自動車塗装の自分史とSL蒸気機関車写真展〜田辺幸男のhp
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・南インデアナの White WATER VALLEY  鉄道を訪ねて・インデアナ州
057.  煙突の美学: White WATER VALLEY RR の♯100


〈0001:〉
White Water Valley RR・.100

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〈紀行文〉
 アメリカとイギリスで乗用車工場を建設していた頃に見聞した話題である。アメリカでは五大湖に近い中西部のオハイオ州のとうもろこし畑の中の片田舎であったが、イギリスではグレート・ブリテン島の西南部のウェールスで、昔のかグレート・トウエスタン鉄道(GW)がロンドンから大学の都、オックスフォードに向かう中間にあるスィンドンと云う都市の郊外であった。この鉄道の誇った超広軌の流麗なデザインのSLを自前で造った歴史のある機関車工場は鉄道博物館となっている。この牧歌的な趣のあふれる郊外の軍用飛行場跡地に新しい乗用車工場を建設したのであった。
イギリスでは自然景観の保全に熱心で、工場ではボイラーや塗装設備からの廃棄筒などの煙突は目立たないように建物の一角に集合して、排出速度を強めて煙突高さの低さを補って居たのであった。一方、アメりかでは逆に、自動車組立工場にある塗装ラインの屋根には,高い直立した排気筒が数多く林立しており、廃棄をいかに速やかに拡散させているかを明らかにしなければならなかった。お国が変れば風俗習慣も変るものだが、この話は余りにも極端である。
さて、このような煙突の美学の中では、蒸気機関車の煙突ともなると、イギリスではSLそのものがインダストリアル・デザインの発祥の対象とされるくらいに洗練されているので、細身のパイプ形の煙突に縁にゴールドのトリムをつけるなど精緻(せいち)を凝らしている。これは、SL用に良質の石炭をふんだんに使用出来たイギリスならではのことなのかも知れない。
それに比べてアメリカでは、初期は石炭が極めて貴重であり、そのためか、周囲の豊かな森林から薪(まき)を集めて燃料とし、SLが走っていた時代が長く続いた。カロリーの低い薪では、強い通風で燃やすと、火の粉を煙突から大量に排出させる結果になった。そこで、煙突の出口を大きくふくらまして、火の粉止め
(アレスター)の金網を張って、その排出を食い止める工夫がなされた。アメリカという国の実用主義一点張りの風潮もあって、この煙突はソロバン玉のような形のダイアモンド煙突になったのである。
さて、ここに登場したオニオン(玉ねぎ)煙突のSLは、20世紀になってから、フロリダ半島を走る森林鉄道の終点にある製材所に到着した運材列車の入れ替え用として、ボールドウイン機関車工場に特別注文されたもので、1917年にせいぞうされた。製材所から大量に出る製材屑(くず)を燃料に活用すると云う点から、この煙突の持つ有効性は重要であったことが理解できる。それにしても,当時流行していた鉄道車両へのインダストリアル ・デザインの取り入れには注目される。この手間のかかる板金作業に打ち込み、見事な仕上がりに作り上げたボールドウインの職人達に,敬意を払いたい。このaD100は、インディアナ州の南西ぶにあり、“インデアナの小デトロイト”と称され、乳母車、幌馬車、蒸気自動車や箱形自動車の製造の中心地として発展して来た古い運河沿いの町、コンネルスビルに本拠を構えた“Canal Route”と呼ばれるホワイト・ウォーター・バレー鉄道で余生を送っている。
早春、自慢のオニオンスタイルの煙突の銀色、黒いテンダーと強いコントラストを示しているロゴの鮮やかなオレンジ色はオープニングのためにペイントされて見事な仕上がりであった。それにしても薪焚き機関車のもうほうと上がる黒々とした煙は見た目はもの凄いが、臭いは暖かみがあるような気がしたのだった。
SLが近代化されて、動輪径、ボリラー径が大きくなって機関車の高さが高くなるに従って煙突は次第に短くなって、昔のような美学を論ずることができなくなってしまった。そのてんでは古典的な機関車の煙突考にはつきない趣があると思う。

撮影:1979年
発表:「レイル」誌・1984年7月号

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・「南インデアナの White WATER VALLEY  鉄道を訪ねて」シリーズのリンク
055. 広々とした谷間を快走する薪焚き♯100
056. ホワイトウオーター運河公園で憩う♯100