「荒瀬ダムの撤去凍結」の撤回の要請書

2008年6月10日

熊本県知事 蒲島郁夫殿

 熊本県の環境保護団体から聞いたところによると、貴殿が県の財政難を理由に「荒瀬ダムの撤去凍結」を発表されたと言うことです。
私たちは、熊本県が荒瀬ダムの水利権更新期に合わせてその撤去を決めたとき、その決断を高く評価していました。ダムの弊害は熊本県の問題だけではなくここ長野県においても同様なことが起きています。熊本県が全国に先駆けて「荒瀬ダムの撤去」を住民合意の下で決めたことはきわめて意義のあることです。
また球磨川の治水、アユ等の水産資源をはじめとして川の連続性を復活させる環境の回復・保全を考えたとき、「荒瀬ダムの撤去凍結」は球磨川流域住民・熊本県民の思いを、そして私たちが持っている熊本県の先見性への高い評価を決定的に踏みにじるものです。
私たちは球磨川流域住民・熊本県住民が貴殿に提出した下記の「抗議文」を強く支持し、「荒瀬ダムの撤去凍結」の撤回を求めます。

渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える 代表 田口康夫


球磨川流域住民・熊本県民が貴殿に提出した抗議文

2008年6月5日

                                           
熊本県知事 蒲島郁夫様

               子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会
               清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会
               球磨川大水害体験者の会
               川辺川利水原告団

抗議文

 昨日6月4日、貴職は県営荒瀬ダムの撤去方針を凍結し、発電事業を継続する方向で再検討すると発表しました。代替の架橋工事等も含む撤去費用が100億円近くにかさむことなど「県財政再建」「温暖化対策」を理由に上げていますが、以下の理由で強く抗議するものです。

 まず第一に、荒瀬ダム撤去は、流域住民の間で長年、幾度も論議を尽くされた結果の、住民の意思です。これまで50年間の坂本村民や流域漁民の荒瀬ダムによる水害や振動、水質汚濁など被害やそれに対する思い。2002年6月の坂本村民による「荒瀬ダムを考える会」の発足。同年9月の坂本村議会の荒瀬ダム継続反対の意見書可決。潮谷前知事の荒瀬ダム撤去表明。そして今日までのプロセスを、貴職は認識されているのでしょうか。この住民の意思と、これまでの経緯を無視することは、許されることではありません。

 50年前に荒瀬ダムができてから出現した、水害被害地とそこに住む人々について、貴職はどのように考えておられるのですか。住民はダムによる水害と環境破壊から逃れられる日を、待ち焦がれています。旧坂本村民、球磨川の流域住民及び熊本県民が納得できる説明を求めます。

 第二に、貴職が先ほどの県知事選挙で提示したマニフェストに、「荒瀬ダムの撤去方針を凍結」はどこにもないことです。マニフェストにあるのは、「お役所仕事の時代は終わりました」「県民みんなの力で難局に立ち向かう」「熊本の宝・農林水産業を活性化します」「日本一の環境立県くまもとを目指します」など、「荒瀬ダムの撤去方針の凍結」とは真反対のことばかりです。

 第三に、貴職のマニフェストにも書かれている「県財政再建」に関してです。貴職は、荒瀬ダム「撤去」よりも「継続」のほうが県財政にとって有利であると判断されたわけですが、それは大きな間違いです。荒瀬ダムは、発電で年間1億円の利益が見込めるということですが、球磨川の漁業・観光資源は、少なく見積もっても30〜35億円の価値があるという試算もあります。荒瀬ダムを撤去すれば、球磨川の河川環境が今より飛躍的によくなることは明らかで、球磨川の漁業・観光も繁栄するなど、有形無形で大きな公益を県民にもたらします。貴職のマニフェスト「熊本の宝・農林水産業を活性化します」は、荒瀬ダムの継続ではなく、荒瀬ダムの撤去で実現するものです。

 また、荒瀬ダムを継続すれば、今後もダムの維持管理費、ダム湖周辺の護岸や道路の補修などが、ダムが存在する限り必要となります。ダムが寿命を迎える日には、当然撤去費用も必要となります。

 熊本県にとって100億円近くの出費は極めて厳しいことは、私共も十分承知しております。一方で、川辺川ダムの建設費を3300億と見込んだ場合、県負担総額は735億円と見込まれています。このような多額の出費は、当然熊本県には無理なはずです。何も有識者会議などの形をとらなくても、「県財政再建」の一言で川辺川ダム建設は中止すべきです。

 現在、地球上の自然を守り、自然を回復する必要性が叫ばれています。そのことは、「日本一の環境立県くまもとを目指します」とマニフェストでも明らにされた貴職も十分認識されていると思います。

 先日、タイ王国から来熊されたNGO代表のサイアペンさんは、タイで行われる公共事業の犠牲になる自国民と比べて、豊かで民主主義の徹底した日本の象徴として「荒瀬ダムの撤去決定」を位置づけられ、東南アジアの発展途上国にこれを範として知らせると述べられました。貴職は、自然保護の旗手として、自然回復のさきがけとして、世界にこの日本の熊本から「荒瀬ダム撤去」を発信されるはずでした。貴職は、日本の、世界の誇りとなる栄誉を自ら捨て去られたのです。

 以上のことを勘案して、「荒瀬ダム撤去方針の凍結」を即時撤回されることが、熊本県知事として当然のことと考えます。目を覚まして下さい。

以上