1.裏通り
ラジカセが今のミニコンポより大きかった時代。折れたアンテナの位置を微妙に調節しながら聴いたラジオ。あるとき哀調をたたえた口笛がスピーカーから聴こえてきた。誰もが知ってるあのイントロ……。アメリカなんてこれっぽっちも知らなかった幼い頃の自分にとってこの曲、『the
stranger』はまさに「外国」を感じさせた。そのうち、ダウンタウン、飛び出しナイフ、ギャングなんて言葉を憶えるにつれ、『the
stranger』はますます自分の中でアメリカを象徴してる曲に思えてきた。
2.出会いはいつも
「それでもファンなの?」って聞かれるのを覚悟で言えば、私はビリーのLP、EPはおろか、CDさえ持っていないのです。ビリーは聴きこなす音ではないのです。偶然
ラジオから流れ出すビリーのメロディー。この出会いを大切にしたいのです。
3.メロディー・メーカー
ビリーはメロディー・メーカー。誰もが認める形容詞。ブラックミュージック全盛の現在、イントロはすべからく鼓笛隊の行進のよう。本編のドラムパートをただ前奏に持ってきただけ。ビリーはイントロさえ一つの楽曲になっている。
『the stranger』はいわずもがな。『honesty』『piano
man』などの代表曲も、あのイントロあってこその主題となる。米英の対極をなすエルトンに欠けているのがこの点である。彼らの曲を弾き較べてみれば、エルトンの楽曲のほとんどがコードを叩いているだけということがわかる。ただしビリーもNylon
Curtainからは彩りが褪せてくるが……。
4.老 境
老境というにはまだ早いが、ビリーもエルトンも今後ライヴ活動をしないという。やり尽くした、もしくは枯渇した? でもいいのです。20世紀に残した遺産は大きい。これだけのピアノ弾きはそう現れないでしょう。
この二人の伴奏で『piano man』を歌えたドームでのひととき。あの至福は色褪せることはありません。
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