ポーポイズ
車体の底板(当時は、これをサイド・ウィングと呼んだ)の翼舷が長いため、サイド・ウィングによる風圧中心(ダウン・
フォースを翼全体で積分した合力の作用点が翼舷と交わる位置)が、飛行機の常識に照らすとかなり後方に有るので、
速度が高くなるにつれて、前輪よりも後輪が顕著に沈み込む。この姿勢で安定すれば文句は無いが、この姿勢は
サイド・ウィングにとって迎角が浅くなるわけだから、次の瞬間にはダウン・フォースが低下する。これが短い周期で
連続して起こる現象がポーポイズ(イルカの水跳ね)と言われるピッチング現象である。
電子部品の中では高温環境に最も弱いトランジスターが、実は最大の発熱源だったりするが、羽根に代表される
空力部品も、整った気流を受けなければ充分に機能しない癖に、自分自身は流れを酷くかき回す。
グラウンド・エフェクトがある程度煮詰まったウィングカー後期になると、どのチームもフロントウィングをもぎ取った。
これは、サイド・ウィングのダウンフォースで充分だという事ではなく、サイド・ウィングの効率を確保するために邪魔物を
排除したのである。サイド・ウィングの効能を安定させる目的の一つが、ポーポイズ対策だとしてもおかしくはない。
ウィリアムズは FW08 でフロントウィングが無い「寸詰まりのクルマ」を作ったが、これは元々6輪車用に開発された
ショート・ホイルベースのシャーシー FW08B の後ろ2輪を切り落とした物だ。
WILLIAMS FW08B (1982)
ティレルP34 の項で、FW08B の多輪化 は空気抵抗軽減が目的だと考察したが、案外と、ポーポイズ(高速度域では、
前輪よりも後輪が顕著に沈み込む現象)を抑える目的で、支点を増やしたと見る方が正解かもしれない。しかし直進性は
向上しても、旋回(特に60Rのヘアピンともなれば)は辛かったのだろう。結局は日の目を見ないで終わった一台である。
(Fulcrum 著)
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