5.マイキング(マイクの設置)について


マイクの設置(1)  【オーケストラ・吹奏楽の場合】
   
 
オーケストラ系 の場合、いくつかの基本パターンがありますが、その中でよく行われる方法かつ無難な方法を述べます。
 メインマイクを、指揮者後方3m〜5mくらいの位置に、高さ3〜4mにします。ステレオアームに取り付けて左右の開きはとりあえず90°にします。マイクの間隔は左右のマイクの先端が30cmになるように。オーケストラの前後の真中あたりを狙うようやや下に向けます。いずれにしても開き角度、高さ、上下の向きなどははモニターをして自分の耳で確認をする事。

    

 
チェック項目
1.楽器のバランス
 特に前後の楽器のバランスに注意してください。高さを変えると後方の楽器と前列の楽器のバランスが変わってきます。マイクの高さを低くすれば前列の(特にセンター付近の)楽器が大きくかつクリアになります。
2.直接音と残響のバランス
 また、オーケストラから離れれば離れるほど、直接音が少なく残響が多くなり
、スピーカーで聞いたときに遠くで演奏しているような感じになります。その場合、多少上手に聞こえるかも知れませんが、それと引き換えに、冷えてないビールのような(?)音になります。
3.左右の定位と広がり
 右の楽器は右、左は左だけでなく、真ん中の楽器は真ん中から。さらにその中間に位置する楽器はそれぞれの位置にピーカーの間に定位しているかどうか。  2本のマイクの角度を広げすぎると「中抜け」といってセンターの楽器が小さくなります。また、狭すぎると広がりがなくなり、モノラルに近くなります。また、ホールの壁やステージの反響版の関係で、とんでもない方向から音が聞こえることもありますのでご注意。

下にステレオイメージを図に表してみました。「実際の楽器配置」は均等に並んでいても、録音の仕方によっては他の3通りの図のようになっていないかスピーカーでモニターして確認してみましょう。


4.豊かな音がどうか
 残響が少ないと寂しく音が痩せたように感じます。2、3とも関連しますが、広がりがないのも寂く感じます。

どのようなマイクを使うかについての補足
 一般の人が録音するには上記の方法で単一指向性マイクを使用したほうが無難かと思います。商業録音でもマイクのタイプに多少流行があるようで、一昔前までは前述の「MSマイク」をよく使っていましたが、最近は無指向性マイクを使う事が多くなりました。「N響アワー」や「題名のない音楽会」などクラシック系番組のメインマイクは、現在ほとんど無指向性マイクです。無指向性マイクを使う理由はその伸びやかな低域と、ホールの響きもよく録れるからです。クラシック系の場合、ホールの響きも含めて楽器と考えます。(演奏会の聴衆はホールの響きも一緒に聞いています。)しかしマイクの前後位置や間隔、高さなど微妙な部分もあり、セッティングが難しいのである程度の経験が必要です。

 また、両端の楽器がボケて遠く感じるようでしたら上図のように両サイドに補助マイクを立てます。これは左右の広がり感を得る事にも有効です。高さや前後の位置はメインと出来るだけ同じにします。当然ミキサーがないと入力できません。マイクの位置はメインマイクからオーケストラの幅の1/3離れたところを基準に。ミキシングする量も少なめです。
 さらに、拍手や会場の響きを録りたい場合には、上記補助マイクの後方10m位のところにもう2本マイクを立てることもあります。ここには無指向性のマイクを使うのも手でしょう。
 その他、楽器ごとに補助マイクを使用することもありますが、これは一般にはお奨めではありません。なぜなら、マイクが増えれば増えるほどその調整技術に高度なものが求められますし、下手をすると音が濁ってしまいます。なんと言ってもそのセッティングが大変だし、マイクやケーブルの購入費も大変なものになります。 放送局などは、上記無指向性マイクに補助マイクを楽器群ごとに10〜20本くらい立てています。1本20万円のマイクとするとマイクだけで200万〜400万!!!

補助マイクについて
 マイクの本数が多くなればなるほど、音が少しずつ濁ってきまます。できればメインマイクだけで録りたいのですが、セッティングに試行錯誤しなければなりません。録音のための演奏ならば、時間もかけられますが、演奏会などでは、リハーサル時に、録音のための時間をさいてもらうことは、ほとんど不可能です。したがって補助マイクを使わざるを得ないということになります。
 販売されているクラシックのCDにも、メインマイク2本だけで録った優れた録音もあります。音がきれいです。
拍手が少ない?
 演奏会を録音してもらったけれど、「こんなに寂しい拍手ではなかったのに」、「もう少し盛り上がっていたのに・・」と、よくおっしゃいます。原因はおそらく、指向性マイクを使い、マイクの開きも少なめ、距離も近めだっためと思われます。指向性マイクは、前方すなわちステージの音はよく拾いますが、後方すなわち拍手や響きは少なめになります。改善方法は2つ。無指向性マイクで録音するか、拍手及び響き用の補助マイクを使うかです。NHKの「のどじまん」では、よく客席の中にマイクが立っています。これで拍手やお客さんの反応(笑いなど)を録っています。
 バンド系、ジャズ系の場合、必ずPA(音響屋さん)か入ります。そのミキサーから分けてもらった録音では、拍手やお客さんの反応は、ほとんど入りません。

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マイクの設置(2)  【合唱の場合】
合唱についてもオーケストラ系とほぼ同じことが言えますが、合唱の場合、オーケストラと違うことが2つあります。1つは「歌詞」(言葉)があること、もうひとつはピアノ伴奏で歌うことが多い、ということです。アカペラもありますが。
歌の場合、 「歌詞」即ち言葉を明瞭にしなければなりません。マイクが遠過ぎると雰囲気が出て少し上手く聞こえたりしますが、言葉がボケます。
  伴奏のピアノの扱いも難しいところです。メインマイクだけで録音してみてバランスがよければよいのですが、ピアノの位置により、補助マイクを立てなければならない事も有ります。ピアノがセンターに来た場合は、逆にピアノが大きすぎる場合もあります。これはメインマイクの位置を変えるか、合唱に補助マイクを立てるかのどちらかです。合唱自体の声量が小さい事もありますので。 プロは、メインマイクのほかに、はじめから合唱用2〜4本、ピアノ用2本の補助マイクを使うことが多いようです。
    

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全体的な注意

1.マイクと音源のの距離

 基本的にマイクと音源の距離が近めだと、クリアに(生々しく)、かつ大きく録れます。例えば、メインマイクが、前列の楽器に近づくと、マイクにごく近い楽器(声)と、遠い楽器(声)の距離感がはっきりしてきます。下手をすると、マイクに近い楽器(声)ばかり異常に生々しく目立ってしまいます。オーケストラや合唱は、POPS系と違い、指揮者によりすでにバランスを取った状態で演奏されます。これを損ねた録音の仕方は本末転倒です。POPS、ジャズなどはPAエンジニアの力量によるところ大です。
2.補助マイクの考え方
 メインマイクでしっかりバランスをとり、どうしても上手くいかない場合に補助マイクを使用するのが良いと思います。といっても、演奏会の場合、本番が始まってからはマイクの追加など出来ませんから、リハーサル時に準備はしておく必要があります。 プロの場合も、十分なリハーサルが出来ない場合、マイクセットだけは多めにして、MTRに別々に一応録音しておきます。が、結局使わなかったり、使ったとしてもほんのの少しだけだったりします。補助マイクの大きさは「音の芯」を捕らえる程度にしておいたほうがよいかと思います。
 ソロ楽器に(主として音量の小さい木管楽器や弦楽器に)のみ補助マイクを立てて、ソロを目立たせるというのもありです。ただ、個別楽器用補助マイクの場合、狙った楽器ばかり録れるとは限りません。必ず「かぶり」といって近くの楽器の音も、少なからず録れてしまいまます。ここがこの手のマイクの難しいところです。マイクの位置、方向、ミキシングバランスなどテクニックがいります。
3.気づかい
 演奏者が気持ちよく演奏できるように気を使う事も忘れてはいけません。録音となると演奏者は緊張もします。ここで録音者が、よい録音をしようという気持ちが先に立ってしまい、自分の主張だけを通そうとすると(演奏しにくい場所にマイクを立てたり、細切れにNGをだし過ぎたり)、演奏者の気分を壊してしまう事もあります。よい録音は演奏者と録音エンジニアとの共同作業でのみできる事なのです。


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主なステレオマイキング方式

このページの冒頭では下記の「NOS方式」を推奨していますが、マイクの角度や距離には、言ってみればその組み合わせは無限のやり方があります。しかし、世界の放送局などの研究で、以下の通りいくつかの代表的な設置方法があります。音が良いといわれるCDなどでは、必ずしもこの通りでなく、マイクの開き角度や距離はアレンジされることもよくあるようです。皆さんも、お持ちのマイクでできるのであれば、これらを試してみられてはいかがでしょう。

  いずれにしても、高さは3〜4mが良いでしょう。 問題はオーケストラからの距離です。というより、マイク位置からオーケストラがどの程度の広がりを持っているかということです。距離が近ければ、オーケストラの広がりは広く、遠ければ狭くなります。

方 式 方式図 特   徴
AB方式
(無指向性)
2本の無指向性マイクを、30〜60cmの間隔で平行に配置。特徴は音の素直さと低域の伸びのよさ。無指向なのでホールトーンもよく録れる。マイクとマイクのの間隔と音源からの距離に経験が必要。下の3種類の方式より楽団から近めのセッティングになる。
 マイクの間隔は、音源から遠くなるほど広くなります。
ORTF方式
(指向性)
フランス放送協会の開発。2本の単一指向性マイクを17cmのカプセル間隔とし、開き角度は110°。人間の鼓膜位置の間隔から決められたのではないかといわれています。ただ設置上の問題があり、間隔が17cmと短いため、マイクが長いとコード部分またはマイク本体があたってしまう。そのため、はじめから専用に作られたものもある。
shoeps MSTC64U
NOS方式
(指向性)
普通にやりやすい方式。オランダ放送協会の開発。この方式は 30cmのカプセル間隔で90°の開き角度とする方式。角度歪みが少ない方式と言われる。角度が90°とセッティングもしやすい。
XY方式
(指向性)
カプセルは同一軸上、つまり距離0cmなので上下に重ねて置かねばなりません。図で言えば、右側のマイクが左の音を録り、左マイクが右の音を録るので、配線を間違えないよう気をつける必要がある。オーケストラ収録などより単体楽器収録に向いていて、近接で使うことが多い。メモリーレコーダーでもこの方式を採用したものもあるが、デザイン的に重ねられないことが多く、実際は2-3cmの距離がある。
その他の方式
(無指向性)
デッカ ツリー方式 長めのステレオバーの両端にLR2本のマイクと、センターに突き出したアームに1本マイクを追加して3本で収録する。
フィリップス方式 2-3mの長いアームの両端に無指向性マイク2本と、センターに左右に広げた2本のマイクの計4本でひとつのシステム。
テレビでは、AB、デッカツリー、フィリップスの各方式がよく見受けられるが、地方のホールでは吊りマイク装置の回線が2chしかないところが多く、3本以上のマイクは、特別な配線をしなければ、吊ることができません。


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