第一段

 小鍼(しょうしん)(よう)()(やす)くして入り(がた)し。?()は形を守り、(じょう)(しん)を守る。神なるかな神。客門(きゃくもん)()り、(いま)だ其の(やまい)()ざれば(いずく)んぞ其の原を知らん。

 小鍼の要点(学理)は述べるのは容易であるが、これを臨床に使いこなすのはなかなか困難である。未熟な者は形に囚われて、治療の真髄を知らないが、名人ともなると、刺入した鍼先に絡みつく気の動きを確実に捉え、適切な補寫を施す事ができる。真の極意と言うのは正気の盛衰、もしくは邪気の有余といったものをよく知ることである。
 邪気は経穴すなわち正気の出入りする所に出て来るもので、正気が衰え、病気や体の違和を生ずると「つぼ」として反応が現れる。しかし種々な邪気が経穴より侵入しても病となって現れない時は、それが如何なる邪気によって冒されたのかを察するのは困難である。

刺の()、速遅に()り、()は関を守り、上は()を守る。機の(どう)は其の(くう)を離れず、空中の機は清静にして微なり。其の(きた)るは()()からず。其の()くは追う()からず。機の道を知る者は(はつ)を以って()くる()からず。機の道を知らざれば之を(たた)けども発せず。其の往來を知りて、(よう)、之と期す。()(くら)いかな。 

 さて、刺鍼技術の徴抄さはその鍼の手さばき、即ち、いつ抜くか、留めるかにつぎ、通当なチャンスを得ることである。即ち、下工はその経穴点にのみとらわれているが、上工ともなれば抜ぎ刺しのチャンスを正しくとらえている。
 しかして、そのチャンスは経穴点を遠く離れるものではないが、患者によって異なるので、鋭い触覚によって今生ぎて働いている穴を、的確にとらえなければならない。その所見は頗る至極至妙である。 従って、既に気が至っているのに、それ以上補ってはならないし、また既に邪が除かれたのに、それ以上瀉してはならない。従って、この理を知る者ば刺鍼技術において、髪の毛一筋をもゆるがせにしない。しかし、この理を知らない者は、ドアをノックしても応答がないように、極めてうつろである。

(たえ)なるかな、工(ひと)(これ)有り。往く者は逆と()し、(きた)る者は順と()す。明らかに逆順を知るは正行して問うこと無し。迎えて(これ)を奪はば、(いずく)んぞ虚()きことを()ん。追うて之を(すく)はば、(いずく)んぞ実無きことを得ん。之を迎え之に(したが)い、意を以って之を和すれば鍼の道(おわ)んぬ。

 故に、この辺の道理を対る者ば、全く的確仁対処している。しかし、粗雑な治療家は中々そうはいかない。しかし、極めて少ないが上工はこの抄技に達しているのである。

 また逆順ということがあるが、往く者を逆となし、来る者は順となす。従って、この道理をよくわきまえている者ぽ、すべてを正しく行うので一言もいうことはない。これを具体的にいうと、気の流れに逆らって瀉法を加えれば、邪気はことごとく除かれるし、また気の動ぎに従って補法を行うならば、生気ば満ちて、健康体にすることがでぎる。故に、その逆順に従い、補瀉迎隨の意を充分に尽くすならば、鍼の道はすべて終わるのである。

(原文) 小鍼之要.易陳而難入.麤守形.上守神.神乎神.客在門.未覩其疾.惡知其原.刺之微.在速遲.麤守關.上守機.機之動.不離其空.空中之機.清靜而微.其來不可逢.其往不可追.知機之道者.不可掛以髮.不知機道.叩之不發.知其往來.要與之期.粗之闇乎.妙哉工獨有之.往者爲逆.來者爲順.明知逆順.正行無問.迎而奪之.惡得無虚.追而濟之.惡得無實.迎之隨之.以意和之.鍼道畢矣.