「さくらちゃんとデート!」
唐突にこんなことを言いやがるのはひとりしかいない。城山咲良前の生徒会長だ。
「はい?なぜデート?」
「だって、いっつも学校でお話するだけでしょ?たまには一緒に帰ってみるとか」
100パーセント全開の笑顔で胸を張って答えている。以前あなたのおじさんとやらに綺麗な笑顔で邪魔されたような気がするんですけど?
そんな皮肉も奥の方へ引っ込んでしまう。
「だめ?」
真剣にお願いされて、断れる男がいるんだろうか、こいつに。
顔がにやけるのを必死で誤魔化して、仕方がないなといった表情でOKする。
「やった!」
弾んだ声で廊下を跳ね回る彼女を、素直に可愛いと思ってしまった。
「帰るだけだからな、どこにも寄らないぞ」
そう言いながら並んで歩く。今日は幸い高山左京がいないらしい。あの雨の日のように。
横に女の子が並ぶなんていうのはフォークダンス以来なかったことで、
柄にもなく緊張している。城山さんは相変わらず跳ねるように着いてくる。
なんかゴムマリみたいだな、太っているとかそんなんじゃなくって、雰囲気が。
あまり活気があるとはいえない商店街を通り抜け、最寄の駅へ向う。
彼女の家がどこにあるかはわからないけれど、駅までか?一緒にいるのは。それとも送っていった方がいいんだろうか。
聞かなければ答えが出ないことを考えながら歩く。お互いが微妙な距離を保ちながら進んでいく。
今の距離では左京と彼女の距離より離れているよな、なんて焼きもちじみたことまで考えてしまう。
自分が利用する駅が見えてきて、いいかげん聞かないとな、って思っていたら、駅前に見知った顔が見えた。
「さくらー」
そう呼ぶ男は彼女のおじさんだったはず。
軽く手を挙げてその存在を示すと、彼女はパタパタと彼の方へと走り去ってしまった。
なんてタイミングだよ!
気がつけば彼女はおじさんに抱きついている。
おじさんって本当に叔父さんか?
心の中でひそかに毒づく。
彼はこちらの方を一瞥し、意味ありげな視線をよこすと、すぐに以前のような優しげな表情を湛えて挨拶をしてくる。
こちらも慌てて会釈する。
「さくらの友達だったよね?ここまでありがとう」
なんか今”友達”ってところが強調されていないか?それにここまでって。
「じゃ、さくら帰ろう」
そう言って頭を撫でて手を繋いで連れ去ってしまった。
「片岡君、付き合ってくれてありがとねーーー」
花丸付きの彼女の笑顔ごと。
取り残された俺は胸の奥にある自分の気持ちがなんなのかわかりかねていた。
彼女が他のオトコと一緒にいるのが不愉快だなんて、そんな気持ちわからない。
自分が名前で呼べていないのが悔しいだなんて認めたくない。
心の中であがいて、でも素直になれなくて。その心ごと無視した。
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