アンチ・ダイブ・サスペンション・ジオメトリー
重量の移動が原因でおこるブレーキのノーズ・ダイブ(つんのめり)と加速時のスクオッド(反り返り)を、サスペンション・
ジオメトリーを工夫する事で解消する試みは昔からやっていた。特にアンチ・ダイブ機構は第二次大戦前に例があるし、
戦後、米車が好き好んで使ったため、今日でも乗用車では当たり前の手段である。これのお陰で以前よりは、初心者に
ありがちなカックン、カックンのブレーキは緩和されている。
レーシング・カーの場合は、「空力部品は車体に固定する事」と定められているため、空力方面の要求から、走行中の
車体姿勢を安定させる事が至上命題となった。ただ、ダイブやスクオッドを、どこまで捻じ伏せるべきかは、議論が分かれる
ところだ。
上に指し示すように、サスペンション・アームをV形に配置し、アームの交点を重心を通る水平線上に置けばダイブ・
モーメントは0になる。しかし事実上は無理だから、タイヤの接地点と重心を結ぶ基準線上にアームの交点を置く。
この場合、ブレーキによるダイブ・モーメントとブレーキ・トルクは相殺される。ただしアウトボード・ブレーキにのみ有効な
手段である。インボード・ブレーキの場合は、ブレーキ・トルクの反動で、車体がブレーキ回りに回転しようとするので、
V形理論は通用しない。
件のジオメトリーの弊害は、車輪か上下した時に、キャスター角が変化する事だ。ステアリング・フィールに微妙な影響
を及ぼすキャスター角が、バンプの度に片方だけ変化する事は望ましくはない。だからアンチ・ダイブ効果を100%には
しないのである。ここいらも妥協の産物で、ドライバーとエンジニアが、「お話合い」を重ねて決めることになる。
(Fulcrum 著)