この本読んで!2
「この本読んで!」は、僕の読書日記兼図書紹介です。
韓国だけでなく、それに付随したいろいろな分野に広げ、
主として僕の興味関心の赴くまま取り上げました。
主として文庫・新書を紹介していますが、高くて難しい
本ではなく、買い求めやすいものを選んで載せています。
また、紹介した本をクリックしていただくと、
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また、ここで紹介した本の読書感想文も随時募集中!
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久しぶりにおすすめの本を書こうと思う。といっても、復活第1弾は雑誌。「HOT CHILI PAPER」(H.E.D.出版社)という雑誌である。「シュリ」を観に行かれた人は既に映画館で手に入れたかも知れないが、現代韓国の流行を知る上でなかなか内容が充実しているので紹介したい。
まだ創刊されたばかりであるが、創刊号の特集はなんと言っても「シュリ」。主演のハンソッキュはもちろん、チェミンシク、キムユンジン、ソンガンホの4人のインタビューを載せている。そして音楽情報としては主として女性アーティストの紹介をしており、話題のY2Kの記事も載せているなど、内容満載。作り自体も至ってまじめな内容で、これから定期購読していけば、ビジュアル的にも知識の上でも、現代韓国に強くなれるだろう。
しかもCD−ROM付き。今回は映画「シュリ」をはじめとする韓国映画の予告編やミュージックビデオなどが含まれている。特にミュージックビデオはおすすめ。日本で韓国のアーティストを知る手段としては耳から入る音楽ばかりになってしまうが、実際そのアーティストがどのようなスタイルで、踊りで歌っているのかを知ることができるのである。料金は1500円とやや高めだが、中身を見ればその値段もだいたい頷けるのではないだろうか。
次の発売予定が3月中旬と言うことなので、隔月刊だろう。全国のCDショップや大型書店で手にすることができる。そしてホームページも用意されているので、一度覗いてみてはいかがだろう。
「この本読んで!1」で紹介した「KOREAN FAN」もサイズが大きくなり、装いも新たになった。更に一般書店での取り寄せも可能になったとのこと。この2冊できっと韓国をより詳しく知ることができるだろう。
(2000 02/23 up)
7 小針進『韓国と韓国人』新書
今回紹介する本は比較的新しい本である。小針進『韓国と韓国人−隣人たちのほんとうの話−』(平凡社新書、1999年)である。著者は現在静岡県立大学国際関係学部助教授であり、韓国での生活経験も豊富だ。
その内容であるが、第1章「韓国人ってほんとうに……?」で、日本の人が韓国の人に対して持っているイメージ、例えば本当にキムチや焼き肉ばかり食べているのかとか、本当に不親切なのかとかの疑問に答えながら、話が進んでいく。その後も政治・経済・情報メディアなどを中心に、データを提示しながら論を展開している。といっても、どちらかというと目新しい意見というよりは、よくある韓国論であり、しかも一つの問題を掘り下げていくのではなく、さまざまな方向に話が飛んでいる。そのため、一読した感想としては「比較的新鮮な韓国入門書」という感じだ。
しかし、かといってこの本がつまらないというわけではない。研究者特有の資料を提示しながらの論だけでなく、自らの体験や他国の人の言葉も借りながら、できるだけ韓国を相対的に見ようとする取り組みがなされ、その点においては成功している。著者がこうした手法を取った理由は、「あとがき」が明らかにしてくれる。つまり地域研究という学問は、一点突破的に特定地域を見るのではなく、まず雑学的知識を集め、その全体的網羅的に集積された知識を利用しながら、対象とする地域の人文を見ていくものだそうだ。
更に、「あとがき」にしか書かれていないが、朝鮮民主主義人民共和国に対する話まで及んでいる。すなわち私たちはマスコミから伝わってくる情報からだけ朝鮮民主主義人民共和国のイメージを形成し、そこに生活する血の通った人間を総合的に判断する作業を怠ってきたということである。著者はその危険性を叫んでいるが、これは僕も全く同感である。
ひとが、特定の偏った情報によってある地域を見るとき、必ずそこには先入観による誤った既成概念を構築してしまう。そのことは仕方のないことであるが、できればもっともっと理解したい、知りたいという強い気持ちで「定点観測」を試みた方がいいだろう。この本はその手助けになるかもしれない。
(2000 02/29 up)
読書のすすめばかりで申し訳ないが、また1冊の本を紹介したい。ここでは、できるだけ簡単に韓国について知ってもらえるよう、安価な文庫や新書を中心に紹介してきている。今回も新書であるが、どちらかと言えば研究書の類に入るだろう。その本とは、鄭大均『韓国のイメージ−戦後日本人の隣国観−』(中公新書、1995年)である。
この本は、タイトルを読んでいただければ分かるように、戦後の日本社会において、お隣韓国がどのように見られてきたかを追っている。一口に韓国のイメージと言っても、そのイメージを抽出する対象を明確にしなければならず、この本では新聞や韓国に関するベストセラーに的を絞って、日本における韓国観を把握している。
まず、第1章「変化するイメージ」で、世論調査の結果を材料に、戦後の韓国観を捉え、それが約20年を単位とする三つの時期に区分できるとした。それぞれの時期を次に掲げよう。
第一期 無関心・避関心の時期('45〜'64年)
第二期 政治的関心の時期('65〜'83年)※前後二つに分けられる
第三期 文化的関心の時期('84年以降)
それぞれの時期の特徴は本書を読んで確認して欲しいが、おおよそ予想されていた時期区分であり、妥当なものだろう。そして、それぞれの時期における新聞記事や小説・評論などからすくい取れるイメージを挙げた。またその発言者や作者の傾向を五つの関心型に分け、それぞれの長所・短所を指摘している(*1)。詳しい内容は省略させてもらおう。
これら全体から窺える事実は以下のようなことである。すなわち、戦後の日本の人は、韓国に対して関心を抱く機会が少なかったり故意に避けていたりしたが、パクチョンヒ(朴全熙)元大統領に代表されるような独裁政治の時代においては、独裁国家論を中心に、隣国の実態を把握しないまま政治的発言が多発するようになったとしている。こうした韓国批判の背景には、朝鮮民主主義人民共和国に対する「地上の楽園」と肯定的に見る評価が潜んでいた。しかし、80年代以降、南北の評価が逆転し、また実際に韓国を訪れる人も増え、異文化型のルポが急増していった。つまり、日本においては南北を常に1セットで見る視点が内在していることが指摘できるだろう。
もちろん、それぞれの時期でも、大枠では括ることができない文章や意見も存在していた。それらの関係をも追いかけていくことで、作者は日本に相反する感情(例えば好き嫌い)が共存しており、もちろん韓国における日本観もそうであると見ている。このアンビヴァランスの性格は、別に韓日間に限らず、どこでも見られる陳腐な現象であるが、作者にはその姿を確定したいという意図があったのであろう。
作者は言う。「それぞれの社会規範のゆえに、日本においては隣国に対する非好感が表出しにくく、逆に韓国では好感が表出しにくいという違いもある。しかし、ここにも共通性はあるのであって、日本人と韓国人がお互いの眺めを理解するということは、疑念や偏見によって邪魔をされない限り、さほど困難なことではないはずである。」いつの日か、相互イメージを共有し合えるほど近くなればと願いたい。
どちらかといえば、韓国を知る本というよりも、日本の中における「韓国」を知る本という内容である。相手を理解するためには自分たちのことも知っておくという上で有用な本だろう。
この紹介文を見ると、面倒な内容であり、読んでみたいという欲求にかられないかもしれない。しかし、この本には戦後日本で出版された韓国に関する本をダイジェストで紹介しているので、今後の読書の指針になるという利点もある。お試しあれ。
☆解説☆
*1 この「韓国徒然草」は、さしずめ贖罪型・古代史型・異文化型だろうか。どうも、ある枠組みに自分を納めるというのは、落ち着かなくていやな感じがする。
(2000 04/05 up)
日本では、昨年から新書ブーム。多くの出版社が新書を発行しはじめた。その中から今回は、呉善花『韓国併合への道』(文春新書、2000年)を紹介しよう。
日本史学を専門とする僕であるが、実は韓国の歴史に関する本を紹介したことはほとんどなかった。それは、歴史の記述が専門的であったり、個別的であったりすると、一般の読者が辟易するのではという危惧があったからである。しかし、今回は歴史学者ではない作者が、歴史の叙述に挑戦するという意欲作であるので、興味が引かれたので、読んでみた。
作者の呉善花(オソンファ)氏は、『スカートの風』などで知られる作家。歴史に関する興味があるようで、今までにもいくつか韓日関係に関する歴史を記述してきた。そしてこの本において選ばれたテーマは韓日併合。「日帝36年」という韓日関係の大きな傷に対する記述である。
作者は、言う。「韓国併合へといたる道は朝鮮近代の敗北の歴史を意味する。なぜ敗北したのか、その自らの側の要因と責任の所在を真摯に抉りだす作業が、韓国ではいまだになされていない」と。こうした韓国側からの問題提起は、近年各地で言われているようであるが、それを日本語で分かる形で著した書は少ないのではないだろうか。
実際の内容は、かなり細かく書かれているので、韓国史を知らない日本の人にはやや難しいかも知れないが、全体的な流れは掴めるだろうし、それに作者の主張は明確であるので理解はしやすいであろう。
しかし、この作者の主張というものが、はっきり打ち出されているため、僕には納得がいかない点がいくつもあった。作者は大まかに言えば、「韓日併合は時代に乗り遅れた韓国にその原因があり、旧体制の朝鮮王朝の政治的弊害である」というストーリーを提供してくれる。そして、その反面、日本に対しては必要以上に好意的に受け止めている。
例えば、明治時代初期の「征韓論」に関しても(*1)、中国の冊封体制下にある朝鮮を解放し、中華主義を打破することにねらいがあると主張している(*2)。しかし、果たしてそんな朝鮮思いの殊勝な気持ちで征韓論を唱えたのであろうか。明治政府を樹立したばかりの日本には他国を気遣う余裕など考えられない。日本は列強国に不平等な条約を結ばされ、国際的に見て弱い立場にあった。その日本よりも下に朝鮮を位置付けることで、列強国への仲間入りを果たそうとしたのだろう。ちょうどいじめられた子が家に帰ってから弟をいじめるようなものである。また、征韓論には日本兵隊の不満解消という側面もある。これが実態であろう。
他にも「日本の初代総理大臣山県有朋」(158頁)など、誤った記述が見られる。つくづく歴史を記述することの難しさを感じるが、読者はこうしたことを差し引いて読んでもらいたい。日本の人は歴史を知らなさすぎるという。韓日併合に至った足跡を辿ってみてはいかがであろうか。
☆解説☆
*1 明治初年、岩倉具視らが欧米を巡遊している最中の留守政府の中で、西郷隆盛・板垣退助らが朝鮮(日本では李氏朝鮮と呼ばれる)を武力で打破し、国交を結ぼうと主唱した。こうした考えの背景には、江戸時代の国学の流れがある。『日本書紀』という史料には、日本が朝鮮半島に日本府を設置して朝鮮を支配したと書かれており、これを史実と考えて朝鮮支配を正当化する考えが国学で見られる。
*2 冊封(さくほう)体制とは、中央国に服属して朝貢する体制のこと。朝鮮半島にあった諸王朝は、古代からほぼずっと中国王朝の冊封体制下に入っていた。中華主義というのは、「中華」という中心国(基本的に中国諸王朝)を中心に、周辺諸国に朝貢させ、中進国が最も文化的に優れ、辺境に行くほど文化レベルが下がっていくという考え方。今回は難しい用語が多く、説明をできるだけ簡略にしているので不正確な表現で申し訳ない。
(2000 05/05 up)
韓国に関する本の紹介をどんどんしていこうと思っていたのに、なかなか更新することができなかった。これから紹介する本も実は半年くらい前に読んだのに、なぜか今日まで紹介することのできなかった本だ。ややタイミングを逃したかもしれないが、もしよければ読んでいただきたい。その本は川村湊『ソウル都市物語−歴史・文学・風景−』(平凡社選書、2000年)である。
作者の川村氏は、文芸評論家としてはもちろん、韓国好きの間には比較的名前の知られている人だと思う。ただ、僕は以前に授業でE.W.サイード『オリエンタリズム』を読んだとき、先生から川村氏のいい加減さを聞かされたので、前々から敬遠して読もうとはしなかったのだ。しかし、今回「食わず嫌いはよくない」と思い、ともかくもこの本に手を着けてみた。
「歴史を生き抜いた都市の過去から未来を、多彩な物語で読みとく、新しいソウル案内」と紹介されているこの本。もちろん、作者自身が「あとがき」で述べているように、川村氏はソウルで生活した経験がなく、あくまで旅行者の立場であると断っている。しかし、広くソウルに関する文献を調べた上で書かれたこの本は、なるほど充実した内容だ。
例えば、都市ソウルの歴史を紹介してくれたり、ソウルの風景を言葉で巧みに表現したりしているのみならず、ソウルで終戦を迎えた日本の少年達の言葉を借りて当時のソウルを描いてみたり、ソウルを歌った韓国の歌謡曲を読み解いたり、夜の町ソウルを紹介してみたりと、「ソウル」にこだわって多角的に分析をしている。中でも僕が一番興味を持ったのは、イサン(李箱)という日帝時代の詩人が書いた詩から、ソウルを読みとく部分だ。初めて聞く名前。韓国の人が日本語で詩を書く違和感。そして破天荒な彼の生活。一人の人間としてイサンに心ひかれていく僕がそこにいた。それだけでもこの本を読んで正解だったと言えよう。
ただ、第1章で風水から見たソウルを述べ、最終の第9章で結局そこに話が戻ってしまう部分は、かなり強引なこじつけが見られ、あきれてしまった。何らかの結論を出さなければならないと言う学者魂がそうさせたのかもしれない。しかし、正直に言って第9章はない方がいいと僕は思った。
とはいえ、この部分を除けば、さすがは韓国に詳しい方だと思わせる勉強ぶり。大変ためになることがふんだんに盛り込まれている。韓国旅行をして韓国にはまってしまった人は、この本を読んでどっぷりソウルにはまってみるといっかもしれない。
(2000 12/20 up)