砂防ダムを知りたいあなたへ

砂防ダムってなに? どこが問題? やさしくまとめた Q&A


Q&A 目次

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Q1.砂防ダムは普通のダムとどこが違うのですか?

 私たちが普通目にするダムは貯水ダムと呼ばれ、水を溜める為に作られています。高さ14m以上のものを貯水ダムといい、それ以下のものを堰提といいます。利用目的は、発電、治水、利水など多目的です。

 一方、砂防ダムは土砂を貯めることが目的で、高さ約7m以上のものを砂防ダムといい、それ以下のものを砂防堰提といいます。その働きは、土砂を貯める事や、貯砂量の10〜50%の土砂を一時的に貯え調整したり、河床勾配を緩くして河の侵食を防ぐなど、土砂の流出制御に用いられています。その結果、災害を防止したり、下流にある貯水ダムの堆砂を防ぐために建設されています。

砂防ダム(鹿島 大川沢)

 

砂防ダムの機能(調節量)

 

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Q2.砂防ダムを見たことがないのですが、どこにあるのですか? たくさんあるのですか?

 山の中の川(沢)にたくさんあります。 日本全国に土石流危険渓流等(人家五戸未満も含む)は、183,863ヶ所あります(平成15年調査)。また、土石流危険渓流(人家五戸以上等)は89,518渓流あり、多い所は一ヶ所あたり約十基前後の砂防ダムが作られています。

 (国土交通省参照 http://www.mlit.go.jp/river/sabo/link20.htm

 砂防ダムは、上流からの土砂を貯えたり河床勾配を緩和する目的で作られるので、一つの川にかなりの数が作られます。 ダムの間隔は数十メートルおき、数百メートルおき、数キロメートルおきと様々です。

砂防ダムの間隔(外ヶ谷第三砂防ダム群)

 

砂防ダムの間隔(薄川 扉手前の山腹工事)

 

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Q3.作った砂防ダムはどのくらいの年月で土砂で埋まるのですか?

 十年前後の年月で満砂するものから、春にできた砂防ダムが、2,3度の大雨で秋には埋まってしまう事もあります。 地形や条件により様々です。砂防ダムが埋まる原因は、自然による土砂ばかりではなく、上流で行われる林道建設や砂防ダム工事からの土砂があり、下流の砂防ダムの 容量の半分が埋まってしまったこともありました。また、森林の完全伐採も砂防ダムの堆砂を早めます。

 満砂しても、砂防ダムは全く機能しなくなるのではなく、貯砂量の10〜50%の土砂を一時的に貯え調整したり、河床勾配を緩くして河の侵食を防ぐなど、土砂の流出制御機能を果たすことができます。また、浚渫(しゅんせつ)することにより砂防ダムの貯砂機能を復活させることができますが、実際は浚渫せずに上流に新たに砂防ダムが作られることが殆どです。(浚渫:ダムの底に堆積した土砂を取り除くこと)

満砂した砂防ダム(鹿島 大川沢)

  浚渫せず満砂したままの砂防ダムは、袖抜けや底抜け(下の写真参照)により崩壊を起こしやすくなります。

満砂により底抜けした砂防ダム(薄川姥沢)

 

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Q4.砂防ダムは環境にどんな悪影響を与えていますか?

1.海への影響
・海岸線の侵食 : 砂防ダムは川から海への土砂供給を止めてしまいますから、海岸線が侵食されてしまい、侵食を防ぐ為の海岸線の工事が莫大な税金を使って行われています。

・海の生物への影響
: 砂防ダムは川から海への養分やミネラルの供給を妨げますから、海が痩せてしまい海草、魚、貝などの生育が妨げられ、ひどい場合は、"磯焼け"と言って生物のいない死んだ海になってしまいます。

2.骨材(建設用の砂利)の不足

 本来 人々は、川が山から運んできた骨材(じゃり)を利用してきました。砂防ダムが土砂の運搬を妨げることで、川から骨材を取ることが出来なくなった現在、山を崩したり 海底を掘ったりして骨材を得ており、山や海底の環境を害しており問題となっています。また最近では 骨材を国内で供給できず 中国から輸入しています。 川の持つ土砂運搬機能を見直すことでこれらの問題は解決されます。

磯焼け(海の砂漠化) 『森が消えれば海も死ぬ』 (ブルーバックス)より


川を遮断する 大冷沢砂防ダム

川の遮断 黒部川祖母谷

 

景観を損ない、川を遮断する 鹿島 大冷沢 第四砂防ダム

3.川魚への影響
 川魚の場合、下流や上流へと自由に移動出来ることが、種の繁栄につながります。例えば、部分的に絶滅したとしても残った個体が下流または上流に移動することで、復元されてゆきます。また種が多く交わる事で遺伝子が強化されます。 ところが、砂防ダムは川を分断し、魚の移動を妨げます。

魚の上がらない魚道 水殿川 取水口

 

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Q5.砂防ダム一基いくらするのですか?

 高さ14m級のもので1〜4億円もします。 これは、本体のみの価格で、工事用の道路、橋、トンネルなどの付帯工事を含めると、その2倍以上の値段になることもあります。最近は砂防ダムが大型化する傾向にあり、我々の住む長野県では総工事費21億5千7百万円の高さ28.5m、堤長59mの中房砂防ダムが造られました。

 

藤井沢ダム 高さ14.5m堤長133m貯砂量48650立方mダム本体の費用5億600万円

 

宮入川 宮ノ上砂防ダム 高さ14.0m 堤長120m貯砂量16600立方m 本体費用2億8500万円

 砂防ダム建設により、国土交通省は安全になったとし、危険な場所に人が住むようになりますが、砂防ダムでは危険を防止することはできません。そこが危険地帯である事を情報公開と積極的なPRをし、そこに住む人々は自己責任と受益者負担の考え方を入れ長期的には危険地域への居住をやめるべきです。

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Q6.なぜ土砂が流出してくるのですか?

 なぜ山の尾根や谷ができたのか考えてみて下さい。造山運動で持ち上がった大地が雨水等の作用によって浸食されてできたのです。その時浸食されて流れ出てきたものが土砂です。この働きは浸食しつくして、山が無くなるまで続きます。

白馬鑓上部 山からの土砂供給は止まらない

 

針の木沢砂防群 山と谷は土砂を出し続ける

 

扇沢上部 谷底は大量の土砂が貯まっている。これらは下流へと移動する。

 

針の木沢と扇沢出合 谷には遊砂地(堆積部)と浸食地とが存在する

 

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Q7.砂防ダムはいくつ作れば十分なのですか?

 日本全体で一年間に流出する土砂量は約二億立方メートルと推定され、どんな沢や谷でも土砂は流出し続けています。新しく砂防ダムを作っても遅かれ早かれ満砂し、調節機能では土砂の流出を十分コントロールできません。砂防ダムによって土砂の流出を完全に防ごうとすれば、山頂まで砂防ダムを作り続けることになり、山全体をコンクリートで覆うことになりかねません。

 

砂防ダムで土砂流出を防ごうとすれば山頂まで砂防ダムをつくりつづけるしかなくなる

「山と渓谷」 98年1月号 蝕まれた日本の山々 写真家瀬尾央 より

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Q8.でも砂防ダムがないと困るんでしょ?

 砂防ダムの建設によって、土石流や土砂崩れの発生しやすい危険地域にも人が住むようになりました。しかし砂防ダムでは災害を完全に防ぐことはできません。土砂災害防止の為には、砂防ダムを作り続けることではなく、谷の出口近辺や扇状地の上部、山の急傾斜面の近くなど、土砂流出や土砂崩壊の起きやすい危険地域への人や住居の進出を止めるべきです。砂防設備の限界を考え、土砂の流出、崩壊を前提とした住み分けを考え、最も安全でお金の掛からない方法を総合的に選ぶべきです。

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Q9.土砂流出の最も良い防止方法はなんですか?

 古くから人々がやってきた森林の育成です。山林は雨水を一時的に蓄えて徐々に時間をかけて放出する働きを持っています。雨水が一度に集中して流れなければ浸食作用も少なくなります。また、樹木の根は地面をしっかり固定して崩壊しにくくしてくれます。

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Q10.砂防ダムを造れば安心できますか?

 安心とは言えません。流出土砂量を算定する事は困難である中で、砂防ダムの大きさが決められています。過去の多くの災害事例を見ると、流出土砂量は砂防ダム能力を大きく上回っています。多くの専門家が指摘していますが雨量による流出土砂量の算定は難しく学問的にも確立していません。災害の原因の一つである崩落の場所とその土砂量を計算に入れることができないからです。 また、最近道路やトンネルなどのコンクリート建造物の崩落が頻発していますが、砂防ダムも例外ではありません。高さ数十メートルもの砂防ダムがコンクリートの劣化や地震などで壊れれば、砂防ダムが災害の原因となってしまう危険もあります。

参考

■2008/08/02 まさのあつこ ダム日記2 より 「最近壊れたダム、砂防ダム


浅野川(金沢)上流の砂防ダム決壊

金沢市内の浸水被害がテレビでも大きく報道されたが、浅野川の支流の板ヶ谷川の砂防ダムが壊れ、1万立方メートルの土砂が砂防ダムから流れ出したことが判明。
■2008/06/21 大雨の日 板木ダム 壊れる (清川櫂さんのBlogへリンク)
(ダム撤去が中止となった荒瀬ダムの上流にあるダム)
 四川の大地震のとき、既存ダムの決壊による危険性が指摘されていましたが、日本に於いても100年以上にわたり作り続けてきたダム・砂防ダムの老朽化による損壊で、災害発生の危険性があります。ダムの巨大化と老朽化は、今後地震、大雨による災害ポテンシャルを高めることにつながります。その対策としてダム撤去、既存砂防ダムのオープン化などがあげられます。
 損壊した板木ダム(昭和12年)の上流にある荒瀬ダム(昭和29年)は住民合意のもとに撤去が決まったのですが、財政難を理由に蒲島熊本県知事によって撤去が凍結されてしまいました。(6月10日 抗議文 提出)

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Q11.砂防ダムの建設費用は全国ではどのくらいになりますか?

 土石流危険渓流は全国に7万9千318渓流もあります(建設省松本砂防工事事務所の資料による)。すべての渓流に砂防ダムをつくるとすれば、どのくらい費用がかかるでしょうか? 一つの渓流に対して砂防ダムの最小限の一基しか造らなくても、三億円(14m級)×8万渓流=24兆円 もかかることになります。一つの渓流に対して複数のダムが造られることが多いので、費用はこの数倍にもなる事が考えられます。
 また、今後は建設費ばかりではなく、補修費や改修費も増加することが予想されます。なぜなら、コンクリートの寿命はせいぜい100年だからです。しかも、海砂を使用した場合は鉄筋の錆を早め、コンクリートの割れの原因となります。また、アルカリによるコンクリートの劣化などの要因も加われば、さらに寿命は短くなります。最近ニュースをにぎわせている道路やトンネル内のコンクリート崩落事故、マンションのコンクリート劣化の問題などを見れば、コンクリート建造物の安全神話の崩壊は明らかです。全国に約8万の土石流危険個所があるのですから、建設省の計画通りに事が進めば、将来、全国に数十万以上の砂防ダムが存在することになります。これらの砂防ダムはコンクリートの劣化や寿命がくれば、大規模のものは災害の原因になるため、それらの維持は必須であり、そのために必要な税金も莫大なものとなることが予想されます。今後の日本経済を考えると、これらの維持費を捻出できるかは大変疑問です。建設したはいいが、将来維持ができなくなるようなことが起これば、寿命の過ぎた砂防ダムが災害を引き起こす事になりかねません。
 日本の公共事業は、GNPの12%にも達し、主要先進国でこのような国はありません。アメリカと比べ人口1/2、面積1/25の日本が、アメリカを上回る公共事業を毎年行っています。日本は世界一の土建国家であり、セメント消費国です。(「日本環境報告」 本多勝一 より)
 今までの方法を見直す時期が来ています。

 

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[参考資料]

Q4.2) 骨材/ダムの堆積土 に関する資料

「骨材需給動向調査 〜 西日本の砂需給動向とその対応〜」  (国土交通省)
      川砂が少なく、コンクリート需要が増加した西日本では6割以上を海砂により供給しているが不足している。
      輸入や砕砂で対応する事を検討?。

「輸入骨材の現状」  財団法人 経済調査会
      骨材の輸入先  中国からの輸入がほとんどである。北朝鮮、韓国、ベトナムなどから輸入している年もある。

「中国新聞 川から山・陸・海へ」 

コンクリートの弱点

コンクリートにとって理想的な砂は川砂です。しかし、大きな川が少ない西日本では、川砂の大量入手は難しく、海砂に大半を依存しています。海水を存分に浴びてきた海砂は、塩分を含んでいます。塩分そのものがコンクリートに対して悪影響を及ぼすことはありませんが、鉄筋に致命的なダメージを与えます。

中国新聞 砂上の現代 1999-05-31」
  南アルプス 三峰川の美和ダムでは浚渫した砂をコンクリートの骨材として利用(地元 南信地方の10%を供給)。
  年間10万立方を採取。 一千万以上の収入は特例で村に入る。

農作物の栽培用に利用」(中日新聞2002-09-25)
  ダムに堆積した土砂は場所によって種類が異なる。良質な骨材とし利用できるもの以外の土砂もあるが、
  それらの中には農業用に適したものもあり、農作物栽培への利用を試行している。

美和ダム堆積土を有効活用」  国土交通省 中部地方整備局 三峰川総合開発工事事務所

 三峰川総合開発工事事務所では、美和ダムの機能を維持拡大するためダム湖に堆積した土砂の掘削を行っており、この土砂は土壌の伝染病菌がきわめて少なく、カリウム、カルシウムなどのミネラルを多量に含んでいることから植物の栽培用土としての有効性が確認されています。。

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   更新日 : 1999/12/08.  Q10.コンクリート崩落の危険性を追加
   更新日 : 2000/02/06.  Q11.老朽化したダムの維持管理費の追加
   更新日 : 2005/09/17.  Q4.2) 骨材に関する参考資料を追加。
   更新日 : 2009/12/19.  Q2.土石流危険渓流等の箇所を最新情報に修正
最終更新日 : 2011/12/31.  Q10.砂防ダムが壊れた事例の追加