――八王子はり研究会―――――――――――――
経 絡 治 療 入 門 |
鍼灸学校の学生や経絡治療に興味のある鍼灸師のための入門講座 ここで紹介するのは経絡治療のごく基本的なものです。経絡治療をよく知らないが、興味があるという方々へ紹介することを主な目的としています。 これが経絡治療を始めるキッカケとなれば幸いです。 |
経絡治療の概要 | |||
1 経絡治療 | |||
病体を気血の変動として統一的に観察し、その症状を総て経絡の虚実として総合的に把握し、経穴を診断及び治療の部位として鍼灸をもって調整する随証療法です。 | |||
2 気血 | |||
気血は経絡の内外を運行して身体各部及び五臓六腑の働きを維持します。血は陰に属し、血液、体液、リンパ液等の如く形を成して経脉の中を流動します。気は空気、元気、電気等と使われる気でその作用を知る事はできますが形をとらえる事はできません。経脉の外を運行し血の働きを護衛します。 気血は五味から胃腸で作られ、十二経絡に入り、肺、大腸、胃、脾、心、小腸、膀胱、腎、心包、三焦、胆、肝また肺と四六時中全身を巡りとどまる事がありません。 従ってこの経絡中の気血に大過不及の歪みがみられると病気となります。ゆえにこれを平にすることが治療なのです。 |
3 陰陽五行 | |
東洋文化における基本的な物の見方・考え方で、宇宙の始まりを太極といい、天地陰陽に分かれ、さらに発展して五行を生み、宇宙の総てはこの陰陽五行に含まれるとし、人間を小天地とみなしています。 陰陽は天と地、右と左、背と腹という様に互いに相対する関係ですが、これには陰実すれば陽虚し、陽実すれば陰虚すというような拮抗作用があります。 五行とは天地陰陽の気が交わって自然界に形を成してあらわれたものであり、木火土金水の五つによって代表され、自然界の総てはこのいずれかに属するという考え方です。 |
4 臓腑経絡 | |||
人体を十二の系統に区分し、その内外を気血が巡り生命活動をまかなっています。これには外経と内経があり、幅と厚さの広がりがあるので、総て経絡の支配を受けていない所はないのです。外経は体表面を巡り、各所に気血の出入りする所謂、経穴があります。内経は深く五臓六腑や筋肉、骨等を巡り、その働きを主っています。常には見ることも触れることもできませんが、一旦病気になると硬結、圧痛、キョロ、陥下、異常感覚等を現わして触れることができ、時に目に見えることさえあります。 |
5 病因 | |||
東洋医学では病因を外からの条件に求めるのではなく、むしろこれを受ける患者の内的な条件にあるとし、「内傷なければ外邪入らず」というのが特徴です。従って喜怒憂思悲恐驚の七情の乱れにより、内から傷れている所、あるいは体質的に弱い所へ外から五邪、即ち風暑湿(飲食労倦)燥寒が強く働くと病気となり、経絡変動を現わします。 |
6 病証 | |||
経絡治療では、あらゆる病症を総て十二経絡の変動として捉え、その五大分類したものが五臓と経絡によって代表されています。 肺金‥咳嗽し肩凝り、気の病、皮膚病。 |
7 四診法 | |||
望聞問切という独特の診察法により経絡の変動を診ます。切診はさらに脉診、腹診、切経に分けられます。 望診‥顔や尺部、身体表面の色艶(五色)を診ます。その他動作等を見ます。 聞診‥話し方、声の調子(五音、五声)を診ます。におい(五香)を嗅ぐこともあります。 問診‥主訴やその他の症状、食欲、睡眠、便通等を問います。 切診‥触覚を主として診察します。 腹診‥肺は右季肋下、脾は臍の周囲、心はその上、腎は下腹部一帯、肝は左腸骨下前で虚実を診ます。 切経‥手足や背腰部を触察し経絡の虚実変動を診ます。 |
8 脉診 | |||
脉状診‥浮・沈、遅・数、虚・実の六祖脉を診ます。 比較脉診‥寸関尺に三指をあて沈めて最も脉のよく触れる部を中脉とし、更に沈めて陰脉を診、浮かせて陽脉を診ます。 脉位‥右手寸口沈めて肺、浮かせて大腸、関上は脾・胃、尺中は命門・三焦。左手寸は心・小腸、関は肝・胆、尺は腎・膀胱。 証決定‥陰脉を比較し、その最も弱い所を虚とし強い所を実として主証を決めます。例えば肺虚肝実証、脾虚腎虚相剋調整の証等のように。 主証決定にあたっては、望聞問切の診察法と腹証をにらみああわせて行ないます。 |
9 補瀉 | |||
虚したるものはこれを補い、実したるはこれを瀉すというのが治療の大原則です。 虚とは生気の不足するをいい、実とは生気の働きを妨害する邪気が充満するをいいます。 手法の補瀉‥補法は比較的細い鍼の柄を極めて軽く持ち、静かに刺入し、気をうかがい抜鍼と同時に鍼口を閉じます。 瀉法は比較的太めの鍼を刺入し、抵抗ゆるむをみて下圧をかけ、徐に抜き去り、鍼口を閉じません。 取穴の補瀉‥虚すればその母を補い、実すればその子を瀉します。 本治法における原則的な取穴 肺虚証‥太淵・太白 脾虚証‥太白・太陵 肝虚証‥曲泉・陰谷 腎虚証‥復溜・尺沢 |
実技の手引き | |
1 脈診←詳細 | |
脉診は経絡治療において診察、診断の始めから、治療終了に至るまでその主役を果たします。具体的には四診法、つまり望診、聞診、問診、切診によって、主となる証を目安として求め、脉診によって決定します。また治療においては、要穴に刺鍼するごとに検脉して、その手技が的確であったか否かを確認します。 経絡治療における脉診は六部定位脉診で行われます。これには比較脉診と脉状診があります。 比較脉診とは、左手右手のそれぞれの寸口、関上、尺中合わせて六部の脉位において、陰陽並びに相生・相剋関係を十分に比較・検討し、配当されている十二経の虚実を判定する方法です。これによって主証が決定し、証に基づき用いる穴が選ばれ、補瀉の手技が行われます。 脉状診とは、主に六祖脈と呼ばれる浮沈、遅数、虚実の観点より脉状を判定し、これにより用いる鍼の大小やその手技手法が決定される。 |
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2 基本刺鍼←詳細 | |
経絡治療は気の調整、即ち「虚実を弁えて補瀉する」ことを言います。 難経69難には「虚したるものはこれを補い、実したるはこれを瀉す」とあります。これは治療の大原則です。 虚とは生気の不足した状態を言います。実とは生気の妨害、即ち邪気が充満した状態を言います。従って生気の不足を補うことが補法であり、生気の働きを妨害する邪気す。取り除くことが瀉法です。 補法の手技は比較的細い鍼の柄を極めて軽く持ち、痛みを与えぬよう静かに刺入し、留めて気をうかがい、抵抗が緩むのをみて強く引いた弓の弦を放つ時のようにパッと抜き去ると同時に間髪を入れず鍼口を閉じます。この時、刺鍼の方向は経の流れに随います。 瀉法は比較的太めの鍼を速やかに刺入し、軽く抜き刺しして生気と邪気を分けます。次に抵抗ゆるむをみて下圧をかけながらゆっくりと鍼を引きます。鍼口は閉じません。 刺鍼の方向は経の流れに逆らいます。 この補瀉の手技において押手の働きが重要です。東洋はり医学会ではこれを「左右圧は補をもたらし、下圧は瀉に通ず」と考えています。 |
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3 取穴←詳細 | |
経絡、経穴は常には潜在的です。しかし経絡変動が起きると反応が顕著に現れるものです。 経穴書には身体表面の突起や陥下、筋、拍動、皮膚の色等を目標に時に何寸何分などと寸法で表わされています。これは標準位置(標準点)であり、実際の治療ではその周辺の「今、生きて働いている穴」の触覚所見を指先の感覚で捉えることが大切です。 病体の現す触覚所見は発赤・緊張・硬結・知覚過敏・キョロを実とし、陥下・弛緩・お血性鈍麻(非生理的なものが滞っている感じ)・動悸等を虚とみなします。 |
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4 証の立て方←詳細 | |
経絡治療は病名治療ではなく、随証療法と言われます。これは総ての病症を十二経の変動として捉え、そのうち、何れの経が主となってその病苦を起こしているかを判定し、それによって治療の根本方針を打ち立てるのです。 経絡治療において証決定とは、即ち診断です。五臓の色体表や臟腑経絡説等を考慮し、望、聞、問、切(切経、腹診、脉診)の四診によって主証を導きだし、直ちに治療へと発展します。 このような診断即治療は東洋医学の、特に経絡治療の特色で、診察、診断から治療終了までの過程が「証法一致」の原則によって貫かれています。 本会では臨床実践の中から「片方刺しによる相剋調整」の治療方式を開発し行っています。 |
標治法・補助療法 | |
1 ナソ治療 | |
ナソとは頚腕症候群の略符号「KW」をを点字読みしたもので、鎖骨上窩を中心に現れる触覚所見に対して施す標治法です。 ナソに現れる触覚所見は症状により、キョロ、生ゴム、ゴム粘土枯骨様と様々で、用鍼や手技はそれぞれにあわせて適宜使い分けます。 |
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2 ムノ治療←詳細 | |
ムノというのは腰仙部症候群の略符号「YS」を点字読みしたもので、これは腰仙部症候群としての下腹部、骨盤内臓器並びに下肢症候群として、鼠蹊部の一定部位に現れる触覚所見に対して施す標治法です。 その範囲は上前腸骨棘付近から内側は恥骨結節に至るまでの鼠蹊溝に一致する周辺です。 ムノに現れる触覚所見は症状により、キョロ、生ゴム、ゴム粘土枯骨様と様々で、用鍼や手技はそれぞれにあわせて適宜使い分けます。 |
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3 刺絡治療←詳細 | |
刺絡は経絡治療の補助療法・救急法の一つとして用いられるもので、打撲、捻挫、肩こり、口内炎など様々な症状に効果があります。 主として三稜針を用い、愁訴部の血絡や井穴などを1、2ミリ切り、数滴から数CC採血する療法ですが、西洋医学における瀉血とは手技、効果、適応症など全く異なるものです。 |
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4 子午治療←詳細 | |
子午治療は奇経、刺絡、ナソ、ムノ治療とともに本治法の補助療法、救急法として用いられています。 その特徴は、遠隔部の刺鍼が患部の比較的広い範囲に短時間で影響を与えられることにあります。 胆‐心、肝‐小腸、肺‐膀胱、大腸‐腎、胃‐心包、脾‐三焦の六グループの中で該当する経絡に明確な病症が出ているとき、対称経絡の主として絡穴に金30番鍼で刺鍼します |
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5 奇経治療←詳細 | |
奇経八脈を使って治療を行う方法で、その論拠については『難経』の二十七難、二十八難および二十九難に書かれています。 故間中喜雄博士や浜松の長友次郎氏らにより、基本的治療方法が発表されました。 その治療法は、「正経に満溢した気血を受けて排水路の如くその循行を補正する」という事で、この八脈を二つずつ組み合わせて四グループとし主治穴を設け、PM鍼等の異種金属鍼を留置してその調整を行います。従って、正経治療において経絡の虚実を補潟調整するという治療とはその理念を異にします。 次にその組み合わせを列記すると。 (1)衝脈(公孫)-陰維脈(内関) (2)帯脈(臨泣)-陽維脈(外関) (3)督脈(後谿)-陽矯脈(申脈) (4)任脈(列欠)-陰驕脈(照海) |
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