棋力開発…本筋の打ち方   実技編

 15 悪形回避は休みでない
   A 形を崩すということ
碁の形は 直線形が多いと美しく、曲線形が多いと美しくありません。
上手まっすぐ、下手コスム」です。
従って、相手の石を丸まった形にしたり、ぐにゃぐにゃした形にするのは「形を崩す」好手です。また、自石がそうならない様にするのは「形を整える」好手です。

<右上>
白1は形を整える好手です。これを怠ると、

<右下>
黒2と相手の急所を奪うと、白石が連絡をしようとして、ダンゴになったり、

<左下>
空き三角になったりします。

<左上>
黒12の様に急所を外すと白に形を整えられてしまいます。

<右上>
形を崩されないようにする白1が好手です。

<右下>
ここを黒から打つ場合は、黒2が白の形の急所です。
白7までは、黒が良い形で地が出来ました。この形は、黒が白3を取る手が地を得しながらの攻めになりますので、黒非常な好形です。

<左下>
黒10に手抜きをするとより一層白は辛い形になります。
ヨセの段階では、黒22のハネツギや、黒A10のサガリが先手となり、白は2目の地になってしまいます。

<左上>
黒28に白29と打っても黒30が先手で、黒味の良い地が出来、白は眼なしで苦しい形です。

 15 悪形回避は休みでない
   B 形の崩しあい<
相手の形を崩しておけば、将来なんらかの利があります。
また、自石が悪形でも、相手をより悪形にすることも良い作戦になります。

<右上>
目外しからの定石形です。 黒1から、黒5となった段階で、白6は一見、良い形に見えますが、黒7とノゾかれると、空き三角が出来ますので、白6は良い手ではありません。

<右下>
白10とコスミ付け、黒11を誘って、白12とツギます。
この形は黒13から黒15と打っても、白16の石が、黒2子のダメを詰め、弱い石になっていますので、白満足の形です。

<左下>
黒は黒21を打って、白がノビを打てば黒23とノゾキ、白に空き三角を作らそうとします。こうなれば、黒良しです。

<左上>
黒27に白は反発し、白28、黒29、白30、黒31と地対外勢の分れになることもあります。

形の美しさを着手決定基準の一つにすることにより、今までと違った碁の世界が開けて来ます。
置碁に良く出来る形です。

<右辺>
白5は黒の芯を止めた手。黒6は良い手ですが、白7に黒8とノビルと、白9により形を崩されます。

<左辺>
白13に黒14とコスミツケルのが良い手、白15に黒16と打つ形は空き三角ですが、黒G10の断点を残して、黒好調です。
置碁作戦「ホウシ対策/コスミ」参照。


 16 利かした石は捨てよ
   A キカシ(利かし)とは
「キカシ(利かし)」とは相手の応手を強制し、相手の応手より自分の打った手の価値が高い状態を実現する着手のことを言います。
内側の石は外側の石より働く可能性が低いので、外と内の交換が「利かし」に該当することが多いことになります。

<右上>
コゲイマジマリに白1とツケて、白7までの状態は白が利かせた状態です。黒は4、6、8は白3、5、7の石より内(端に近い方を内という)に打っています。
ここで、利かした石を働かせる方法として、白9があります。 仮に、黒が黒10と打てば、以下白17までとなる可能性がありますが、この結果は白大いに働いた状態です。
黒がもっと大きくなる可能性があったけど、白数子の捨石により、白が立派な外勢を得ました。

<右下>
黒19もあります。以下は黒最悪の結果を示しましたが、白の狙いはこういう分れにすることです。

以下は白の悪い例を示します。いずれも、白の全体が攻められることになっており、こんな形になると、黒は白を攻めながら、下辺、左辺、上辺に労せずして地模様を作ることが出来ます。

<左下>
白31は重い手で、黒の攻めの標的になります。

<左上>
白35も同様に重い手で、黒の攻めの標的になります。
ここでは、黒の利かしに白が利かされ、大変不利になったケースと、黒の利かしに白が反発して劣勢な状況を跳ね返したケースを示します。

<右辺>
黒1とノゾキを利かして、白を攻めようという意図の黒に対して、おとなしく白4とツギました。結果は、黒7のオシから右辺が大きく広がってきました。白の失敗です。

<左辺>
黒9のノゾキに対して、白は13と逆襲をしました。黒は白がツギを打たなかったので、切りを打って、以降白14とツキダされ、左辺は白の有利な形になってしまいました。
 16 利かした石は捨てよ
   B 先手でもキカシ(利かし)でない形
キカシは強制力を持った手なので、先手で打ちます。ところが強制力を持った先手の手が必ずしもキカシでなく、相手の有利に作用する場合があります。

<右上>
白1は高目定石からの常形で、白1、黒2までの形が定石とされています。

<右下>
黒4はキカシではなく、味消しと言います。黒がQ6と切る手があるところを黒4と打って白5とツグことになれば、白は労せずして、切断される不利を回避できる訳です。

<左下>
白7はキカシです。

<左上>
左辺が大きくなった場合は白9に対して、黒10、12と押すことになるかも知れません。この定石を打った直後はそういう状況にはなっていない可能性が高いので、左下の白7には、ほぼ黒8と受けることになります。
<右上>
黒1と打って白2となった形は、キカシではありません。
この交換自体黒の不利になるからです。味消しというなまやさしいものではなくて、ひどい悪手です。

その理由は下記の3つがあります。
理由1.コウダテが確実に1つ減る。

<右下>
理由2.黒3とツメた後、黒5と打って先手で白地を削減する手が無くなる。

<左下>
理由3.ダメヅマリなので、白12と押された時に不利になる。

<左上>
理由3つづき.
そこで、ダメヅマリの味悪を回避しようと黒13、15と打つと、白が左辺に盛り上がって来て、割りが悪くなります。


キカシとは「相手を固めてしまう」ということも言えます。また、多くの場合別の利かしを失います。従って、むやみに、キカシを打つことは利敵行為になることがあります。
また、利かした石を捨てるか、捨てないかは全局的な判断によります。
レベルが高くなるに従って、利かしの時期というものを、正しく行う必要が出てきます。


 17 捨石の利用法とは
   A 第3線の石は2子にして捨てよ
捨石とは石を取らせて、取らせた石の損害より、大きな利を得る手法です。 利かした石や、腐った石を捨てることより、もっと積極的に石を捨てて、外側からの締め付け(シメツケ)を狙います。

<右上>
黒1、3を捨石にして、黒5のアテと黒7のハネ、黒9のアテを利かします。2子にして捨てることにより、両方からの利かしが実現しました。

<右下>
黒15で2子にして捨てる手筋を使わないと、黒15で白16と抜かれ、黒17とハネも利かせないことになります。

<左下>
2子にして捨てることが出来ても、黒19、21を決めてから、黒23は黒G4のカケツギが打てません。

<左上>
黒25の前に黒27のアテを打たないと、黒29のアテが打てません。

相手が捨石を狙ってきた時には、
1.捨石を打たせない守り方
2.打たれても損をしない守り方
があります。

<右上>
捨石を打たれても損をしない守り方の例です。
白1に対して、黒2と守ります。白3、7を捨石にして、白が外勢を張ってきましたが、黒は隅を良い地にして満足です。

<右下>
捨石は全局的な大作戦に利用することがあります。
黒16と切って、黒18と2子にして捨てます。黒21とアテるのではなく、黒20ともう一つ捨石をして、黒22のアテを打って、白4子を取ることに成功しました。
 17 捨石の利用法と
   B 捨石は恐くて楽しい
捨石の利用法にハメ手があります。何れも、江戸時代から知られているものです。

<右上>
黒14が、自らハメ手にはまった手です。黒14では、黒O15とカケツギが正しい手ですが、譜の様に打つと、白33の利かしまで。
黒の地は20目強ですが、白の厚みは40目以上、というより、白の勝利確実と言って良いほどの厚みです。

<左下>
黒40がハマリの第1手。以下、この隅で碁が終わってしまうほどの大惨状です。
黒40では黒F5と一旦守って、黒40と黒H4を見合いにするべきでした。
<右上>
黒1の攻めに、ツグと全体を攻められて、形勢を損ないます。 利かした石は捨てる方針で打ちます。

<左下>
白8に対して、黒9、11、13が2子を捨石にした黒成功図です。
尚、黒13はこの一手で、もし、黒G3と打つと、白13と打たれ、味の悪いことになります。


 18 「見合い」は序盤から終盤まで
   A どちらか打てる
見合いとは「等分ににらむ」という意味で、多くの場合、碁では、中央に打って両にらみ、(どちらかを打てる)という技法になります。序盤、中盤、終盤とも見合いの考え方が有効なケースが大変多いと言えます。

黒1が序盤での見合いの考え方を持った手です。つまり、
1.白が右下をシマれば、黒は左上にカカる。
2.白が左上をシマれば、黒は右下にカカる。
どちらかが実現するわけだから、慌てて黒1でカカる必要はないと考えます。
<右上>
黒1は中盤の手筋です。
黒3とR17が見合いで黒1の石は取られることはありません。
白2で白3と打てば、黒はQ16のアテを利かして、黒R17と打てば、白の3子が取れます。

<右下>
黒5はP8のトビによる中央進出と、右辺での生きを見合いにしています。質の違うものでも、見合いの考え方を応用出来ます。

<左下>
白10は左下への侵入と白12を見合いにした手です。
黒11でH3と打てば、白11と隅に侵入します。

<左上>
死活での見合い。
黒13により、A17とC19を見合いにしてコウとなります。
 18 「見合い」は序盤から終盤まで
   B 見合いの落とし穴
見合いは便利な技法ですが、見合いだと思っていた地点を別の手で崩されることもあり、十分な読みを必要とする場合があります。
例えば、見合いの中で「左右同型中央に手あり」というのは分かりやすい見合いの例ですが、中央が複数あると、選択した中央が急所でなく、失敗することがあります。

<右上>
この黒の形は中央が3ケ所あります。黒1が正解で、それ以外は不正解となります。黒7までのセキで生きます。

<右下>
白8、黒9、白10でにより、白O4のシチヨウと、白Q9のシチョウを見合いにしました。
しかし、黒11以下でどちらのシチョウも成立しなくなりました。 但し、双方正しく打てば、これ以降の戦いで互角の分れになる様です。碁の広いところです。
この形は九連星と呼ばれる布石です。これを実現したい場合に、黒1で黒3を打って、黒1と黒2を見合いにすれば、実現の可能性が高いのではと考えるのはどうでしょう?
答えは、NOです。碁は相手の意図を外すことも大切なので、黒がその様な意図があれば、白は外そうと工夫します。 その工夫の一つは下図です。
黒1に対して、白2と打ちました。この様に簡単に見合いを外すことが出来る場合もあります。

見合いの技法は、質や形の違う二つの地点を、「同じ価値」なのか正しく判断しないと失敗する可能性があります。
分かりやすそうで、意外に奥が深いという認識が必要です。


 19 攻め合いの原則と手筋
   A 攻め合いは手数と眼形の問題
攻め合いは、お互いに生きの無い石が相手の石を取って生きようとする激しい戦いです。 攻め合いには色々な原則があるので、順次示します。

原則=>手数の多い方が勝つ

<右上>
黒3手、白4手なので白が勝ちです。
隅の特殊性で黒1により手を伸ばそうとしても、白2が手筋で、白攻め合い勝ちなので、白はこのまま手抜きが出来ます。
尚、黒1をR19のサガリでも、白S17とダメを詰めれば相変わらず、黒3手、白4手なので白が勝ちです。

<右下>
黒2手、白3手ですが、黒9により隅の特殊性(白T1と打てない)の為、黒勝ちになります。

<左下>
攻め合いは手数の比較なので、相手の手数を縮める手と自石の手を伸ばす手と両方考えます。
黒17のワリコミにより、黒21と切った段階で、黒3手、白2手になりますので、黒勝ちです。

<左上>
黒25のオノキリにより黒勝ちとなります。
黒白共3手でも、手番の白が有利とはなりません。隅の特殊性で、外ダメのA19が打てないのが原因です。

原則=>攻め合いでは眼形がものを言う

一方に一眼があり、他方に一眼がない場合、一眼のある方の内ダメ相手が詰めないといけないのです。
共通のダメ(内側のダメ)は内ダメと呼びますが、
 眼形のある側のダメの数は外ダメと内ダメを加えた数
 眼形のない側のダメの数は外ダメのみの数
ということです。

<右上>
黒1により
 黒のダメ=3
 白のダメ=2
従って、白先手でも、攻め合い黒勝ちです。

原則=>内ダメが多い時はセキになりやすい

<右下>
右上の形と違う点はQ4のダメが開いている点です。この段階で、 黒4手、白4手です。
白2と「眼あり眼無し」を回避しますと、白6までのセキになります。

<左上>
白8の時、黒9と内ダメを詰めると黒攻め合い負けとなります。

<左下>
眼のある石同士でも、セキになる可能性が高いのですが、大きい眼形のある石が打ちダメを領有します。
どちらからもダメが詰められませんが、(白は一眼、黒は三目中手なので)黒13と取った場合、白14が必須、黒15で攻め合い黒勝ちです。
原則=>攻め合いでのダメヅメは外側から詰める

<右上>
攻め合いに負けている場合でも、ダメヅメは外側から詰めます。打つタイミングの問題は別として、黒1、3、5と外から詰めます。

原則=>攻め合いでは本体を攻める

<右下>
黒7、9と打つのが正しく、一手目が黒9では、黒4子を取られます。

原則=>コウ付き攻め合いは最後にコウを取る

<左下>
黒11が正しい。一手目でコウを取ると、白A2と打たれ、黒11の時、コウを取り返される。この結果は、黒が最初にコウダテを打つことになる。最初が黒11だと白A2の時黒コウトリとなり、白が最初にコウダテをする番となる。

攻め合いの手筋=>ホウリコミ

<左上>
黒15がホウリコミ。捨石により、白のダメを詰めたことになり、攻め合い黒勝ち。
<右上>
攻め合いの手筋=>イタチの腹ツケ

黒1がイタチの腹ツケ

<右下>
攻め合いの手筋=>タヌキの腹ツヅミ

黒5がタヌキの腹ツヅミ

<左下>
白18に対しても、黒D2がタヌキの腹ツヅミの手筋ですが、うっかり、黒19と抑えると、黒21のコウにするしかありません。
黒21で、G2と押さえると、白F5に切られて、黒収拾がつかない形になります。

<左上>
攻め合いの手筋=>根元ツギ

黒27が根元をツグ手筋。白からの色々の狙いを消して黒攻め合い勝ち。


 20 実戦死活を丸暗記
   A 考えていては間違える
碁の力は攻め合い、死活の要素が勝敗に大きく影響します。 ここでは、実戦に出やすい死活を挙げてみます。 死活は
 1.間違えやすい
 2.正しい結果を読むのには時間がかかる
ので、実戦に出やすい死活は記憶しておくと良いものです。

尚、死活の基本形については、 定石形からの死活も参考にして下さい。

<右上>  黒先白死
黒1の2の1の筋で白死

<右下>  黒先コウ
黒5に対して白6のコウで受けるのが正解です。
白R4と黒R5の交換は無くてもコウです。

<左下>  黒先生き
黒7の三目の真ん中が急所です。黒9では、E2でも正解です。

<左上>  黒先生き
黒15が正解。黒15で黒17と打つと、白18で死です。

<右上>  白先生き
白1で生き

<右下>  黒先白死
黒16、黒18のハネゴロシです。

<左下>  黒先コウ
D5のダメが開いている場合は無条件では死にません。
黒28、黒30、黒32でコウです。

<左上>  黒先コウ
右上の形に白B16、黒B15の交換がされた形です。この交換は、初級者から見ると、白の有利な交換に見えるかもしれませんが、実際は、無条件生きが、コウになってしまう大悪手なのです。
黒14に対して、白B16、黒B15の交換が無ければ、白15でC18のツギが成立します。

<右上>  黒先黒死
この形はどう打っても黒死です。

<左上>  黒先生き
黒G19のハネが命綱で、ハネのある方からのマガリで生きます。

<右下>  白先万年コウ
白16のツケにより万年コウです。白からコウを仕掛けにくいので、殆どの場合白がT2にツイでセキになります。

<左下>  黒先白死
この形はプロが間違えた形で、間違えない様に実戦型の死活は記憶して置くのが良いという例です。
櫛(クシ)形の死活です。

<右上>  基本形
黒1では白2と打たれて、櫛形の生きの基本形になります。

<左上>  黒先コウ
D16のダメが開いている形では、黒7によるコウが最善です。

<右下>  黒先コウ
黒11のツケに白12なら黒13でコウ
黒11のツケに白P1のオサエなら黒Q2で白死

<左下>  黒先白死
黒がB1へ打てる形なら、黒17で白死。

<右上>  黒先白死
黒1でS18が眼になりません。

<右下>  白先黒死
白4の三目の急所を打ち、黒死です。

<左下>  黒先白死
黒11、13、15で白死です。

<左上>  黒先コウ
白D19のハネがあると黒先コウです。

<右上>  黒先白死
黒1で隅のマガリ四目となり、白死。

下辺の2つの形は「星に対する三々打ち込みから出来る形」で、白S5、白B5の石のツギ方により、黒からの利きが違ってくるということを理解して下さい。つまり、
右下では、黒T1は利き、黒P1は利きません。
左下では、黒E1は利き、黒A6は利きません。

<右下>  黒先白死
黒7のホウリコミにより、隅のマガリ四目で白死。

<左下>  黒先コウ
黒15でコウ

<左上>  黒先白死
黒1と2目にして、白死。

<右上>  黒先白死
黒1のハネ殺し。黒5が気が付きにくい手ですが、他の形でも効果的なので、覚えておくと便利です。

<左上>  黒先白生き
右上と違う点はD19のハネがあることです。このハネがあると白生きです。
この形は、白の星の石に対して黒が両ガカリ(F17、C14)とE15に3手打った場合に出来る形です。(俗に三手抜き定石といいます)

<右下>  白先黒死
白1から「隅のマガリ四目」で黒死です。

<左下>  黒先生き
黒25からオシツブシで黒生き。但し、D1、A5と2つのダメが空いているので、生きますが、とちらかのダメが詰まっていると、黒27と打てませんので、コウになります。命を支える2つのダメです。