今月のヴェクトル
政治家のウソ二題
政治家の多くが好んで使う言葉に「粛粛」というのがある。何でもかんでも「粛粛」とやるというのだ。
さて、少し旧聞に属する事だが菅直人首相は首相就任の所信表明演説で新内閣を「有言実行内閣のスタート」と述べた。言うまでもなくこの言葉は「不言実行」の相対語である。不言実行とは「あれこれ言わず黙って、善と信じるところを実行する事」である(広辞苑より)。私は菅首相の「有言実行内閣」よりも「不言実行内閣」のほうが好きである。その菅首相は続けてこう言う。「先送りしてきた重要政策課題に今こそ着手し、これを次世代に残さないで解決していかねばなりません。それが『有言実行』に込めた私の覚悟です」と。
あるジャーナリストが某週刊誌に書いていたが、菅首相の所信表明演説を読んで「係長」という二文字を思い浮かべたそうだ。うまい事を書いてくれたと感じ入った。確かに菅首相は社長の器ではない。いや「部長」「課長」の器でもなく「係長」が似合う。ま、大目にみて「ヒラ」よりは少しばかり上に位置するだろうけれど。
たとえば、尖閣諸島沖の日本の領海で起きた中国漁船が海上保安庁の巡視船にぶつかった事件の処理をみると、確かに菅首相のとった態度は「社長」の決断とは到底思えない。その中国漁船衝突事件の犯人である船長について首相官邸の関係者が「勾留期限の数日前に決着がつきそうだ」と暗に起訴は避けられる事を伝えたところ「もっと早くできないのか」と声を荒げたという。これが菅首相の外交感覚である。ああ、何という「菅係長」か。これでも「粛粛と」事故処理をしたつもりなのだろうか。
もうひとつ、政治家が好む言葉に「命懸けでやる」というのがあるが、これもウソである。人間、命はひとつしかない。ところが政治家は国民に対して「命懸けでやる」と何度も言う。政治家は、いくつ命を持っているのかと不思議に思ってしまうほとだ。
もはや政治家の言葉を信用する訳にはいかない。それ故に菅係長の「有言実行」もウソなのである。
新潟時局研究所所長
水野 孝吉