『表か裏か!?Heads or Tails!?』〜3章 始まりの終わりか終わりの始まりか〜
著者:鯛の小骨さん
1章 カラップス・アイ/2章 開戦

三十話『Fear&Dark』

ロックがあたりを見回す。
敵の気配はもうしないのだが異様な感じである。
とても建造物という無機的なものの中にいるとは思えないのだ。
黒色の壁と床に囲まれた薄暗い空間、そこを赤い光の線が駆け巡っているのだが
その光が一定のリズムで暗くなったり明るくなったりするのを見ると
生命の中身を見せ付けられているようである。

空気がのしかかってくる、薄暗い空間が押し込んだ恐怖を無理やり引き出してくる。
そして響くのは自分たちの足音だけ。
緊張感が胸を締め付けていく…辛い。
「なんか嫌な空気だ…ねぇガガさん、後どのくらいで分岐点につくの?」
「急いで走ればものの数分とかかりませんよ。
ですが、突然の奇襲があれば対応が遅れますし、走れば気持ちが昂ぶります。
精神上良くありません、ここは我慢しましょう。確かに嫌な空気ではありますがね…」

知っての通りガガは情報収集のためにここへ一度きている。
しかし隠密行動をも得意とする彼でも結局は敵に見つかってしまった。
そしてその原因が自分の中にある自我からくるものであることを彼は自覚している。
原因、それはまさに今ロックが体感している事である。
ガガは始めてこの場に来た時、不覚にもここの空気の威圧感に押しつぶされて
しまったのだ。最初のうちはまだ良かったが奥へ進むにつれ高まってくる恐怖が
ガガを襲った。それでも何とか内部の構造を把握し出口付近へ来た時だった。
そこで最後の罠が待っていた。ガガは侵入時から敵の体をのっとり自分の姿を
偽っていたのだが、あろうことか彼は出口でそのカムフラージュを解いて
しまったのである。いや、解けてしまったというべきか。
何故か。
ガガやジジの能力の一つである融合は融合する相手によってその難度が変わってくる。
が、それだけではなくガガやジジの精神力によっても結果は変わってくるのだ。
正常な状態なら雑魚メカの体に入って自由に操るぐらいわけは無いが、浮き足立ったり
あせった精神ではそれも極端に難しくなる。
よってガガは早く外に出る事を意識し、焦ったばかりに敵の眼前で馬脚を現すという
愚行を行ってしまう事になったのである。
それが自分の主を危険なめに遭わすことになったのだから彼にとっては苦々しい事だ。

三十一話『一時の別れ』

ロック達はほとんど無言のまま先へと足を運んだ。
入り口以来敵には遭遇していない。
しかし先ほどと変わらず常に誰かに見張られているような気配があり
一瞬の気の緩みさえ許されない雰囲気だった。
彼らは押し寄せてくる不安を何とか振り切り歩みを進めていく、
戦いはもうはじまっているのだ。
あせりや不安に心を支配された時彼らは死ぬ。
生きている者としての本能がそう伝えている。

そして…

「ここでひとまずお別れだね…トロンちゃん、コブン達。…気をつけて。」
長かった沈黙が破れる。ロック達はついに分岐点に達していた。
大きな通路が二手に分かれている。
ロック達の行動が遅れれば遅れるほどセラ達の身が危険にさらされる事になるのは
明白で、最悪の事態が起こらないとも限らない。
躊躇しているわけには行かないのだ。
しかし多少の名残惜しさはある、無事でいられる補償など無い事は
ここにいる全員が承知している事だから。
そしてだからこそ言葉を紡ぎだす。
願いや希望、そしてトロンの場合は自分でも気付かぬもう一つの意味をこめて。
「あんたたちもね。これが今生の別れだなんて絶対許さないからね!」
「うん!決着をつけて、また会おう!」
応えるロック。
そしてトロン達は分岐点の右側のルート、
すなわちディフレクター室へと姿を消していった。

分岐点から各部屋への距離は今まで進んできた距離に比べればたいしたことはない。
後は待ち受ける相手を倒すだけだ。
「さぁ、私たちも行きましょうか」
「彼女の身は確かに心配ですが…私達とてそれは同じこと。
今はただ先に進むことだけを考えましょう」
こうしてロック達ももう一つのルートへと姿を消していった…

三十二話『戻ってきちゃ駄目!』

「ディフレクター室へ行くためにはここを通らなくちゃならないのね…」
ロック達と別れて十数分トロンたちはガガの説明にあったディフレクター室直前の
小部屋の前に立っていた。
今までまったく会わなかった雑魚に途中何機か敵に遭遇したことが今この部屋の中に
敵がいる事を裏づけている。
「いい?開けるわよ」
「は、ハイ…」
コブン達の顔がこわばっている、無理もない。
今までとは比べ物にならない敵が相手であることは疑いようがないからだ。
もしその敵があまりに強大であるならば…

ゴゴゴゴゴ…………

目の前の扉がゆっくりと開いていく、鬼が出るか蛇が出るか…
扉が開いた時は真っ白だった、そして爆音が辺りに響き、何処かの壁が崩れ落ちる。
「クックック…かわしゃぁがったか…」
「随分なものね…まだ名乗ってもないじゃない。」
「名前なんかどうでもいいさ…お前が死ぬか、俺が死ぬか。この世は常に
表裏一体なんだよ。だいたい名乗るなんていつの話だぁ?奇襲は当たり前…」

――ッドオン!!!

目の前の男がいたはずの場所はえぐれ黒色に染まった。
「…やるじゃない。かわすなんて」
男はいつのまにか部屋の奥に立っていた。
しかしトロンは歩み寄る前にコブン達に指示を出す。
「あんた達…ロック達のところへ行きなさい…
私もディフレクターを奪い取ったらすぐにそっちへ行くから」
「え…?と、トロンさま…何を言ったか良く聞こえなかったです…」
嘘だった。
コブン達が主人に対して言い訳する時以外に嘘をつくのはこれが初めてだった。
(この子達はまた一つ成長した… でも…喜べない……!)
「――もう一度言うわ…ロック達のところへ行きなさい、絶対にここへ戻ってきては駄目!」
言い終えるとトロンは操縦桿のトリガーを弾く。
グスタフの背中から発射された無数の爆弾が天井へ向かって行く!
再びの爆音と煙が起こり、煙は晴れる。開いた扉は崩れ落ちた天井によって塞がれた。
トロンの狙い通り。

「ん〜。別れの挨拶は済んだか?正解とだけ言っておくか。
俺と戦えばお前が勝っても巻き添え食らって死んじまうかもしんねぇからなぁ?
優しいこって。そうだな…ま、情けってやつか?
お前が死んだらあの黄色頭達も連れて行ってやるから」

三十三話『キレ者アルゴル』

「あんた、ただのいかれたパーな奴かと思ってたけど。意外と話すじゃない」
隔離された部屋の中、二人はやっとまともに対峙した。
目の前にいる男、名前は…
「アルゴル、俺の名前だ。死ぬまで覚えとけ。…ほれ、名乗ってやったぞ。
てめぇの名前も教えやがれ。」
「トロン・ボーン…今すぐ忘れなさい」
「気の強えぇ奴だ ……そろそろやるか?」
そう言うとアルゴルは手に一体化しているような大型の銃群をグスタフへと向けた。

長身で細身の彼だが力は強そうだ、だがそんなことよりも目を引くのは彼の持つ
重火器の数である。各部になんと二〜五個の武器が装着されている。
当然人間にそんなことの出来るものはいないが、グスタフのような相当な力を持つ
機械でも同じ箇所に大型の武器はいくつも付けられない。
まぁ武器が多ければいいというわけではないがもしその武器達を扱いきれない阿呆なら
ここにはいないだろう。
…相手の観察も程ほどにグスタフも右手のガトリング砲と肩のバズーカをセットし、
アルゴルへと向けた。
「一つ聞いとくわね。あんたの後ろにある扉、どうやったら開くのかしら?」
「さぁな、俺を殺せれば開くんじゃねぇか?もっとも、開かなければ…
ぶっ壊して、開けるだけだァァァッッッ!!!!!!」

―――ドドドドドドドドドドドドッッッ!!!!!
                ガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!!―――

怒声のような叫びは一瞬にして銃声にかき消された。
部屋を爆炎が包み、赤、白、黄色、の鮮やかな光が行き交い、四散する!
「ヒッヒャッハア!!ヒィャハハッハハハ!!!!!
死ね死ね死ネェェェェッッッ!!!!」
アルゴルの顔にはもう理性のかけらも残ってない。
彼は死を望む、何故かは解らない。いつのころから望み始めたのかも覚えてない。
死を望む。死という事実が存在するだけでいい。
……だから彼はここに居る。

「あんた、やっぱりただのパーじゃない」
まだ爆炎が残る中グスタフはアルゴルの背後を取る。
すかさず左肩のナパームをばら撒き、離脱。
ズッッドオン!!!
「私は油断しないわよ!!」
普通なら生きてはいない筈だが構わず右肩のボーンバズーカを二発、
ガトリングガンを煙の中へと打ち込む!

三十四話『銃の交わり』

しかしその煙が晴れる以前に凶気の声が背後からわいて出た。
「ククク…遅い遅い遅い!」
今度はアルゴルが背後を取った。
が、グスタフは垂直に飛んでアルゴルの放った爆弾を飛んで交わし、
アルゴルの放ったミサイルをぐるりと向きを変えてガトリングガンでなぎ払う!
ついでだ…今度はグスタフの頭部から爆弾を放り出す。
今度はアルゴルがそれを自分のガトリング砲で迎撃!
その瞬間!!巨大な爆風が巻き起こる!
グスタフは装備されていたシールドを凧のように広げ爆風をそれ全体で受け止める。
アルゴルにもシールドはあるようだ…爆風の風圧に耐えている。
グスタフはその風圧を利用して一気に間合いを取り直した。

「フッ、こいつは極上の死が待ってんなぁ。ゾクゾクするぜ」
アルゴルの顔には歓喜の顔が溢れている。
死の恐怖がないのだろうか?
トロンはかつて感じたモトのあの威圧感とは違うもののほぼ同じぐらいの戦慄を覚える。
突如グスタフの眼前に巨大なエネルギーが出現した!
それはアルゴルの放った一撃だったが反応が遅れたため回避は間に合わない。
即座にシールドを展開する…が、エネルギーが強く真っ向からは対抗できない。
シールドの角度を変えて受け流す。
「いつまでも受け手にまわってんじゃねぇよ。…おもしれぇが張り合いがねぇ。」

確かに守ってばかりでは苦しい。だがアルゴルの隙はほとんどなかった。
銃撃戦というのは銃の特性上カウンターというものが成立しづらい。
攻撃するたびに姿勢をほとんど変えることもないため単純に隙が出来にくいからだ。
しかも近代戦では弾切れなどまずありえない。
トロンもその辺りは心得ているしセンスも抜群だが彼と自分ではやはり戦士としての格が違う。
アルゴルはキレてがむしゃらに戦っているようだが数多の戦いを潜り抜けてきた事に
間違いはなく戦闘に対する勘や知識が豊富で頭では考えなくとも体が最良の行動を
とっている。まともにやっては勝てない。
あえてトロンが勝っている所をあげるならば基本的な戦闘能力かもしれない。
まだまだアルゴルの力は未知数だが勝機がないわけではない。
だがそれにはシールドを弾き飛ばさねばなるまい。
攻撃あるのみ。
「行ってやるわよ!くらいなさい!」

三十五話『こんなものに頼らなくたって・・・』

ナパームをアルゴルめがけて襲い掛からせる!
しかしアルゴルはレーザーを数本ほとばしらせ全てを迎撃する。
同時に爆炎が二人の間に広がり炎の壁を形成する。
ここまでは、読み通り。あとは…

「炎の中をつっこんでくるたぁいい度胸してんじゃねぇか!!!」
衝突、そして両者のシールドが火花を散らす。
次にグスタフは右手の銀色の砲身をシールドへと押し付け…
左腕に隠されたミサイルで砲身を打ち抜く!
ガトリング方に込められた全ての弾が爆発を起こしその誘爆がボーンバズーカにも及ぶ、
瞬時に右腕を切り離しその場を離れるが再度肩から
ナパーム弾を撒いてアルゴルの足を止める事を忘れない。
耳には聞こえない音を立てて歪むアルゴルのシールド、耐え切れなくなったそれは
パァンと軽い音を立てて割れ、その発生装置はオーバーヒートで使い物に
ならなくなった。
「あたしの勝ちよ」
言い放った。

「クックック…」
再び気味の悪い笑い声を漏らすアルゴル。
「勝ちね…よく言えたもんだ」
アルゴルのやけに自信に満ちた声が響く。
確かにアルゴルはシールドが使えなくなったこと以外はたいした損傷は見られない。
加えてグスタフは右腕が無い。
しかしシールドがあるのと無い者では攻撃力の違いなどたいした差にならない。
武器というのは致命傷を与えられるレベルまで行けば後はそれ以上威力を上げても
あまり意味が無いからだ。
アルゴルは武装は強力でも致命傷を与える事が容易ではなく、逆にグスタフは武装が
弱くても十分アルゴルの致命傷になる一撃を与える事が出来る。
ナパームを数発叩き込めばすむことだ。
絶対にトロンのほうが優位なのである。
アルゴルにも解っているはずなのだが…
「大体手を抜いた状態で勝てると思ってんのか?それとも奥の手だったのか?
その右腕のレーザー砲はよ」
小さなプライドで使わぬと決めたその武器は一瞬のうちにアルゴルを地に伏せさせる
ことが出来ただろう。トロンは…まだ納得しきれていなかった。
「ところで俺が何でこんなに余裕があるか教えてやろうか…」
カッと両目をアルゴルが見開くと数秒間だが部屋全体が赤く染まった。

三十六話『悪魔メデューサの瞳』

アルゴルがゆっくりと歩みを進めてくる。
両手をだらんと伸ばしてまるでスキだらけだ。
不気味な挙動であったが時間があるわけではない。躊躇せず止めをさすためナパームを放った!
「ククク…ヒャァーハッハッハ!!!もう何をやっても無駄だよ。
大抵の機械はな、その光で動けなくなんだよ。
15分ほどで動けるようになるだろうがそのときにお前がいるのはここじゃねぇな」
ナパームは確かに放たれたはずだった。操縦の通りにグスタフが反応したのなら。

「グスタフが…動かない…!」
そのとき音が聞こえた。『せ〜の』という掛け声が。
壁の崩れる音がどんどん近づきそしてついに再会に至る。

ドオオオオン!!!

ついにふさがれた通路が崩されコブン達が部屋へと押し寄せてきた。
「トロンさま〜!大丈夫ですか〜!」
「何で戻ってきたの?!!ここは大丈夫だから…早く!!行きなさい…!」
精一杯の虚勢。彼らを助けるためには彼らに逃げる事を促すだけだ。
彼らが自分の事を心配すればするほど彼らの黄泉への道はより明確になっていく。
「おい、黄色頭。お前らに一ついいことを教えてやろう。
お前たちの主人は俺の力でもう動く事も逃げる事もかなわん。
…つまりお前たちのご主人様はお前等がここにとどまって戦わない限り
死ぬ運命にあるってことだ。」
狡猾なやり口、コブンはまずここから逃げないだろう。
自分が彼らに込めたプログラムによって。

「……かかれーーー!!!」
怒りの表情を浮かべて一斉に攻撃を始めるコブン達。
彼らの爆弾は間違いなくアルゴルにダメージを与えていたが、それもアルゴルが
ガトリング砲でなぎ払えば止まるだろう。
それでもアルゴルは何もせずただ朝笑うかのように…目を見開いた。
再度赤い光が部屋を包んでいく!

コブン達はその不気味な光を真正面から浴びた。
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁ………………
(これで彼らが元気に動き回ってる姿を見るのもかなわなくなるだろう)
トロンの目からはとめどなく涙が溢れる。
(もう少し自分に力があれば、つまらない意地を張らずに決着をつけていれば!
あの子達が死ぬことは無かったのに!!)
――――――あれ?」
やたら気の抜けた声が六個、アルゴルとトロンの耳を打った。

三十七話『メデューサを破る盾』

「何とも無いぞ〜?」
小首をかしげるコブン達。対するアルゴルは動揺を隠せない。
「まさか…ありえねぇ!俺の力を超える機械は眠りにつく前でもそんなには無かった。
こいつらは…俺達五人と同じ…『可能性を与えられたもの』だってことか!?」
「あんたなんかと一緒にしないで欲しいわね。ほんと今日のこの子達には
驚かされてばかり。さぁ最後の決着、行くわよあんた達!!」
掛け声とともに爆弾がいっせいにアルゴルの頭に降りかかる。

「………フフフ…死が近い。望んでいたものがすぐ近くだ…」

アルゴルの声はトロン達には聞こえなかった。
左手のシャイニングレーザーはもう動く。
「今回は…借りにしといてあげるわっ!!」
強力な光の奔流がアルゴルの胸を打ちぬいた!!
彼の…アルゴルの顔に動揺の色は無く歓喜の笑みをたたえているだけだった。
彼が望む死には自らの死も含まれていたのだ。
「哀れ…なのかもね。死という事実だけでしか喜びを得られず、存在価値を見出せない。
可能性が与えられていたのなら何故他の道を探そうと思わなかったのかしら…」
誰も答えてはくれなかった…

トロン達はついにディフレクター室へと足を踏み入れた。
目的のディフレクターはもう目の前だ。
「さぁ、最後の仕事!あんた達、ヘマしたらおしおき部屋行きだからね!」
「ラジャ!」
コブン達はディフレクターの固定装置からコブンと同じくらいの大きさの
虹色ディフレクターを次々とはずしていく。
もちろんいくつかは事前に用意した箱に回収していく。
しかし異変はもうすでに起きていた。
部屋の一番奥にある巨大なディフレクターなのだが光を失い緩やかな回転もしていない。
エネルギーを奪い尽くされ完全に死んでいる。
だがそのディフレクターの大きさはセラの巨体をも上回っている。
どこでそんなエネルギーを使うのか解らない。
ガガの予想した火種という考え方もあるが、いくらなんでも無茶がある。
ここには一個でネオゲゼルシャフトを飛ばせるほどの
エネルギーをもつディフレクターが山ほどあるのだ。
「ディフレクター、全部はずし終わりました!」
トロンはその言葉を聞くとコブン達を部屋から出し、
数発のナパームを残してその場を去った。

三十八話『金将と銀将』

「お前は誰だ!?」
「そんなことあたしが聞きたいわ!このガーちゃんもどき!」
ロックの頭は混乱するばかりだ。
この部屋に入った瞬間ロック達は暗闇に襲われた。
それだけではない、辺りにやかましい音が響き自分以外はどんな状況に
置かれているのか解らなくなった。ほんの数秒間の出来事だったが。
部屋に明かりがともった時二人はにらみ合っていた。

「ロック君、このガーちゃん偽者よ!」
「気をつけてください、これはユーナ様ではありません!」
ロックの頭は痛い。
二人のどちらかが本物なのか、実は二人とも偽者なのか本物なのかも解らない。
とそこへ二人目のガガが現れる。
「そこまでだ、偽者!ユーナ様、『トリッガー様』、早くこちらへ!」
ロックが眉をひそめると
「墓穴を掘ったわね、偽ガーちゃん♪
本物のガーちゃんはもうトリッガーだなんて昔の名前をひっぱり出さないわ」
偽ガガと呼ばれた者の背後からユーナの声がするとそいつは飛び退き、
口論をしていたユーナを手招きし、呼び寄せる。
するとどうだ、二人の姿はガガとユーナの姿から金と銀の仮面のおそらく男と女の姿をとった。
二人とも黒装束に身を包み男は背中に槍を、女は腰に二振りの剣を携えている。
どうやら5人のうちの二人らしい。

「金将…あんた言葉づかいぐらいは気をつけなさいよね!変化の初歩中の初歩でしょうが」
銀の仮面の女が強い口調で金の仮面の男に迫る。
「俺、どうも変化って苦手なんだよ。それに数百年ぶりだし…俺の専門外だし…
銀将だってガガとか言うやつにはすぐばれてたじゃないか」
どうやら二人の名は金将と銀将というらしい。
「う… あ、あたしはちゃんと残りの一人にばれないようにフォローしたわよ?
まぁ、余興だったしどうでもいいけど」
ふざけている。とても敵を前にした戦士には見えない。
が、なんだろうか?決して薄れる事が無い気迫と殺気は。
余裕のようだが常に注意をこちらに払っている。
数分間彼らはその状態で取り留めの無い話を続けた。そして…
「じゃぁ始めるよ。イルダーナ様にそこの青い奴以外は通すなといわれているからね。
そのためには手段を選ばないよ…俺達は」

三十九話『妖刀陽炎』

「ロック様…あなたはどうやら呼ばれているようですね。ここは、お任せを」
ガガが羽を広げて戦闘体制をとる。
「でも三人で戦ったほうが早く決着はつくよ!」
ユーナも構えると言った。
「あたしたちには時間が無いの。下っ端を相手に時間を少しでもかけるぐらいなら
先にいってイルダーナとか言う奴を叩きのめしてやりなさい!」
「……わかりました…でも一つだけ約束しよう、生きて、また…」
ロックはいろいろな思いを一のみにして駆け出す。

ズズズズズ……

何処かで何かが崩れる音がした。
「アルゴルはもう始めたみたいね。…行くわよ、金将」
うなずく金将。それと同時に背中の槍を引き抜き、ガガとユーナの二人に向ける。
銀将も腰の剣を引き抜いて逆手に持ち、腰を落す。

ゴウッ!!

一番先に動いたのはガガ。口から吐き出した業火球は金将めがけて真っ直ぐに!
次いでガガは鋭利な翼をきらめかせ、突進していく。そのスピードは火球の弾速をも
上回るかと思われるほどだ。
「俺の相手は君か!なかなかやるね!」
金将は火球を叩き割り一瞬の体さばきで突進をかわす。

一方でユーナも銀将に向かって青白い光弾を発生すばやく打ち出す!
銀将もそれを全て二本の剣で全て叩き落しユーナに向かって踊りかかった!
「今度は私の番ね。私の剣、『陽炎』の力…知りたい?」
銀将は一太刀を切り上げもう一太刀を体のひねりを加えて上段から切り下ろす!
とっさに後ろに飛び退いてかわすユーナ。がしかし!
メキメキメキッ!
地割れが銀将が放った一太刀目の軌跡の延長を走ってユーナの下へ迫る。
(何かがくる!)
右方向へ飛ぶ、そのとき頬を掠めるものがあった。
ザンッ!
今度は上から何かをたたきつけたような跡が地面にできる。
頬から流れる血も原因は同じなようだ。
「この武器の利点はね。陽炎の太刀が発生するまでにタイムラグが有る事なのよ…」
いつの間にか右隣に銀将がいる、早い…!
一蹴りで間合いを取るが銀将は剣を横にないでいた。
このままでは見えない刃にやられる、飛ぶしかない。
「そうそう、相手の行動が予想しやすいのよね…この武器」

四十話『無限の刃-朧の槍』

飛んだ先にはもうすでに銀将がいた。
銀将が剣を振りかぶったその時!
「銀将!後ろ!」
三発の光球が銀将めがけて襲い掛かる!
金将の声に反応した銀将はそれを全て叩き落す。
が、ふいに背中を強烈な衝撃が襲った!!地面に思いっきり叩きつけられる。
「私だって守ってばかりじゃないわ…ありがと、ガーちゃん」

「ガガ…君は予想以上にやるね。自分だけじゃなくもう一人の方の戦況さえ見極める
その冷静さ、戦士として敬意を表すよ。
どうやら俺も本気を出さなければ銀将に迷惑をかける事になりそうだ。
もうかけちゃったけど。」
仮面の下でにやりと笑う、半分だけ。怒りの感情を顔に出す、半分だけ。
「ユーナ様を傷つけようとする者は断じて許さん、その余裕…後悔させてやる!」
口の中にエネルギーをためなおして…放つ!
今度は単発ではなく何十発もの火球を金将に浴びせる。
息つく間も無く攻撃を続けようとしたその瞬間!
火球が割れた。たった一つの音で全ての火球が割れた。
「…何!?」
「こういうことさ…」
金将が槍を振り下ろす、その太刀筋は…一、二、三本!!
まやかしではない、翼でガードする。強烈な三打がガガに打ち下ろされる。
その威力はさっきまでさばいていたどの一撃よりも強く、早かった。
「これがこの槍…「朧」の力。いつまで耐えられるかな?」
次々と金将の一撃がガガに決まっていく。
「甘いな……これでは私を倒せない!!」
バンッ!!と翼を広げて全ての攻撃をはじく。
綺麗に輝く赤い瞳と同じ色の光球がガガの口の中で燻っている。
そしてその光球が打ち出されようとしたその刹那、ガガの巨体は大きく横へ
吹っ飛んだ!

「ガーちゃん!」
叫ぶユーナ。
「さっきのお返しをしたまでよ」
銀将の見えない刃がガガを襲ったのだ。
ガガはよろめきながら立ち上がる。
今の銀将の攻撃もかなり辛かったが実は金将の攻撃のダメージも深い。
このままでは…

四十一話『秘めたる思い…後は、任せろ』

「彼…もう駄目ね。私たちもそろそろ終わりにしましょうよ」
何一つ動かない仮面を通しても伝わってくるこの冷徹さ。
最初の会話にあったどこか抜けた雰囲気などもう微塵も感じられない。
「ガガはそう簡単には死なないわ、それに…私が死なせない、もう二度と…」
手を一度握り締め、開く。多少ガガの負担になるだろうが一人は仕留める!
決心を固めるとエネルギーを開放した!

部屋中が悲鳴をあげているような音を立ててきしむ、歪む。
膝をつく銀将と金将。彼らの体を中心に重力を変化させているため二人にかかる圧力は
ガガや部屋にかかる圧力よりもはるかに強い。今はほとんど動けないはずだ。
「銀将、覚悟!!」
ユーナの体が赤い光に包まれる、そして突進を開始した!
銀将は渾身の力を込めて陽炎二刀を振り切る!
が、問題にはならなかった。見えない刃が交錯した位置はユーナがすでに通った後。
タイムラグが仇になりもろに突進を受ける銀将。それでも陽炎をユーナに突き立てる!
「ぐっ…」
うめき声をあげたユーナだが突進を止めない。

ドッゴオオオン!!!!

陽炎をわき腹に突き刺されたままユーナは銀将を壁に押し付けた!
「これで、終わりね!」
ユーナを包んでいた赤い光が組み合っている二人の間に集中し…
咆哮した…

「銀将――――!!!!」
銀将が立ち上がる気配はなかった。
床に横たわり、剣はその手を離れている。
機械である体のあちこちは破損しところどころ内部の機構が見える。
彼女は…死んだ。

思ったより傷は浅い。ガガもまだ戦うだけの余力はある。
二人でかかれば金将も倒せるだろう。
ユーナはなんとか体制を立て直し金将へと向き直る。
さっきまでいたはずの金将がいない。
「……聞け、お前たち」
金将はいつの間にか銀将の傍らへと移動していた。
「俺達は生きることに頓着は持たなかった…死する事への覚悟をいつでも
持っていた。そう作られたからね。だが俺は二人で生きる事には執着していた。
そして二人で死ぬことにも執着している事に今気づいた。
俺は死ぬ。だが任務は果たす。お前たちを先に行かせはしない。」

四十二話『走』

ガガは駆けた。主を守るため、自らの命を投げ出す覚悟で。
これで二度目だが今の命はあってないようなもの。
躊躇する理由など…ない。

金将が死んだ、
光を放って。
光は金将の体を飲み込んだ。
光は銀将の体を飲み込んだ。
光はユーナのすぐ側まで迫った。
ガガが両翼を広げてユーナを包み込む。
光はガガとユーナを飲み込んだ。
光は部屋中飲み込んだ。
光は…………消えた…………

「・・・・・・」
ユーナは身を守るために縮めた体をゆっくりと戻そうとする。
しかしおかしい、最後に金将が放ったエネルギーは凄まじいものがあった、
なのに今残っている痛みは銀将に刺されたわき腹の傷だけ。
ふと、自分を覆っている影に気付いた。
「…ガーちゃん?――ガガ!!…ガガ!!!」
「うぅ……」
うめき声を漏らすガガ、まだ生きている。
しかし彼の損傷は甚大だ。
翼は砕け背中全体に亀裂と破損本来なら雄雄しい輝きを放つリーバードの瞳も
今は弱々しい光しか放っていない。
急いで助けなければ助からない!そう判断したユーナはガガの巨体を背負い
カラップス・アイの出口へと向かおうとする。
しかしその時、一体の白い飛行メカが現れた。無論、味方には見えない。
「雑魚に構ってる暇は……」
エネルギーを手に集中させる…
「お待ちください!!」
凛とした声があがる。当然ガガではないが…似ている。
声質そのものが似ているというか雰囲気のようなものだが。
突然その白いからだから金色の光が溢れ出す。

そしてそれは…
「ジジ!?」
「事情は後で説明します。急ぎましょう、ガガの命も危ない。」

ところで気のせいだろうか?この微かな床の振動は…

四十三話『悪夢の始まり?希望の終わり?』

今ユーナとジジは全速力でガガを連れてカラップス・アイの出口を目指している。
途中何機か雑魚に襲われたが即座にジジが片付けるのでタイムロスはない。
急ぐ中、ユーナは質問をぶつけた。
「あなたは何をしていたの!?」
「…カラップス・アイの心臓部を調べていました。
それとデータに頼みごとを…」
少し顔をしかめるユーナ。
「心臓部?じゃぁやっぱり隠された部屋があったってこと?」
「部屋…間違ってはいませんが適切ではありません。
カラップス・アイの心臓部は部屋や通路がある場所以外の全ての空洞なのです。
つまりカラップス・アイを完全に止めたければその全てを破壊するより他に
手がありません。
それから二つほど…悪い知らせがあります」
ジジの最後の声は消え入りそうだった。 しかし問わないわけにはいかない。

「何なの?」
「一つはその心臓部の防衛を任されている男…モトという男があまりに強大である事…」
モト…自らを死神と名乗る赤髪の男。
あの威圧感は今でも忘れられない。
彼がにらみを聞かせた時動く事ができたのはロックと
傷つき今自分の背中にいるガガの二人だけである。
「会ったの?」
「目に止めはしましたが話してもいないし、向こうも私に気付いてはいません。
ですが彼がどれほどの戦闘力があるのかは解りました…私一人では残念ながら
どうにもならないでしょう…しかしあの者の力を借りればあるいは…」
「あの者?誰?」
「会えば解りますよ、地上にいるヘブン関係者の中では最も信頼の置ける者です
データに呼んでくるように頼んでおきました」
「ふ〜ん…じゃぁもう一つの悪い知らせって?…まさかガガのこと?」
顔を再度曇らせるジジ。しかし彼は口を開いた。
「…ガガの事ではありません」
これだけははっきりと言う。が、話は止まらない。
「……カラップス・アイが二度目の砲撃を開始します、今まさに。
照準は………地球です…」
凄まじい振動がカラップス・アイを一瞬にして包んだ。


transcribed by ヒットラーの尻尾