自動車塗装の自分史とSL蒸気機関車写真展〜田辺幸男のhp
SL写真展 ( INDEX )〜アメリカ & 日本現役
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SL写真展 ( INJEX )
にある送付先へドウゾ。)
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・瀬戸内の呉線に急客蒸機 C59、C62を訪ねて Z
113.
昼下がりと夜の糸崎機関区にて
」
−スナップに添えて、ゴイラー用水とその管理-
〈0001:cJラースライド:昼下がりの糸崎機関区〉
〈0002:国鉄時代062-01.jpg:夜の糸崎機関区〉
〈撮影メモ:1968.12.29撮影〉
並んで眠りにつくC62の足許で点検トーチの灯火が移動していた。
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〈紀行文〉
ここにお目にかけるカラースライドは、堅固そうな面構えを見せる給水塔の側線に、午後の明るい陽光を一杯に足回りに浴びてたたずむC62 37号機の姿である。これは約2500枚を軽く越える35ミリカラースライドの納まった数多くの箱の中からワイフが探し出して来た傑作?の一枚なのである。スライド枠に記されたaD513から推察するに、カラースライドに手を伸ばして間もない昭和40年代の中頃の作品のようだ。何しろ露出を決める“勘”が未だ会得していない頃であったから、このようなショットは安心して撮ったことであろう。
ところで、この撮影場所がどうしても思い出せないのである。給水塔のたたずまいから、常磐線の平機関区ではないらしく、この雰囲気からして仮に糸崎機関区と云うことにしておきたいのだが、ただ 給水塔の形式が違うような気もするのだった。今は盲人となった私には糸崎としての想像を巡らして、この文を綴っていることをお許しいただきたいのである。
その頃、山陽路への遠征は、前日に関西本線の加太越えを撮ってから、夜のドライブで伯備線の布原の三重連を済まし、それから午後の糸崎機関区に向かうのが常であったようだった。ここはかつての山陽本線や呉線の動力車基地として16線の収容線を誇る扇形庫や給水塔がある大機関区であり、帰って来た機関車は、アッシュ落し、シンダ掻き出し、給水、給炭、給砂、給油、点検、掃除が次々と行われる忙しさが展開されるのだが、このC62 37が昭和43年に常磐線の平らから糸崎にやって来た頃には、のんびりとしたけだるい午後の雰囲気の機関区の情景に出くわしたものだった。
昭和42年9月末の平−仙台間の電化の後に、糸崎にやって来たC62 37たちには自動給炭装置(ストーカー)が装備された近代機であったのだが、この呉線が地形上比較的急なカーブと、16.7‰の勾配もあって、大型機関車にとっては走りにくいルートでもあったことから、在来からのC59やC62などの軸重16トンの重量型になじんだ糸崎の乗務員たちにとって、軸重15トンの乙線用に軸重軽減改造がなされた常磐線からのC62たちでは空転し易いとのことですこぶる評判が悪かったこともあって、検査期限切れを機会に37号は早々に廃車となると云う薄幸な機関車となってしまった。
さて、ここでは給水にちなんで、ホイラー用水についての「ウンチク」を受け売りしようと思う。それは私が塗装と云う仕事柄、工業用水のエキスパートでもあり、「用水廃水便覧」(1964念丸善刊)の執筆陣の一角を占めていたからでもある。
さて、 どこの機関区の片隅にも、試験管に囲まれて化学実験室のような水質検査詰所があり、専門の検査係りは機関車一代毎のボイラー缶水の水質を測定して、常にボイラーの状態を最高レベルに保つようにしていたのであった。
通常の設置型のボイラーでは使用された蒸気は復水となって再びボイラーに戻って再利用されるのだが、これに反してSLではボイラーで発生した蒸気はシリンダーとピストンで使用された後には煙突から勢いよく大気中に放出されてしまうので、新しい用水をボイラーに注水補給しなければならない。その消費される水の容積は、NHKの高校講座理科総合のテキストによると、「蒸気機関車では往復約80kmを走るのに使う石炭の量は1トン、水の量は14トン必要である」と述べられている。それ故に、この大量の補給水からボイラー缶水の中に持ち込まれて蓄積濃縮される給水中に含まれる不純物や固形物は種々のトラブルの発生原因を作ることになる。そこで、このボイラー缶水中の汚濁物の濃度を或レベル以内に管理するためのボイラー水詰検査が行われており、その蓄積成分とその濃度によって種々の対応策が支持されているのであった。
その第1は、ボイラー缶水の一部分を新しい給水と取り替えるブローダウンが行われ、同時にボイラーの底にあるスライム貯めに溜まった「かまどろ」も同時に排出させて、汚濁物の濃度を低下させるこどである。この汚濁物の濃度上昇の起こすとらぶるには次のものが挙げられる。
先ず、給水の中に溶けている不純物であるマグメシウムやカルシウムなどの硬度成分は湯垢(スケール)となって析出し、ボイラーの伝熱面に付着して熱伝導を妨げ熱効率を低下させる重大なトラブルを起こします。それに加えて付着したスケールはボイラ缶水と鋼板の接触を妨げて鋼板温度がより高くなることから、焼損傷や腐食を促進させ煙管などの寿命を縮めると云う弊害も起こします。次に汚濁物の濃度上昇は水の粘度を高める現象を起こさせ、蒸発するときプライミング(蒸気が水を含むこと)や、フォーミング(ボイラー缶水の表面が泡立って蒸気に水が含まれる)によって水が加減弁に入る現象を発生させ、これは蒸気が供給される箇所に水が入ることにより、機器破損に至るおそれがあるので重大な問題となるからである。
次の第二の対応は、汚濁物の濃度の許容限界を向上させるための清缶剤の注入が支持されている。SLではランボード(ボイラ横の点検通路)上に薬剤を入れる箱が設置されている。投入する薬剤の成分は企業秘密とは云うが、通常、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤を投入するようで、ボイラ缶水をだいたいPH(ペーハー)11ぐらいの弱アルカリに保つことにより、不純物がボイラー壁に析出付着して熱伝導を妨げるのを防止する目的で、また付着しにくいスライムの形成を促し、同時に濃縮する残留固形物を泥状の(「かまどろ」にして排出させる効果が期待されている。またボイラー缶水をアルカリ性に保つことはボイラー鋼材の腐食を防止することに役立っている。しかし、給水ポンプに整缶剤注入装置が取り付けられてからは、ボイラーから直接お湯を汲んでお茶を飲んだりすることが出来なくなり苦情がささやかれたとのエヒソードもあるとか。
第三には、給水の水質は給水設備の設置場所によって異なるため、給水する場所を選ぶことにより、より良い水質の給水を受ける努力を払っているようだ。水質の悪い所では最小限度の給水とし、水質の良い所で満水にすると云った予防保全処置も取られたとのことだった。例えば、千葉の水は塩分を含んでおり、ボイラーの保守には気を使ったと云うとか。反面大宮や新鶴見は水質が良かったという。そのようなことも影響しているのだろうか、テンダーの水積載量もC57は17トン、D51の20トン、C59は25トンと云うように石炭に比べて次第に増加しているのであった。
最後に、給水の中に含まれる溶存酸素による害を忘れてはなるまい。鉄鋼で作られているボイラー缶は水の中に溶解している空気の酸素によって酸化され錆びが発生し、ボイラ缶水は錆びだらけになってしまうし、ボイラーの構造材の肉厚がが薄くなって圧力に耐えられなくなったり、ピンホール状の腐食孔ができて、蒸気漏れを起こして圧力が上がりにくくなるトラブルの原因となっている。この溶存酸素を追い出す方法としては、熱効率を高めるために設けられた給水温め器を通過させることが効果的とされており、そのため給水は給水温め器に排気蒸気が供給されている機関車の力行時に行うことに決められている。このほかに給水と同時に注入されるボイラー清缶剤の中に溶存酸素を除去する成分を添加する方法も採られているとのことだ。
それでは次に、ボイラー用水には実際にどのような水が使われているのかに話を進めよう。それは水の消費量が莫大のために、水源の確保が先ず優先されることはヤムを得ないことのようだ。ボイラー用水は水質のことを考えれば汚濁物をほとんど含まない蒸留水を使用するのが最良ナのだがこれはとても経済的に難しいことである。そこで、工場や建物に設けられている据え置型ボイラーでは食塩水再製方式のゼオライトやパームチットなどを使って水中の硬度成分であるマグネシウムとカルシウムをナトリウムに交換して軟水を作る軟水化装置が利用されるのが精々であり、蒸気が完全循環している発電所のボイラーでは更にイオン交換処理を行った高度な純水が使われると云う特別な例もある。しかし、大量に水を消費するSLの場合にはそこまでの配慮は行われないが、ボイラー缶水の水質管理を行ってそれを補っているのである。
例えば、呉線の糸崎機関区でも1日に1500トン」と云う膨大な水の消費量であることから、入手出来るあらゆる水源、例えば湖沼水、河川水、井戸・地下の伏流水や水道水までが、或レベルの水質のを確認した上で、砂などを沈殿させてそのまま使用されているのである。アメリカの中西部のように、河川水や地下水の高度が日本の5〜10倍と高い地域では、ヤムを得ずソーダ灰法による軟水化処理した軟水を使わざるを得ないこともある。私がオハイオ州に滞在していた時に、一般の家庭でもソーダ灰法で軟水化処理した水道水を、更に地下室に備えたゼオライト式軟水化装置を通過させて更にもういちど軟化させてから風呂の水や洗濯水に使用しているのに驚いたものだった。そこまでやっても関東地方の井戸水より硬度は高かったと云う水質の悪さが思い出された。
現在蒸気機関車はイベント用を残して無くなったが、 DL・DCの冷却水には過去の経験が非常に役に立っているとのことだった。
しかし、このようなボイラー缶水の管理をしていても、ある年月を経ると、メンテナンスの一環としての「洗缶」を行うことになる。定期点検で、煙管の燃焼ガス側の煤(すす)を煙突ブラシで掃除したり、圧縮空気で「スートブロー(すすはらい)」を行うと云う話は回顧談で聞くことがあるが、水室側もさぞかし大量のかまどろやスケール(湯垢)の除去に苦労を払っていたのであろう。それは、ボイラー缶水の汚濁(不純物の増加)に応じて洗缶が行われることになる。火を落として、ボイラー内を噴射水で清掃するのですが、機関車を1日休ませなければならず、その頻度が多くなると無駄が増えてしまうのが困りものであるようだ。その周期は給水を受けた水の水質によって大きな差が生ずると云うから給水には気を使わざるを得ないとのことである。特に、わが国の地か水には溶存シリカの含有率が高いちいきがあり、これらを多く含むスケールは固くなって除去が難しくなると云う問題が生ジル。
最後に給水ポンプの話題となりました。ボイラーへの給水機器は安全のために独立した2系統を装備しています。外部からの損傷を受けたり、故障などトラブルがあったとき給水不能となり、運転継続ができなくなることを避けるためです。テンダーからの給水ホースも、2系統が右左に分かれているのは良く知られていますが、給水の方法には先ず給水ポンプがあり、もう一つにはインジエクターがあります。
給水ポンプは給水温め器とセットになっており、ポンプを出た水は温め器を通って加熱された後に、ボイラーに入ります。機関車が惰行中は給水温め器の熱源となっている廃蒸気の供給が無いため、冷水がそのままボイラーに注入されることになってしまいますので、ボイラーに温度差による熱影響を与えてしまうので、可能な限り機関車が力行中に給水を行うのが原則となっています。先にも述べたように、溶存酸素の除去のためにも給水を加熱することが奨励されているわけです。
う一つの給水機器、インジェクターは蒸気を混合して高温となった水がボイラーに注入するので熱影響は小さく、常時使用が可能なのが特徴です。
末尾になりましたが、ここでC62形の諸元を記しておきます。
軸配置:4-6-4
伝熱全面積(m2):244.50
機関車運転重量(t): 88.83
ボイラー水容量(m3):9.87
動輪上重量(t):48.23
水タンク容量(m3):22.0
炭水車運転整備重量(t):56.34
燃料搭載量(t):10.0
軸重最大(t):16.08
缶中心線高(mm):2,630
動輪直径(mm): 1750
全長(mm): 21,475
シリンダ、直径×行程(mm): 520×660
全高(mm):3,980
缶圧力(kg/cm2): 16.00
機関車長(mm): 12,900
火格子面積(m2):3.85
炭水車長(mm):8,875
撮影:〜1973年頃か。
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◆『瀬戸内の呉線に急客蒸機 C59、C62を訪ねて T 〜 Z 』のリンク
191. プロローグ:海辺を疾走するC59・須波-安芸幸崎 間
128. 冬の沼田(ぬた)川堤防から須波海岸へ・三原-須波−安芸幸崎
366 瀬戸内の浜路を走る・呉線のどこかで
365. 安登越えの急行「安芸」・安浦−安登−安芸川尻
129. 夕暮れの寝台急行( 安芸 」 ・ 忠海〜安芸幸崎 間
202. 通りすがりのC59 ・広−安芸阿賀 間 & 天応−吉浦 間