虫歯とは歯の古傷のようなもの
おおまかに言うと、人間の体というものは二十歳前後を過ぎると老化が始まります。
したがって、年をとるごとに、体の状況が悪くなっていくのが一般的です。
当然年をとると、古傷のようなものをたくさん抱えるようになってきます。
医科の世界では、古傷は完治するもの、と考える人はほとんどいないでしょう。
「古傷があるから、腕を切断して義手を入れてくれ。」なんてそう簡単には言わないと思います。
医師だって、「指が痛いのなら、指の骨髄をとりましょう。」とは言わないはずです。
虫歯というものは、『歯の古傷のようなもの』です。
確かに、指先の凍傷などのように、壊死や炎症が起きた組織などがある時は、周囲が悪化してしまうため、除去等が必要な場合もあります。
年をとると、そのうち体中が傷だらけになってきます。
体の傷などが、徐々に治らない状態になるのは仕方ありません。
大きな怪我や病気になった場合、いくら治療を繰り返しても、体が二度と万全にはならなくなることがあります。
老人病院を見て回ったり、往診などをしたりして、人生末期の方々に接していれば、すぐに理解できます。
多くの場合、歯科治療というものは、受診する側も診療する側も『歯科治療をすれば病気が治る』というように考えています。
しかし、人間の体というものは、歯だけでできているものではありません。
医科の治療では完治しない病気がたくさんあるにもかかわらず、『歯科の治療をした時だけは全て万全になる』というのは本来おかしな考え方です。
歯科治療をする際でも、状態説明をとことんすれば、多少の『古傷』は我慢するから、あまり触らないでくれ、と言ってくる方々も多数存在します。
個人的には、できるだけ歯の寿命を延ばすためには、
『できるだけいじらないで、自己治癒能力を最大限に利用することが大事』
と考えてはいます。
この方法だと、少し中途半端な治療になってしまったり、後で痛くなったりすることも多く、結果的に直ぐに再治療が必要になることもありますが、逆に『抜歯やむなし』と診断された歯が、何年も使えてしまうことも多々あります。
結果として、土台の骨が溶けてしまったり、病巣が膿んでしまったりして、その後の処置に影響する場合もありますが、歯の寿命が延びることには変わりがなく、本人が納得していれば、そのような治療でも満足してくれる場合が多くあります。
患者さんが不安になる要素の一つに、『痛みなどの理由がわからないこと』というものがあります。
古傷などの痛みを我慢できるのと同じように、理由さえ理解できていれば、我慢できる痛みもあるのではないでしょうか。