藍閃石エクロジャイト glaucophane-eclogite (徳島県)
頂いた日:2009/08
採集地:徳島県
四国、徳島県で採集された藍閃石エクロジャイトという岩石です。
エクロジャイトは北海道には産しないので、手にしたい岩石の一つでした。幸運にも四国の方から譲っていただけました。大変感謝しております。m(__)m
以下に、藍閃石エクロジャイトについて書いてみました。自分なりに調べて書きましたが、とんちんかんなことを書いてしまっていた場合は、すいません。ご了承くださいませ。
四国には、三波川変成帯という広域変成帯が、四国の中央部を東西に横断しています。この変成帯は、典型的な海洋プレート沈み込み型(海洋プレートが大陸や島弧の外縁にある海溝から地下深くに沈みこんでいって出来た変成帯)といわれていて、低温高圧型の変成岩が分布しています。
徳島県にも三波川変成帯が通っています。ここには、低温高圧型変成岩の典型である、藍閃石片岩が分布しています。藍閃石片岩の岩体中に部分的にエクロジャイトがあり、それがこの「藍閃石エクロジャイト」という岩石です。
○ エクロジャイトとは
マグネシウム成分寄りのざくろ石(パイロープかアルマンディン)と輝石を主成分とし、斜長石を含まない岩石を言います。なぜ斜長石を含まないのかというと、エクロジャイトが生成される条件(温度と圧力)では、斜長石は安定できず、他の鉱物に変化してしまうからです。エクロジャイトは、変成岩の中で、最も高い圧力で生成される岩石です。
○ エクロジャイトの原料
変成岩には、必ずその元になった岩石があります。エクロジャイトの元岩は、主に海洋プレートだと言われています。海洋プレートが海溝より地下深くに沈み込んでいき、地殻最下部(日本列島だと約40km)よりも深い、非常に高圧な環境下で生成されたものだと言われています。
プレートの沈み込み境界で生成される変成岩の原料となるものは、主に3つあります。
1.海洋プレート自身:マフィック(色指数が高い岩石。玄武岩、斑レイ岩等)な岩石
2.海洋プレートの上の堆積物:チャート、石灰岩。
3.海溝の堆積物:泥岩、砂岩など
4.海溝の寄せ付けられた付加体が引きずりこまれたもの:1〜3が混ざっている
○ 藍閃石エクロジャイトが出来たところ
この藍閃石エクロジャイトは、圧力:20kbar(約2万気圧)、温度:600℃という条件下で生成されたと言われています。地下35km程度で圧力が12kbar程度なので、20kbarの圧力がかかるのは、比例計算だと地下58kmにもなります。生成温度からみると、海溝から沈み込んでいった先の温度は、地殻最下部(深さ40km程度)で400℃程度のようなので、この温度勾配で600℃に達するのは地下60kmにもなります。実際は単純ではないと思うので、だいたいこんなもんだとアバウトに書いています。
変成岩のうち、圧力の高い条件で生成されるものは、無水鉱物(結晶中に水を含まない鉱物、例えば、輝石、ざくろ石など)で構成されます。無水鉱物で構成される理由は、次第に地下深くに沈み込んでいく過程で脱水し、化学平衡を保って別の鉱物に再結晶するためと言われています。これが通常の変成作用の原理だと言われています。でも、藍閃石エクロジャイトの中多数存在する藍閃石は角閃石の仲間で、結晶中に水を持っています。高圧で出来たエクロジャイトの中に、エクロジャイトの生成条件に合わない鉱物が多数存在するのは、エクロジャイトが出来た後で後退変成作用を被ったからのようです。エクロジャイトを生成した高圧変成作用後、変成帯は地上に向かって上昇に転じたものの、地殻中部で上昇を一旦停止した時代があったといいます。その上昇停止時代に周囲の地殻から加水され、その温度・圧力状態下で安定な含水鉱物(角閃石など)に再結晶したようです。
藍閃石エクロジャイトは、三波川変成帯が後退変成作用を受けたことを意味するのであれば、一介の岩石好きには面白く思えます。
○ 藍閃石エクロジャイトのドラマ
藍閃石エクロジャイトが出来たのは、今からK-Ar法で8800万年前と言われています。白亜紀のこの頃、日本列島はまだなく、単にユーラシア大陸の外縁だった頃です。今は日本列島の外縁にプレートが沈み込んでいますが、その頃は、大陸の下にプレートが沈み込んでいました。8800万年前に出来たのであれば、藍閃石エクロジャイトの原料となった海洋プレートは、それより遥か昔、恐らく太平洋上の海嶺で地下からマグマが噴出して生まれた玄武岩や海洋プレート内で固まった斑レイ岩だったのでしょう。それがプレート運動により長大な時間をかけて大陸の地下数十kmまで沈み込みながら累進変成されエクロジャイトとなった。その後、地上に上がってくる途中で、行きとは逆向き(減圧低温)の変成作用を受け、藍閃石エクロジャイトが誕生した。その後、大陸外縁部分が離れて日本列島になり、地上で侵食されて現在の四国の山中に露出した。その露頭から熱心な方が採集されたものを頂き、現在手元にあって眺めているというのは、なんとも奇遇というか壮大な地球のドラマを感じます。
赤黒い粒が「鉄礬ざくろ石(アルマンディン)」、藍色部分に藍閃石が含まれます。藍色が薄いので、藍閃石を結構含むけれども、曹長石や石英、ひすい輝石など、無色の鉱物も多く含まれているように思います。薄片作って確認したわけではありません。