アルバは夢を見ていた。
それなりにお年頃なので、恋愛という物に少なからず興味もあるし、夢見がちでもあった。
ファーストキスだってそうだ。
いつか好きになった娘と、リリカルに済ませる予定だ。
お互いに恥ずかしがりながら、目も合わせられずに
「き、キスしてもいい?」
とか聞いて、
「…………いいよ」
と返ってくるまでの時間がものすごく長く感じたり。
そうして、彼女の赤くやわらかな唇に、ちゅっと可愛らしいキスを落とすのだ。
そんな風に済ませる予定。
…だった。
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「う~ん、う~ん…」
「あ、アルバさんがうなされてる」
「まぁ、うなされる気持ちは良くわかるよねぇ…」
ベッドに運ばれたアルバを覗き込んで、ルキとクレアが言葉を交わす。
「ん~。アルバさん、多分あれがファーストキスだと思うし」
「やっぱり?必死でノーカンって叫んでたもんねぇ」
確かにオレも、ファーストキスがあんな形だったらヘコむわ。
と、クレアは気の毒そうな顔をする。
「ま、大丈夫でしょ。アルバさんはおじいさんと同衾は済ませてるし!」
「えっ!?キスはしてないのに同衾はしてるの!?」
何それ!?しかもおじいさんって?と、騒ぐクレアに後ろから拳が降ってくる。
「いたっ!」
「うるさい。勇者さんが起きるだろ」
殴ったのは当然ロス…シオンだ。
「アルバくんが寝込んでるのはシオンのせいでしょ~?」
「それがどうした」
むしろ、オレ以外の所為で寝込んでたらそいつにお礼(物理)しに行く。
と言いたげな雰囲気を、うっかりクレアは感じてしまった。
素直じゃないんだから…と、続けて殴られたくはないので心の中で呟くと、同じような目でシオンを見上げているルキと目が合う。
「ねぇ~」
「ねぇ~」
2人で通じあったかのように、首をかしげて言い合う。
「なんだよ、2人とも。キモイぞ」
「オレとルキちゃんは心が通じ合ってるんだよ!」
「そうか。良かったな、きっと近いうちにロリ魂じじいに殺されるぞ」
「えっ?なんで!?」
なんでそんな不穏そうな人に殺されるの?てか、誰?それ。
そんな疑問を顔に貼りつけるクレアをシオンは面倒くさそうに見下ろし、持ってきた水でタオルを濡らしアルバの額…と見せかけて、顔全体を覆う。
「ストップストップ!死んじゃうよっ!」
慌ててクレアがタオルを取り上げると、数秒だった為か(相変わらずうなされてはいるが)特に問題はなかったようだ。
「も~ロスさんってば!とどめ刺してどうするの!」
「あはは~ぷえぷえ~」
ルキが叱るが、シオンはどこ吹く風だ。
仕方なく、クレアが代わりに濡れタオルをたたみ、額に乗せてやる。
(あ、でも昏倒したのはシーたんに腹パンされた所為だよなぁ。頭冷して効果あるのか?)
そう思ったが、まあ気休めにはなるだろう。とそのままにする。
すると、ふと唸っていたアルバの声が止んだ。
冷たくて目が覚めたのかな?と顔を覗き込むとアルバは急にガバッと起き上がり、
「お手伝いレベルが5なんだよ!」
と叫んだ。
「「「は?」」」
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「あはははっ!アルバさんったらどんな夢見てたの~?」
「しかもいまだに『お手伝い』って。マザコン勇者さんはしょうがないですね~」
「マザコンじゃないよ!どんな夢かも覚えてないし…」
「お手伝いレベル5かぁ…。レベル1で新聞取って来るとかかなぁ」
「そんなの真面目に考えないでください!」
からかいの言葉にしっかりツッコミを返しながら、アルバはふと柔らかなベッドの感触に疑問を浮かべた。
「ってか、ボク…なんでベッドで寝てるの?」
その言葉に、その場にいた3人が「へ?」という顔をする。
「え!アルバさん覚えて無いの!?」
「ま、まさかショックの余り記憶喪失にっ!?」
「じゃあ、逆ショック療法で殴りますね!!」
「ちょっと待て!一番最後!!」
ものすごく嬉しそうに放たれた不穏な言葉に、枕を頭にかぶせ防御した。
お得意の「デュクシ!」と発しながらのパンチが枕にポコポコとあたる。
枕じゃない所を狙ってくるのを警戒しながら、アルバはここに至るまでの経過を思い出してみる。
(え~と。お屋敷に着いて、中を案内してもらって、1階から2階に上がろうとしてたんだよな…?)
その途中で後ろにいたロスに話しかけていて、その時に急に肩を押されて…で、ロスめがけて落ちちゃって……。
そこまで考えると、なんだかイヤな汗が出てきた。
そうだ、その後起こったことは…。
「ぎゃ~~~っ!!思い出した!!」
「お!ショック療法が効きましたか!?」
「そんな訳あるか!ってか、何で!?何であんなこと!?」
かぶっていた枕を逆にロスに向かって振り下ろす。
しかし、腐っても伝説の勇者。難なく枕を避けられてしまう。
「え~。ちゃんと説明したじゃないですか」
「一言も聞いた覚え無いけどっ!?」
「シオン~。アルバくんは聞いてないよ?お前が腹パンしたから」
「まさかの本人昏倒後説明っ!?」
あんなことされた挙句、その相手に昏倒するほど殴られるって、ボクっていったい…。と、やみくもにロスに向かって枕を振り回しながら、アルバは既に涙目だ。
「で!?何であんなこと!?」
「ロスさん、ちゃんと説明してあげようよ」
ルキが、なぜかアルバと一緒になって枕を振り回しながら(楽しそうに見えたらしい)ロスに言う。
しかしロスはアルバとルキの枕を器用に避けながら、嫌そうな顔をして言い放つ。
「めんどくせぇ」
「ちょっと待てぇ!!」
他の人には説明しておいて、一番しなきゃいけない自分に対してめんどくさいとは何事だ!
この様子を見て、さすがに気の毒に思ったのか、クレアが間に入ってきた。
「アルバくん、落ち着いて。オレで良ければ説明するよ」
「クレアさん…っ!」
枕を振り回すのをやめ、涙目のままクレアを縋るように見る。
その瞬間、ロスの(またもや)右ストレートが、アルバの左頬に決まったのだった。
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「なんでやねん!?」
アルバは、すっかり腫れてしまった左頬に自ら治癒魔法を掛けながら、ロスに食ってかかっていた。
「スイマセン。隙だらけだったもので」
「隙だらけだから何ッ!?って、なんだかこの会話ものすごく覚えがあるんだけど!?」
「テレテレッテーン」
「ボクでレベルアップするなってか、口で言ってるだけだろ、それ!!」
まったくアルバをからかっている時のロス…シオンは楽しそうだ、とクレアは思う。
自分といる時も間違いなく楽しそうなのだが、それとはまた違った顔を見せている。
(あのツッコミが好きなんだろうなぁ…)
そばで聞いているだけでも小気味よいツッコミだ。しかも、どれだけ弄っても弄っても、めげない。
その辺りが、多分シオンの嗜虐性をよりそそるのだろう。アルバにとっては悪循環だ。
(ゴメンね、アルバくん。オレの親友、愛情表現が生まれながらにネジ曲がってるんだよ~)
シオンの生い立ちだけ聞くと、辛い旅をした辺りで捻くれてしまったのか、と思うだろうが。
残念がらシオンのドSは生まれつきだ。
更に残念なことに、あれは間違いなく愛情表現なのだ。伝わりにくいどころではないレベルだが。
それが解っているのは、幼馴染である自分ぐらいだったのだが。
「ぷぷ~。相変わらず仲良いよね、2人は!」
長い袖で口元を隠し、そんな風に言うのは年端もいかない魔王さまだ
。
どこをどう見たらそんな風に見えるのっ!?と、アルバはわめくが、ルキは2人を見てニコニコしている。
先程も思ったが、この可愛らしい魔王もシオンの事を正しく理解しているようだ。
「仲良いよね~?クレアさんもそう思うでしょ?」
「うん、思う~。いや~オレ達気が合うね!」
ガッシ!と音を立ててルキと握手を交わすクレア。
「何、意味のわからない意気投合してるのっ!?」
「まあまあ。それより説明しなくていいの?」
その言葉にアルバがハッとなる。…一瞬忘れかけていたようだ。
「自分で説明しろって言っといて忘れるとは流石、脳みそ入ってないだけありますね!」
「うるさい、誰のせいだっ!だいたい、説明する気の無い奴に言われたくないし!」
「も~シオン!いい加減、話を進めさせてよ」
シオンの茶々をなんとか止めて、アルバが昏倒した後に話していたことを掻い摘んで説明する。
やり方は突然だわ強引だわで、アルバはショックだったろうが、一応筋だった(?)理由があったことは理解してくれたようだ。
「…あれ?じゃあ、ロスにもう魔力戻っちゃったの?」
「ん?ん~と、一部って言ってたよな?シーた…ゴフぅっ!!」
またもうっかり「シーたん」と呼びかけて、今度はクレアの顔を右ストレートが襲う。
(ま、またやっちゃった…)
もしや、呼び名を変えろというのは、自分を殴るための口実なのではないかと思える頻度だ。
もちろん、自分がちゃんと「シオン」呼びすれば済むことなのだが、長年の習慣はそう簡単には抜けないらしい。
「一度に移すことは無理でした。まあ、移すことが出来ると判っただけでも僥倖なので多少の効率の悪さには目をつぶらなきゃですね」
痛む頬を押さえて耐えているクレアには目もくれず、シオンは淡々と補足説明をしているが、
(あれ?それって…)
「え?それってまさか…」
その可能性に、アルバも気付いたようだ。
青くなるアルバに向かって、シオンは容赦なく宣告する。
「はい。あと何回か分かりませんが、この「口移し作業」をしなきゃならない、という事です」
「………えぇぇええぇぇっ!!」
(…だよね。)
ご愁傷様です。とクレアは心の中でアルバに向かって合掌する。
ファーストキスが事故ちゅー。セカンドも理由も聞かされないまま強引に「確認」という名の元に奪われ、しかもこの先しばらくその「作業」を続けなくてはいけない…。
(普通はイヤがるよね~)
しかし、クレアはシオンのことを知り尽くしていた。
こいつ、絶対アルバくんのこと丸めこむだろうな、という確信。
「仕方がないでしょう?いくらコントロールを覚えると言っても、魔力自体が大きすぎるのも原因の一つなんですから、減らすに越したことは無いんですよ」
「でもだからって!」
「じゃあ、牢屋(自宅)に戻りますか?」
「それもイヤだ~!って、自宅じゃないし!」
思った通り、楽しげにアルバを追い詰めていくシオン。
恐ろしいことに、男とキスしなきゃいけない、という部分は「アルバを弄る」目的ならシオンにとっては何の障害にもならないらしい。
「他に方法無いのっ!?」
「ん~。一応これならどうかな、と思ってた方法がありますが…」
「それ試そうよ!」
あ、それ地雷じゃね?
と、クレアとルキは顔を見合わせる。
「胸切り開いて、心臓を握るって方法なんですけど!」
案の定、今日一番の笑顔でとんでもないことを言い出した。
すでにその手には、剣が握られている辺りがシオンらしい。
「ぎゃーっ!それ死ぬから!試したら死ぬから!」
「大丈夫ですよ、すぐに治癒魔法使えば!」
「死んじゃったら使えないよね!?」
ルキ~!助けて~!!とアルバがベッドから逃げ出し、ルキの後ろにしゃがんで隠れる。
それを見て、シオンはやれやれといった感じで剣をしまう。
「まったく我がままですねぇ。結局、どっちが良いんですか?」
おお、さすがドS。とクレアは思う。
「どうして欲しいのか」ではなく、あくまでも「心臓握る」と「キス」の2択を迫っている。
これでは、アルバの答えは1つしか無くなってしまう。
それも、自分では気付かないうちにアルバは「この2つ以外」という選択を捨ててしまっているのだ。
「それ、ボクが怒られる所? ……あうぅ…」
アルバ、本日2度目の涙目である。
ルキがそんなアルバの肩にポムっと手を置き、黙って首を振る。
逃げ場が無い。アルバの顔にはそんな言葉が書かれていた。
しばらくの沈黙のあと、ガックリと膝を付き、
「………く、口移しで…お、願いしま…す……」
と、悲壮感漂う声色でアルバが言う。
(あ~あ。お願いしちゃったよ。しょうがないけどね~)
心臓握られるよりは、という比較での選択だ。
普通の人間であれば口移しを選ぶのが当然だろう。
そして、その言葉を巧みに引き出した本人はと言えば。
(うわ~、満足げな笑顔…真っ黒だけど)
親友も驚くその黒さ!と思いつつ、思わずルキと顔を見合わせる。
流石のルキも、あきれ顔だ。
(ホント、素直じゃないよな~)
(ね~。アルバさんの為だってことは絶対言わないんだよね~)
こそこそと会話する。
あ、ホントにこの子、シオンを理解してる。とクレアは確信を強めた。
そして、そのシオンは満足そうな笑顔のまま、更にアルバを弄り続ける。
「ま、そこまで言うなら協力しますよ?いや~オレって聖人君子?」
「どこがだよっ!ってか、なんでいつの間にボクがお願いしてるのっ!?」
「「「何を今さら」」」
「三重奏はヤメテ!!」
「じゃ、早速!」
「さ、早速って!?」
じわじわと、アルバとの距離を詰めるシオン。
うん。シーたんそれ完全にセクハラするエロ親父だよ~。とは、さすがに口に出せない。
シオンとアルバが攻防戦を繰り広げていると、ドアがノックされフォイフォイが入ってきた。
「おい。できてるぞ、昼メシ。…って、気絶してたくせに元気だな、あいつ」
「うん、まあね~。2人は取り込み中だからオレたち先行こうか、ルキちゃん」
「そだね」
このままだと、また2人のキスシーン見なきゃならなくなるし。
と、3人は連れだって部屋を後にしようとする。
「うわ~ん!置いてかないでぇ!」
それに気付いたアルバがそんな風に叫ぶが、既にシオンに捕まっているあたり残念ながら救う手立ては無いと思われる。
「シオン、終わったらご飯食べにおいでよ~」
「お~」
「普通の会話するところじゃ無いよねっ!?」
シオンに背後から羽交締めされたアルバが騒ぐが、まあ、なんだ、ゴメン。と心の中で謝りつつクレアはドアを閉めたのだった。
--続く--
-------pixiv投稿時コメント--------
うん。そろそろ「どこがロスアルやねん!」っていうツッコミが聞こえそうです。
すみません。3話も書いて未だ「ロスアル(予定)」です。今回なんてまともな接触がねぇ…。
見返すと、1話目の手つなぎ要素が一番ロスアルっぽかったという…(2話目のキスシーンより手つなぎの方がぽいって…)。
あ、でも途中でロスがアルバの顔殴ったのは「そんなカワイイ顔をクレア(オレ以外)に見せるんじゃねぇ」という無意識のなせる技なんですよ。
その表現が暴力という、これがロスクオリティ。
でも無意識故、本文中で表現できない…(ダメじゃん)。
そしてどんどん長くなる(笑)。
いや、ついツッコミの入る会話が楽しくてすぐ脱線させるせいなんですけどね。
これでも、なかなか入れたいエピソードが入れられてない状態です。
小ネタすぎて、本編中に入れられない気がしてきたので、次はそれのみで3.5話とかにしようかな…。
今回、半分以上がクレア視点だったので、「ロス」と「シオン」が混じってしまって読み辛かったかもしれません。ごめんなさい。
アルバが興奮状態なので、クレア視点のが書きやすかったですよ。ロス視点だとほら、色々ダダ漏れになるのが前回の単発もの(※「爪切り」)で発覚したし(笑)
最後に。
アルバが目覚めた時の寝言は「おもしろい寝言」で検索した結果から、心に響いた(笑)ものを使わせていただきましたm(__)m
-------サイトUP時コメント-------
うん、話もだけどコメントも長くなってる(笑)。気をつけよう。
そして、上のコメントが長すぎて、改めて書くことが残ってないよ。
pixiv投稿:2013/03/13 | サイトUP:2013/03/21