『表か裏か!? Heads or Tails!?』二章『開戦』
著者:鯛の小骨さん
1章 カラップス・アイ / 3章 始まりの終わりか終わりの始まりか

十六話『手土産』

カラップス・アイが一回目の砲撃を終えてから数分後、ロック達は再び宇宙船の
居住区に戻っていた。
セラの提案で今までの事を整理し、これからの行動の土台にしようというのだ。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず…といったところだな。
早速だが、ガガ。カラップス・アイの内部構造を把握してきたといっていたな?
教えてくれ。」
ガガはうなずくと突然床に吸い込まれるようにして消えた。
宇宙船と融合してシステムを使った説明をしようというのだ。
「皆さん、ディスプレイに注目してください。」
そういうと壁面に設置してあったTV観賞用のモニターに画像が映し出される。
そこにはカラップス・アイの外観図が示された。
「まずは入り口です。内部に続く道は2つあります。
一つはあの強力なレーザー発射口、それからその正反対の場所から少し離れた
人間の目でいうところの盲点に位置する飛行メカの射出口です。
ですが、レーザー発射口は普段はシールドでふさがれています。
ですから実際進入できるのは一箇所のみです。
有無を言わさず全面対決となるでしょう。次は、内部の映像を出します。」
一瞬にして画面が切り替わる。
今度は見取り図が出てきた、赤いラインが幾本か見える。
おそらくはこれが通り道なのだろう。
「カラップス・アイは要塞ではありません。ですから余計な部屋も少なく
全体のほとんどはあの破壊的なエネルギーを蓄えるために利用されているようです。」
「本当に憎しみの塊なのね…カラップス・アイは…」
素直なロールの感想、そして悲しい含みのある言葉。
ガガはそれに気づいたが再度、淡々と喋り始めた。
「カラップス・アイ内部の道は大きく分けて二つ。
メインコントロールルームへ続く道とディフレクター室への道です…」
「ストップ。」
セラが断ち切る。
「ディフレクター室とはどういうことだ、エネルギーなら蓄えてあるのだろう?
不自然ではないか。」
「おそらくディフレクターは火種のようなものでしょう。
憎しみそのものをすべてエネルギーの状態で保存しておくのはカラップス・アイが
いくら巨大なキャパシティを持っているとはいっても不可能なはずです。
力を紡ぎだし破壊の力に変えることがこのディフレクターの役割と思われます。」

十七話『迎え』


「次に各ルートの説明をします。先ほども申しましたように入り組んではいません。
ですが攻め込もうと思うと実にやりにくいですね。
道が単純であるからこそ相手もこちらも全力で真っ向から戦うことになります。
集団戦略で実力差を埋める事は不可能でしょう。互いの実力がものを言います。
大部屋の前の小部屋などはやつらもかなりの猛者を配置してくるでしょうね、
あのモトのような…」
空気が自然と重くなる、悪夢のような強さを誇る怪物があそこには何人もいるのだ。
「以上で説明を終わります。」

説明が終わったところでセラは再び疑問を抱いた。
ジジはどこにいるのだろう、カラップス・アイの外に出たとは考えにくい。
だが今の話が真実ならばジジがいる場所の見当がまったくつかない。
軽率な行動を嫌うジジがいきなり奥深くに潜入してメインコントロールルームや
ディフレクター室を襲うとはどうしても考えられないのだ。
ならばガガの情報が嘘かガガの見つけられなかった道や部屋にいるか、
もしくは…
セラは思考をシャットダウンした。
今考える事はジジの事ではなくこれからやつらをどう迎え撃つかだ…

「戦力がたりぬ…」
言ったつもりはなかったが意外とはっきり呟いていたらしい。
皆がこちらを見ている。
「戦力なら大丈夫。もう手を打ってあるの、そろそろだと思うんだけど…」
トロンが外の窓へと目をやると自然に皆もならう。

最初はなんだかよく解らなかった。
はるか彼方の小さな影がゆっくりとこちらへ向かってくる。
どうやらカラップス・アイからやってきた敵機という事はなさそうだ。
数分間目を凝らして見ていると影は一つではない事がわかった。
二つの影は大きさに随分と違いがあり一つはかなりの巨体を誇っていて
だいぶ輪郭もはっきりしてきた。
「ねぇ、ロールちゃん。あの大きい船って…どっかで見たことない?」
「うん、それにその隣の船って…」
小さな船は黄を基調とした姿をしている、近づくにつれどうやらマンボウのような
形をしている事も確認できるようになった。
そして巨大な船の正面にはあのボーン一家のマークがでかでかと配置されている。
「ゲゼルシャフト号とフラッター号だ!」

十八話『ティーゼルの性』


ロック達は場所を宇宙船から
「ようこそ!ここが俺たちボーン一家の誇る新造戦艦ネオゲゼルシャフト号だ。」
の作戦会議室に場所を移していた。
部屋を見回すとロックの着いた席の真上には「損して得とれ」の文字が、
そして微細な黒いカスがついているホワイトボードが備え付けられている。
床にはくしゃくしゃに丸まっている紙くずが散らばっていてお世辞にもきれいとは
いえなかったが、反面巨大なモニターやコンパネなどヘブンにも劣らぬほど
立派な設備もあり、作戦会議室としては充実していた。
「ティーゼル、感謝する。」
セラが珍しく礼を言う。そっけない態度だが、彼女なりの心を尽くした言葉だった。
「きにすんな。…ただし、いつまでも置いとくわけにはいかねぇ、
一段落したらさっさと出て行ってくれ。」
「!!……お兄様!」
「トロン…いや、何も言うめぇ。」
(畜生…なんとかしてこの場をやりすごさねぇと、トロンは妙にやる気みてぇだが。
1文にもならない話なんてごめんだぜ、マジで路頭に迷っちまう。
それだけじゃねぇ、普通の人間があんなもんに手ぇだせるか。)

「トロンからの話もあったし願いもあった、だが悪いが力は貸せねぇ。」
この言葉にガガが反応する。
「貴様!事の重大さがわかって…!…?ユーナ様…」
ユーナがガガを片手で制すると少々不敵な笑顔を作って見せた。
どうぞとセラに合図する。
「本当に残念だ…だが気に病むことはない。そもそもこの戦いは私たちが巻いたものに
等しいからな。あなた方を巻き込もうと言うほうがおかしかったのだ。
このまま長く居続けるのも迷惑な話だろう。私たちはこれで退散するとするよ。」
そういうとセラは席を立ちゆっくりと会議室の出口へと向かう。

人間というものは天邪鬼なものだ。必要とされると突き放すくせに、突き放されると
必要として欲しくなる。ティーゼルはなんともいえぬもどかしさに心を
揺さぶられていた。しかし…
「さぁ、みんな行くぞ。トロン、それからコブン、お主達にも礼を言う…
ロック、フラッター号をしばらく借りる。『巨大ディフレクター』奪取の為の
チームを決めねばならんからな…」
ティーゼルは『巨大ディフレクター』という言葉を聞き逃さなかった。
というか耳に入ってしまった。

十九話『なに考えてるの?』


「まちな…そこまでおめぇらが俺たちボーン一家を必要としているってぇなら。
力を貸してやろうじゃねぇか、ホントは嫌なんだがなぁ、まぁ男としての
心意気って奴か?なんだな…」
態度を180度変え、べらべらと必死に言い訳をするティーゼル。
ユーナは必死に笑いをこらえている。ガガはちょっと呆れ顔だ。
「まさかここまで上手くいくとはね〜。」
密かにロックに耳打ちするユーナ。
「そうですね、トロンちゃんの言うとおりにしただけだけど…」
かくしてロック達ははれてこのネオゲゼルシャフト号を拠点にする事が
可能となったのである。

開発室にて
「空中戦だとドラッへが…23機に…ネオグスタフが1機。
それに加えてフラッター号とネオゲゼルシャフトが私たちの戦力全てね。」
ロール、セラ、トロンが各機体の図面や資料とにらめっこをしている。
数では向こうのほうが勝っているのだ。少数精鋭で対抗するしかない。
そこらじゅうに機械の図面が散らばっていた。

セラはさっきからずっとトン、トンと一定の間隔を置いて机を指で叩いている。
ユーナいわくこれはもう少しで考えがまとまりそうだという時にでる癖なのだそうだ。
三人は「むむむ」とか「うん、うん」とか唸りながらそうやって何十分か考え込んでいた。
ふと、トン、トンという音が止む。
セラはどうやら考えがまとまったらしい。ふいにコンピューターに向かって
凄まじいスピードで何かを打ち込んでいる。しばらくすると、トロンとロールを
手招きし画面を二人に開放した。
「これは…ドラッへの改造案とロックの新特殊武器の設計図ですね。」
「そのとおり、ドラッへにはシールドアームの原理を利用した強力なバリアを
搭載させる事にした。何しろ敵の数が計り知れないのでな、長期戦を想定しての事だ。
それからそのうちの6機にはリモートチャージの内部機構を搭載する。
私の指示のとおり動くようにさせてくれ、カラップス・アイのレーザー砲を防ぐ
策があるからな。」
カラップス・アイの攻撃を防ぐと聞いてロールとトロンは少し不思議な顔をしたが
セラに話を続けさせた。
セラの覚悟が隠されている事に気づいているものはまだいない。

二十話『試し撃ち』


「凄い武器だね。これなら奴らとも対等に戦えるよ!」
出来たばかりの特殊武器を手にはめて子供のようにはしゃぐロック。
それは小ぶりでバスターよりほんの一回り大きい程度、シャイニングレーザーに
似た武器でもあったが、腕への違和感も無く軽い。
だから今まで使ってきたどの特殊武器よりも扱いやすかった。現時点では。
「少し試しうちをしておいたほうがいいかも。調整もしなきゃだめだから外に出よう。」

ロールに連れられドラッへの格納庫へ向かう、
数分後ロックは再び地に足をつけた。
「・・・・・・」
無言でなおも不気味に在り続けるカラップス・アイをロックは見つめるとおもむろに
特殊武器の銃口を天へ向けた。
引き金をゆっくり引き絞る。

ズドンッ!………

あまり大きな音ではなかった。
が、手がしびれている。ちょっと動かせそうに無い。足腰にも強烈な振動が伝わり、
下を見下ろすと自分の足が地面にかなりめり込んでいる事を知った。
ロックは使ってもいないのに『扱いやすい』とはしゃいだ自分を未熟だなと思った。
ロールは目をしばたいている。どうやら製作には携わっても性能の予測が出来なかった
らしい、だから普段はやらない試し撃ちを行ったのだ。
当のロック本人にも何が起こったのかは完璧にはつかめていない。
一瞬にして熱いエネルギーが銃口に収束、それが爆発するように発射、
そして光と乾いた音、全てが一瞬の出来事、それだけだ。
ふぅっと一息つき足を地面から引っこ抜く。しびれももう無い。
「どうだ?新しい武器は。」
セラがこっちに向かって歩いてくる。
「凄いです…でも…」
「辛いか?これでもかなり出力を絞ってはいるんだがな。大体全体の2割といったところか。」
(2割?これで?)
とんでもなかった。

二一話『レーザーバンカー』

だがよくよく観察するとそれがあながちでたらめでもない事がわかる。
あれだけの衝撃がロックに伝わってきたのだが。
一番衝撃を受けるのはその武器自身である。
普通は今ぐらいのエネルギーを武器が放てば木っ端微塵かもしくはパーツが欠けるとか
何らかの障害を起こす。
ところが今手にはめている武器には損傷が見られぬどころか試射する前と変わらぬ
輝きを放っている。銃口に普通つくはずのちょっとした煤(すす)すら見つけられない。
「一体どこからこんないい物を…」
「いい物?何か特殊な素材でも使っていると思ったか?あいにくだがそんなものは無い。」
ロックの心中では口が開いたままだ。
「ろうそくの火の中に一瞬だけなら手を入れても熱くは無いでしょ。
それと同じで全ての過程を一瞬に収める事で耐久性を得たの、結果一発の破壊力、
速射性、弾速までも高める事に成功したの。」
「まぁ現存の武器で例えるならパイルバンカーという武器が性質上最も近いな。
反動は大きく扱いやすいとは言えないが武器としての威力は一級品だ。」
まさにじゃじゃ馬である。乗りこなしさえすれば最強なのだ。
その武器は『レーザーバンカー』と名づけられ最後の調整の為にロックの手から
再びロールたちの手へと渡った。
ロックはもう一度カラップス・アイを見やる。
決戦は…近い。

その夜も遅くまで作業が続いた。
これからのことを考えるとこのままだらだらと準備を進めるわけにはいかない。
相手のいつ気が変わるかわからない事もあるが、なによりも皆疲れの色が少しだが
出始めている。気がついてはいないが内心あせっているのだろう、目に見えぬ
プレッシャーが全員を少しずつ蝕んでいた。
「ロール…少し手伝って欲しい事がある。」
「ええ、なんです?」
「作業場で話す、ついてきてくれ。」
ユーナはなぜか耳にしみこんだその会話とセラの口調で彼女のしたいことが
あらかた解ってしまった。おそらくは間違っていないだろう。
根拠の無い『勘』だった。
いや、一つ根拠らしきものを挙げるならこれだ。
(あの子…私と同じことをする気ね。)

二十二話『さぁてね・・・』

セラは翌日全員を会議室に集めた。
そしてまず一言。
「作戦は明日決行だ。」
この時点であらかたの準備は終わっている。異論を唱えるものはいなかった。
「そこでチームをこちらで3組編成した。カラップス・アイの中に2チーム、外に1チームだ。
内部一つ目のチームは…ロック、ユーナ、ガガ。
二つ目は…ネオグスタフとコブン6人。
残りは全て外のメカの破壊にあたれ。異論は?」
「・・・・・・」
なかった。
せいぜいコブン達が「中の六人から外れますように〜。」とか言ってる程度である。
即席だがさすがは管理職、配置は的確だ。
「無いな。ティーゼル、グスタフチームのメンバー選びは任せるぞ。」
ティーゼルは手で合図するだけで何も言わない。
その後もセラのこまごまとした作戦内容が伝えられ、その内に日も暮れた。
「以上だ。今日は早めに休んで疲れを取ってくれ。」
会議は幕を閉じ、皆無言で自分の部屋へと戻っていった。

「・・・・・・」
セラは格納庫で巨大なもう一人の自分を見つめ上げている。
「ここにいたのね。」
顔を声のしたほうへ向けるとユーナが立っていた。
「ユーナ、やはりお主も同じことをするのか?」
「私にはそもそもあなたが何をするのかわかってないんだけど。」
ちょっと意地悪っぽく言う。
「とぼけるでない。」
「ごめんごめん、そうね…たぶん私もあなたと同じことするわ。」
「そうか…明日からは後戻りのきかない命になるな。」
「それが生命本来の形なんだからいいんじゃない?」
『本来』、すなわちそれは『真実』。
私たちの命は真実だろうか?
造られたこの命が…真実なのだろうか…
「マスター……」

二十三話『白と黒の対談』

そこは暗かった。冷たかった。
赤い光の線があたりを駆け巡っている。
青い光は無い。
黒一色の床と壁。
白色は…
唯一つ。正体は一人の男の持つ刃の輝き。正確には青白さと陰りのある赤色を持つ『鎌』。
「さっきの光はなんだったのだ?『モト』。」
「例の青き少年でしょう。仕掛けてくるのはもうすぐですかね?」

モトと対峙している男の姿が暗闇から浮かび上がる。
彼こそがカラップス・アイのリーダー、『イルダーナ』である。
深い紺色をした髪に漆黒の眼、そして紺色で描かれた紋様で縁取られたローブにも
似た白い服を着、腰には一振りの刀を帯刀している。
落ち着いた雰囲気に合う端正な顔立ちだが厳しい顔つきでもある。
重々しい言葉やただならぬ威圧感、眼に宿る信念の色から読み取れる事を一言で
表すなら…そうだな…『武将』といったところかもしれない。

「ところでモト…一度は宇宙船を撃墜し彼らの息の根を止めるつもりだったのに
何故直接会った時に皆殺しにしなかった?」
ロック達がいざ大気圏へ突入するという時のあの謎のエンジン爆発。
それはモトの仕業だったのだ。
しかし、やはり尋常ではない能力の持ち主だからこそできる事だった。
「さぁ、何故でしょうね…最初は私も殺すつもりでしたが…
ククッ、あの少年の目を見てからですかね、『今殺すのは惜しい』と思ったのは。」
小刻みに震えるように笑いながらモトは言う。
「貴方は会ってみたくないんですか?貴方の好きな澄んだ目をした少年ですよ。私と違ってね…」
「お前の目が澄んでいないなどと言った覚えは無いがな。
そこまでお前が入れ込むなら彼らの出方を待つとしようか。金将!」
イルダーナがその名を呼ぶと暗がりからまた一人の男が現れた。
金の仮面の男である。
「銀将とアルゴルに伝えろ…『戦いが近い』と。」
「ハッ!」
男は再び暗がりに消えた。

二十四話『決意』

「セラさん、これでいいんですね?」
「ああ、すまない…」
決戦当日の早朝。ロールとセラは最後の作業を終えた。
「セラさん、一つ質問しても良いですか?」
「何だ?」
「セラさんが自分の体を一つにしたのは『戦闘能力の向上』、それだけなんですか?」
「・・・・・・」
すぐには応えない。
「…ロール、もし私が…」
セラが口を開いたがその口調からかロールは言葉を遮る。
「セラさん、さっきの質問は無しにしてください。私たちは皆が皆無事でいることを信じますから。」
そういうとロールは格納庫の出口へと足を踏み出していく。
そして出口までくるとセラのほうに振り返り
「セラさん…負けないでくださいね。」
そして去っていった。

セラは少し小さな微笑を浮かべたがすぐに顔を引き締めた。
しばらくすれば目の前のハッチが開くのだ、戦いはもう眼前にまで迫ってきている。
ふと、コンコンコン…と誰かの足音が聞こえる事に気づく。
「ユーナか…」
「All right(当たり)♪」
ユーナが格納庫の柱の影から姿を現す。
その姿は今までのユーナとは違う、自らの戦闘端末と融合した結果がそこにあった。
ユーナの戦闘端末はセラがヘブンでのロックとの初戦での彼女とほぼ同系だが
それよりはいく回りか小さく普通の人間サイズとあまり変わらない。
戦闘能力自身は未知数だが…
「そっ、いまやユーナと呼ばれるのはこのあたしだけね。昨日までは二人いたけど。」
「・・・・・・」
「セラ…あの子に言いたい事は言った?一人でも融合なんか出来るくせに、
あの子をわざわざ手伝わせたってことは何か言う事があったんじゃないの?」
「いや、私は…」
そういえば何故自分はロールを呼び寄せたのだろうか?
「理由もなく呼んだわけ?ふ〜ん…
あなたも寂しいとか名残惜しいって感じるようになっているのかしらね。」
(!)
「そして恐怖も…」

二十五話『さぁて…開戦だ!』

「ったく、何であの子が作った武器を私のネオグスタフに取り付けなきゃならなかったわけ?」
トロンが格納庫で毒づく。
『あの子が作った武器』というのは誰もがその威力を知るシャイニングレーザーの事である。
「あの武器は優秀だ、しかたあるまい。」
セラがたしなめる。
「なによ、攻撃力ならボーンバズーカだって…」
「確かに、だがその点だけだ、解っているのだろう?それに基礎が現代の科学を
凌駕した古代の知識だ、やつらに効果が望める可能性も高い。」
「・・・・・・」
押し黙る、頭では理解できるために何も言い返せない。
しかし、イライラするのはプライドというやつのためだ。
「口で悪く言っても認めてはいるのだろう?彼女の腕を。」
「…もう行くわ。愚痴をこぼして悪かったわね。」
再び格納庫の中が静かになる。
と、突如足元から振動が伝わり始めた。
船が動き出した事の合図だ。

「てめぇら、準備はいいな!ドラッへ隊、潜入組は格納庫へ急げ!準備ができ次第出撃だ!!」
コブンがあたふたと艦内を走り回っている、ティーゼルの傍にいたロックもすぐに
格納庫へと走っていった。
ぐんぐんと速度を上げていくネオゲゼルシャフト号。
そして艦内のレーダーが最初の敵を一機捕らえた。
すると一つ二つと順番にではなくわらわらとレーダー上部が敵を示す赤いポインタで
埋め尽くされていく。
「第一波か… 前は逃げるだけだったらしいが今回はちと違うぜ
…主砲開け!!目標は目の前の雑魚どもだ!」

ヴィィィィィ……

不気味な轟音をたててドクロにエネルギーが集っていく!
そしてにやりと不適に笑うティーゼル。
「これを開戦ののろしにさせてもらうぜ…… 撃てぇぇぇ!!!」

カッ!!!!

緑色の閃光が白い粒を飲み込んでいくと立て続けにオレンジ色の爆発が
青い空を埋めていった。

二十六話『出撃!って…えぇ!?』

「いつでも出られるよ!」
ドラッへの上部ハッチから顔を出しているロックが大声をあげる。
するとその返事を待っていたかのようにアナウンス…というか罵声が
艦内放送で流れてきた。
「ドラッへ射出!戦闘開始だ!」
ゴゥンゴゥン豪快な響きでハッチが開いていく。
入ってくる風がロックの頬をすべるようにして走っていった。

完全にハッチが開くとまず一番初めに出撃したのはセラだった。
あとにドラッへがまず六機続く無人のドラッへだ。
そして次はユーナとガガが飛び出し、それに今度は十五機ものドラッへが続く。
そして最後はロック達のドラッへ二機とトロン。

ロック達のドラッへはロック以外にトロンについていくコブン3人+操縦役1人の
乗るドラッへともう一機はトロンについていくコブンのもう片方3人+操縦役一人
である。ちょっときつかったがもともと1人乗り専用というわけでもないので
ロックがハッチから顔を出していれば余裕ともいえる。
「あんたたち、気を抜くんじゃないわよ!」
そういうとトロンの駆るネオグスタフが空へと飛翔していく。
そして残るドラッへ二機も飛び出した!…と?

へなへなと一機は高度を下げていく。
「どうしたの!?」
いきなりのハプニングに見舞われたロックがとまどいながら操縦席のコブンに聞く。
「えっと…ロックさん!上部ハッチの傍のコックを右側にひねってください!」
言われるままにする。すると機体が一度大きくゆれ飛空挺加速時の独特の感覚が
身を包んでいった。
「ふぅ〜危なかった。でもこれで安心で〜す。」
「う〜んどうやらそうもいかないみたいだよ。」
ロックが言うといつのまにか一機の青い戦闘メカが背後から忍び寄っていた。
「全速力で皆のほうへ向かうんだ!一直線に。敵は僕に任せてくれ。」
ドラッへは向きを少し修正し彼方に見えるグスタフとドラッへの影を一直線に追う。
ロックは再びハッチから顔を出すと敵のほうへ厳しい顔を向ける
構えたものはレーザーバンカー。
「ごめんよ!」
ズドンッ!
ばらばらに吹っ飛ばされた物体が青い光を反射して海に落ちていく。
先の言葉はもうしばらくは口に出来ないだろう。
それほどまでに余裕の無い戦いが待ち受けていることが明確だから。

二十七話『十字架=哀しき者への墓標』

戦況はロック達が今のところ押していた。
もともと敵ではなかったからか、それともロック達が強くなったからかは解らないが、
あの無数の恐怖の軍団は次々に爆発に巻き込まれ仮そめの命を空に散らしていく。

「突撃組は私の後ろにつけ!他のものも私より前へは出るな!道を開ける!!」
セラはそう叫ぶとちょうど自分の胸部あたりにエネルギーを集め出した。
ロックにはちょっと苦い思い出のある光だ。
一瞬チカッと光る、そして…!

ズヴァァァ!!!!!

極太のレーザービームが一直線に収束しカラップス・アイ、正確には
カラップス・アイの盲点めがけ驚くべき精度で突き進んでいく。
そしてセラが両手を少しひねるように動かすとレーザーは最初のラインを中心に
円錐形を作り出すように回転、敵をなぎ払っていく!
「道は出来た、行け!ロック!!」
「はい!行こう、みんな!」
ロックのドラッへが先頭を切って加速、エンジンの火が大きく噴き出す。
それにユーナ、ガガ、トロンにもう一機のドラッへが続く。
彼らは近づいてくる敵に応戦しながらも少しの減速もせずセラがこじ開けた道を
突き進んで行く。

「(頼んだぞ…ロック達)外のものは持久戦になる、無駄なエネルギーは使うな!
危ないと思ったら一度ゲゼルシャフトに戻れ!」
再度ロック達のほうを見やるともうすでに新たな敵機でセラの作った道は
閉ざされてしまっていた。
だが彼らの心配は無用だろう。自分たちにやれる事を全てやるだけだ。
とセラが大気圏突入時の戦闘の時に敵を切り落とした緑色の糸を指先から出した。
しかし、以前のそれよりもはるかに太く長い。もはやこれは鞭だ。
「墓標の無い空の戦いでの唯一のたむけだ…眠れ。」

ビュッッ、ビュゥッッ!!!

セラが手を横へ薙ぎ、ついで縦に大きく振った!
その静かな声とは裏腹に響く轟音の元は天空に鮮やかなオレンジ色の
巨大な十字架を作り出す!
「さぁ次だ!来るなら来るがいい!」
ひるむことなく爆発の十字架をかき消し雲のように敵機は群がる。
セラは感情無き機械を相手にまた一つ十字架を作った…

二十八話『これから…』

ロック達は盲点の眼前にまで迫ってきていた。
「よし!このまま突入だ!」
ロックはレーザーバンカーで数十機もの相手をまとめて打ち抜きつつ
入り口を目指す。
しかし入り口は敵の出撃場所でもある。
外にあれだけの数がいるとはいえ中が手薄になっているとは必ずしも
言い切れない。
案の定新手がわいて出てきた。
「あたしに任せなさい!」
ユーナはそう言うと瞬時に十前後の光球を作り出し手首をすばやく返す。
すると光弾は少しのずれもなくそれらの敵に向かって飛んでいき
全機の胴体に穴を開けた!

「進入成功♪」
セラ、トロンは一足先に入り口の地に足をつける。
ロックやコブン達はドラッヘをカラップス・アイに横付けして
順々に降りていった。
その間にガガが敵の攻撃を流れ弾一つなしに食い止める。
やがてガガ以外の全員が無事カラップス・アイの内部に入ると
ドラッヘはもうすぐ近くに来ているであろうセラ達に合流しにその場を離れ、
入れ替わりで最後にガガがカラップス・アイの内部に降り立った。
と再び目の前に新たな敵がわく。

一機だけだ。
しかし様子はどう見ても空戦用ではない。
強固そうな外見と大きな砲身は重要地点に配備されるべきものである事を意味している。
砲身にエネルギーが集りだす…が!?
「遅い。」
ほんの数秒でそいつはロック達の集中砲火によりくず鉄と化した。
無残な鉄塊を後にする…と、突然!!

ズッゴオオォォン!!!………

「閉じ込められた…!?」
鋼鉄の扉に閉ざされ外壁との連絡を絶たれたことに少なからずロックは動揺した。
「なに驚いてるのよ、あいつらさっさとやっつけちゃって後でゆっくり開ければいいじゃない。」
「向こうもなかなかいい根性してますね。」
「こんな事をしたこと後悔させてあげなくちゃね。」
「そ、そうだ〜!こ、コテンパンにしてやるぞ〜!」
皆思いのほか強気だ、心強い。
「そうだね、じゃぁ…行こう。」
静かに、力強く言った。

二十九話『また、逢えますね。』

「博士〜、もっとスピード出してよ〜。」
「なに言っとる、限界じゃい。」
フラッター号は多少ふらつきながら青く澄み切った海を敷いて飛んでいた。

ふらつきの原因、それは外から見てもよ〜く解る。
犬が乗っていたのだ、三つ首の。
鋭い爪、黒を基調とした頑強な体、フラッターの甲板からはみ出さんばかりの巨体、
鮮やかな赤い目。
ただの犬ではない事はお分かりいただけるだろう。それはリーバードなのだ。
名は、『ケルベロス』と言う。

「データ様、着くまでにトリ…いやロック様や状況を話してはくれませんか?」
バレルやデータの側で静かにたたずんでいた銀髪でケルベロスと同じ赤い目をした
少年が言う。
彼はケルベロスの主人でありケルベロス自身でもある。
かつてのロックの部下だった少年、彼の名は『ロックマン・ファブネル』。

「…と言う訳なんだ。」
データの話を聞いてファブネルはふぅと息を漏らした。
「そうですか…俺とロック様の再会もまた落ち着かないものになってしまいましたね。
ですがそんなことも言ってられませんね。俺としても『約束』があります、
野放しには出来ません!」
凛とした声だった、意志の強さは相変わらずなようだ。
「ありがとう、ファルー。じゃぁ急ごう!カラップス・アイへ!!」



transcribed by ヒットラーの尻尾