序 段

 黄帝()(はく)に問うて(のたまわ)く、()れ萬民を子とし、百姓(ひゃくせい)(よう)して其の租税(そぜい)(おさ)む。()れ其の(きゅう)せずして疾病(しっぺい)有るに属することを(かな)しむ。

 黄帝岐伯に問うて曰く、我は万民を子の如く慈しみ、庶民を養い、税を納めさせている。しかし、その政策が行き届かずに衣食住に不自由をきたし、病に苦しんでいる人ガ多い。我はこれを大いに悲しんでいる。

*黄帝とは伏羲、神農とともに三皇といわれる仮想の人物である。即ち、黄色は中国の土地の色であり、最も庶民的な帝王という意である。自然に順応する学問を医といい、黄帝がこれを主る。

 *岐伯は岐山の麓に住んでいた伯爵で、最も医学に通じており、六臣の先頭に立つ人物である。六臣とは岐伯、雷公、伯高、鬼臾区、少師、少兪をいう。

()れ毒薬を(こうむ)使()むること()く、?石(へんせき)を用うること無からんことを欲し、微鍼を()って其の經脉を通じ、其の気血を調(ととの)え、其の逆順出入(すいだい)()(えい)することを欲す。

 これを救うために、時に毒藥ともなるような薬を使うことなく、石針のような痛みを伴う治療を行わず、なるべく細い鍼でその経脉を通じ、その気血を調え、その流れの方向や出入りする経穴を活発にしたい。

後世に(つと)()くして、必ず明らかに之が法を()さしむ。終われども滅びず、久しけれども絶えず、用い易くして忘れ難く、之が(けい)()()し、其の章を(こと)にし、其の表裏を(わか)ち、之が終始を()さしむ。(おのおの)をして(かたち)()らしめば、()ず鍼經を立てん。(ねが)はくば其の(じょう)を聞かん。

 その医術を後世に伝え得るよう、学理として書き残そう。国が終わろうとも不滅で、時代を経ても絶える事のない、しかも用いやすく、忘れ難い医術として、筋道を立て、始めから終りまで、一章ごとの区切りや前後をハッキリさせよう。各章の形を整え、まずは鍼の経典を作ろう。どうかその正しいあり方を聞かせてくれ。

 岐伯答えて(いわ)く、臣()う、()して之を次ぐ。綱紀(こうき)有らば、一に始まり、九に終わらしむ。()う、其の道を言わん。

 岐伯が答えて、では私はよく調べて仰せの通り筋道を明確にし、一段に始まり九段に終わる要綱を作りましょう。その内容は道、即ち技術に重きを置いて申しましょう。

(原文) 黄帝問於岐伯曰.余子萬民.養百姓.而收其租税.余哀其不給.而屬有疾病.余欲勿使被毒藥.無用?石.欲以微鍼.通其經脉.調其血氣.營其逆順出入之會.令可傳於後世.必明爲之法.令終而不滅.久而不絶.易用難忘.爲之經紀.異其章.別其表裏.爲之終始.令各有形.先立鍼經.願聞其情.岐伯荅曰.臣請推而次之.令有綱紀.始於一.終於九焉.請言其道