この本読んで!3

「この本読んで!」は、僕の読書日記兼図書紹介です。

韓国だけでなく、それに付随したいろいろな分野に広げ、

主として僕の興味関心の赴くまま取り上げました。

主として文庫・新書を紹介していますが、高くて難しい

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11 アン・ナ『天国までもう一歩』小説

 このHPで小説を紹介することは久しぶりのことである。だいたい韓国関係の新書を中心に紹介をしていたわけだが、その理由はほかでもない僕が小説を読む習慣がほとんどなかったからだ。とはいってもそれは大学院時代の話であって、就職してから読書時間もなかなか確保できず、気づいてみたらHPの更新すらせずにだらだら過ごしていた。

 しかし、出張やら何やらで新潟まで船で行く回数も多く、だいたいは授業準備に追われているのだが、今年の夏に珍しく船で本を読むようになってきた。そこで、新潟の大型書店でたまたま 見つけたのがこの本である。別に更新するために買ったのではなく、偶然その表紙が僕の目に留まったからであるが、一応韓国関係なので開店休業状態にちょっとだけピリオドを打つためにこの本を紹介しよう。

 主人公は熱心なカトリックのや家族に育てられた少女パク・ヨンジュ。両親とハルモニ(おばあちゃん)との4人で韓国の田舎の小さくて貧しい家に暮らしていた。ヨンジュが生まれたときにはすでにハラボジ(おじいちゃん)は亡くなっていたが、ハルモニは「いい人しかいない愛にあふれた場所で、神様のそば」である天国にハラボジは住んでいると教えてくれた。いつしか少女の夢は天国に行くことを夢見るようになった。

 ところが、急にハルモニを置いて家族みんなミグク(美国・アメリカ)に移住することとなった。猟師をしていた暴力的なアパ(パパ)も「ミグク」と聞くだけで優しくなれる。オンマ(ママ)に暴力を振るわなくなる。押さないヨンジュにとって「ミグク」は魔法の言葉であり、親戚の住む遠い国。両親はアメリカン・ドリームを信じてミグクで暮らすことを決心したが、少女にとっては「飛行機」というバスに乗って行く天国で、そこにはハラボジが待っていると信じていた。年老いたハルモニは韓国に残る。しかしミグク=天国と考えていた少女にはそれがどんな意味を持っているかを十分には理解できなかった。

 ヨンジュはアメリカの学校に入学し、両親に将来を期待される。両親はアメリカでいい暮らしをするため、そして子どもをいい学校に行かせるために一所懸命働く。ある日、弟のジュンホが生まれ、両親の負担はさらに大きくなるが、昼夜なくいろいろな仕事をして手をがさがさにしていった。

 ヨンジュは小さいうちにアメリカに来て、アメリカの学校に通っていたため、アメリカ社会に溶け込んで行くが、両親はいつまで経っても英語を話せず、アパは子どもが家で英語を話すと怒る始末。子どものしつけには厳しい様子が随所に書かれていて、特に弟のジュンホには「男」としてに強い期待と愛の鞭が向けられた。

 しかしいつまで経ってもアメリカン・ドリームは叶えられず、アパは酒におぼれて仕事を失い、オンマもずうっと働きずくめ、期待のジュンホは登校拒否、主人公ヨンジュは友人に家族を合わせないように図書館へ通いつめる。夢と現実の間にゆれる家族の様子を、4歳から大学入学までのヨンジュの視点で描かれている。淡々と書かれ、大変読みやすく、そのせいか悲惨な内容が少女の視点で優しく描かれている。

 韓国では1960年だから、アメリカの移住が相次ぎ、正確な数字は分からないがだいたい100万人もの在米韓国人が暮らしている。その誰もが、アメリカン・ドリームを信じ、多くは挫折し、ミグクは天国ではないことを知る。決して政治的なメッセージを込めているのではなく、あくまでつらい日々を共にした家族への愛情によって書かれている。帯には「最もすぐれたヤングアダルト小説に贈られる全米図書館協会プリンツ賞受賞!」とある。どれほど名誉ある賞なのかまったく分からないが、韓日関係とは違った韓国の人の生活を垣間見ることもできるし、一読すれば分かるだろうが、これは私たち日本の人にも十分共感できる内容だと確信している。

(2002 09/29 up)

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