シーズン(彼女の理由2)



「またやめたんだって?」
「・・・・・・そうだけど、よく知ってるね、そんなこと」

相変わらず数人で昼食を囲む。今日は唐突にクラスメートがサークルの話題を持ち出していた、あの時のように。

「そりゃね、だって有名だもん」
「有名って・・・」

この間彼女達に言われて、じゃないけれど、なんとなくサークルを客観的に眺めてみようと試みた。そう心がけて見渡してみると、やっぱり彼女達の言う事にも少しは分がある、そんな気になってきたのだ。妙にサークルそのものが浮いている、といった事実にも薄々は気がついている。加入したメンバーの残存率が悪いことにも。

「あの人って、彼女いたよね。振られたみたいだけど」
「よく知ってるわねって、彼振られたの???」

この前は堂々と彼女に電話してたじゃないか、そんな言葉が喉まででかかる。

「うん、そうみたい。別の男と歩いているのを見たって聞いたし」
「その情報はどこから入ってくるわけ???」
「うちの大学そんなに大きくないから、結構詳しいよ?みんな。あんまり外には興味ないみたいだけどさ」

外、というのはやはり、サークルの外、という意味だろう。そんな風に言われるほど、私はあそこに執心しているように見えるのだろうか。

「それに、例の背の高い先輩が告白したっていうのも有名だし」

そんな事を言われて、口にしていたものを噴出しそうになった。

慌てて、お茶でそれらを飲み込む。

「な、なにそれ」
「何って、言ったじゃない。狙ってるってあの人」
「そんなわけ・・・」
「現におおっぴらに言い寄ったみたいだよ。あっという間に振られたみたいだけど」

それは、そうだろうと、わずかに安堵する。彼の方は私たちにそういう感情を持ってはいないのだから。だけど、そこまで考えて、私たち、いや、先輩の言動が矛盾していることに気がつく。

「でも、それが狙いなんでしょ?あなたたちって」
「狙い?」
「うん、内輪だけで固まって、それ以外に目を向けるのが嫌で嫌で仕方がないって感じだし。だから排除しまくってたんでしょう?」
「・・・」

彼女達に言われたことが理解できなくて、言葉に詰まる。
私は純粋にサークルが良くなるように勤めてきたのだ。それが誤解されることも少なくない、けれども、私は私なりにがんばってきたのに。

「あなたは違うかもしれないけど、少なくとも先輩は男狙いってことでしょ?意地悪までしてさ」
「いいかげん自分達がやってきたことに気がついたら?」

それでもわからなくて、彼女達に溜息をつかれてしまう。

「だからね、皆平等に扱えっていってるの、それだけでいいから」
「私はそうやってる・・・」
「だったら、誰かさんの彼氏にも、のこのこやってきて、邪魔なのがわからないわけ?って言うの?」

いつかは忘れてしまったけれど、確かに私が発したと思われるセリフが友人の口から零れ落ちる。その刺々しい言葉に、自分が言ったにもかかわらず愕然とする。

「気がついた?他にも伝わってるけど、どれもこれもひどいもんだよね」

念を押すように自分から出て行った言葉達を思い起こさせてくれる。そう、私は確かにそうやってメンバーの彼女達を追い詰めていった。
追い詰める?
自然発生的に紡ぎだした言葉にさらに愕然とする。

「もしも、もしもだよ?例の先輩がそのままメンバーと付き合ってたら、同じ態度をとる?今までみたいに」

つまり後からやってきたよそ者として先輩を扱えということなのだろうか。
そんなことは、できないかもしれない。
だけど、今までの彼女達には排他的ととられるような行動を起こしてきたのはどうしてなのだろう。
私の方が彼らのことを知っているのに、後からやってきて全てを知っています、という顔をするのが嫌だったのだ、きっと。だから、私たちの中の一人が彼らと付き合うのなら納得がいく。
――違う。激しく矛盾している。
恋愛感情を持たないことを前提としているはずなのに、グループ内での交際しか認められないなんて。

「まあ、別れたのは本人同士の責任だろうけどさ。つーか、あの男もばかだよね、あれだけ彼女を放っておいたら振られるのあたりまえじゃん」
「本当に・・・・・・よく知ってるね・・・」

自分の思考すらきちんと整理できていない私は、もはや溜息をつくほかなくなっている。

「あそこは有名だし。うちの大学で3年も付き合ってたら嫌でも目に付くしさ」
「あなたもこわーーい、お局集団と同一視されたくなかったら、早く足を洗う事ね」

友人達は食べ終わった食器をのせ、トレーを持って片付け始める。もう昼休みも終わろうとしている。

私のせいじゃない。

彼と彼女が別れたのは、私たちのせいじゃない。
聞こえないようにそう呟いた。
私は、サークルのために色々なことを我慢しているのだから。



結局、友人たちの言葉が私の中へと届く事はなかった。
彼女達が言っていた意味に気がついたのはずっとあと。
就職して、私が“後から入った人間”になった瞬間だった。

3.17.2006/Miko Kanzaki

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