95.さあいこう(前編)-reflection-



Act.08-1

「もうすぐ3年生になるのですが」
「クラス替えもないし、別にどうってことないだろう?」

あれ以来というか、いつの間にかグループ化していたこいつらは、何かというと木崎さんとの事を聞き出そうとしてくる。
おまけに、初めて一緒に帰った日以来、なんとなく毎日その行動が続いてしまっている。
今では彼女の方も嫌がる素振りは見せず、少ない時間とはいえ色々なことをお互い話し合えるようになった。
当初の目的である、お互いを知り合うこと、というのは達成されつつあるのに、それだけでは嫌だという不満が徐々に大きくなっている。
それが、なにかを言い当ててしまえば歯止めが効かなくなりそうで、なんとなく自分自身をはぐらかしたままだ。

「相変わらず木崎さんって呼んでるわけ?」
「それ以外にどう呼べと」
「えーーー、例えば果穂ちゃん、とか」
「呼べるか、ぼけ」
「そんなぁ、一緒に帰るようになって何ヶ月たったっけ?」
「何年経とうが一緒だっつーの」
「だったら、別々の大学に行ったらどうすんの?」

3人組が少しだけ意地悪そうな笑みを湛え、迫ってくる。こういう時のこいつらは本当に楽しそうだ。

「行ったら行ったで、別に・・・」
「木崎さんに恋人できてもそのまんま???それは無理だろう、いくらなんでも」
「恋人って・・・」
「いやいや、かなりな変わり者だけど、彼女だって全くもてないわけじゃないんだから、さ」
「そういうところがいいっていう、おまえみたいな男がいるかもしれないし」
「今は木崎さんの方がそういうが眼中にないってかんじだけど、これから先はわからないもんなぁ」

変わっているところがいい、というわけではないのだけれど、と、見当外れの突っ込みを心の中だけでコッソリといれる。

「で、その時はただの友達のおまえはどうするわけ?」
「どうするって」

いつのまにか口調も表情も真面目な物になった彼らに沈黙する。
具体的に言われてもやっぱり実感が伴わない。
時々どうしようもなく彼女に触れたくなる衝動。それを彼らに吐露してしまえば、たぶん、ニヤニヤしてやっぱり、と言われてしまうのかもしれない。
本当は自分自身でも気が付いている。

どうしたいのか。
どうなりたいのか。

だけど、やっぱりそういうものと彼女への感情を一緒くたにしたくはない。
矛盾――している。





「どーしたの?」
「いや、別に」
「なんかさっきからそればっかりだよね」

彼女と一緒に帰っているというのに、思考回路があちこち散乱したままだ。せっかくの時間だというのに、彼女との会話に集中できない。

「進学は地元?」
「や、違うと思う」

唐突に会話を変えても、彼女はさほど気にすることなくついてくる。そういうところは、非常にさっぱりとしている。

「東京・・・とか?」
「んーーーー、もう少し近いとこがいいなぁ。受かればだけど」

彼女が狙っている学部は、あまり数が多くない。ここはものすごい田舎と言うわけじゃないけれど、それなりに不便な土地だから、大学進学を機に外へ出て行く人間が少なくない。たぶん、彼女も出て行く人間だろう。

「そっちは、どうすんの?」

初めてこちらに興味をもってくれたかのような質問に、気分が高揚する。

「たぶん、地元は出てく、と思う」
「そっか、頭いいもんね。わけてもらいたいぐらい」

彼女は、あまり成績は良くない。というよりもムラが多すぎる。英語が飛びぬけて出来るかと思えば、国語の、しかも現代文がどん底だとか、数学はあたるも八卦あたらぬも八卦の占い状態だし。もう少しそれらが平均点を取ることができれば、平均より上へは行くだろう、たぶん。

「勉強、教えようか?」
「ええ??いいよ、そんなの。悪いし」

気まぐれのように思いついた提案だけど、彼女との接触を増やすまたとない機会だと気が付く。

「いや、こっちも教えれば身になるし」
「え?でも私すっごいばかだよ?」
「大丈夫、そこまで酷くないのは知ってるから」
「でも!」
「力不足?俺では」

子犬のようにキャンキャン言い募る彼女に同情心を起こさせるような言い方をしてみる。思いっきりうそ臭いが、多少興奮しているらしい彼女にはばれていない・・・と思う。

「・・・じゃあ、お願いしようかな」
「お願いしてください」

交渉成立とばかりにお互い笑顔を交わす。やっぱり、かわいいとそんなことを思ってしまう。

「でもさ、いつ勉強する?」
「放課後は部活だし、休日は?」
「土曜日は塾行ってる」
「ああ、絵を習いに行ってるんでしたっけ?」
「うん、そうなんだよね。だから、日曜日しかあいてないんだけど・・・、それじゃあ悪いから」
「いや、別にいいよ。それで」
「せっかくの日曜日に、私に付き合わせるわけにはいかないから。平日のどこかで勉強教えてよ、学校でさ」
「せっかくだから、本格的に勉強しません?受験生になることだし」
「でも、やっぱり日曜日に付き合わせるわけにはいかないって」
「嫌、ですか?日曜日までこの顔と突き合わせるのは??」
「ち、違うって!!そうじゃないってば」
「俺はかまわないですから、木崎さんが嫌じゃなければそれがいいと思うんだけど」

無意識なのか唇を尖らせながら考えごとをしている。そういう仕草が彼女を子どもっぽく見せている。中身はとんでもなく情熱的な女性なのだけど。

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5.17.2006


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