6.音のお化粧(エフェクター)


 種 類
 音のお化粧(エフェクト)は、様々な「エフェクター」と言いわれる装置で行います。実際はその効果をかける装置がそれぞれ違う事から、それぞれの装置名で呼ばれることが多いと思います。また、いくつかのエフェクトが1台の装置でかけられる複合的なものもあります。
 その種類には、大きく分けると3つとその他に分かれます。

分  類 装置名 目的
周波数の調整をするもの イコライザー 低音楽器を目立たせる。
うるさい感じをなくす。など
時間的な効果が得られるもの リバーブ ホールや教会などの響きをつける。
ダイナミックレンジに及ぼす効果 リミッター、コンプレッサー 瞬間的な大きすぎる音を、小さくする。
それによって全体の音圧を上げる。
その他、特殊なもの フランジャー、フェイザー、
コーラス、ボコーダーなど
変わった、個性的な音にする。
(説明は省略します)
装置名にはなじみの深いものや、知らないものもあるかもしれません。順に説明したいと思います。また、単体機械装置もあれば、PCのソフトで同じ効果のものもあります。


 ◆イコライザー


 イコライザーはなじみのある装置ですが、これは特定の周波数の音をを大きくしたり、小さくしたりするものです。例えばハイハット用にマイクを立てて録る時に、低い周波数の音は本来ハイハットに含まれませんのでカットしてしまいます。また、ナレーションを録音するときに、息の音が入ってボコボコいうときには、超低域をカットしたり、声の明瞭さが足りない場合には中域を少し持ち上げたりします。トランペットに明るさ、又は派手さが必要なときには中高域を少し持ち上げたりします。皆さんがお持ちのステレオアンプについている高音(TREBLE)、低音(BASS)のボリュームもイコライザーの一種といえるでしょう。

イコライザーには2つのタイプがあります。

1.グラフィックイコライザー

 1つは、「グラフィックイコライザー」と言われるもので、略して「グライコ」などと呼ばれます。スライドボリュームがたくさんついています。スライダーの数は数個から31個。それぞれの周波数はほとんど固定ですが、ポイントの数は多めなので細かい調整ができます。録音にも使えますが、どちらかというと、ハウリングを抑えたり、部屋の周波数補正のためPAの現場などでよく使用されます。


2ch(ステレオ)タイプ
PCソフトのグライコ例

2.パラメトリックイコライザー

 もうひとつは、「パラメトリックイコライザー」で、「パラメ」といったりします。 周波数を設定するツマミ、増減するツマミ、中心周波数の広がりを決めるツマミがついています。ポイントは3〜5くらいが多いようです。録音にはこちらのタイプを使う事が多いようです。単体のものもありますが、ミキサーの各ch毎についている場合もあります。

PCソフトのパラメトリックイコライザー例

周波数による音の変化》
以下に周波数ごとの音質変化のイメージを述べて見ます
 
50Hz以下 この帯域は空気感を表しており、少なめにするとすっきりしてきますが、全くなくすと臨場感が損なわれます。特に大きな和太鼓では大事な帯域です。気になる空調の音などもこの帯域。
50〜150Hz バス系の中心帯域。
100Hz〜1khz この中に多くの楽器や声の中心周波数があります。男声のバスなどは100hzぐらいから、女声のソプラノは250Hzぐらいから。トランペットは150Hzぐらいから。
300Hz前後 このあたりを少し下げると、全体的にすっきりした感じになる。下げすぎると痩せた感じに。
3kHz前後 一番人の耳につきやすい帯域。上げればにぎやかな、また硬めな感じ。また、バスドラのアタック音はこのあたりに。
5kHz以上 楽器や声の高調波(倍音)帯域。8kHzあたりをすこし上げると、透明感が出たような感じに(錯覚?に)。

【調整の仕方】
 イコライザーはいろいろ試すことが出来るので、やってみることです。プラスしたいかマイナスしたいかをまず決め、はじめは±6dB程度の(少し多めの)値にし、周波数を上げたり下げたりして試します。ほぼ良い周波数が決まったら増減の程度をもう一度調整します。この時、たくさんの周波数をかまいだすと、結果的に全ての帯域が上がってしまっている羽目になりかねません。これは意味のないことだし、音が濁ってしまいます。1つか2つのポイントを調整するくらいが良いでしょう。
 また、低域が足りないとか、高域が足りないとかで、足りない部分を増加させることが多いかもしれませんが、意外と逆もあって、足りない帯域とは逆の帯域を減少させることで解決することもあることを覚えておいてください。例えば、高域がうるさいために、低域が足りなく感じる場合もあります。この場合、高域を下げます。プラス方向ばかりで調整すると、全体のレベルが上がり、場合によっては、オーバーレベルになることもあります。



 ◆リバーブ(ディレイ)

  「エコー」という言い方をすると皆さんはカラオケをすぐに思い起こされる事でしょう。「もっとエコーを利かせて!」などとおっしゃる。さらに「上手に聞こえるように!」などと。それが正しいかどうかは別として、あの「ワ〜ん」というやつをエコーと思っている方がたくさんいらっしゃいます。実は録音業界では、この場合「エコー」という言い方はしません。 「リバーブ」と言います。 「エコー」は山彦の事だと思ってください。「ヤッホーヤッホー、ヤッホー、ヤッホー・・・という風に、繰り返すのがエコーです。この「エコー」が実は「ディレイ」です。 ただ「ディレイ」と言った場合は、単純な遅延装置になります。即ち元の音を遅らせるだけです。これを何回か繰り返し、だんだん小さくしたものが「エコー」になります。そして繰り返しの間隔を非常に短くするとリバーブということになります。
 
ホールにおけるリバーブの概念を図に表すと以下のようになります。

まず、元になる音が出ると、まず、直接音が聞こえ、壁に反射した音が数ミリ秒〜数十ミリ秒遅れて聞こえます。これが初期反射音といわれるものです。そしてまた暫く遅れてあちこちに反射して遅れた音がたくさん聞こえます。実際には図にあるように1つ1つの音が分離して聞こえるわけではありません。ホールで手を「パン」と1回叩くと、「パー」と聞こえます。しかし、初期反射音や残響が聞こえるまでの時間を変えることでホールの大きさの違いを表現できます。長めにすると大きいホール、短めにすると小ホール、もっと短くすると普通の部屋。また、残響音部分がだんだん減衰して聞こえなくなるまでの時間を変えることでデッドな(響かない)ホールやライブな(響く)ホールを表現できます。
 歴史的にみると、初期のリバーブマシンはスプリングを使ったものでした。スプリングを弾くとビヨーンという音がしますが、これを利用して響きを作っていました。その後、鉄板を利用したものが作られるようになりました。銅鑼(どら)の音を聞かれたこともあると思いますが、ドワーンという音から想像がつくと思います。その後テープ式のものなどができ、現在はほとんどデジタルリバーブです。
 音楽ホールなどでは、ホールトーンといってホール自体の響きがあります。ステージで発せられた直接音も聞こえますが、その他に、壁や天井で反射した音も聞こえます。壁や天井の材質、形、容積などいろいろな要素によって様々な響きがします。録音をするときに適当な割合でこの響きが入っていればよいのですが、いろいろな制約により残響が足りない場合もあります。こんなときにリバーブを加えて編集をするといい感じになってきます。しかし、かけすぎは嫌味になりますのでバランス感覚が必要です。失礼な表現をすれば、「厚化粧」または「化粧ののりが悪い」ということでしょうか。お化粧をしているかどうかわからないけどきれいだ、というのがいいのでは?。さらに、お化粧していないのにきれいだ、がいちばんいいと思いますよ。
リバーブの掛け方

 リバーブでいちばん大切な要素はその長さです。ホールの場合大体2.5秒前後です。もちろんホールによって異なります。部屋をシュミレートする場合は、1秒前後になります。

 初期反射音やリバーブが始まる時間(単位はミリ秒と非常に小さい値です)はホールの大きさを表現できます。大きいホールほど長くなります。

 リバーブ成分にもイコライザーがかけられます。これによってコンクリート壁の反射音か木造壁との反射音の違いが表現できます。やわらかい壁ほど高域が早く減衰します。

 最後に、このリバーブ成分をどの程度mixするかという問題があります。聞きながら調整がしますが、かけすぎないことが重要です。かけすぎると、品のない厚化粧のようになります。あくまでも自然な感じで!
PCのリバーブ プラグインの例
あまり大きな声でいえませんが、しっかりとした演奏には、多少多めにリバーブをかけてもそれらしく聞こえますが、あまり上手くない演奏(音程が合わない、リズムがバラバラ、豊かさのない音など)の場合はリバーブをかけると、とってつけた様な、なんとも言い難い音になるのです。皆さんも、カラオケでそんな場面はよく、いや時々あると思います。(失礼)
 何でもかんでもリバーブさえかければ、上手く聞こえるというものではないのです。適切なエフェクトを適量混ぜる事によってのみ、その効果が出せるのです。適切とか、適量とかいいかげんな言い方ですが、音楽のジャンルなどによってもかけ方が違ってきます。
 例えばパイプオルガンなどは多少長めのリバーブをかけたりします。なぜなら元々パイプオルガンは残響の長い教会で演奏されるので、必然的に多少長くなります。クラシック系も長めですね。ジャズ系は曲によってずいぶん違います。バラード系のようにゆったり泣かせるような曲は多めまたは長めだろうし、テンポのいい曲は少しまたは短めにしかかけません。また、パートによっても、例えばベースなどには原則的にかけることはありません。 ベースの場合、ハーモニーの元になる音でリズムを刻む場合もありますので、掛け過ぎると歯切れの悪い、しまりのないリズムになります。その音楽がどんな場所で演奏され、どんな役目かをを考えたときに、その答えはほぼ出てきます。
 なお、最近はクラシックや合唱、邦楽系以外のPOPS系やジャズ系では、ほとんどPAを使用して演奏します。この時点で、全てではないにしろ、いろいろなエフェクトが(リバーブだけではありません。)かけてあることを知っておいてください。有名な歌手であってもです。「何だごまかしじゃないか。」と言わないで下さい。演奏とPAとを含めたものが演奏なんです。
 そして、再生装置でずいぶん感じが違ってくるということも頭の中に入れておいたほうがよいでしょう。まともな(?)ステレオ装置で聞く場合は、結構残響成分も聞こえてきますが、小型のラジカセなんかだと微小な音はあまり聞こえてこないので、少し多めに。ただ実際は録音したものが他人の手に渡ったときに、これはラジカセで聞きなさいとか、100万以上のステレオ装置で聴いてとか、いえませんので、音を作るときの自分のモニタースピーカーを過信しない事が必要です。モニタースピーカーの難しさについては、別項で述べています。参考にしてください。
 最初に書くべきことかもしれませんが、クラシック系の場合、出来るだけリバーブマシンなどは使わずに、マイクの位置調整で、直接音とホールトーンのバランスの良いところを探すことが大切です。ちょっと大変ではありますが、その方がナチュラルですっきりした録音になります。 一流の録音エンジニアがオーケストラなどを録音する場合、どこのホールで録るかということにこだわりを持っているはずです。即ちホール自体の持っている響きにこだわるということです。

 ◆コンプレッサー(リミッター)


リミッターはコンプレッサーである特殊な設定をした場合で、装置やソフトはひとつで両方の役目をします。
まず、その仕組みについて、下図で説明します。(グラフを見ると頭が痛いな〜・・・)
まあ、そう言わないで、左がコンプレッサーの動作をグラフにしたもので、右はリミッターです。似ています。
図のX軸(下の赤字部分)が入力される音の大きさで、右に行くほど大きな音です。 また、Y軸(左の黒字部分)はコンプレッサーから出力される音の大きさです。
コンプレッサーの動作 リミッターの動作
ここでは、-12dBより大きな音は1/2に圧縮(コンプレス)する設定です。
 青いグラフののように、-12dB以上は半分に圧縮されたものが出力されます。ただそれだけでは、-12dB以上の音が小さくなるだけですので、通常小さくなった分だけ全体に大きくします。下の設定では最大6dB上げられますが、必ず6dBでなくても、かまいません。バランスをみてします。
ここでは、-12dB以上の音はそれ以上大きくしない設定です。
 青いグラフのように-12dBを超えた音は全て-12dBになってしまいます。コンプレッサー同様、そのままでは小さくなっただけですので、全体に大きくします。-12dB以上の音はありませんので、最大12dB大きくできます。
 
誤解のないように申し上げますが、上記の例で、録音された音の最大が-12dBより小さい場合は、圧縮はありません。リミッターでも同じことです。

では、コンプレッサー及びリミッターの設定項目を挙げておきましょう。
@ スレッショルドレベル このレベルから効果(=圧縮)をかけますという値です。上の例では両方とも-12dBです。
A レシオ スレッショルドレベル以上の音をどの程度圧縮するかという比率です。 2:1とか4:1とかで表します。2:1以下だと「少し」ということでしょうか。ボーカルには4:1あたりの値を使います。
この値が ∞:1になるとリミッターです。
B アタックタイム  これが次のリリースタイム同様、厄介な値です。スレッショルドレベルを超えてからどの程度の時間がたってから効果がかかるかという値です。「時間」というと何秒かという印象を受けますが、数ミリ秒から数百ミリ秒というごく短い時間です。長い値だと、アクセントがついたように、瞬間大きな音がしてから圧縮されますので、ちょっと変わった効果になります。
C リリースタイム  これは、アタックタイムの逆で、スレッショルドレベル以下になってどれだけ時間がたつと元に戻るかという、お尻の部分の時間設定です。アタックタイムより長めを設定します。100ミリ秒から数百ミリ秒でしょうか。
 アタックタイムもリリースタイムも間違えれば変な感じになります。(面白い効果になることもあります)

スレッショルドレベルをかなり低く-36dB、レシオを1.5:1とかに比率を下げた場合と、スレッショルドレベルを高めに-18dB、レシオを4:1にあげた場合、最大レベルはほぼ同じになります。しかし中間の圧縮度合いの違いが出てきます。このあたりは、音源の内容や目的によって、耳で聞いて調整します。

クラシック系はコンプレッサーなどかけないほうが良いと思いますが、テレビの音声即ちDVDなどの場合、テレビのスピーカー自体がラジカセの隣みたいな音(わかります?)なので、少しかけます。また、ポップス系のCDをよく聴いていらっしゃる方は、クラシックのCDを聞かれると音が小さいとおっしゃいます。特にカーステレオなどで聞かれると車のエンジン音などで、ピアニシモなんかほとんど聞こえません。どうしたものかなあ・・・1000万くらいする高級車に乗ってくれ〜。静かだよ。

エフェクター類になじみのない方には、このページは難しかったかもしれませんね。
また、それぞれの設定の仕方など奥が深いのも事実です。


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