「表か裏か!?Heads or Tails!?」1章 カラップス・アイ
著者:鯛の小骨さん
2章 開戦 3章 始まりの終わりか終わりの始まりか

一話『光と闇』

暗〜い、暗〜い闇の中、幾千幾万の光の中を白い光が尾を引いて、
まっすぐに飛んでいた。
そしてその光を進行方向へ延長するとやがて真っ青なひとつの惑星にたどり着く。
光は確かにそこを目指して闇を切り裂いていた。

日の光が一層その光を輝かせる。
それはぼうっとしたその光を際立たせ、その形をはっきりと映し出した。
それは真っ白な宇宙船。
決してスマートな形であるとは言えないが、
淀みのないその白さは宇宙船を言葉を失うほどに神秘的に見せるには十分すぎた。

ここは先ほどの宇宙船の中のようだ、ここは居住区らしい。
一通りの家具とキッチンが備えられ、生活するのに不自由はしないだろう。
「ヘブンを離れて丸一日、まだ地球には着かんのか?ユーナ。」
その部屋をうろうろと落ち着きなさげに歩く少女が、
彼女とは対照的に大きなソファに腰掛け、半目で今にも眠りそうな少女に聞いた。
ユーナはまったくその様子を変えることなく、
「ん〜、そのうち着くわよ。のんびり行きましょう、セラちゃん♪」と返した。
「どうしてお主はそう楽天的なのだ?こうしている間にも……!」

プシュー

セラの言葉をさえぎるようにして艦首側のエアー式のドアが開いた。
「さ、急ごう。ロールちゃんやトロンちゃん達みんなのおなかを早く
いっぱいにしてあげなきゃ。」
「はい、急ぎましょう〜。」
出てきたのはセラ達と同じぐらいの年代の少年と黄色い頭の小さなロボット。
「ロック…」
セラは彼の姿を認めるとすぐに尋ねようとしたが…
「あ、セラさんとユーナさんもお腹すきました?ちょっと待っててくださいね。」
と返された、しかしあきらめずにもう一度聞く。
「いや、そうではなくて…あとどれくらいで地球に着くか知りたいのだ。解るか?」
キッチンに立って料理の準備をはじめていたロックは手を動かしつつ答える。
「え〜っと〜、ロールちゃんの話だと…今は20時だから…あと12時間ですね。」
ロックは準備を終え、調理を開始、手際よく材料を切り始めた。

にわかに活気付いたキッチンとは裏腹に、セラの顔色は思わしくない。
「12時間か……長いな…」
ぽつりとセラが呟いた。

二話『セラの勘』

セラは管理者としての能力なのか、それとも生まれついてのものなのかは
解らないが、『カン』というものに非常に優れていた。

実際カンというものは2種に分かれる。
一つは経験、知識からくるいわゆる詮索・予想。
もう一つは根拠のない予知に近いもの。

セラはその両方に優れており、
前者は彼女の言葉一つ一つに重みと説得力を与えていた。
一方後者はセラ自身根拠のない話を嫌い、内容を他者に打ち明けないためか
ユーナや側近のガガやジジ以外でそれを知る者は少ない。
ただそのカンはセラ自身が驚くほどによく当たっていた。
良い事も、悪い事も。

「なによ、さっきから黙り込んでむっすりしちゃって…またなの?」
ユーナが歩き回ることをやめ、先ほどからずっと一言も発しないセラを気遣う。
「地球が心配なのね…大丈夫よ!何のためにガーちゃんとジジを地球へやったの?」
「ふむ…だがもし…もしガガやジジたちが為す術なく
やられるような敵や他の何かが目覚めていたらどうする?」
「え…?ま、まさか…嫌な事言わないでよ…」
ユーナの声が小さくなる。
「やはりお主も気づいてはいたか…封印された古き神々や他の者達の中に
私たち以上の力を持つ敵や物が存在することに。」

セラは不安だった。
確かにガガやジジは強い。復活して間もないとはいえ修復された体にもなじみ、
以前と変わらぬ強力な戦闘能力を有している。
現時点でのセラやユーナの記憶の中で彼らに勝てそうなのは今キッチンで忙しく
動き回っているロックぐらいだ。
それほどの強者を倒す力を持つ者が目覚めると、
危険な遺跡が連動して目覚める場合がある。
そんな遺跡が全人類を滅ぼすのに時間はかからないだろう。
自分が守ると決めた人類が自分の手の届かぬところで殺される、
守るために戦うこともできずに殺される。
それはセラにとって最悪のシチュエーション以外の何ものでもない。

「マスターが死ぬ直前感じたものと似ている…嫌な感じだ…」
大切なものを失う事への恐怖か、それともその強大な力が目覚める事への恐怖か。
言いようのない不安が体にまとわりついているのをセラは確かに感じていた。

三話『苦いコーヒー、美味いコーヒー』

「もしもし〜?」
「ん、お前は確か…コブン…3号だったな。」
セラが振り向くと、先ほどまでロックと一緒にキッチンでせわしく働いていた
黄色い顔のロボットが立っている。
コブンは手に持っていたコーヒーカップにコーヒーを注いでセラに差し出した。

「ぼく達の見分けがつくんですか〜?感激です〜!
あ、それからこのコーヒー飲んでみてください、とっても美味しいんですよ〜。
うちの料理長特性のブレンドコーヒーを使ってるんです、
苦さの中の深〜いコクがたまりません〜。」
セラは差し出されたコーヒーを受け取り、その水面を覗き込んだ。
漆黒の液体がセラの顔を歪めて映し出すと同時に一口彼女の口に注がれた。
(苦い…けど)「うまいな、ありがとう。」
「いえいえ、おかわりなら何杯でもありますよ〜。」
「じゃ、あたしにもちょうだい。」
唐突にユーナが割り込んできた。

コブンは「お安い御用です!」と言ってコーヒーカップを取りにトテトテと
再び台所にかけていく、しばらくすると今度はロックも一緒になって戻ってきた。
二人はユーナの分のコーヒーだけでなく大量のサンドイッチと、
野菜スープをお盆に乗っけて運んでいる。
ロックはまるでレストランのベテランウエイターのように左腕に二つのお盆、
右腕に一つのお盆を持ち、
コブンはコブンで頭の上と両手に各一つずつ計三つのお盆を運んでいた。
「ユーナさん、お待たせしました〜。
ちょっと自分の分のコーヒーとサンドイッチとスープ、取ってもらえますか〜?」
「すごいわね…ありがと、3号君。ロック君もご苦労様。」
「お二人はそれ食べたらもう休んでいて下さい。
後はもう地球につくのをひたすら待つだけですから。」
「はいはい、あなたたちも無理しちゃだめよ。
あ、そうそう、セラの分のサンドイッチとかも貰うわね。」

そういうとユーナは自分とセラの二人分の軽食をコブンの頭から受け取り、
艦首に戻っていく二人を見送った。

四話『セラへ、ユーナより。』

「ロック君も大変ねぇ。」
ユーナは先ほどコブンから受け取った二人の軽食をテーブルの上に置くと
コーヒーだけ手にとってセラの隣に座った。
「ああ、ヘブンにロールやトロンと言う子達が来るまでの時間、
何度も『本当に私と闘ったのはこのロックなのか?』と思ったよ。」
「そうね、今の彼だけを見ていたら戦ってるところなんか想像も出来ないわね。
でも今の彼だからこそあなたに勝てたんじゃないかしら?
彼がトリッガ―だった頃は相打ちだったでしょ?」
セラは立ち上がってテーブルの席についた。
「そうだな、あの強さはロック・ヴォルナットのものだろう。少し食べようか…」
ユーナも連れ立って席に着く。
「そうねせっかく作ってくれたんだもの、冷めないうちに食べましょうか。」

二人は食事中会話と言う会話もせず静かに用意された軽食を口にし、
最後にユーナが残ったコーヒーを飲み干すとセラに聞いた。
「そういえば、さっきなんであのコブンが3号だって解ったの?」
ユーナとセラはまだ子分たちに会って二日と経っていない。
当然とも言うべきか、ユーナの目にはみな同じにしか見えなかった。
「彼らの主人にいろいろ聞いたからな…
全部で40体いるそうだが一人一人違う心をもっていて、
それが行動やしぐさに表れるそうだ。
どんなときでも見分けがつかなくなることはないと言っていた。
おかげで私にも注意して見ればわかるようにはなったよ。」
「ふ〜ん、なるほどねぇ。」
(この子、確かに記憶力はいいんだけど、
今まで自分に必要なこと以外絶対頭に入れようとしなかったのに…
あの戦いを通して確かにセラは変わったのね…)

「ねぇ、セラあの子達って、『生きている』と思う?」
「ずいぶんと意地悪な質問だな、だが難しくもない。」
セラが一度深く目を閉じる、そして今度はゆっくり開くとこう言った。
「私はもちろん彼らが『生きている』と思う。これでもお主やロックと敵対し
戦ってきた中で様々なことを学んできたつもりだ、
『生きている』ことと『死んでいない』事との違いとかな。
そしてその考えを大切なことだと考えるようにもなった。お主達には感謝している。」
(今のセラには愚問だったわね…ま、何にせよ不安も紛れたみたいでよかったわ。)

五話『地球へ着いた!?』

「ふわぁぁ……おはようロールちゃん。」
眠そうなロック。
時刻は六時、早朝とも言える時間だろうが宇宙空間ではあまり関係ない。
あくまでその時間はカリンカ大陸の標準時刻を元にしているだけで、
世界中を飛び回っているディグアウター達が当たり前に使っている基準である。

まぁそれはともかくロック達にとっては後二時間ほどすれば地球につく時間帯だった。
今ロックは艦首の操縦室にいるのだが、もうそこにはロールと呼ばれた女の子と
サポートのコブン達が位置に着き、着陸のための調整をはじめていた。
「おはよう、ロック。よく眠れた?あ、ほらそんなことよりロック前見てごらん。」
「え?」
まぶたをこすり、両目をパッチリと開くその緑色の瞳に映ったものは…
「地球だ…僕はついにここに戻ってきたんだ!ハハッ、やったぁーー!!」
ロックの前方にある大きめの窓はもうあの真っ青な惑星が真正面に捉えていた。
ロールちゃんとその隣にいたコブンを両手で肩に抱きこみ大喜びするロック。
「ちょっ、ロック!?」
「ぐるじぃです〜〜。」

ロックから解放されるとロールは手元のコンパネになにやら打ち始めた。
「ちょっと地上の様子を見てみよっか。」
様々な情報が目の前のパネルに映し出される。
「え?…これは…? ロック!急いでトロンちゃん起こしてきて!」
「うん、わかった!」
ロールの様子で何か異変が起きたことは誰の目からも容易に判断のつくことだった…

「地球か…今までこうしてじっくりと見たこともなかったが、美しいものだな。」
ところ変わって再び居住区セラとユーナはのぞき窓から地球の様子を見ている。
それはもう手が届きそうになるぐらい近くにあった
「そうね… ねぇ、なんだか艦首のほうがうるさくないかしら?」
ドアの向こうからざわついた声が飛んでくる。
とその時ロックが部屋に駆け込んできた、顔には少し汗がにじんでいる。
「セラさん、ユーナさん大変です、すぐ来てください!」
地球着陸30分前のことだった。

セラとユーナが艦橋に着くと、ロールとトロンがすでに何かを話し合っている。
「セラさん、ユーナさん…これを見てください。」
ロールが指差したところを二人が覗き込む。
そこには一つの球状の建造物とその周りを飛んでいる無数の飛行物体の情報があった。

六話『これはいったい何?』

その情報システムはヘブンから持ってきた大量のデータベースを元にしているため、
外見の大体の形がわかればかなりの精度でその物体のデータを細かく
引き出すことが可能なはずだった。しかしそのパネルに描き出されていたものは
おおよその外見と『Unknown』の文字列。

「私も見たことのないものだ、古代の遺跡または兵器には間違いないだろうがな。」
セラがあごに手を当てて考える。
ユーナのほうにも目を向けたが彼女も『知らない』というふうに肩をすくめた。
「この飛行物体ってリーバードなのかしら?でもヘブンにも登録されてないような
リーバードなんて考えられないし…」
「一番の問題はこの宇宙船がこの建造物のすぐ近くを通らなきゃ
いけないってことなの。
そのままあいつらの領空に侵入したら瞬く間に撃墜されてあの世行きよ。」
「トロンさま、そんなおっかない事言わないで下さい〜。」
あからさまに気の強そうな女の子にコブンが泣きつく。

「みなさん!大気圏突入です〜、席についてください。
シートベルトも忘れちゃだめですよ〜。」
とコブンが言い終えた瞬間、大気圏突入を知らせる警報ブザーが鳴り響く
するとセラそれに負けない大きな声で叫んだ。
「ロール!大気圏への突入が終わったらすぐに私の戦闘端末の固定装置を
はずして外に放り出せ。やつらを全滅させることはできなくても
この船に近づけさせないようにするくらいわけはない!」
「わかりました!お願いします。」

強烈な重力の変化が全員に襲い掛かる。
その中でもロールは端末射出のためのプログラムを組んでいく。
そうこうしていくうちに宇宙船の振動も収まってきた、射出できるようになるまで
あと5秒…4…3…

ッドオオオンン!!!

「何!?」
その場にいる全員がそう思った。
「左舷メインエンジンがやられました〜!ハッチも衝撃で開きません〜!」
「ああっ!みんな、あれを見て!」
ロックが窓を指差すと無数の飛行物体がだだっ広く広がる雲海を突き抜けて
こちらめがけて突っ込んでくる。
姿かたちはどう見ても戦闘用、ガガやジジに似ているともいえる。
「泣きっ面に蜂ね。」とユーナ。
「万事休すだな。」とセラが言った。

七話『あきらめない!』

「二人とも落ち着き払ってやな事言わないで下さいよ!」
ロックやコブン達はほぼパニック状態だ。
「ロック君、ちょっとは落ち着きなさい。まだ死んだわけじゃないんだから。
ほら、あの子達はもう次へと行動を移してるわよ。」
見るとトロンとロールは操縦席につき機体左舷メインエンジンの消火と
バランス調整のためのサブエンジンの出力調整をコブン達に指示している。
「ほら、あなたもコブン達の手伝いに行って上げなさい。」
ロックの目からあせりの色が消えた。
「はい!」

「私たちも準備はしておかなきゃね。セラ…セラ?」
セラが眠っている、いやそこにセラはもういなかった。
(どこへ…あっ!)

ズズン…!

船体が少し揺れる。そして前方に現れたのは…
「セラ!」
そう、現れたのは戦闘端末に乗り換えたセラ自身である。

セラの行動は迅速だった。ハッチが開かなければこじ開ければいい。
やり方はハッチをレーザー砲で吹き飛ばすという乱暴な方法で
下手をすればこの船に致命傷を与えかねなかったが、下から突き上げてくる
大量の戦闘メカをとめるにはこの方法しかないと悟り、実行に移したのである。
「さっすがセラちゃん♪手が早いこと。」
「ロール!トロン!少しぐらいは機体を動かせるな?
全部倒すのは私でも無理だ、回避行動を頼む!ユーナは二人を守ってやってくれ!
では…いくぞ!」

セラが両手を前にかざした瞬間、青白い閃光が敵の間を駆け巡る!
メカ達は次々に爆発していく、誘爆に巻き込まれるものもいた。
しかし物量が並ではない、誘爆から逃れたものが次々と爆発の煙の中から現れる。
「クッッ、まだまだっ!」
今度は無数のレーザー砲が敵の頭上に降り注ぐ。

「セラ、聞こえるわね?今こっちは雲の中に入ったわ。
敵も簡単に手はだせないはず。一回こっちへ来て!」
無数の爆発音とともにユーナの声がかすかな雑音と入り混じって聞こえてきた。
「わかった、第一波はあらかた片付いたようだ。すぐに行こう。」
二つの影が果てしなく広がる雲海へと沈んでいった…

八話『カラップス・アイ(崩壊を見つめる一つ目)』

「ようやくこの雲にも切れ目が出てきたわね、視界もよくなってきたわ。
もう少しで拝めるわよ、飛行メカの親玉とも言うべき遺跡が。」
雲が薄くなっていく…地上が見えるのももうすぐだ。
遺跡の丸い形もはっきりしてくる。そして雲が完全に視界から消えると…
「セラ、もう見えるわね?」
「ああ、まさかこれが相手になるとはな。」

その遺跡はあまりに巨大だった。
球状でその直径は下の島と比較してゆうに10kmは超えるだろう。
全体が黒く染まりそこに赤い紋様が縦横無尽に駆け巡っている。
そして一際目をひく大きな穴。いや、あれは穴だったのだろうか?
答えを言うようにユーナとセラが同時に言う。

「『カラップス・アイ』(崩壊を見つめる一つ目)…」

「いったいなんです?それは。二人はこの遺跡を知ってたんですか?」
サブエンジンの出力調整を終え、たった今戻ってきたロックが聞く。
「知ってたと言うのは適切じゃないわね。実物を見るのはこれが初めてだし。
でも今はちゃんと説明する時間がないみたい。無事地上についたら話すわ。」

カラップス・アイの影から三つの影が突然現れる。
先ほどの飛行メカよりも一回り大きく、さっきのが白色だったのに対し
今度は真っ青だ。
セラが再び戦闘態勢に入る。
「先ほどとは違うようだが…三機とは…私を過小評価してはいまいか!?」
再び手を前にかざし、それらめがけて青い閃光をほとばしらせる!
しかし今度は青い稲妻とも言うべき閃光にかすりすらしない。
「カショウヒョウカシテイルノハキサマノホウダ…」
三機は一度分散しそのうちの二機がセラのほうへ突進してくる。

ズバッ!

「当たり前だ…貴様らなぞ敵とは思うておらん。」
セラの指先からは何か緑色の糸のようなものが出ている。
突っ込んできた二機は羽を切り落とされ、切り口からは行き場を無くした
電気がもがくようにスパークしている。
「ググ、ダガノコリノイッキハドコヘイッタノカナ…」
セラはこの声を着ていたのか聞いていなかったのか解らないが爆発音が
したときにはもうその場にいなかった。

九話『助けにきましたよ!』

青い影が近づいてくる。
メインエンジンの片方を失い推力を弱めている宇宙船が逃げ切れるはずもない。
地上も近づいてくる。船体すべての期間を最大出力にして軌道を修正しなければ
今この場を切り抜けたとしても助かる見込みはなかった。

「セラが来るのを願うしかないわね…」
「と、トロンさま…
あのロボットなんだか体におっかない物溜め込んでるみたいです〜。」
コブンがそういうとモニターに後方のメカを映し出した。
その口と思しき部分には溢れんばかりのエネルギーが収縮している。
「まともに食らったら終わりね。狙いも正確みたい。
ロール!あいつの熱源が発射されたらメインエンジンをフルブーストさせて!」
「うん!サブエンジンはお願い!」
なおエネルギーを集中させる青の影、そしてその光弾が今放たれた!
宇宙船のエンジンからより一層力強い光が湧き出る、そして各所の小さな光が
船体の向きをぐいぐいと変えていく!

『当たるなっっっ!!』願いは通じた。
重い空気の音を引きずって宇宙船のそばをすれすれに突き抜けていく光弾。
「セラはまだなの!」

ズッドォォーーーン!

強烈な振動と響く轟音。かのものが放ったもう一撃が船体を打ち抜いた。
「右舷メインエンジン、沈黙。…そんな…」
ロールが絶望的な声をあげる。
「ト・ド・メ・ダ、あ?」

ドムッ!

突然その青い影が爆発する。
その時かすかにロックの目に映った白い影はなんだったのだろうか。
異変は宇宙船にも起きた。
「これは…?」
船体の破損を示す赤いランプやゲージが次々に消えていく、そしてついには…
「メインエンジン点火!…復活したの?どうして…」
聞き覚えのある声がする。ロック、そしてユーナにはとても聴きなれた声でもあった。
「ご無事でしたか?遅れてすいません!」
「ガーちゃん!?遅すぎよ!ホントにもう…」
ガガの修理能力と追加された力によって息を吹き返したエンジン。
しかし地上はもう目と鼻の先だった。

十話『着陸…カラップス・アイの話1』

「ダメだ、ぶつかるっ!」
「ガガさん、あきらめないで!
艦首を思いっきり上に引き上げてください!」
その声に反応するかのように下を向いていた艦首が上を向くように向きを変えていく。
しかし機体自体はまだ下降を続けている。やがて機体が地面と平行になった。
「下へと向かうスピードが速すぎたのよ。これじゃぁ艦首が上を向いた頃にはもう…」
突如、機体がグラリと大きく揺らぐ。そして艦首の持ち上がるスピードが速まった。
「遅れてすまぬ!ぶじか?」
奇事の正体、それはセラが艦首を下から持ち上げることからきたものだった。
艦首が天の方向へと向いていく、そしてついに完全に上へと…向いた!
「着陸用アーム展開!みんな何かにつかまって!」

ゴゴオオォォンン…………

すさまじい轟音と振動。がそれは止み、辺りを静寂が包み込む。
この世界から一瞬だけすべての音が取り去られたようだった。
「生きてる…」
静寂を打ち破った最初の一言。
誰が言ったのだろう…それともそこにいる全員が言ったのだろうか?
「ふぅ、もうだめかと思った〜。」
座り込むロック。
「このくらいで音を上げるでない、
我らの相手は人類だけではなく地球そのもの滅ぼす力を持っているかもしれんのだ。」
いつのまにかもとの体へと戻っていたセラが見下ろして言う。
「私たちの知っているすべてを話そう。」

居住区に集う一同。あの巨大な遺跡の正体が知りたいのはみな同じだった。
「まず私からね、私がカラップス・アイのことを知ったのは地上に来て
マザーの任についてからよ。遺跡の管理に必要な情報を探していたら偶然
カラップス・アイについて書かれた文書を見つけて
『あ、私の知らない遺跡だわ。』って思って実際見てみたのよ。
こう書いてあったわ。
『その目は全てを見ているぞ。もしその目に闇が宿れば闇が裁きの光となって闇の元を
無に返す。闇が大きければ光も大きい、闇は完全に無になるだろう。』
他にはその遺跡の丸い外見や大きさとかが書いてあったの。
で、一度は調べて見ようと思ってどこにあるか探してた時期もあったんだけど、
あとからその見つけた文書の出所がヘブンからのものじゃないって解って、
カラップス・アイは実在しないってことに落ち着いたのよ。」

十一話『カラップス・アイの話2』

ユーナが口を閉じると続けてセラが口を開いた。
「私はマスターからその話を聞いた。
ユーナと同じくデータベースにも無かったのでその時は
子供だましの迷信だと思っていたがな。
つまりだ、カラップス・アイが実在したとわかった今、
これらの話も真実味を帯びてくることになる。」

負の心がカラップス・アイの力、その事はその場にいた全員に戦慄を与えただろう。
カラップス・アイはどれだけの憎しみを見てきた?
恨み、妬み、悲しみ、慢心、劣等感、怒り、負の感情などどこにでもありふれている。
人はまさに星の数ほどの多種多様な感情を生まれながらに与えられ、
それらと常日頃からともに生きているのだ。
当然ながら正の感情もたくさんある、負の感情と『同じくらい』に。
表と裏、どちらかだけ存在なんてありえなかった。
どちらも存在、混在しているからこそ物事の釣り合いは保たれている。
だがカラップス・アイのように物事の片面だけしか見ていなかったらどうなる?
均衡が崩れ、それが力に変わっていたとしたらその力は相殺する相手もいなく、
暴走するだろう。
それにカラップス・アイは今まで力を発することなくずっと永い眠りについていた。
その間どれだけ人の感情が揺れ動いたのだろうか?
カラップス・アイは気の遠くなるような時間の間ずっと力をため続けていた
ことになるのだ。そのエネルギーの量は想像を絶するだろう。

「僕たちの心が僕たち自身を滅ぼすって言いたいんですか…」
沈重な面持ちでロックが切り出す。
認めたくなかった。自分たちに責任が無いと言うわけではない、
だがこのような捻じ曲がったものの見方が許されるのだろうか?
確かに自分を含む人と言う生き物は憎しみあったりいがみあったりする
醜い面を持っているが、それ以上に愛しあったり信頼したりする心が
存在するのではないか?そう思うロックにはカラップス・アイのその性質が
とても理不尽で邪悪なものに思えてならなかった。
「そういうことになる、でもお主はそれが正当なものとは思っていないのだろう?」
「そうですよ、まだまだ人も捨てたもんじゃないですからね。」
入り口のドアにはガガが立っていた。たった今部屋に入ってきたようだ。
「ところで皆さん少しお話が…」

十二話『死神モト』

「話というのは?」
「カラップス・アイを目覚めさせたやつらのことです。
私たちも地球について皆さんがここにつくまで何もしてなかったわけじゃありません。
おかげで少しですが情報をつかんできました。」

ガガの話した内容と言うのはこうである。
カラップス・アイが巨大なレーザー兵器であること。
その作られた目的が本来は対小惑星用の地球防衛用であったこと。
その内部構造。
今カラップス・アイを操っているのはオリジナル・ヒト・ユニットの前身
とも言えるロボットとも生物ともつかないような奴らであること。

「そしてもう一つ、ジジの…ジジの行方がわからないのです。
一度私たちはカラップス・アイの内部に侵入してきました。
そこでジジとは一度別行動をとり、手分けして内部を探ることにしたのです。
最初は連絡を取り合っていたのですが突然通信が途絶え、不覚にも私は敵に
見つかってしまいました。そこで何とか外へと逃げると見覚えのある白い宇宙船が
墜落しかけてたので融合して今にいたったわけです。
ジジのことだから多分まだ無事だとは思うんですが…
すいませんセラ様、わたしの力が及ばないばかりにジジを…」
「案ずるなガガ、彼奴の力はお前が一番わかっているのだろう?」
ジジを信じているからこそ出る言葉だった。
「ところでガガ、オリジナル・ヒト・ユニットの前身とはどういうことだ?
古代存在した意思を持つロボットや古き神々とは違うと言うことか?」

「それについては私が説明して差し上げましょう…」
――!!!!――

一人の男が全員の背後に浮かんでいた。
暗く赤い髪、黒いマントに身を包み、影からは巨大な鎌と思われる柄と刃先が
青白い光と陰りのある赤い色とともに覗いていた。
「君は何ものだ!?いつここへ?どうやって?」
「ふふふ、まぁそう熱くならないで。私はそんなたいしたことはしてませんよ。
そこのドアからゆっくりと入ってきただけです。」
信じられない話だった。ここにはロック等の強者が勢ぞろいしている。
それだけではない、ここにはコブンを含めると10人強の人数がいるのだ。
誰にも気づかれずに部屋に入り、皆の真後ろに立つなんてことが出来ようはずも無い。
「自己紹介が遅れましたね、私はモト、死神です。」

十三話『敵』

何もしていないのに汗が噴出してくる。
かつて感じたことの無い強い威圧感が部屋を包み込んでいた。
ロックの左手にいつのまにか力が集まっていた。
そしてその全てを見透かしているかのようにモトが言う。
「まぁ、落ち着きなさい青き少年よ。私は別にあなた達と戦いにきたわけでは
ありません。でもあなたがその気だと言うのなら…」

ガバッ!

突然ロックはロールの目を抑えガガはトロンの目を抑えた!
肌で感じるほどにすさまじく暗い殺意がその場にいる全員を襲う!
モトの目つきは尋常ではない。猛獣が獲物を駆る時の、いやそれ以上だ。
『殺される』、疑いようが無かった。
「あなたたちは本当に面白い、冗談ですよ。この私の殺意の中動くことは賞賛に
値します。もしあなた達がその少女等に何もしなかったなら間違いなく
一生目を覚ますことは無かったでしょうからね。」

ザッ

ロックが足を前に踏み出す。
「冗談だって!?君は冗談で人を殺すのか!」
「ハハハ、勇気ある強い少年だ、ふむ、うちのボスとそっくりですねその目は。
いいでしょう、あのカラップス・アイにはレプリロイドから発展した私たちのボス、
イルダーナと言う男とその部下、私を含む四人の計五人がいます。
見事私たち全員を倒せばカラップス・アイを止められるかもしれませんよ。
でも、今のままじゃ無理でしょうね。賭け(ゲーム)は面白いほうが良い。
地球滅亡へのスイッチは待ったにしといてあげますよ。」
そういうとモトの体が下半身から消え始める。
「待てっ!」

ドウッ!

すばやく構えたロックのバスターが火を噴いた!
矢のような光弾がモトの顔めがけて飛んでいく、
だがそれはモトの眼前で突然はじけ飛んだ。
「ゲームはあせったら負けですよ、青い少年。
では皆さん、私はこれにて失礼いたします。」
声だけが残り、もうモトの姿は見えなくなっていた。

歯を強くかむロックこんなに悔しがる
ロックを見たのはロールといえど初めてだった。
「ロック君、今は悔しいかもしれないけど耐えるの!
今回のことで希望も見えたんだから、そうよね?セラ。」

十四話『絶望の中の希望』

『希望』、意外な言葉だった。
どちらかと言うなら『絶望』ではないのか?
「そのとおり。あのモトという奴、確かに恐ろしい力の持ち主だ。
この私が一歩も動くことが出来なかった。だがお主はその相手に向かって
威圧感に負けることなく一歩を踏み出した。
それに奴は準備の猶予を与えるとも言ってきた、俗に言えば喧嘩を売ってきた
ということだな。ちゃんと奴らに対抗しうるものを得た上で戦いに望めば
勝機は十分にある、それに…」
言葉を続けようとするセラをロックが遮った。
「でも平気で人を殺す奴らですよ!?信用できません!今すぐにでも行って…」
「馬鹿者!今行っても返り討ちにあうだけだ。
よいか?今出て行ったら確実に地球は滅亡する。だが準備をしていけば話は別だ。
確かにお前の言うとおりもたもたしている間に地球が滅亡してしまう可能性もある。
だが前述と違って助かる可能性も0ではないのだ。」

ここまでくると荒かったロックの息もようやく収まってきた。
セラとて焦っていないわけではない、これは賭けだった。
「あともう一つ、これは『カン』なのだがたぶんジジは奴らに捕まっても見つかっても
いないはずだ。ガガの姿は確認されていて、ジジの姿を見ていればわれらの
仲間だとすぐに解るからな。あの嫌味な性格の奴がジジを捕らえたりしていたならば
『仲間の命は預かりました』とか『そういえばねずみが一匹迷い込んでいましたよ』
とか勝ち誇ったように言ったはずだ。」
この言葉を聞いて一番安堵したのはガガだろう。やはりこういうときのセラの言葉は
頼りになる。

「み、皆さんちょっと…カラップス・アイが…動いてます。」
コブンの言葉で場がどよめく。
と、ロックが外へ向かって駆け出した。皆がそれに続く。

外に出て空を見上げる、厚い雲が晴れている。青い空はまだ変わっていなかった。
宙に浮かび見るものを圧倒させるカラップス・アイ、
それが荒野の向こうにそびえる山の真上に位置していた。
赤い紋様の位置が少しずつ動いている。
「向きが変わっている…?目は!…目はどこを見ているんだ!?」
「上よ!上を見て!」
カラップス・アイの頂点にはあの大きな穴が広がっていた。
―?
違和感を覚えるロック、
先ほどまであんなに大量にいた例の飛行メカが一体もいないのだ。

十五話『悲しい光、ロックの決意。さぁ、賽は投げられたぞ!』

「強烈なエネルギーが目に収束しています!奴ら打つ気ですよ!?」
あせるガガ、少し口が追いついていない。

大地が震える、空気が鳴く(泣く)、海がざわめく。
自然の全てが苦しみ、うめいている様だった。

カッッッ!!!!!

カラップス・アイを中心に波紋が広がった!
それと同時にまぶしい光が天へと向かって一気に流れていく!

暗い光だった…色調が暗いというのではない。白い色のようだが普通の光にあるような
暖かさや神々しさがない、怒りや悲しみ、様々な悲壮な思いが伝わってくる。
だが強い、そういう光だった。

やがて、光の奔流が消えた。空は赤く焼けていた。
「今のを見てより一層決心が強まった。あんなに暗い光もあの邪悪なものも
今の世界にはいらないんだ!みんな一生懸命に生きてる、それだけなんだ…
そんなみんなをどんな理由であろうと殺させはしない。
僕はあの光から地球を、人を守る、絶対に。」
ロックの強い意志と言葉が皆を奮い立たせる。
挑戦とも取れるこの光に臆する者はもういなかった。

賽は投げられたのだ。


transcribed by ヒットラーの尻尾