棋力開発…本筋の打ち方   実技編

 10 地になるのは最後の最後
   A 変化するのが碁
「上手ジョウズは変わる」という格言があります。
碁の本質を現わす言葉です。碁が面白い最大の要素かも知れません。
地だと思っていたところが、逆に相手側の地になったり、厚みの筈の石が攻められたり、頭を柔らかくしておかないと碁の変化についていけません。相手の予想外の着手で勝利する。これが碁の醍醐味です。

黒のコゲイマジマリはシマリの中では一番隅の地を確実なものにしています。でも、確定地ではないのです。

<右上>
簡単な例としては、コウ争いが発生した時は、白1、3となる可能性があり、こうなれば白の地と考えた方が良いことになります。

<右下>
白5に対して、外勢を重視し、黒6と打てば、白9までで右下は白地です。
注.この死活にリンクしています。

<左下>
白11に対して、黒12から黒がやはり、外勢を重視すれば、白19までの形も実現します。

<左上>
白が右から、下から迫っている場合は、白21と打たれた場合に無理に取りに行けば、白31と切断されて、黒の方が危険な状態になります。

打ち込んで生きることが出来るのに白が打ち込まないのは、それより大きい手があるからです。
白1に対して、黒2と守りました。
この段階でも、右辺を確定地と考えるのは間違っています。
白3から白15までの生き、或は白17から白27まで白が無理やり生きようとすると生きがありますが、これらの図は必ずしも白有利ではありません。つまり、左上や、右下には、もし、打ち込まなかったら出来たであろう、白の地模様が無くなっているからです。
 10 地になるのは最後の最後
   B 利きとコウに注意
碁が最も変化する原因は
1.コウ争い
2.利かしに対する受けの変化
  です。

<右上>
黒1、3と打った時白4と利かせば生きになります。 しかし、白4を利かすと、白T13は利かないことになるので右辺の白の生きが難しくなります。また、黒7と先着すれば右上はセキになり、白地0目です。

<右下>
黒13、15と打てば白16黒17の交換をした場合、黒19、21でコウになります。

<左下>
黒23、25で白が26、28と打てば白後手ですが、安泰です。
但し、この場合でも、黒25が下辺の戦いに有効な利きになることも考えられます。

<左上>
一寸複雑ですが、
1.左上の黒は白に包囲されて、1眼しかありません。
2.左上の白は生きています。但し、利きはあるかも知れない。
3.黒が生きる為には、左上の白を殺すか、右上の黒と連絡する必要がある。
という状況です。
黒29が左上の白に対して利きがあり、黒J19と打つことが出来て、右上の黒と連絡することになります。
もし、この連絡を拒否し白30と打つと、黒31から黒35で白死となります。
死活は リンク先の左下の問題とほぼ同じ


 11 第二線は敗線、必要なだけ
   A オサエが利かないところまで
第二線を打った場合、1手につき1目しか地は増えません。
地を囲うという観点だけから見ると「敗線」と言われるほど効率の悪い手です
第二線 「敗線」
第三戦 「普通線」
第四線 「勝線」  といわれています。
第二線を打つということは、相手に第三線を打たれたことになり、相手の中央への影響力と自石の地の増加は全く釣り合いが取れません。
碁の速い時期では、死活に関する場合に限って、2線を打つことが許されると考えます。それ以外では手抜きです。

<右上>
白7は必要な手です。白9のハネツギを打った後でも構いませんが、白7の地点は、黒から打たれると白5の石を取られないよいにする為の白Q18が必須となってしまう(つまり、先手で黒7が打てる)ので、打っておく必要があります。

<右下>
黒14は先手にはなりません。白手抜きが可能です。

<左下>
白17に対しては、黒J4の働きで、黒は受ける必要はありません。

<左上>
黒30に対して、白の受けは必要か?
黒32の取りに対して、白33、35で白生きなので、黒32の先手のキリトリは大きいですが、手抜きが正しい応手です。

 11 第二線は敗線、必要なだけ
   B 第3線でも余計にハワ(這わ)ない
普通線と呼ばれる第三線ですが、1手に2目ずつしか地が増えないので、ハウのは必要最小限にしたいものです。

<右上>
沢山ハッた結果、上辺の白地と右辺の黒の模様の比較は、黒有利な分れです。

<左下>
白14とトンダことにより、下辺の白の地も、黒の模様と釣り合いが取れそうです。
<右上>
黒が手抜きした時に白の良い形は白1のナラビです。この形で、白から尚打つ場合には、白O14やP14等の急所が狙えます。

<左下>
場合による手段として、白5と打つのも白の工夫です。白6と打たれると、黒も辛いので、黒6と受けますが、白7と打つことが出来ます。 黒8に対しては、白9、11で大きくいじめられることはありません。
尚、白5で白8とトブのは、黒が7方面からハサムことになり、白1子が攻められることになります。


 12 背比べに勝とう
   A 接触形は頭が急所
石が並列接触している場合は、先に相手の頭を押さえた方が大変有利になります。
2子ずつの時は格言に「 2目の頭は見ずにハネよ」があります。

<右上>
黒1とハネれば、白は隅で小さく生きることになります。

<右下>
白が先に白6とハネれば白の地は大きいものになります。

<左下>
場合によっては、黒13によって、隅の地を取ることが出来ます。
この場合、白14や、白16でD2に守ることも可能ですが、その場合白は、より小さく隅で生きることになります。

<左上>
白24、26と左辺を広げる打ち方も可能です。

<右辺>
黒の模様を浅く消す手段として、白1のカタツキがあります。 黒2、4と押すのは車の後押しという形で、黒がなかなか手抜きが出来ない状況です。 一歩前に出ようと黒6とケイマしても、白7とトブと白の先行が続きます。 また、白7で、R11と打って右上に根拠を持つということも考えられます。

<左辺>
白11に対して、二線ではあるけれど、黒12と打つのが常形です。この手により、左下の黒との連絡を可能にし、白に根拠を持たせない ことが出来ました。
 12 背比べに勝とう
   B 先行と封鎖
石数が増えてきた段階では、色々な状況があり、相手の石より先行すれば良いとばかりは言えないケースも出来たり、将来の封鎖が約束されている形なら、それを目指すこともあります。

<右上>
黒1、3は車の後押しで、白に4線(勝線)をハワれて、白有利です。

<右下>
黒5が両ゲイマの急所で、良い手です。 白6を手抜きしたら黒6が良い手となります。

<左下>
しかしながら、白から打つ場合は、白8が最善とは言えません。 黒9の急所が残るからです。

<左上>
白10と厚くマガルのが良い手です。
<右上>
黒K18がある場合は黒1、3、5が良い手です。 (白4は手抜きが正しい)

<右下>
黒石が待ってない場合は黒9以下は悪い手になります。

<左下>
待っている黒石が一路遠い場合は、こんな形があります。

<左上>
左下の様に封鎖されるのがいやな場合、白22と変化して、戦うことも考えられます。


 13 サカレ形は共倒れ
   A 気が付かないサカレ形
「サカレ形」は兄弟喧嘩の原因となります。
右の石を大事にしようとすると左の石が弱くなり、左の石を大事にしようとすると右の石が弱くなります。
兄の言い分を聞くと弟が困り、弟の言い分を聞くと兄が困ることになります。これでは兄弟が喧嘩になります。かと言って、両方の言い分を聞くと両方が悪くなります。
「サカレ形」は気がつかないで打っていることもあります。
「サカレ形」は結局石の働きを悪くするという結果になります。「サカレ形」は避けなければなりません。

<右上>
一間高バサミの定石形です。白5によって、黒6を強制し、黒2と黒6の石をサカレ形にしています。この形はサカレ形に準ずる形なので、ここまでは黒の手に悪手はありません。

<右下>
黒8と打って、白9と封鎖されるのは黒が辛い形です。

<左下>
そこで、封鎖を嫌って、黒10と出て、黒12と隅を守りました。
ここで、黒10の手が白11と打たれて、サカレ形を作り、G4の石を廃石にする大悪手です。
黒14と打っても、後に白15の味があり黒苦しい形です。

<左上>
黒16と白が打つであろう白17の石より、少しでも遠い地点に打つのが良い手で、黒18となり、これが定石形です。

置碁におけるサカレ形を紹介します。

<右辺>
黒1と打って白2となった状態はサカレ形だと言っても良いほどの悪形です。 ここでは「実技編8モタレの攻め、カラミの攻め」で示した様な打ち方がベストです。

<左辺>
黒5のツケも同様です。 この手は、格言「 裂かれ形は避けよ」の項で紹介した、秀哉名人が高川格少年(後に連続9期本因坊タイトル保持)に野生の俗筋と評した手です。 こんな偉大な打ち手でも、(当然ですが)若い頃は我々と同じ様な手を打つこともあるということです。
 13 サカレ形は共倒れ
   B 比較の問題
サカレ形は、「部分的なサカレ形」(左図)を考える場合が多いでしょうが、「全局的なサカレ形」(下図)というのもあります。
また、「はっきりと分かるサカレ形」、「気のつきにくいサカレ形 」もあります。
サカレ形は出来るだけ作らないことが良いのですが、相手にもっと悪手を打たせれば、サカレ形を容認することも考えられます。つまり、相手の石との比較の問題ということになります。

<右上>
星の定石です。白7の時、黒8と打つのが肝心です。白9と右上隅を白後手で、白地にします。
参考.後に白11とノビ、白13とアテを利かせて、放置します。白5、13の石は利かした石なので黒が取りにくれば、取らせます。

<右下>
白のハメ手
白15とツケて黒16を待って、白17とハネます。ここで、黒18と切れば以下黒のハマリの図になります。 (右上の黒8でR17に打てばこの形になります) この26までの形は、はっきりしたサカレ形です。

<左下>
白G4のハネに対しては、黒28とノビ、白29に黒30と打ち、黒有利な分れです。 この形は白H3の石が廃石となっていますが、白C4、D6の石が働きの無い形だからです。つまり、サカレ形になったが、白の損害も大きいので、サカレ形を敢えて選択したのです。

<左上>
この形は、後に、黒32と白3子を攻める狙いがあります。 注.当然ながら黒32をD12と打てば、白E13となり、黒のサカレ形が出来ます。だから、黒32のコスミであり、場合によっては、C10の一間トビです。
全局的なサカレ形です。

<右辺>
九子局で白1、3は白の常套手段です。
ここで、黒4は白1と白3をサカレ形にして、良い手です。
白5の両ガカリに対して黒6、白3、5をサカレ形にしています。

<左辺>
黒10と受けると、白11のボウシが白のサカレ形を緩和した手です。 黒12と白7、11をサカレ形にすることを目指します。
以下の変化は置碁作戦のホウシ対策/カタツキを参照下さい。

前図より漠然としたサカレ形の例です。

<右辺>
白1、3に対して黒4は白1、3をサカレ形にしようとしたものです。 白5と打ってくれば、黒6と白3、5をサカレ形にする。

<左辺>
白11と打てれば、サカレ形を避け、白好形です。


 14 空き三角、陣笠は愚形
   A 不十分な働きの愚形
「愚形」というのは、石数に比してダメの少ない形、石の働きが不十分な形を言います。代表例は「空き(アキ)三角」や「陣笠」です。

<右上>
空き三角の例。
白1に対して、定石はR16ですが、黒2と受けると「空き三角」が出来ます。黒2、黒Q14、黒P14の3子で作った形が「空き三角」。P15の地点に白石があれば、その白石のダメを詰めているので良い形ですが、空いていると愚形です。黒P14の石が一人前の働きをしていないからです。

<右下>
手順を変えて考えるとよく分かると思います。白3に対しては、N5のハネ、Q3のマガリ等が良い手で、黒4は働きの悪い手です。

<左下>
星のツケノビ定石、黒は空き三角が出来ていますが、定石形で、愚形とはいえない形です。

<左上>
白17と左辺を打つと、黒18のアテにより、白は陣笠の愚形が出来ます。「陣笠」とは白F17、G16、白19、白G18の形でF16、18のいずれか、または両方に黒石がない形を言います。
「陣笠」の本来の意味は戦国時代に足軽が兜の代わりに被っていた帽子のことです。雨には有効ですが、刀や槍には抵抗力がありませんので、悪い形の見本として、石の形が陣笠の形に似ていることから命名されました。
<上辺>
白1と黒の急所を攻めて、黒に愚形を強いました。
白5とキリを防いで、白石を強化することにより、左上に白地が出来る可能性が出来ました。

<下辺>
また、白11から白17までで白を強化して、白19を可能にし、右下に白地が出来る可能性を増やす手段もあります。
黒が右下を地にさせまいと、右下に打ち込めば、黒の5子は生きることが出来なくなります。
 14 空き三角、陣笠は愚形
   B 愚形の攻防
愚形が悪いなら、自石では、それを回避しようとするし、相手の石は愚形にしようと、いろいろな駆け引きが行われます。
ただし、愚形にするのは、それ自体が目的ではなく、局面を有利にする為の手段ですから、愚形でも局面が有利になれば、愚形の定石も有り得ます。

<右上>
白1に対して、ツケオサエ定石です。白5のアテを打たれ、黒とツイダのが「陣笠」です。この形は、黒8を打つことにより、陣笠ではあるけれど、良い形ということで、定石です。

<右下>
愚形の理由
白9に対して、黒10とは打たず、黒P5と打つのが良い手です。それを黒10と打ったのことになっているので、愚形なのです。

<左下>
黒12と打つとどうなるか、検討してみましょう。
白13が急所です。黒14と打てば以降白19まで、白は生きて、黒の愚形だけが残ります。

<左上>
黒20に対しては、白21です。黒22に対しては、白23以降、石塔の手筋で黒大悪です。
黒22ではF16と断点を補強すれば、白は左上で小さく生きることになります。
従って、白13のツケは時期を見て着手する必要がありますが、ここに生きが残っているのは、黒に取って大きな負担です。 だから、黒6が必須なのです。