自動車塗装の自分史とSL蒸気機関車写真展〜田辺幸男のhp
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066.  イッタカー高原 へ登る登山列車遠望


〈0001:〉
ホイッタカー高原へ登るシェイ重連の登山列

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〈紀行文〉
 ここにお目にかけたあれゲにー山地の広々とした風景を説明スルために先ず、ここまで登ってくる列車の乗車記を述べておこう。
駅頭に行ってみると、ここにあった筈の古い駅舎は1977年に火災で焼け落ちてしまい、今は簡単な駅舎が再建されてがっかりであった。そこでスケジュール表をもらって、ダイヤを作ってみると、近距離列車が三本と山頂行きが一ほんであったから、中々の賑わいと云えるだろう。もう、元C&Oの線路には一番列車の近距離ツアー列車は準備完了で客車を従えたハイスラーは盛んに蒸気をあげていた。隣のCSRRの線路にはGold Knobの展望台までゆく長距離列車を引き出して来たシェイが一休みしていた。ともかく、この沿線には道路は全く無いとのことなので偵察を兼ねて早速ハイスラー ♯6の直前のオープン車に乗り込んだ。私には勿論土地勘があろうはずもなく、また森林鉄道の知識は殆どないのだから回数を重ねるより他に手はないと思った次第なのでした。
鐘を打ち鳴らしながら出発した列車は間もなく左へ大きくカーブして元C&Oの線路と別れて徐行しながら機関区のヤードの真ん中を進みますが、とつじょとしてダッシュしてLeatherbark Creekに沿った雑木の濃く茂った谷間を凄いドラフトを響かせながら推進で登り始めました。この辺りは樹木の葉が繁り昼でも暗い位です。みやげ物屋で見たカレンダーの冬のシーンには、この辺りの葉の落ちた裸の雑木の谷には雪が積もり、この白い雪の中をボイラーをオフセットさせたシェイが空高く黒煙を吹き上げて登ってくる構図の場所だと判りました。
この線路は1900年に材木商人のSamuel Slaymakerが建設キャンプを現在のCASSの機関庫のある場所に建設キャンプを設け、そこからレールをLeatherbark Creekの末端まで、沿って登らせて行き、行き止まりから勾配を確保するためたにから離れてスイチバックを建設したのでした。
われわれの列車も谷川がほそくなると、第一スイッチバックにつっこみました。そこで、機関車のすぐ前に連結していたオープン車からお客を次の客車に押しこめました。
私もテープを持って不満そうな顔をしていましたが、次にスイッチバックを出ると牽引に変ります。もちろん、逆位ですから薪焚のハイスラーの吐き出すシンダーのすごさには全く閉口しました。これにより谷筋を離れ稜線をヘアピンカーブで曲り第二スイッチバックに入ります。このスイッチバックの間が眺望が良く、眼下に牧場が開け、上の方には鉄路がつづいて居ます。第二スイッチバックでバックした後猛然と11% の最急勾配に挑みます。牛の歩く位まで速度が下がりますが何んとか登りついた所が、
WHITTAKERと云うピクニックランド風の中間駅で、約260mの高度差を登ったことになるようです。ここは伐採事業には関係が無いところだとのことで、眺望が楽しめます。また、ここには折返し列車がが3回と山頂行きが往復の二回停車するので結構楽しめそうであった。夏ともなれば、人の波が押しよせて来て、写真を撮る人、機関車のャブに登る人、早速食事を拡げるグループ、ライブを始める人々もいると云う賑やかさが溢れる。ここからは列車はバック運転で山を下ります。線路に沿って数百bも戻り、斜面は牧場ですので広々と草原に多少の雑木林がまばらに残ります。ここに腰を下して山頂行きのシェイ重連を待つ訳です。遠くにスイッチバックに向う線路がかすかに見え、遠くはアラゲニーの山々です。やがて麓のCASSの駅の辺りから山頂行きの列車の発車の気笛が風に乗って来ます。ついでヤードのあたりを走っているのでしょうか、気笛が続いて聞えて来ます。黒煙が2本ゆっくり動いてゆくのが見えます。20分も待った頃、第一スイッチバックに入ったらしく、近くで気笛が聞えたが深い雑木にかくれて見ることは出来ません。今日は♯4と♯5の重連で、オルガンの低音のような気笛とカン高いピーと云うような気笛が小気味よく組合さって中々の音の情景である。やっとヘアピンカーブを廻って姿が現れた。逆向きになった二台のシェィの後に赤と緑に塗装された客車に乗客があふれんばかりに乗っている。黄色やブルーのが派手に目立つのはバカンスのシーズンの到来を告げることのようでした。黒煙はー本立ちのぼり上空で混じり合い乍ら,風に乗ってアラゲニーの台地に拡がってゆく。ふと気がつくと、一番列車が音もなく頭上の線路を下ってゆく。第二スイッチバックで交換するのでしょうか。3台のSLノ合図の気笛が交錯して問えて来ます。
カメラをしまい、テープレコーダーを担いで線路までかけ足で登りつめ、適当なポイントを探すのだがあせるばかりで、11%の最急勾配を登り始めた重連を迎える事になるのでした。顔々、手を振る人々,カメラを向ける人、皆んな幸せそうな顔が私の前を通りすぎていく。ギャーのガチャガチャ音とドラフトの面白い組合せ、シェイはシリンダーが2台分だからそのにぎやかな事がまた面白い。ここには往年の狩勝峠の様な風情が想い出される。新内を出た列車を待っていた過去の日々、時にはカメラも、テレコも持たずに、ぼんやり座っていたい気分にさせられる。驟雨や雷の多いのもアメリカ東部山岳地帯の特徴の様で,急に雲が拡り,瞭雨がやって来た。WHITTAKER で一息入れた列車は雨の中を山頂に向って出発して行った。
ここから山頂への旅は、この年の秋10月の訪問で乗車したのでした。鉄道建設史の表現を借りると、線路はプロモント川の平面に沿って周回し、さらに崖と山を巻いて遂に山の間のギャップに到達した。ここはOld Spruceと呼ばれる丸太の集積地であった。1904年辺りになると、2マイル弱のの支線ががOld Spruceから 新しい町Spruceへ伸ばされた。ここはShavers Forkの上流に当たり、これは隣のCheat Riverの流域であった。Spruceは3,853フイートの標高で、アメリカの東部での最も高所にある住民の住む町となった。Spruceから
35マイルElk Riverに沿って南へ下がったoBergoo の町へ、又北へ65マイルをCheat Riveに沿った線路も開通して、Spruceは鉄道帝国のハブとなっていた。それは近くに石炭鉱山も開発され、価値の高いホワイトパインの材木を満載した列車が出発して行ったのでしょう。このジャンクション地点はCass〜山頂への幹線から大きな切り通しを経た2マイル足らずの延長であった。
1920年代には伐採場への支線の総延長は140マイルになり、線路の総延長は250マイルに達した。
そしてSpruceに大規模のパルプ用の樹木皮剥製材所が作られた。ともかく莫大な材木と丸太がSpruceを経由してbP2の大型シェイに牽かれて裏山を越えて運ばれた。その後、西の処女林を伐採するのには東へ運ぶのが有利と材木企業家は考えたようであった。
最盛期には2500〜3000人の人が必要とする生活物資を12マイル登った伐採キャンプに鉄道で届けて来たと云うのは人間の成し遂げた最大の快挙の一つとと云えるだろうか。
 さて稜線を右に左に進み、最急勾配を登り切った所が昔の木材の集荷地点としキャンプが設けられ,製材所も建設された山の中の町 Old SPRUCEである.この鞍部から2マイルの支線が出来て新しい町が出来た話は既に述べた。列車は一旦停止して、線路脇に貯めた貯水槽にホースをつないで給水作業を開始した。この山地は木材の伐採をしたあとの造林が計画的に行われなかったため、雑木が多く全森林資源が枯渇してしまっている。この付近は冬の最低気温が-43℃を記録したとして有名な寒冷地気候地帯である。州で二番目の標高の山頂 Gold Knob にやっと着いた列車は、すぐ補機の解放を行い、あっと言う間にCASSに戻ってしまった。10月の初め今年のシーズンも終りに近い日、初めて山頂を訪れた私は寒さに驚いた。草原に腰をかがめ風をよけると弱い日ざしではあるが暖くなってきた。吹き渡る風の音とコンプレッサーの音だけが響いて来る静けさである。周辺に保存用とし僅かに残された原始林と、深い谷を見渡せる木造の展望台に乗客は即席を記します。帰りは客車に女性も含めて数名のブレーキマンが乗り,手動ブレーキの大きなハンドル操作に忙しい。寒さと朝からの活動,昨夜のドライブに疲れが出たのか,コトンゴトンと言う列車の揺れに眠りを誘われたのか、CASS到着の鐘の音で目が覚めたのでした。
このCASS観光鉄道は州の運営で益々発展充実してゆくことが期待されています。新緑の5月、また真冬の2月に鉄道ファン向の催しも開かれるとか夢の様な話が聞かれる今日です。最近の(2007年)の話ではゴーストタウンとなったSpruceを訪ねる五時間の列車も運行しており、東部で最も標高の高い標準軌の旅が楽しめるとのことだが、そこには建物の基礎が残されているのみで、美しい自然が待っているとか。

撮影:1978年
発表:「レイル」誌・1980年3月号、4巻49号

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・「アパラチアン山中の森林鉄道: Cass Scenic Rr を訪ねて」シリーズのリンク
065.  森林鉄道の朝、Hysler ♯6
067. 朝の近距離列車が出発を待つCASS駅頭風景