の体力低下に喘ぎ、たちまち返り討ちに遭ってしまいます。
こうなるともう己の不甲斐なさを嘆くばかりで、やがては釣行意欲を失いアユ釣り現場からは遠ざかってしまい、古き良き時代を語るだけの口先アユ師に成り下がるのは必至です。

しかし我らはこの状況を、ただ指を咥えて眺めている訳にはいきません。
残り少ない我らの人生ですが、最高の生き甲斐としていた究極の楽しみを手放してなりません。
若い頃のように俊敏な動きが出来なくなっていても、視力や反射神経が衰えていても、アユ釣りへの意欲が完璧に萎んでしまわないうちに、我ら高齢者の五感に記憶された実釣経験に基づくデータと、長い人生で培ってきた第六感を駆使しながら、なんとか人並み以上の釣果を叩き出すために、現在爺様が実践している目からウロコの釣法を試してみませんか。

先ずはこれまで実践してきたポイント選びと釣り方の見直しをしなければなりません。
10年前とは比較にならないほど衰えが来ている自己の体力に照らしてみることから始めてみます。
立っているだけでも不安を感じてしまうような荒瀬や早瀬、腰を超えるような深場、押しの強い大河、足場の悪い岩盤など、高齢者には危険がいっぱいのポイントからは潔く撤退をすることにしましょう。
と同時に強瀬の引き釣りや返し抜きなど体力勝負の釣法からも、直ちに手を引く決断をしましょう。
攻めるべきポイントは主に浅場、または安全な立ち位置からでもカバーできる範囲にとどめ、基本的には大アユ狙いを諦めて、中型の数釣りへと方針転換を図ることにします。
次には己の体力に見合ったアイテムと釣法で武装し直し、安全な釣りに徹することにいたしましょう。
ポイント選びのコツなどもひっくるめて、ここではこれを「爺様釣法」と命名しますが、それは全く特別なものではなくて、我ら高齢アユ師が永きに渡る釣り人生の中で何気なく繰り出していた釣技の中から基本的な部分だけを抜き出し、それを徹底的に突き詰めることに他なりません。
「爺様釣法」は高齢者でもできる泳がせ釣りの究極を目指すために、自身の意識改革を促すものです。
干支が6巡、7巡してもまだまだ諦めたくないアユ釣り人生、むしろこれまで以上に楽しみたいがための高齢者に優しいアユ釣りなのです。



装備・身の回り

<ロッド>
爺様釣法に最も必要なのはロッドワーク、自在に竿を操作するには持ち重り感のない8m(自重200〜180g)がどうしても必要になります。
竿が短いと言うだけで他人よりも釣果が大きく落ちてしまうと言うことは決してありません。
短いことによる操作性の良さと、それに見合った釣り方を究極まで突き詰めていけば、長竿で流心狙いの若者に劣ることはないのです。
実際、短竿を携えて釣り現場に臨んだ時、場所によってはもっと短い7〜5mであっても、充分に釣りになりそうな場面は何度も観察したことがあったはずです。
爺様が行うのは徹底した泳がせ釣りが主体ですから、軽くて操作性さえ良ければ競技仕様の高性能ロッドである必要はないのですが、タメや引き抜き時にそれなりの性能を秘めたロッドでなければ釣趣は著しく低下します。
したがってやはり実売価格で15〜17万円ぐらいの中級以上のロッドを揃える必要はあります。
主にターゲットとしたい野アユは20センチ前後ですから、このサイズと一日中楽しく遊べる性能のものを慎重に選ぶことにしましょう。  
なお通常はオトリに優しく操作のし易いソリッド穂先を使い、予備として持参する穂先が22〜23センチ程度までなら引き抜ができるパワーを有するものなら万全でしょう。
自分は旧製品ですがD社SL(80J)を多用しています。

<タイツ>
身体の冷えを考慮して、先丸ドライタイツの通年着用が基本となります。
猛暑対策として薄手のウエットタイツも常に持参しております。

<ベスト>
透湿防水など高機能は必要なく、ファスナーへの噛み込みなどトラブル回避を図ったもので、入漁証や携帯など必携アイテムの収納が考慮されたもののうちで最も廉価なもので良いと考えます。
自分はエクセル社の実売5000円程度を多用していますが、価格の割に良くできた製品です。

<タビ>
できるだけ着脱の容易なもので、競技用など高機能は必要としません。
主に浅場釣りが目的だけにスパイクの有無は考慮しなくても良さそうです。

<レインウエア>
雨の中での竿出しは殆どなくなった爺様ですから滅多に使うことはありませんが、なければ困るものでもありますから、揃えるなら透湿防水性に優れた高機能品を選ぶことで快適な釣りが継続できます。
袖の脱着機能や、腕の上げ下げに伴う袖口からの水の侵入対策も出来れば万全でしょう。

<ウエア>
首筋が炙られない形状の襟付き長袖、またはアンダーシャツ+襟付き半袖。
ドライタイツの着脱を容易にする極めて滑りのいいアンダータイツは必需品です。
この釣りでは危険な水域に立ち入る事はない訳ですが、念のためにアユ釣りに特化したライフジャケットの着用もお勧めします。

<サングラス>
高価なものは不要、遠近両用メガネに付ける跳ね上げ式の偏光グラス(アンバー色)をお薦めします。
跳ね上げ式は照度の落ちた現場で細かい仕事をする際に重宝します。

<オトリ缶>
オトリ運搬用ですから大きいに越したことはないのですが、24リットルサイズでは水7分目で総重量が20Kgを超えるので移動が大変ですから、必ず体力に合った容量のものを選ぶことが必要です。

<曳舟>
時に大釣りになったりもします。
オトリ缶との往来を少なくしたいので7〜8リットルなどできるだけ容量の大きいものを使用します。

<鮎ベルト>
曳舟が左右にスライドする構造のものが機能的。
ベルトに装備するのはポーチ(ダストボックス)とドリンクホルダーだけです。

<鮎ダモ>
39センチ、流れ止めは必需品です。
1〜1.5mm目の高機能品が鈎の刺さり込みなどトラブル軽減になります。

<帽子・キャップ>
真夏の陽射しを遮るつばのできるだけ大きいもの。
強い陽射しから首筋を保護する機能があればいいかも知れません。

<小物類>
ラインカッターは必携、ピンオンリール、携帯、コンデジ、etc.。
特に水温計は購入した養殖オトリの水合わせ時には必要かと思われます。
アユ用手袋は鈎の刺さり込みなどトラブルの元になり易いので自分は使用しません。





仕掛け作り

<仕掛け全長>
ロッド長が8mの場合で、天井イト4.5mと水中イト3.5mの組み合わせになります。
仕掛け全長はハナカン位置が竿尻から−5〜−10センチぐらいが自分的には操作性がいいと思っています。
竿より短い仕掛けは最初はなかなか馴染めないかもしれませんが、慣れるにつれて細かい竿操作には必要であることが理解できます。  
かつて標準とされた竿尻+20〜+30センチは論外で、オトリの送り出しやコントロール、引き抜き時などの竿操作が難しくなります。
イカリ鈎を除く全てを装着して仕掛け巻に収納したものを常に3組程度は携行します。

<天井イト>
ロッド長8mの場合で4.5mとする。
水中イトとのジョイント部は撚り戻しなど余計なものは一切不要、長さの調整シロは20センチもあれば充分ですから工夫して出来る限りシンプルに作ります。
水中イトがフロロ0.15〜0.3の場合はPE0.2〜0.3号、水中イトがPE0.06や複合0.05の場合はフロロ0.6〜0.8号を使用することにします。
長さの調節範囲は20センチもあれば充分で、寄り戻しなどは不要ですから、できるだけ小さく軽く簡素に作りましょう。
長さ調整は竿先部分でするか、水中イトとの接続部分でするかは自由です。
水中イト側先端には適当な材質のもので結びこぶを作り、ここに水中イトを接続します。


<水中イト>
泳がせ釣りに多用するのはフロロライン、0.15〜0.3号を各サイズ揃えてます。
PEラインの場合は0.06〜0.08号、複合メタルなら0.03〜0.08号。
泳がせ釣り主体の爺様釣法では間違っても高比重のメタル単線は使用しません。
野アユのサイズによって、或いはその日の野アユの着き場によって材質とサイズを使い分けます。
フロロとPEの場合は各サイズとも両端のチチワまでの全長を3.5mで作ります。
複合の場合は上ツケ糸0.35m、下ツケ糸0.15mを編み込み、先端にチチワを作り全長3.5mとします。
毛糸目印を4個、色分けなどであとで号数が判別できるように予め装着し、ペラマック等に収納して各サイズ3組程度はベストに収納携行します。
各種水中イト仕掛けは材質に関わらず全長を3.5mで作り、天井イトで仕掛け全長を調節をします。
近年自分は後述するオトリのワープ送り込みでも安心して使用できるデュエルの高強度PEライン(アーマード)を多用しております。

<目印>
視認性が良く適度な締まりのものを2〜4個、くれぐれも視認できる最小のサイズにしましょう。
取付位置はオバセを入れた時で、一番下が水面スレスレにくるようにし、各5〜10センチ間隔とする。
オーナープロ目印の黄、黄緑、桃色などが快適な視認性と適度の締まりが得られます。
取付は水中イトに1回巻きつけて1結びするだけで充分です。
赤や黒系は照度が落ちた曇天や逆光では見失うケースも多いので、通常は使用しません。

<中ハリス>
ハナカン位置から8の字結びコブまでの長さを35〜40センチぐらいに揃え、ハナカンが移動できるノーマル仕掛けとします。
初期用としてフロロ0.5〜0.6号、盛期用として0.8号にて自作します。
専用仕掛け巻に収納して10組ほどを携行します。
尚、オトリへの負担を軽減する意味で、中ハリスを0.2〜0.3号のPE系で作ってみるのもいいかもしれません。

<ハナカン>
自分はワンタッチ、6、6.5、の2サイズで、野アユ16〜23センチに対応できています。

<逆さ鈎>
老眼が進んだ方にはハリス穴が大きく蛍光色の視認性の良いものか、鈎交換の楽なフック式にします。
通常は大アユを狙うことがないので1〜2号の2種類で終盤まで対応させています。

<アユ鈎>
主に浅場の泳がせ釣りなので、細軸軽量の3本イカリ(自分はD社フックKかK社V5を多用)の市販品を使用します。
大会参加でもなければメーカーの選択や鈎の形状に神経質になることはなく、常に鈎先が鋭利である事
だけに気を配ります。
ハリス長はオトリの尾鰭先端から鈎先まで1センチを基準とし、その日のポイントや野アユの活性度合により微調整するようにしています。
6.0・6.5・7.0・7.5号の4サイズがあれば、特に大アユを狙わない限りは終盤まで対応できます。

<背鈎>
通常は使用しませんが、養殖オトリからのスタート時や非常時用として、ワンタッチで脱着できるものを考案し携行するようにしましょう。

<オモリ>
殆どの場面で使用することはありませんが、チャラ場の泳がせ釣りであっても、オモリの効用によって救われることがありますから、0.5〜1.5号をベストに忍ばせておくようにしましょう。



いざ出陣!>

北東北の5月初旬〜6月、10センチ前後で遡上する天然アユは、僅かな期間で急速に成長を遂げ、あっという間に成熟して9月中旬には産卵場へと落ちて行きます。
したがって北東北の釣期は、7月から始まっていいところ2ヶ月半しかありません。
自分は日々目覚ましく変化するアユの生態に翻弄されながらも、これを追いかけるようにポイントを探しては釣法を工夫しつつ、アユの友釣りと呼ぶ究極の趣味を楽しんでいます。
しかし7月初旬、待ち焦がれた北東北の解禁直後は、まだ肌寒い梅雨の真っただ中にあります。
水温もまだ低いままで、熟達者とて難しい釣りを強いられることの多い時期です。
そこから10日も経つと次第に水も温みアユも一回り成長して縄張り行動はひときわ活発になります。
その頃からが、浅場主体の我ら高齢者の出番が多くなります。


<いつ何処へ行く?>

勿論サカナの居る川、評判のいい川、週末のアユ師で大いに賑わった川。
毎日が日曜日の身ですから週末の混雑を避けて、自分は主に週明け早々の釣行が多いのです。
しかし週明けは何処も彼処も釣場は荒れており、見た目の良いポイントは野アユが極めて薄い状態となっていることが多いのです。
したがってその日のそこではアタリが遠く、如何に粘ってみても納得のいく釣果を得ることは難しい状態になっているはずです。
しかし決して川全域が釣り切られた訳ではありません。
釣期最終盤を迎えた頃であっても、簗に落ちてくる無数の野アユや、産卵場へと高速で落ちて行く大群が見られることで、川には膨大な数の野アユが残っていることを知ることができます。
天然遡上のない放流河川でも、高水が続いた後や酷い釣り荒れで暫く竿が入らなかったポイントが、時が経つとしっかり復活している例を、長い釣歴を誇る我らは何度も経験してきました。
これを「リセット」と表現するご仁もおられます(もともと魚影の薄い放流河川の場合は、いくら待ってい てもリセットされることはありませんが・・・)が、一旦空き家となったポイントが再び満たされると言うことは、戦々恐々の野アユたちは週明けの川の中の「何処か」で虎視眈々と復活の時を窺っているのです。
自分は長い経験で鍛えた第六感を働かせて、その場所を探り当てることに快感を感じているのです。
これは急登を征した松林でマツタケやホンシメジの群落に当たった興奮に似たものがあります。


<ポイント探し>

前述のように週明けの釣り易い人気のポイントは空いてはいますが、大勢が入れ代わり立ち代わり攻めた後だけに確実に場荒れとなっています。
そこは当然縄張りアユは疎らで、如何に時間をかけてみても多くは望めません。
そんな時に野アユが定位しているのは、一部のエキスパートだけが攻略できる岩盤の深場であったり荒瀬のド芯だったりします。
しかし目視確認はでき難くても、かなりの数がヘチや、足首ほどの超チャラ瀬にも着いています。
前日に大勢のアユ師が歩き回り漕ぎ荒らした見栄えの良いポイントのすぐ傍や、そこを目指して漕ぎ歩いた岸辺や無限に広がる超浅場、そここそが我ら高齢アユ師にとっての宝の山になるのです。
盛夏のころなら、減水で底石が露出した水溜りのようなスポットに群れたアユがモジリを見せ、上手く泳がせてそこへオトリを誘導できた時、激しい水飛沫とともに意外な良型が絡み合って宙に飛び上がる快感を、ご同輩諸氏も一度は味わった経験があることでしょう。
季節や天候、時間帯にも左右されますが、野アユにとって摂餌行動や生態上必要な場所であれば、そこがどんなにつまらない場所に見えていても、確実に野アユは入ってきます。
岸辺の葦の根元にできたえぐれ、伏流になる手前のドン詰まり、逆に伏流が再び地表に現れるピチャピチャ流れにも、当たり前のように入ってます。
ガシャガシャ歩き回り一旦群れを散らしてしまった後、数分も経たぬうちに何事もなかったかのように魚影が戻っている事実を我らは何度も観察しています。
しつこいようですが、他人が沖の流心へと漕ぎ渡った後の岸辺や浅場こそが、後期高齢アユ師たる自分にとって垂涎のフィールドとなるのです。
自分はそんな流れと静かに対峙し、縄張り本能が少々希薄にはなってますが、無数に泳ぎ回る野アユとの根比べを楽しむのであります。
釣り荒れたA級ポイントで四苦八苦する若者を遠目に、つまらない場所に見える浅場で熟年アユ師が悠然と独り勝ちする場面を演出したいとするのが我が「爺様釣法」の目指すところでもあります。


<爺様釣法とは>

さて、急流などものともしなかったかつての頑健な体力を失った自分は、「動」の釣りから安全安心の浅場専門の「静」の釣りへと方針転換を図る一大決心をしました。
そんな熟年アユ師や比較的非力な女流アユ師にも優しく、しかも良く釣れる釣法、その中身は徹底した「泳がせ釣り」にほかなりません。
泳がせ釣りは全ての釣法の基本にあるもので、尾鰭を振って激しく侵入してくるアユに対しては果敢に攻撃に出る縄張りアユの習性を利用するものです。
自然界の侵入アユを仕掛けを背負ったオトリアユに演じさせる時、早瀬など水の走るポイントでは尾鰭を振らすことができても、流れが緩くまたはヘチなど全く流れのない場所での泳がせ、特にカミ泳がせは難しいテクニックとなってしまうこともあります。
着底していたり静止しているルアーには反応しない渓魚と同じで、動きのないオトリには野アユの反応は極めて低くなってしまいます。

かつてある試みをしたことがあります。
遡上量の多い年の秋田県桧木内川桜並木の浅チャラ、桧木内川名物とも言える小アユなら幾らでも釣れる状況の中で、上流で竿を出す引き釣りのオトリと、その下手からカミ飛ばしで同じスポットを狙う自分、より多くの野アユが反応してきたのは明らかに後者でした。
浅場だけに引き釣りのオトリは尾鰭の動きが緩慢か、もしくは静止状態。
シモから泳がせたオトリは尾鰭を激しく振ってさらに昇ろうとしてたと言う違いだけのこの試釣。
このことは浅場の緩い流れの中で友釣りが成立するのは、オトリの絶え間ない動きが如何に大切かを意味します。
したがって狙いを定めた超浅場やヘチなどにおいては、その泳がせテクニックの上手下手が著しく釣果を左右することは明白です。
競技の釣りとは縁のない自分ですから、ゆっくり時間をかけて楽しみながら、時として爆釣にもなり得る完璧な泳がせテクニックを求めて練習を重ねることにいたしましょう。


<意外に簡単なカミ泳がせ>

足元から放ったオトリを立て竿のまま直上流に向けて泳がせます。
カミに向かってどんどん泳ぐようならそのまま遡らせてみます。
途中で静止しそうになったら、目印やラインを水中に沈めてオバセ量を加減したり、逆にオトリの鼻先に僅かにテンションをかけてみたり、空中部分をスイングさせてみたりして、再び自力で泳ぎだすきっかけを作ります。
超浅場の泳がせであってもオトリが元気にいい泳ぎをし、長過ぎないハリスと全体を軽く仕上げた仕掛けを以て、水中イトを張らず緩めずの管理を怠らない限り、根掛かりは滅多に発生しないものです。
ロッドの仰角が45度程度で上限(オトリは立ち位置から10mほどカミでツッパリ感)を感じたら、優しく引き戻して少しコースを変えて再び泳がせてみます。
水中イトを緩め過ぎたままオトリの勝手に泳がせる釣りは「泳がれ釣り」と呼ばれて軽蔑される向きもありますが、それでも引きすぎる引き釣りで粘り続けるよりは遥かに釣果は上がります。
次に自分の立ち位置のカミに無限に広がる浅場を隅々まで攻めるためには、さらなるひと工夫が必要になります。
オトリの泳ぐ方向を竿操作で制御するのはなかなか困難なことではありますが、今度は(気持ちだけでも)沖に向かって斜め方向に遡らせることを試みてみます。
変化のない単なる浅場に見えていても、じっくり観察してみるとそのエリアには小さな波立ち、大小の石、渇水時の露出した底石、僅かな流れの変化など、いかにも野アユが着いていそうなスポットが幾つも存在していることに気づきます。
斜め方向に送り出した(つもりの)オトリに、それらのスポットを効率よく辿らせるには、天邪鬼とも言えるアユの習性を逆手にとった巧みな竿操作が必要になります。
水中イトを目印ごとどっぷり沈めたり、竿先でリズムを刻んでみたり、鼻先に僅かにテンションを加えて方向を変える努力をしてみたり、ラインや目印に受ける風を利用してみたり、手綱を絞りスピードをコントロールしてみたり、あるいは非常手段として位置を左右にずらした背鈎を打ってみたりもしますが、決してオトリを引きずり回したり大きなダメージを与えるような力技は繰り出してはなりません。
これは一朝一夕にできるものではありませんが、ここでは8mと言う軽量短竿の優れた操作性のおかげで意外に短時間でなんとなくコツのようなものを掴むことができるようになるでしょう。
短竿に替えただけで9m竿では難しかった技が簡単にできて、このところ腕が落ちてしまったと嘆いていたアユ釣りが、以前よりも確実に上手くなっているような錯覚にも囚われます。
これこそが単竿が有する最大の利点です。
平日の浅場ですから、周りに気兼ねせずじっくり泳がせてみることで着実に自信が着きます。
その間にも殆どサラ場だったそのエリアからは、多くの野アユが反応してくるはずです。
ここまでくると、この釣りには引き釣りでは味わえなかった「立ち位置を動かぬままでかなりの広範囲を攻め切れる」と言う、高齢者にとって誠に嬉しいメリットがあることに気づきます。
何度も言いますが浅場釣りでのキモは、「オトリの動きを決して休めない」と言うことに尽きます。
竿操作を乗馬における手綱さばきに見立てた時、釣り人はそれを繊細にかつ神経質に行っている感覚を持続させることが大切です。
ただしその時の釣り人は、8mのロッドと8mの仕掛け、即ち手元から16m先で泳ぐオトリと周辺に居るはずの野アユの様子が、目印に出る反応やロッドを握る掌を通して、常にイメージしていることが大切です。
熟達者のこの釣りを見ていると、車のハンドル操作よろしく竿先が上下左右に小刻みに振れ、或いはある種のリズムを刻みながら、釣り人主導で千変万化の流れを辿ってオトリを行かせたい方向に誘導しているような感じを受けます。
尤もオトリ循環が順調で、交換したばかりの新鮮オトリであれば、何もせずとも速攻で野アユが群舞するスポットへ走る事も多いので特に釣り人主導の竿操作に拘ることはない訳ですが。
熟達者のように無駄を省きオトリが野アユの着き易いスポットだけを辿るように、方向もスピードもほぼ自在に制御することができた時、それは「管理泳がせ」と呼ばれるようですが、それこそが「爺様釣法」が目指す泳がせ釣りの究極にあるものです。
頭では理解していても、千変万化の実釣の場では一朝一夕にはなかなか上手くは行きません。
実釣ではあらゆるシチュエーションを考慮する必要があります。
カミ泳がせが困難で、オトリの送り出しを敢えて下手方向にせざるを得ない場面も多く存在します。
こんな場合でも決してオトリの鼻面を引きすぎてはならず、柔らかいソリッド穂先やラインや目印を使っての優しく自然な引きを心掛けなければなりません。
かなり流速のある場所であっても、時にオモリや背鈎の力を借りながら、オトリの泳力を最大限発揮させるための感覚を維持しなければなりません。
オトリの鼻先を過度に引くことなく、野アユが定位しているであろうスポットを連続的に狙っていく釣りを「引き泳がせ釣り」と呼び、通常のアユ師が最も多く繰り出すアユ釣りの定石です。
我ら高齢者はオモリを用いての引き泳がせも、チャラ瀬の中で出来るように練習しておくと、手元にダメオトリしかない状態から解放される場合があります。
オモリを着底させることなくオモリを中心にオトリアユを自由に泳がせる感覚を掴むには少し時間がかかるかもしれませんが。
何れにしても不用意に漕ぎ歩くことは避け、水音も立てず流れの中の1本の杭になったつもりで、静かに優しく16m先のオトリとの会話を楽しみながら、釣り込んで行くことが大切かと思います。


<ワープ送り込み>

釣り現場ではオトリが狙いのスポットになかなか入らず無理に引きすぎたり、根掛かりなどでついつい大きなダメージを与えてしまうことがあります。
そんな時、元気度の落ちたオトリにオモリや背鈎を使うことがありますが、これらの補助具は基本的にはオトリの元気度が落ちる前に使うことで爆釣になる場合がありますが、弱ったオトリの場合は一刻も早く野アユを捕らなければ循環が途切れてしまいます。
渇水期など手前の露出した底石ゴロゴロの向こう側へオトリを送り込みたい時、或いは狙うべき箇所が流心を越えた対岸ギリギリの遠い場所などである時、オトリ自身の泳力が充分であれば問題はないのですが、弱り気味だと時間ばかりがかかり、なかなか狙うスポットに入れることができません。
ここで登場するのがワープ送り込み、かのS名人がそれとなく当たり前のように繰り出すアレです。
見ていると難しそうな技ですが、落ち着いてやってみると最初はスマートさには欠けるでしょうが意外に短時間で習得できるようです。
1時間程度の練習で、もう実釣の現場で使えるようになります。
しかも長い時間無茶引きしたり空気を吸わせたりしている訳ではなく、思い切りのよい180度ワープの空中移送はほんの一瞬で狙うスポットを直撃できる技ですから、オトリへのダメージは極めて少なくてすむ方法なのです。
浅場では着水と同時に野アユの激しいアタックを受ける場合が多く、大きな興奮と感動が得られます。
誰も居なくなった夕暮れの川でしっかりと練習して、いつ何処ででも繰り出せるようにしておきたいものです。
ただし水中イトがフロロやナイロンの細糸では「親だけドンブリ」もあり得ますので注意しなければなりません。


<超短竿釣り>

静の釣りを心がけていると、野アユが直ぐ目の前で縄張り行動をする場面に何度も遭遇します。
と言うことは8mロッドよりもさらに短くても釣りが可能になるはずです。
野アユはかなりの上流部や両岸を樹木や葦原に覆われた細流にも生息します。
こんなポイントを攻略するには8mロッドでも長過ぎて扱い難いものです。
市販品も幾つかはありますが、ここは倉庫に眠っている古い9mロッドの6番までをいい塩梅の袴と組み合わせたりしながら、5.5〜6.5m程度に造り変えてみましょう。
ここではアユ釣りの醍醐味やアユロッド本来の性能も期待できませんが、その代わりその取り回しの良さが思わぬ好釣果を産むことになります。
R4年夏、ある釣友は東北の幾つかのそんな流れを確実に攻略して膨大な釣果を得ています。






<爺様釣法が積極的に狙うべきポイント>
  • 混雑河川ではヘチや中州際の超浅場。
  • 超渇水時における河川全域。
  • 底石が露出する盛夏の減水時、ほぼ止水となっている部分も好ポイント。
  • 増水収束後の分流。
  • 天然遡上豊富の河川下流部など。
  • 多くの群れアユが見えているが追いが悪いとされる河川。


<爺様釣法の欠陥>
  • トーナメントなど与えられたエリアで釣果を競う釣りには適さない場合がある。
  • 竿を煽るほどの強風時など微細な竿操作が困難な場合には、立て竿泳がせが難しい。


<爺様釣法での遵守事項>
  • 1ヶ所に留まらず、野アユの着き場を求めて積極的に広範囲を探る脚を使った釣りをする。
  • 浅トロ・チャラ・止水における澱みない泳がせは水キレのいいメタル系水中イトでは難しい。
  • 爺様釣法は、原則的には立ち位置よりもシモで勝負はしない。
  • 最初の1尾獲り(オトリ替え)に全力を注ぐべし。
  • 爺様釣法では止めや待ちは根掛かりを発生させるので厳禁。
  • 目印の動き・水中の目視・手感でオトリが野アユの群れに同化した感覚を掴む。
  • 時に目印に明確なアタリが出なくても、違和感を感じたらそっと訊いてみる。
  • 原則的にオトリは掛かりアユ1匹ごとに交換すべし。
  • 煽って外れた根掛かりも、ケラレ発生でも、9割の逆鈎外れがあるので必ず点検をする。
  • 逆鈎外れは手元に伝わってくる底石を掻くガリガリ感でも判断できる。
  • オトリが弱ったり小型だった時、浅チャラなどで流れに負けてヨレるのは逆鈎外れを疑う。
  • カガミなどのサイトフィッシングでは、向こう側からも見られていることを承知の上で行動。