Act.06-1
クラスメートと、木崎さんの同級生。二人に問い詰められた言葉達に攻め立てられる。
目を瞑って考えてみてもわからない。
今までの経験にないことなのだから。
ただ知りたいという欲求。
ただ知って欲しいという希望。
俺にとってはどちらも重要で、どうしようもないほど純粋な気持ち。
だから、これは愛だの恋だのいう俗っぽいものなんかであるはずがない。
冷静な頭でそう答えは出すのだけれど、違うと言い切る思いに、別の何かがストップをかける。
再びわからなくなる。
彼女を知って、どうしたいのか。自分を知ってもらってどうしたいのか。
それらがあっさり達成された後、自分はどうするのだろうか、と。
「まだ考えているのかね」
いつのまにか、美術部の彼のグループに合流していた俺は、頬杖をつきながら考えごとをしていたらしい。最近は、気が付けば深く考えている事が多い。そんな俺を興味深そうに除いてる目玉が3組・・・。
「そんなにおもしろいか?」
「すっげー、おもしろい」
「優等生が苦悩する姿もなかなかのもん?」
「いやいや、苦悩っていうより恋煩いだろ、ただの」
彼からどういう情報を齎されたのかはわからないが、彼らの中では俺は木崎さんに片思いしているかわいそうな男、ということになっているらしい。ある意味片思いというのはあたっていなくもないが、やはり恋愛感情であると片付けられるのには抵抗がある。
「もう一回言ってみれば?」
「言うって何を?」
「好きです、とか、付き合ってくださいとか、さ」
「・・・」
思いつきもしなかった言葉をさらりと口にする。
やはり、そのどちらも自分にはぴんとこない。
「大体、木崎さんにしてもどうしてこんなに毛嫌いするのか原因がわかんないんだよなぁ」
「好き嫌いあるにしても、極端すぎるよな、行動が」
「そうなんだよな、だから、逆に望みがあるんじゃないかなぁ、なんて」
「や、それは楽観すぎじゃね?」
実に活き活きとしながら、おもしろそうに語ってくれている。俺の方は反対にへこんでばかりなのだが。
「で、結局お知りあいになれたとして、どうするわけ?」
「どうするって・・・」
この前言われてから、俺なりに考えてはいる。考えてはいるが、結論は出てこない。
「・・・友達になりたいっていうのが本気、とか?」
「うん、まあ・・・そう、かな?」
結局、一番しっくりくる言葉を当てはめれば、友達になる、ということになるのだろうか。やはり、少しずれている気はするのだけれど。
「だったらまあ、少しずつ慣らしていけばそのうちなれるんじゃねーの?」
「まだ嫌いな理由も聞いてないだろうし、そのあたりで納得すればなんとかなるんじゃないのか?」
「理由・・・。そういえば、知らなかったな、理由」
「嫌いなら嫌いでも、理由ぐらい知りたいだろ?そうしたら、まあ、とりあえずすっきりするんじゃないの??このままだと、なんていうか、辛気臭いし」
大袈裟だけど、暗闇の中にほんのりと灯りが見えた気分だ。どうやって近づくかしか考えてなかったから。遠ざかろうとする原因を探れば、何かきっかけがつかめるのかもしれない。にこやかにクラスメートを脅しながら木崎さんと話す機会を作る。先に言い出した彼のほうも今更断れない、といった風情で、渋々承諾をする。
これで、すこしは何かが変わるのだろうか。
ものすごく不貞腐れた顔をした彼女を見てしまうと、やはり胸の中のどこかが痛みだす。嫌われていると知ってはいても、態度で露骨に実感させられるとやっぱり堪える。
「あの・・・」
「なに?」
だけど、思いっきり素っ気無いその受け答えにも、彼女と会話を交わしているという事実に、喜んでいたりもする。
「嫌いな理由を教えて欲しいと思って」
「嫌いなモノは嫌い」
これ以上会話を交わすのも嫌だと言わんばかりの彼女は、さっさと帰ろうとしている。
放課後の屋上はとても寂しくて、あまり気分のいい場所ではない。だけど、人目を気にせず話せる場所となると、学内では場所が限られてしまう。しかも彼女がわざわざやってきてくれる所となるとなおさらだ。
「だから、理由を」
なおも食い下がる俺を、膨らませた頬を緩めて、冷ややかに見つめなおす。
「どうしてそんなことに拘るわけ?」
「いや、だって、俺は」
すぅっと息を吸い込み、一呼吸した後彼女がゆっくりと言葉を吐き出していく。
「嘘っぽい笑顔に騙されなかったからといって、そんなに絡まないで。あんたの周りにいる人間みたいにホイホイひっかかる女ばかりじゃないんだからね」
あっさりと吐露された心情はあまりにも的を射すぎていて、言い訳を考える隙すら与えてくれはしない。
そう、自分の笑顔は周囲との調和を図るためだけの小道具に過ぎなかったのだから。
世間体だとか周囲の視線だとか、そんなものばかりに気取られて、しかも周りにいる人間を虚勢を張った自分を見破れない愚かな人間だと一段下に見ていた。自分がそうであるように、周りの人間だってそうかもしれないのに、自分だけが特別だと驕っていたのかもしれない。
今でも、全てをわかったわけではないけれど、自分が子どもだった部分に気が付くにつれ、過去の自分が恥ずかしく思えてくる。それもこれも、彼女を知ろうとして色々動き始めたから。
そのきっかけになった彼女と仲良くなりたいというのは、自分の中では自然な気持ちなのだけど、何も知らない彼女にとってはわけがわからない行動だろう。
どうして自分に執着するのかと、疑問に思うのは当然だ。
「それは、もちろん偽善者じみた態度を取っていた事は認めるけれど」
「ふーん、自覚はあったんだ」
沈黙の後の、俺の言葉に素直な返事が返ってくる。
「でも、木崎さんに対してはそんな態度をとったつもりはないんだけど」
彼女に対しては、嫌になるぐらい自然な態度で接しているつもりだ。ただ単にぼろが出ている、と言い換えられるのかもしれないけれど。
「別に、だからといって好感をもたなきゃいけないわけじゃないし」
「だから、嫌われる理由がわからない」
「嫌いなものは嫌いって言ってるでしょ!!!」
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