他人の言い分は置いといて
水平対抗の幅に災いされて、312T4 は特異な形状にも関わらずウィング・カーとしては不完全と言える。
下の写真を見比べれば解るように、312T4 では青い補線よりもエンジンが幅が広く、車体の底板(当時、これを
サイド・ウィングと呼んだ)が狭くなる。つまり、翼面積が小さくなるのでダウン・フォースを稼げないというのが、大勢派の
意見である。
しかし、うがった見方をするなら、こうも言えるだろう。ウィング・カー後発組のフェラーリと言うより
フォルギレーリは、同業他社の問題点も観察していたわけで、特にポーポイズを見て、「ありゃ、そっくり
真似できねぇぞ」と考えたに違いない。彼は従来の 312T? にグラウンド・エフェクトの味付けを施した。
サイド・ウィングの効果を鑑みて、トレッドは前:170cm、後:160cm と、タイヤ幅も考慮すれば、全幅は
205cm の制限ギリギリになる。リア・サスペンションは、ラディアス・ロットが廃止され、フロントと同じく
インボード式である。リア・サスペンションは、精巧なマグネシューム鋳物のブラケットを介してミッション・
ケースに取り付けられている。
面白い事に、312T4 のサスペンションには、前後共、アンチ・ダイブ及びアンチ・スクオッドのための
幾何学的な配置はされていない。空力を優先すれば、リンク機構が捩れるような仕組みは敬遠したのだろう。
その代わり前後のサスペンションは、太いボウデン製ケーブルで連結されて、加・減速時の姿勢変化を
抑制している。言うなれば、トヨタのウィンダムに装備されたスカイ・フック・サスペンションの機械制御版
と思えばよい。例えば加速時にリアが沈むと、ケーブルがフロント・サスを吊り上げて車両の水平を維持し、
減速時は逆に、ケーブルがリア・サスを吊り上げて車両の水平を維持する。これなどは、正しくポーポイズ
の対策そのものではないか。
(Fulcrum 著)