シンデレラには憧れない
エピローグ
「やっぱり、披露宴なんてするべきじゃないと思うの」
「それを自分の母親に言えるんでしたら、どうぞ」

結婚式の当日だというのにまだそんなことをぐたぐたぬかしている自分は、本当に小心者だと思う。
だけど、何時もとは違って幾重にも化粧を施された顔を見ながらため息をつく。もちろんプロがやってくれているのだから、断然元よりもいい顔にはなっているのだけれど、この化粧とこの格好で人前に出るのは一種の拷問だと思う。友人の結婚式に出席した時には素直に綺麗だな、って思えた衣装も、自分が身にまとう番になってしまえば怖気づくばかりだ。

「それに、当日になってまでそんなことを言わないでくださいよ。敵前逃亡だけはやめてくださいね、奈保美さん」

あまりよく覚えていないプロポーズからの彼の行動は素早かった。あっという間に私の両親に話をつけ、反対されると思っていた彼の家族からもすんなりと受け入れられた。
年上であることを理由に難色を示すかと思っていたのに、彼の両親はずっとフラフラしていた息子が漸く年貢を納めるといって、話はあっという間に進んでいった。私一人を置き去りにして。
もちろん、我が家サイドの浮かれ具合といったら、思い出すだけでぐったりしてしまう。
新幹線で2時間はかかる距離に住んでいる私と彼が、どうやって結婚生活をおくるのか、だとか、そういった問題に気がついてくれるものは家族には誰もおらず、最大の相談相手になると思っていた母親は、もはや聞くのも無駄な状態だったし、今でも無駄だ。結局一番頼りになったのはもちろん彼で、女性ならではの相談事には研究室の秘書さんたちが大いに乗ってくれることとなった。今まで浮いた噂一つなく、どちらかというとたぶんとっつきにくく扱いづらかったであろう私の、最大級のおもしろい話に始終顔がにやけっぱなしだったのは、気のせいとして感謝とともに忘れる事にする。

「こんな年増な花嫁なんて誰も見たくないわよ」
「誰もじゃなくって、僕が見たいんですからいいじゃないですか、それで」

控え室にはなぜか誰もおらず、弟の報告によるとお祭り騒ぎだとばかりに両親は親戚の間を飛びまわっているらしい。こういう行事めいたものが好きなのは彼の実家も同じで、こちらもこちらで招待者へのあいさつまわりで忙しいらしい。
だから、こうやってうだうだぐだぐだ彼に愚痴を吐けたりもするのだけれど。

「僕があなたを見せびらかしたいんですよ、だからいいかげん機嫌を直してください」

いつもなら何バカな事言っているの、という突っ込みもできそうなのに、どうやら私は緊張もしているらしい。

「さあ、花嫁さん、お手をどうぞ」

促されて立ち上がる。
彼の掌に自分の手を重ね、深呼吸をする。

「行きますか」
「そうね」

そうして私達は二人で扉を開ける。
くだらないプライドも、コンプレックスもなくなったわけじゃない。醜い心は確かにまだ私の中で燻っている。だけど、前みたいにそれにとらわれて、大切な物を傷つけたりはしない。
彼の手を軽く握り締める。
大丈夫、この手があれば。
どうせ自分なんてと、捻くれた思いを抱きながら、それでも選ばれるのを待つだけの人生はやめよう。
この人と生きていこうと、二人で決めたのだから。
だから、私はシンデレラには憧れない。




>>あとがき>>戻る
Miko Kanzaki/1.12.2007supdate


back to index/text/home
template : A Moveable Feast