舞台裏4

「セリさまを侮辱するのはやめていただきたい」

上の三人娘に対してもどこかひいた態度をしていた宰相が、珍しくはっきりと王子に苦言を呈した。長女は利用し、次女は軽蔑し、三女は理解していなかったこのお見合いは、まじめなセリにとっては苦痛以外のなにものでもないだろう、と。

「いやしかし、あれとあれとあれを見て、あれだぞ?」

そんなことを感じ取ることなど出来ない王子は、正直な感想を述べる。
恐らく、セリは生まれついてずっと王子の言葉と同じようなものを投げかけられていたのだろう。よく言えば冷静で、悪く言えば達観した性格は、そういった環境によるものなのだろう。

「セリさまは、セリさまで十分魅力的です」

だが、絶対的にもてる姉たちと違い、セリはある一定の層に非常に気に入られる傾向にある。それは、どういうわけか細身で知的、他者には非常に淡白な男女、といった人間たちであり、ひとたびセリが絡めば、彼ら彼女たちは執拗かつ妄信的に彼女に付きまとう、といった特徴がある。
それにぴたりと当てはまっている宰相は、この茶番を制止しなければいけない立場でありながら、彼女と言葉を交わしたくて見逃していた、という後ろ暗い事情がある。
そして、セリの配偶者、王子の従弟こそ、その偏執的な集団を独走する狂信者、の一人である。 そんなことは全く知らない王子は、三女の豊満な体でも思い出すのか、セリの悪口をあれこれいいたれ、宰相の眉間の皺は最高潮に深くなっていく。

「優秀な学者が外に流出するようなまねはやめてください、くれぐれも」
「だがなぁ、失礼なやつだし」
「あなたのその空っぽでお飾りにもならない頭と違って、彼女は非常に優秀で繊細ですばらしい頭脳をもっているのです。役に立たないのならせめて足をひっぱらないようにしてください」

いつにもまして辛らつな宰相の言葉に、さすがの王子もうな垂れる。

「それと、従弟殿とはローゼルさまですよ?いいんですか?そんな口を聞いて」

その名前を聞き、王子ははっきりと青ざめた。
年の近い従弟であるローゼルは、何かにつけ周囲が比較をする優秀な王子の一人だ。父親である王弟はどちらかといえば凡庸なのだが、彼は突然変異のごとく非常に才能豊かな青年である。
王位継承権は低いものの、王子が継ぐぐらいならば彼の方が良い、と考える家臣は多い。
そしてなにより、このローゼルは人に興味がないくせに、会えばさらりと嫌味を言う、王子が苦手とする人間だ。学者王子と名高い彼に、悪気なく様々な実験という名のいたずらを施され、今では顔をみるのも嫌な状態となっている。

「・・・・・・いくらあれでもここを盗聴はできないだろうな」
「さぁ?ローゼルさまですから」

何の対策もとっていなかった部屋を見渡し、王子の顔がさらに青くなっていく。
基本的に人に興味がないくせに、執着した人間に対する執拗なまでの愛着と態度を思い出し、徐々に王子の口数が少なくなる。

「大丈夫だと言ってくれ」
「保障できかねます」

寒気がする、といってそのまま下がった王子は、後日呪いによって愉快な顔色とされてしまったが、さらに追い討ちをかけるように数ヶ月間不能となる呪いも合わせてかけられたことを知るのは数少ない。 そして、ローゼルもまたその妻と同じく、古代文字と呪術について非常に高名な学者であることは、井戸の中に住む蛙ですら知る事実である。