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記憶の水底に勿忘草を


あぁ、なんとしたことか。
9月以来、この「コラムもどき」は更新ナシ。
よくこれで、メインコンテンツなんていったものだな、
という感じですが、もう12月31日、おおみそかです。

昨年のような、風邪で参ったこともなく、
今のところ、体力的には平穏な年末年始ではあるのですが、
ふと、理由もなく降ってわいたような
不安のようなものがありまして。

今(2002年12月31日現在)では、
もう放映されていないとは思いますが、
プレステ2のソフト、ダーククロニクルのCMが
非常に印象的でした。

かつては、RPGにわくわくして並んでまでして買っていたのに、
いまじゃ、ラーメン屋でさえない顔をして並んでいる…
あの感動がよみがえる…

てな、内容のCMだったと思います。
20代半ばくらいで、そんな感傷的でも困る
と言われるかもしれません。

ですけど、別段年齢でどう、ということではなく、
かつて、情熱をもってやっていたことが、
(先ほどのCMでは、RPGです)
いまや、自分の中で過去のものとなり、
生活のすみに追いやられてしまっている、
という現前たる事実と対峙すれば、
明るい気分にはなれません。

今は、今のわたしがあります。
だから、過去の自分とは違って、
したいことの幅も増えていますから、
自分が自分のスタイルをつくり続けていける限り、
現在と過去で、生活スタイルが変わっていくことには、
何の未練もありません。

ですが、かつて熱心にやったはずのことを、
こんなにたやすく、こんなにさっぱりと忘れていくという事実、
この事実には呆然とせざるを得ません。

夢中になっていたそのときの感覚、
そこで「当たり前」として遣っていたことば、
自分なりの成果、自分が考えた結論、自分が学んだこと、
そんなことが、ほんの断片でしか、
出てはこないのです。

それは、今の自分の血となり肉となっているのだろうか、
消化してしまっているのではないか。
いろんなものに興味を持つことが大切だと思ってきたけれど、
その代償として、その都度忘れていくのであれば、
中身を入れ替えただけの別の人間に
なってしまっているだけなのではないか。

こういう心配は、今の生活が楽しく、また楽しいように見え、
また将来どうするかを、こうして、ああしてと
楽しく考えられるからこそ、の不安であるのかもしれません。
かつて情熱が向けられていたものが遺跡のように見えてくると、
今、このときもこうなるときが来るのか、と
思わないではいられないのです。

かつて自分の記憶にあって、今は無意識の底に沈んでいた記憶が
まだ自分の記憶として、存在することを確かめられることで
感じる暖かさを「懐かしさの感情」だとしても、
逆に、自分の記憶として確かにあるのだけれど、
でも、もう忘れつつあって、いずれは忘れてしまうんだろうなぁ、
と「懐かしさ」を捉えてしまうと、大きな無力感を伴って、
「懐かしさ」を感じることになります。

先日、博多に所用があり、知人二人と酒を飲んでいました。
うちひとりが、三人とも知る、かつてあったできごとを
なにかにつけ「懐かしい」と言っていたのが、
なぜか、記憶に残っています。

そのひとにとっては、なにげない、
自然に出てきたことばなのでしょうが、
忘れることのわびしさ、記憶というもののかけがえのなさを
考えることが多かったわたしは、
帰りの新幹線で、何度も反芻しました。

邁進するのもよいけれど、どこかで立ち止まらなければ、
いま自分が何をしているのか、どういう道を通ってきて、
それがどう今とつながっていて、将来にどうつなごうとしているのか
そんな全体図をつかみきれないまま、
また日常に繰り出してしまう不安に最近になって
思い至ったというところが現状です。

ここまで書いてみると、ふとかつてわたしが書こうとして、
ボツにした原稿(?)でこんなことを
書いたことを思い出しました。

 互いに関心を持ち合っているところには、
 しっかりと関係性が保たれている。
 所属感や関係性とは、互いにないものを引き出し続けられる
 可能性と表裏一体なものなのだろう。

今どうして、こんなことを考えているのだろう。
それは自分にもよく分かりません。
ですが、広く関心をもつことには留意してきても、
自分の関心と関心の関係性には、無頓着だったかもしれません。

ただ単に仕事をがんばっている人よりも、
趣味を多く持ち、そこからさまざまなヒントを
得ている人のはなしを読むと、
やはり同じことばかり考えていることの
弊害を思い知らされます。

2003年、どうなるかは分かりません。
自分の思った道を進むのはもちろんですが、
温故知新という言葉もありますし、
記憶の奥底に眠っていることも
たまには思い出して、ひとつのことに
凝り固まらぬようにしていきたいと思います。

2002-12-31


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