俺はいったい何をしていたのだろう。
彼女の体温が冷え切った俺の体に染み込んでくる。尋常じゃない高さの熱が、俺がしでかしたバカな事の大きさを物語っているようで彼女とは反対に、冷や汗を掻くほど体温が低下していく。
ようやくベッドの上へ彼女を運び終えた安堵感とは裏腹に、保健医の言葉が突き刺さる。
余り頭のよくない俺にも良くわかる言葉で畳み掛けられる。
本当に俺は彼女に何をしてしまったのだろう。
その思いは息苦しそうな彼女の姿と、高柳先輩の視界に入れる事すら不快だと云わんばかりの視線で思い知らされる。
当たり前のように彼女に寄り添い、心配そうに彼女を覗き込むその端正な顔に、こんな状況なのに嫉妬してしまう。
和奈さんは高柳先輩のことが好きで、高柳先輩は和奈さんのことを愛している。
そんなわかりきったことを自覚するために、俺はこんなことをしでかしたとしたら、本当に本当に大ばか者だ。
あれほど俺の中を巣くっていた真っ黒な影はどこかへ消え去り、ただ後悔だけが残る。
名前を覚えてもらえるだけで満足だったのに、次には俺の名前を呼んで欲しくなった。そんな願いが叶えられたら、俺のことを知って見て欲しくなった。当たり前のように欲求は日に日に膨らんでいき、初めの頃満足していたささやかな願いでは我慢できなくなっていった。
カラダだけでも手に入れば、どうなるだろう。
耳元で囁いたのは一瞬の間。
勝手に追い詰められアンバランスになっていた俺は、簡単にそのユウワクに耳を貸してしまった。
その結果がこれだ。
彼女を傷つけ、彼女を好きな人も傷つけた。
こんなことが「好き」だという感情なのだとしたら、俺はこんな思いはいらない。
もう2度とこんな思いはいらない。
逃げ出すようにして家へと辿り着いた後は、ひたすら自分の部屋に閉じこもっていた。
心配そうに声を掛けてくれる母親の姿にすらイライラし、ささいなことでモノにあたる。
そんなことをしても何も解決などしないのに、和奈さんのことを思い追い詰められていった時よりも、俺の生活は荒れていった。唯一外界とつながっているのは、友人達からのメールのみ。その中に、和奈さんが学校を休んでいたこと、また、ようやく復帰したものの以前にも増して雰囲気が冷たくなっていたことが書いてあった。
それは、そうだろうと、俺しかいない部屋でケイタイ相手に呟く。
あんな思いをして平然としていられるわけがない。男が恐いと思ってしまうかもしれない。だけど、和奈さんは自力で復帰して、学校へ通おうとしている。
それに比べてこの俺は、と、暫く風呂にも入っていない己の姿を鏡に映す。
やつれた、生気のないツラにぼさぼさの頭、自分をカワイソウがって居るだけの情けない男が容赦なく目に飛び込んでくる。
謝ろう。
許してくれなくてもいい、いや、許すべきじゃない。
謝れば全てがなかったことになるわけじゃない、俺のやったことは現実でそれは消せない。
だけど、高柳先輩に殴られても蹴られても、それでも自分は謝らなくてはいけない。
俺は久しぶりに部屋の扉を開けた。