ロス、発見す。

「え、こんな立派なお屋敷借りていいの?」

到着した場所に建つ建物に、アルバは驚いて姫に問う。
そこには宮殿、とまではいかないが庶民から見ると十分に立派な「お屋敷」が建っている。

「えぇ、普段は使ってない別荘だし」
「これでも小さい方なんだけどね。ま、腐っても王室の持ち物ってことだよ」
「腐ってもって!」

アレスの茶々に姫が若干涙目になる。でもまあ、魔王に関する一連の騒動の裏を知る者たちにとっては然もありなん、と言ったところか。
その建物の建つ場所は街中では無く、周りには豊かな草原が広がり、近くには森もある。
なるほど、別荘というか保養所というか。都会の喧噪をひととき忘れるための立地なのだろう。
小さい、とアレスは言うが3階建ての立派な建物だ。

(いったい何部屋あるんだろう…)

窓の数からいくと、1フロアあたり10部屋とかありそうだ。
庶民中の庶民であるアルバがそんなことを考えていると、

「広すぎると眠れないから、勇者さんはトイレで寝るそうですよ!さすがトイレマン!」

と、とんでもないことをロスが言い出す。

「一言もそんなこと言ってないだろおっっ!!」
「トイレマン?それってアルバくんの渾名?」
「そんな渾名で呼ばれたことはありません!!」

条件反射のように言葉を返し、アルバはため息を吐く。
ボケが2人になってしまったので、ツッコミも2倍だ。
あぁもう。また必死でツッコミを入れる日々が始まるのか…。
ちょっと、懐かしくて嬉しいような、嬉しくないような、複雑な気分のアルバだった。

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「掃除、は手配しておりますので済んでいるはずです。えぇと…あとなんでしたっけ?」

トイフェルが普段通りだるそうに、フォイフォイに問いかける。
めんどくさそうな顔をしながらも、フォイフォイは後を継いだ。

「1階が居間や食堂、2階がゲストルームだから部屋は2階のを使ってくれ。3階は今回は使えない。王族用の部屋だからな」
「へぇ~」
「コック1名とメイドを2名配置したから、家事なんかも気にしなくていいぞ」
「な、なんか至れり尽くせりで、悪いなぁ」

思いがけない好待遇に、アルバが若干引き気味になる。

「悪いなんて!アルバさんたちの功績を考えれば当然ですよ?」
「そ、そう?」
「ホントにもっと早くあそこ(牢)から出してあげたかったんですけど…」

そう、アルバが牢から出られるようになったのは、以下のようないきさつがあった。

とりあえず、牢に封印されたアルバをどうするか、城では何度も会議が開かれた。
姫は早く出してあげなければ!とがんばってくれたようだが、何せ大臣たちは魔力の影響を恐れて封印を解くことに積極的で無い。
ならば魔力の影響をなくす方法を、と考えたところでなかなか方法が見つからない。
まさに「会議は踊る、されど進まず」と言った状態で1ヶ月が過ぎたころ、トイフェルが「クレアシオンに相談したらどうか」と発言したのだ。

その意見が出てしまうと、何故今までそれを思いつかなかったのかと、姫もちょっと落ち込んだが、ともあれ道は見えた。
そこからは、王室の情報網をフルに使い、ロスの捜索が始まったのだった。

ちなみにこれを聞いていたアルバが「じゃあ、トイフェルさんのおかげで出られたんですね」とお礼を言おうとしたところ、アレスに「必要ないよ」と止められた。
何でも、トイフェルはかなり早い段階でロスに任せる事を思いついたが、人見知り故、なかなか会議で発言できるタイミングを計れなかった、と言うのだ。
(ちなみに執事であるトイフェルが会議に出ていたのは、騒動の当事者だった事に依る。同じ理由でアレスも会議に出ていたらしい。)
思いついた時に発言していれば、1ヶ月は早くアルバは牢から出られただろう、とのことだ。
なので、相殺。とアレスは笑っていたが、まあ、トイフェルなので仕方が無いんじゃないかな、とアルバは思った。
というか、1ヶ月で発言してくれただけ、まし…というか、結構頑張ってくれたんじゃないだろうか、と思い、機会があればやっぱりきちんとお礼を言おうと決めるアルバだった。

ロスの捜索は、クレアが「ルキが来た」と言っていたので分かるように、ルキの協力を仰いだ。
見つけても、その場所が王城から遠かった場合移動に時間がかかるだろう、ということでだ。
ルキならゲートを使えば、魔界経由で長距離移動が出来る。
しかしここでも少し問題が起こった。
まず、ルキは(2代目が戻ってきたとはいえ)一応魔王であるので四六時中人間界にいるわけにもいかない、プラス、ロスの居場所がルキの知っている場所とは限らない。
つまり、ルキが人間界にいるタイミングで、なおかつルキの知っている場所にロスがいなければならなかったのだ。
更に、ロスとクレアの移動速度が異様に速く、2度ほど迎えに行ったらもうそこには居なかった、と言うこともあった。
そんなこんなで、ロスを捕まえるまで半月以上がかかってしまった。

そうしてようやくルキがロスの元にたどり着き「アルバさんを助けて~!」となったのが、昨日の朝。
事情を聞いたロスに「忍者(自称)に探させりゃよかっただろ」と言われて姫やルキが若干落ち込んだのはご愛敬である。

「みんなが頑張ってくれたからボクは牢から出られたんだよね。時間がかかったことなんて気にしなくていいよ、ヒメちゃん」
「うう…ありがとうございます…」
「そうそう。勇者さんにとっては実家みたいな物ですからね、牢(あそこ)は」
「今のはあそこが居心地いいとか、そういう意味じゃ無いからねっ!?」

なんでいちいち意味をねじ曲げるんだ!とひとしきりロスに噛みついていると、屋敷の方から小さな影が走り寄ってきた。

「アルバさ~~ん!」
「あ、ルキ!」

ルキが満面の笑みをたたえてアルバに飛びつく。
昨日は魔界で用事があったらしく、ロスたちを城に送り届けたあとアルバには会わずに帰ってしまっていたのだが、今日はこちらに直接出向きアルバたちを待っていたらしい。
仲の良い兄妹のようにひとしきりハグを交わし、ルキがアルバの手を握って話し出す。

「アルバさん、久しぶりのシャバの空気はどう?」
「どこで覚えたの、そんな言葉っ!?」
「勇者さん…いったい1年の間にルキにどんな教育を…」
「教えてないってば!!」

まったくもう、ルキはいつの間にか変な言葉覚えてくるんだから…。とアルバがぼやくと
『おんなの~こ~は~い~つ~でも、み~みど~しま~』
とルキが頭の羽(?)をピコピコさせながら歌う。
それを聞いてアレスが「お、古い歌知ってんなぁ」と笑い、クレアがそれに「古い歌って分かるって事は、あなたも古い人なんだね!」と返したばっかりに血の雨が降ったり降らなかったり。

---------------

「ま。周りに人家も無いしな。向いてるぞ、魔法の練習場所には」

ひとまず屋敷に入り、1階を見て回りながらフォイフォイが言った。

「あ、うん。そうだね」

アルバも窓から外を眺めながら返す。

アルバたちがここへとやってきた理由。それは別に休暇でも何でも無く。
アルバが魔法の使い方をロスに教わるためだった。

ひとまずアルバの魔力はロスがコントロールして外への影響を抑えているが、そもそもそれは自分でも出来るはずだという。
ただ、アルバは魔法の使い方がよく分からない上に、魔力が強すぎるので巧くコントロールが出来ない、と言うことらしい。
剛速球を投げられるが、どこに飛んでいくかは分からないノーコン投手みたいなものだ、とはロスの弁。
だったら、コントロールを覚えればいいんじゃね、と言うことで、この屋敷が合宿場として提供されたのである。
ここなら、少し屋敷から離れれば周りに迷惑をかけずに魔法の練習が出来るだろう。

「ロスが先生ってとこが不安だけど…」
「いやぁ、楽しみですね!勇者さんを拷も…特訓するのが!!」
「いま拷問って言いかけた!!」
「あはは~楽しそうだなシオン!」

クレアが「ガンバ!アルバくん!」といいながらグッと親指を立ててくるが、アルバには正直不安しか無いので引きつった笑顔しか返せない。

「1階はこんなもんだな。2階見て適当に決めてくれ、部屋」
「こっちですよ~」

フォイフォイの後に、姫がそう続け一同を手招きする。
幅が3mはありそうな階段を、アレス、姫、フォイフォイが登り、その後にアルバとルキ、ロス、クレアと続く。(トイフェルは疲れるので階段を登りたくないらしい)

そしてアルバが踊り場から階段を登り始めたところで、それは起こった。

先頭のアレスが、何かを姫に耳打ちしたところ、姫が真っ赤になりながら(いつものように)暴れ始めたのだ。
そのとばっちりでフォイフォイが仰け反り、その肘がたまたま後ろを振り向いてロスたちに話しかけていたアルバの肩に当たった。

「うわぁっ!?」

不意打ちな上、不安定な体制の時だったのでアルバはそのまま数段下の踊り場に向かって落ちていく。
そして、こちらも不意打ち(しかも波状攻撃)のためアルバを受け止め損ねたロスもろとも、踊り場に倒れ込む。

結果。

「「「「「「「…………」」」」」」」

なんの加減か、2人の唇が。

ばっちり重なっていた。

「「「「「「「…………(再)」」」」」」」

奇妙な沈黙が数秒続き、

「うぎゃあぁあああぁぁああぁっっ!!!」

アルバの悲鳴が、屋敷中に響き渡った。

---------------

叫び声を上げながら、ロスから離れたアルバはなおも叫び続ける。

「今の無し!事故、じこ、事故っっっ!だからノーカンっ!ノーカウントだよね!?そうだと言ってくれぇ!!」

頭を抱え、もだえ続けるアルバ。
それを見て、アレスがそっとその肩に手を置く。
アルバが見上げたその顔は、慈愛に満ちていた。

「アレスさん…っっ!!」

思わず泣きつきそうになった瞬間、

「でもやっぱりキスはキスだと思う人~!」
「「「「は~~い!」」」」

放たれたアレスの言葉に、女性陣とクレアが元気よく手を挙げた。

「うわぁあああぁぁん!!」

やっぱり悪魔だこの人!!と、アルバが泣き崩れる。

そんな中、もう1人の当事者であるロスは、踊り場に座り込んだまま何やら思案に耽っていた。
それに気付いたクレアが声を掛ける。

「シーたん?どうした…ゴフぅっっ!!」

またもや「シーたん」と呼んだクレアを無言で殴り飛ばし、おもむろに口を開く。

「勇者さん。ちょっとこっちへ」
「なななな、何っ!?ぼ、ボクの所為じゃないからねっ!!ボクだって被害者だ!!!」

既に充分なショックを受けているアルバは、これ以上ロスにまで追い打ちをかけられるのを恐れ、反射的にロスから遠ざかる。

「は?何訳の分からないこと言ってるんですか。オレが来いと言ってるんだから大人しく来ればいいんです。刺しますよ?」
「真っ直ぐな恫喝!!」
「なんか、違う世界で聞いたようなツッコミですね」
「違う世界って何!?」
「SQとか言う世界ですよ」
「意味が分からない!」
「ま、それはいいので、さっさとこっちに来やがってください」

有無を言わせない響きを持ったロスの言葉に、いやいやながらアルバが近寄る。

「何だよ~~…」
「ちょっと確認です」

そう言って、ロスは近寄ってきたアルバの腕を取り、至近距離まで引き寄せると、そのまま唇を重ねた。

「「「「「!!??」」」」」

再び奇妙な沈黙が落ちる。
それを気にも留めず、ロスは尚も深くアルバに口付け続ける。アレスあたりは、しっかり舌まで入っているのが判別できただろう。
とは言っても、2人とも目はしっかりと開いたまま、という奇妙な物だったのだが(ちなみにアルバは驚きすぎて固まっており、ロスは閉じる必要が無いと思っている)、それにツッコめる人物は存在しなかった。

「…ぅ……っ…」

沈黙の中、だんだん息が苦しくなってきたのか、アルバがわずかな声をあげる。

「…う~…っく、ふぇ…っ…」

その声に我に返ったという訳でも無いだろうが、ルキがロスに問いかける。

「ロスさん…?どうかしたの?」
「ん?」

その声をきっかけにか、ロスは仕上げとも言いたげに、アルバの口中を舌でかき回してから口を離した。
ようやく解放されたアルバは、そのまま力尽きたようにその場に崩れ落ちる。
どうでも良さそうにその体を受け止めたロスは、ルキに向かって舌を出した。

「ほら」

その舌先には、小さな青白い炎が灯っていた。

「あれ?それって…、魔力?」
「そう。勇者さんの中にあった、元オレの魔力…の、一部」

そう言って、ロスはその炎をゴクリと呑み込んだ。

「え~?アルバくんの中から吸い取ったって事?」
「まぁ、そんなもんだ」

ルキに続いて復活したらしいクレアが会話に加わる。

「え?魔力ってそんな簡単に受け渡しできんの?」

とアレスものぞき込んでくる。

「いや。オレの作った外付けの魔力ツクールならともかく、そもそも本人が持っている魔力は受け渡すとか、出来ないはずだ」
勇者さんの中にあるのがオレの魔力だったから、こんな方法でも吸い出せたんだ。とロスが続ける。
魔力に本来の持ち主の方へ引き寄せられる流れが発生するのかもしれない。

「魔力が強すぎるってのもコントロールできない理由の一つだからな。ルキメデスの魔力ツクール分は無理でも、オレの分の魔力をオレに戻せないかって思ってたところなんだよ。方法を考えてたんだが、さっきの事故でなんかこれで行けそうだな、と思って」
「それで『確認』かよ…。でもそういうのは言ってやれよ、先に」
「先に言ったら警戒されるだろ。面倒くさい」
「でも、抜けてるぞ。魂」

そう言ってフォイフォイが指した先には、口から何か(魂?)が出ちゃってしんなりしているアルバ。
ロスはそれを見てチッと舌打ちし、面倒くさそうにその何かを掴んで、アルバの袖口にずるっと入れた。

「袖から入れないであげて!!」

あまりの仕打ちに姫が声をあげるが、ともあれ魂が戻ったのかアルバは意識を取り戻す。
しかしロスの顔を見た途端、

「うぎゃあぁぁああぁあぁぁああっっ!!!」

と叫び声を上げ、そしてその直後、「五月蠅いっっ!!」という言葉とともに鳩尾に右ストレートを受け、見事に昏倒したのであった…。

--続く--

-------pixiv投稿時コメント--------
はい。というわけで初ちゅーの話です。
事故ちゅーな上に、色気の欠片もねぇって詐欺かよ!!ってお言葉が聞こえそうです…。
前半は説明ばっかで申し訳ありません。一応筋を通しとかないと気が済まないたちでして(^^;)
ひとまず、3章始まる前にこの話の設定を披露できてホッとしております。

-------サイトUP時コメント-------
当初の予定文字数の倍をかけ、ようやく初ちゅーまでとかwww
上コメントにあるように、3章始まる前に設定書ききらなきゃ!と頑張った覚えが。まあ、ギリギリだけど間に合って良かった…。
最後の数行がどうしても気に入らなくて、でも他に言い回しができなくて、時間なくて、納得できないままpixivに投稿しました。
今回サイトUPにあたって訂正しましたが、それでもやっぱりなんか違う。と思ってます。
戦勇。パロは元が漫画なので私の頭の中では漫画で妄想してて、絵じゃないと表現しづらい場面って絶対にあって、それを字にできないときってホント悔しいし、悩みます。
この話の最後は、そんな感じ。

pixiv投稿:2013/02/28 | サイトUP:2013/03/21

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