ＳＬ写真展 （ ＩＮＤＥＸ )～アメリカ ＆ 日本現役
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・“Chessie Steam Special”
022.
アメリカ鉄道１５０年祭記念列車リバイバル発進
〈００１：〉
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〈紀行文〉
１９７８年は正月も早々に、ホンダ初のアメリカ工場建設のエンジニアリングを進めるために厳冬の自動車の都 デトロイトに赴任していた。そこはデトロイトと初のドーム式スタジアムで知られるポンテアック市との間にある衛星都市の一つであるバーミンガムであって、高級住宅地域として知られた町で、朝夕にはデトロイトのウォーターフロントとの往復には、ポンテアック発の通勤列車が停車する駅があった。
或る日の夕方、帰国するお客様を送って空港へ出かけた。その帰り道は凍った高速道路を避けて、街中の路を通ったのであったが、ひときわ明るく夜間営業をしていた大きな鉄道模型ショップを見つけたのは幸運であった。そこの飾り立てたウインドウのガラスには､『１９７８年 “Chessie�dSteam�hSpecial”蒸気旅客列車運転界 会員大募集中』との大書した貼り紙とそのＳＬの疾走写真と運行すけじゅーるの黄色いパンフレットが貼り出されていた。店内には昨年走った「アメリカ鉄道誕生１５０年祭記念蒸気旅客列車」の興奮の余韻を伝えるかのように、写真パネルに三角旗、防止やワッペンなどが飾り立てられていたのだった。店主は「今年は昨年の祈念列車をそのまま用いて、“Chessie�dSteam�hSpecial”と銘打った新しいツアーの開催が予定されており、このデトロイトでは週末を含めて５回のツアーが募集されたのだが、人気が高く売り切れてしまったんですよ。」と気の毒そうにパンフレットを差し出した。
この鉄道会社のコーポレート カラーである鮮やかな黄色を帯びたパンフレットには『この主催者の“Ｃｈｅｓｓｉｅ Ｓｙｓｔｍ”と呼ばれている鉄道網のＰＲが載っていた。それには、大西洋岸に深く入り込んだチサピーク湾岸の港からアパラチヤン山脈を越えてミシシッピー河の大支流のオハイオ河流域への交通路を開拓し、更に北の中西部までその版図を拡大して、石炭輸送で地盤を築いたＣ＆Ｏ（チサピーク･アンド･オハイオ）鉄道を中心会社として鉄道斜陽の時代に経営危機に陥っていたアメリカ最古の公共鉄道として知られるＢ＆Ｏ（ボルチモア･アンド･オハイオ）鉄道と、同様にアパラチヤン山中の炭鉱地帯を結んで活動しているＷＭ（ウエスタン･メリーランド）鉄道を傘下に入れて形成された持株会社が運営する組織である。そして営業路線は中西部、五大湖地域から東部の大西洋岸に至る広大な地域をカバーしている強力な巨大鉄道システムである」と。
コノ「かわいい」響きを持った“Ｃｈｅｓｓｉｅ”とは「子猫」の愛称であり、その昔、Ｃ＆Ｏ鉄道の自慢の豪華寝台特急列車の「乗りごこち」の快さは子猫もスヤスヤと眠でる程であることを象徴する為に用いられたキャッチフレーズであったもので、そして、社名の頭文字の“Ｃ”のデザインには、「眠りこける子猫の頭の輪郭」を文字の内側に白抜きに描いたロゴが伝統的に用いられており、おなじみのものである。従って昨年行なわれたアメリカ鉄道１５０年祭の記念行事はこのシステムの傘下のＢ＆Ｏ鉄道の誕生１５０年の祝賀行事そのものであったのである。
さてこのデトロイトにやって来た週末の蒸気特別旅客列車ツアーへの乗車を諦めて、ＳＬの写真撮影に集中することに切替えたのだった。しかし、このデトロイト郊外の地理を知る由もない私が、ベストの撮影ポイントを探すのにはいささか戸惑っていたのだった。
それは、さしずめ日本ならば「五万分の一」の地勢図を手にしてクルマを走らせてそのルートの踏査を試みる所なのだが、あいにくアメリカの本屋には鉄道線路を省略してしまった道路マップばかりが幅をきかせていたし、また陸軍の発行していると言う公式の地勢図を購入するのにも手こずっていたからである。
そこで窮余の一策として、仕事を頼んでいるＣＬ社のエンジニアーの中に自家用飛行機のパイロット免許を持った航空マニアを紹介してもらい、彼の持っているデトロイト付近の航空地図を見せてもらって、隣町であるトロイ市内にあるデトロイト･のシティ･ エアーポートで入手することができた。これには空から明瞭に識別できる鉄道線路は重要な目標となるとのことで、確かに鉄道幹線は記入されており、そしてＳＬの走る線路のルートらしき所を教えてもらうことができた。そして彼のアドバイスに従って、ガソリンスタンドで売っている古めかしい版の「デトロイト市街地図を手にいれて、その裏にあるデトロイト近郊地図を探すと鉄道会社名を付した鉄道線路が記載されていたのであった。このようにして次第に鉄道の様子が明らかになってきたのだった。
そして、Ｂ＆Ｏ鉄道のオークビル貨物駅からの出発シーンを眺めることの出来る高い跨線橋の撮影ポイントを発見し、翌朝逆行の中で撮影することに成功した。
このＳＬのいたデトロイトのツアーでは、アメリカの鉄道の旅客列車の黄金時代の情景の片鱗を我が身の五感で感じ取ることができた興奮がいつまでも心に残った。また、これらの蒸気列車運転ツアーには必ず地元の鉄道趣味団体、例えばＮＲＨＳ（全米鉄道歴史協会）のデトロイト支部のメンバーガボランテアに出動して、乗客の誘導や昇降の介助や駅や線路の監視などに汗をかいて、充実した趣味生活の一端を見せていたのには羨ましい限りであった。
ここで受け売りだが、アメリカ最古の公共鉄道であるＢ＆Ｏ鉄の誕生の背景を述べておこう。先ず、1８世紀が近ずいたアメリカでは、大西洋岸に成立した主な植民地は貿易港を中心とする経済圏に発展して、そこは独立した州の首都としてお互いにその繁栄を競っていた。その原動力は欧州各地からアメリカ大陸を目指して港に到着する数限りない移住者の群れの西部への入植の希望であった。彼らは港町の周辺で、西部へ進むために必要な馬や幌馬車、それに積む道具や資材、そして食料などを調達した上で、西側に連らなる険しいアパラチヤン山脈の谷に分け入って厳しい山越えのルートを踏破した末に、ミシシッピー河の上流に当たる大支流のオハイオ河の流域に拡がる大平原を目指す巨大な人の流れとなって行くのであった。一方、逆に既に内陸で入植を果たして農耕を拡大しつつあった人々は種々の農耕資材の購入や収穫した農作物の都市への売却などのために貿易港都市との間を往来する別の流れが日ごとに増加していた。その港町の経済人は今まで欧州からの輸入だけに頼よっていた家具や調度品、そして農機具、幌馬車、織布、衣料などを自給するために欧州から技術者や職人を呼び寄せて、手工業を興こすようになっていた。これらの活動の拡大はフロンテアーの西進と拡大によってもたらされておることから、イカにしてこの繁栄を続けるかは、西部と東部海岸の都市とを往来する人や資材や情報の交通をより迅速に、大量に、確実に経済的に流通できるかが勝負であるとの認識を当地の経済人や政治家は持つようになって来ていた。
それで、ボルチモアがフィラデルフィア､
ニューヨークと競争で西部への経済的な大量輸送ルートを探していたのが1７0０年代の終わり頃のことであった。ある商人は貿易船を動かして、遠路メキシコ湾から当時フランス領であったミシシッピー河を遡る方法を成功させていたり、また北方のカナダのセントローレンス河を遡って五大湖地域との交流を拡大しようとするフランス商人も現れていた。これらに対して、各州の有力者たちはアパラチヤン山脈を越えて直接オハイオ川流域の第平原に出る経済的ルートの開発に覇権を賭けて競うことになる。北からニューヨーク市は水深のあるハドソン河を北上してから、西に向かって地溝帯に沿って長大な運河を開削して五大湖の一つであるエリー湖岸に達するエリー運河の開発を進めた。そして莫大な資金と年月を費（つい）やして悪戦苦闘の末に開通に漕ぎつけたのであったが、不運にも、その時既に、スピードの速い鉄道の時代が訪れようとしていて再び鉄道の建設も始めなければならなかった。
一方、ペンシルバニア州のフィラデルフィア市では、オハイオ河の蒸留に当たるピッツバーグとの間を運河で連絡する方針を選択した。そして東西の運河に挟まれた急勾配の峠道の区間だけは数連の”インクライン“（運河用ボートを分割して貨車に載せて、峠の頂上に設置した蒸気機関れ駆動する巻き揚げウインチによって、線路上に張ったケーブルに貨車を連結して峠に向けて引き揚げるとど同時に、一方の貨車を降下させる峠越えの輸送方法）と馬車軌道によって連絡して、運河用ボートを直通させることに成功し、大幅な日数の短縮を達成した。しかしこの繁雑で危険を伴う峠越えの作業は鉄道との勝負に敗退してしまった。
更に南のメリーランド州のボルチモア市は馬車軌道をオハイオ河岸のホィーリングまで全通させるため、距離は多少長くなったとしても、勾配を極力抑えた山超えルートの発見を不退転の覚悟で目指していた。そのためには険しいアパラチヤン山地を征服するためには陸軍の優ぐれた技術を借用して、前人未踏の地域を綿密に探検する踏査隊を投入した末に、「サンドパッチ・パス（峠）」と呼ばれるルートの開削に成功したのだった。このルートは勾配が２５キロも続く難所ではあるが現在でも東部とシカゴを往来する貨物列車に利用されるメインルートとなっているのである。
さて、 1829年頃､ニューヨーク商人でボルチモアに市場をもっていたピーター･
クーバーは､新しく1827年に開業したB&Ｏ鉄道の馬車軌道に関心を持っていた｡鉄道会社は、急カーブの多い谷間の軌道は馬車の方が蒸気エンジンより有利と､軌道を複線にして運送力の増加を図っていた。これに反してクーパーはＳＬが有利であると説いた｡彼は１８30年に小さな蒸気機関車を作ったが失敗したので､W･ジョンソンと一緒にマウント･クレアｰ工場（今のB&Ｏ鉄道博物館がある)の片隅を借りて､旧式の歩兵銃のバレルを使って多煙管式ボイラーを作り､重さわ僅か１トンで、１．５馬力､７６２mmの動輪で８９×３６８mmの一本のシリンだー、ギヤーを介して動輪を駆動すると云う"親指トム号”を作り上げた。そしてB&Ｏの人たちに馬より有利であることを実証するため､クーパー自ら運転して複線区間を馬車と競争した。スピードは時速２９キロに達し、カーブの登り道の２１キロを５７分で走った。煙突の先に付けた排風ファンのベルトが切れなければ､馬車に勝ったはずである。この機関車はアメリカで最初のものでもなく、設計に重要な点がある訳でもないが、最初に開通した二一キロの間の公共輸送用のＳＬの第一号として重要な記念物である。イギリス製の重い機関車に比べて弱い軌道に合わせた点が、この成功をもたらしたのである。
B&Ｏ鉄道は1831年に国内の製造業者に対して、ＳＬ設計製作コンテストの募集公告を新聞に発表し､九項目の条件を満足したものに４０００ドルを出すものとしていた｡このコンスストはP･デイビスたちの作った“ヨーク号”が優勝した。この機関車は一部を改造され､毎日、１５トンの貨車を牽いて時速二四キロの速度で稼動した。これらのＳＬはB&Ｏ鉄道博物館に保存され、初期アメリカの鉄道のリーダーとなったB&Ｏ鉄道の誇りとされている。してこの新しいルートと蒸気機関車の登場により他の州を圧倒し、ボルチモアノ繁栄の基礎を作ったのである。このＢ＆Ｏ鉄道の成功に少し遅れて、ニューヨーク市はＮＹＣ（ニューヨーク・せんとらる）鉄道をエリー運河沿って急きょ建設し、アメリカの第３番目の公共鉄道の名誉を勝ちえた。一方更に遅れて、フィラデルフィアも運河沿いにＰＲＲ（ペンシルバニア鉄道）を開通させるのに狂奔したのであった。その後、Ｂ＆Ｏ鉄道は更に西のシカゴ、セントルイスまで開通させ、大陸横断鉄道としての黄金時代を築くのである。 B&Ｏ鉄道創立１５０年祭記念蒸気旅客列車を牽引して走ったReading 2101のテンダー側面に“親指トム号”のシルエットが大きく描れていたのは印象的であった。このリーデング鉄道の2101 についての詳細は次のの「２３．リーデングの“ぶらつき男”2101」をご覧下さい。
撮影：１９７８年
発表：「鉄道ファン」誌･１９８０年新年号
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･“チェシー･スチーム･スペシャル”を牽くリーデング鉄道♯２０１２号のリンク
０２３．リーデング鉄道の“ぶらつき男”・№２０１２・Ｂ＆鉄道博物館
０９５．“アメリカン･フリーダム･トレィン”・Ｂ＆Ｏ鉄道博物館／ﾒﾘｰﾗﾝﾄﾞ州