蟹の背骨
クルマに限らず、機械のフレームや筐体というのは、内蔵する部品の作動環境を整える役目を担っている。
だから筐体の形状は、内臓部品によって決まってくるのが普通である。しかし最近は、ハンディキャムや
ウオークマンにせよ、「女性向デザイン」などと言って外形を先に決められてしまう事が多い。こうなると
臓器提供者ならぬ機械設計者は頭を抱えるわけで、昔に比べて窮屈な思いを強いられる担当者が増えてきた。
ウェッジ・シェープ以前のセオリーでは重心点を低い位置に置く事が至上命題だった。そのため燃料タンク
は車体側面に沿って低く平らに、ラジエーターやオイル・タンクは言うに及ばずエンジンまでもが低位置に
拘った。しかしウィング・カーの場合は底面の翼型形状が命であり、底面形状を阻害する部品は配置を移す
必要が生じた。燃料タンクは一まとめになり、コクピットとエンジンの間に挿んだ。そのためモノコックは
かつて無いほど細身になった。
かつての子持ち魚は、断面積が稼げるため捩り剛性が高く、アルミの箱で事足りた。しかしウィング・カー
のモノコックは断面積が極端に小さいばかりか、その側面にラジエーターやインター・クーラー等が装着
される。当然、剛性は足りなくなる。来るべき時に至って新素材に希望を繋いだわけだ。
ウェッジ・シェープとウィング・カーを並べてみると、下の写真になる。
(上:ウェッジ・シェープ 下:ウィング・カー)
ウェッジ・シェープの場合、ドライバーはエンジンを背にして、後輪に近い位置に座っていたが、燃料タンク
を挿んだウィング・カーでは、ドライバーが前の方に押し出される。こういう事も後輪の滑りを掴み辛くした
原因かもしれない。 (Fulcrum 著)