「クレアシオンさんに、相談すればいいの、では…」
それは「あの日」から1ヶ月以上経っていたある会議の最中の発言。
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更に半月後。
アルバは相変わらず自室…もとい、牢屋にいた。
「今日も暇だな~。最近ルキも遊びに来てくれないし…」
勇者の(しかも城の牢屋にいる)ところに遊びに来る魔王、というのもかなり奇妙だが、まあ今に始まったことでは無いので気にしないことにする。
「ヒメちゃんやアレスさんも、なんだか忙しそうだし。フォイフォイさんやルドルフさんも最近見ないな~」
フォイフォイは、城の執事職に復帰していた。例の爆破事件の罪は、その後の活躍により(あとはまぁ、王位継承者が味方だし)帳消しとなったと聞く。
たまに会いに来てくれるミーちゃんも、みんなが忙しそうな理由は知らなかったし。トイフェルとは、まだあまり会話が成り立たない。(大分ましにはなってきたが…)
「あれから…そろそろ2ヶ月かぁ」
ロス…シオンとクレアの2人が旅立って行った「あの日」から、もう2ヶ月が経つ。
「怒濤の2日間だったよなぁ」
思い出すと、ちょっと遠い目になってしまう。
いきなり魔界でロスと再会し、投獄され、無理矢理脱獄させられ、ロスたちと合流、なんだかんだで初代ルキメデスの魂を抜き取ることに成功し、クレアを取り戻した。
これが、たった2日間の出来事だったとは。
その2日間のうちに、成り行きで勇者と魔王の魔力を内に秘めることとなってしまったアルバは、その処遇がなかなか決まらずに、お札を貼られた牢屋に封印され続けていた。
まぁ、なぜ牢屋?という不満はあるにせよ、自分は今や自由に外を歩いてはいけなくなったという自覚はある。
強すぎる魔力は、周りに影響を及ぼす。
それが分かっているのに、自分の都合だけでここから出たい、と言い出せるほどアルバは図々しくも図太くもなかった。
「筋トレでもしようかな」
すっかり独り言が癖になっている。
気をつけなきゃ、と思うけど、やめられない。
ここに閉じ込められてからも、筋トレは欠かさず続けていた。
ちょっとでもサボると、筋力はすぐに落ちてしまう。
それを、アルバは一年間の旅で学んでいた。
ロスと一緒だった頃は、モンスターと(主に1人で)戦ったり、戦いの無かった日はロスにやたらと攻撃されたりして、なんだかんだ毎日体は動かしていた。
「あれは、ボクを鍛えるためだった…ってオチはあいつに限ってないよなぁ」
いやでも、あの短剣の例もあるし。
なら、自分の都合の良いように解釈してもいいのかもしれない。(例え真実は残酷だったとしても!)
そんなことを考えながら、日課をこなしていく。
「はぁ~…」
ちょっと張り切りすぎてしまったらしい。少しだけ乱れた息を整えようとしていた時。
「なにハァハァ言ってるんですか勇者さん?変態ですか?」
「えっ!?」
いきなりの声に、鉄格子に背を向けていたアルバは勢いよく振り向く。
果たしてそこには。
「にしてもホントにここに住み着くとは思いませんでしたよ。さすがは囚人公!」
「いやそれ画面の向こうでしか通じない渾名だから!あと、別に住み着いてはいないし!」
「2ヶ月もここにいながら、よく言えますね~」
「悲しいことに言い返せない!!」
ぽんぽんと、ボケとツッコミを繰り返したところで、ようやくアルバはそれよりも言うべきことがあるのに気付く。
「ロス!どうしてここに?」
「もちろん、牢に入っているあなたを見物するためです!!」
「見物言うな!!って、そうじゃなくて!」
(ああもう!相変わらず過ぎて会話が前に進まない!)
アルバは頭をかかえ、一呼吸おいてから、改めて鉄格子の向こう側見た。
そこには、あまりにも相変わらずな、ロスの姿があった。
と言っても、もちろんアルバやルキと旅をしていた頃の姿では無い。なんだか大仰だった左腕の機械はないし、背に大剣も背負っていない。
代わりにごく普通サイズの剣を腰に佩き、旅用であろう、マントを纏っている。
そして、やはり髪はバリサンではない。
そういう意味では、相変わらずではないのだか、やはり相変わらずなのだ。
主に、人の不幸を心底楽しんでいる顔が、である。
「ロス、クレアさんは?」
「いますよ。別室で待たせてあります」
「じゃなくて、クレアさんと旅してる途中だろ?なんでここまで戻ってきたの?」
2ヶ月程度で、この世界を見て回れるとは思えないし、だいたい「メンドクサイの」と言い放った王の居城にわざわざ戻ってくる理由が分からない。
アルバが牢屋に入っているから…というのは、実は理由にならない。国民には秘密になっているからだ。
だから、旅の途中で「アルバが牢屋に入っている」という情報が、ロスの耳に入るわけがないのだ。
「…呼ばれたんですよ」
やれやれ、という顔でロスが言う。
「呼ばれた?」
「えぇ。勇者さんをなんとか出来ないか、って」
「???」
顔いっぱいに「訳が分からない」と書いてあるアルバに向かい、ロスは鉄格子の隙間からポイポイと何かを放って寄こす。
「まずはさっさと普段着からこれに着替えてください」
「いやこれ、普段着じゃないから!」
「2ヶ月も着ていながら」
「もうそれヤメテ!!」
放られたのはアルバの服で、訳が分からないながらも素直に着替えることにする。
手早く服を替え、最後にいつもの赤い上着を羽織る。
(ホント、うっかり久しぶりだよな~。本来の普段着…)
あ、なんか悲しくなってきた。とアルバはそこでその思考をやめた。
「着たけど…」
とロスの方に向き直ると、ロスは鉄格子の扉を開けているところだった。
一応錠をかけてあるのだが(アルバを閉じ込めるためというよりは、他の人を保護する意味合いの方が強い)、開ける鍵を預かってきたようである。
「じゃあ、行きますよ」
「え?行くってどこ…っていうか、ボクここから出たらまずいんじゃ…」
「なんのためにオレがここに来たと思ってるんですか」
そう言って、ロスはアルバの手を掴んだ。
「わっ!?」
その瞬間、静電気が走ったような感覚に襲われ、アルバは思わず声を上げる。
「ロス?」
「オレに残っている魔力と、勇者さんの中のオレの魔力を共鳴させました。周りに影響が出ないようにオレがコントロールします。これで出られますよ」
「え?」
急展開について行けないアルバが、繋がれた手とロスの顔を交互に見やる。
「そ、そんなこと出来るんだ…」
「オレの魔法は何でもありだって言ったでしょう」
そういえば、言っていた気がする。一年以上前の事だけど。
ぼんやりと、そう思っているとロスはさっさと歩き出してしまう。
アルバは手が離れるとまずいかと思い、慌ててその後に続く。
ちょっとどきどきしながら牢から出る。
(あ、別に即座に影響出るわけじゃないんだっけ)
ミーちゃんだって、ヤヌアに会ってすぐにああなってしまった訳じゃないし。
魔力の強さが今のアルバは桁違いなので、単純に比較は出来ないが、少し安心する。
それに、とアルバは思う。
(それに、ロスがここにいるし)
少なくとも、クレアシオンの物だった魔力は、ロスが押さえてくれているのだ。
なんとなく、顔が緩んでしまうアルバだった。
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「あ、アルバくん。やっほ~元気だった?」
「クレアさん!」
ある部屋に入ると、そこにはロスと同じような旅装束のクレアがくつろいでいた。
根元に近い髪が本来の色になっていて、うっかり3色になっているのがご愛敬だ。
「アルバさん!良かった出られたんですね!」
「ヒメちゃん。アレスさんも」
「う~ん。私の科学力で何とかするつもりだったのに、先超されちゃったな」
「いやいや、本当に良かったですね!」
「ルドルフさん…」
それから、お馴染みの3人が口々に話しかけてくる。
みんなアルバが牢から出られたのを喜んでくれているらしい。
ますます、顔が緩む。
「何へらへらしてるんですか。キモイ顔がますますキモイですよ」
「人がいい気分になってるとこにひどい!」
ロスの容赦ない一言に、言い返しているとドアがもう一度開いた。
入って来たのは執事姿のフォイフォイとトイフェルだ。
「お~、出てきたのか」
「フォイフォイさん!」
「こ、こんにちは。お茶を、お持ちしました…。あぁ、疲れたのでフォイフォイ君あとお願いします」
「お前、オレに運ばせてただけじゃねぇか!!」
「トイフェルさん…相変わらずだね…」
(城にあるにしては)小さな応接間、と言ったその部屋の中央にあるテーブルに、フォイフォイ(とフォイフォイに引きずられたトイフェル)がお茶を並べていく。
それをを待ちながら、クレアが再び口を開いた。
「それにしてもビックリしたよ~。ルキちゃん?だっけ?がオレたちのとこに来てさ『アルバさんを助けて~!』って!」
「え?ルキが?」
「そうそう」
しばらく来ないと思ってたら、もしかしてロスたちを探してくれていたのだろうか?
その割に、この場にはいないが…。
「そこに至るまでに前段階が結構あったので、ちょっと時間がかかっちゃいました。ゴメンなさい」
クレアの後を受けて、姫がすまなそうな顔になって言う。
ということは、彼女らもロスとクレアがここにいる件に関わっているのだと、アルバは思い至る。
「謝られる事なんて無いけど、でもこの状況ってどういういきさつ?」
「うんまぁ、それは追々話すとしてさ~」
脳天気、と言っていいほどの笑顔のままクレアが話を中断させ、アルバとロスに尋ねた。
「なんで2人はずっと手繋いでるの?」
「ほえっ!?」
(わ、忘れてた!)
理由があるにせよ、いい年をした男が2人手を繋いでいたらそりゃあ奇異に映るだろう。
慌てて、アルバは事情を説明しようとするが、それよりも先にロスが言い放つ。
「勇者さんが離してくれなくてな。いやホント、マジ気色悪ィ」
もちろん、思いっきり、蔑んでる、目付きで。
「えぇえっ!!!」
それを聞いたアルバは思いっきり叫ぶ。
「離しても良かったの!?ボク、てっきりさっき言ってたコントロールするのに繋いでなきゃいけないのかと思ってたのに!」
「オレそんなこと一言も言ってませんよね?」
「確かに!でも離していいとも言ってないよねっ!?」
「てか、繋いでなきゃ外出られないってなったら24時間こうしてるってことでしょ?どんな拷問ですかそれ?オレ、する趣味はあってもされる趣味はないんですよ」
「する趣味はあるのかよっっ!!知ってたけど!!あぁもうっっ!!」
ブンっと音がしそうな勢いで、アルバはロスの手を振りほどく。
恥ずかしいやら、腹立たしいやらで、いたたまれない。
「しかもサラッとボクと24時間いるのが拷問って言った!!」
「へぇ、さすが勇者さん!24時間手を繋いでて平気なんですか。寝る時も風呂もトイレも…」
「拷問でした、ゴメンなさい!!」
うっかり想像してしまったアルバは即座に謝った。
2人の、ある意味で息の合った会話にクレアがケタケタ笑い出す。
「ホント、2人は仲いいんだな!」
「はあ?頭腐ってんのか、クレア。あ、腐ってるんだったな」
「え~ひどいなぁ。シーた…ぐほぉっっ!!」
会話の途中で、急にロスがクレアを吹っ飛ぶほど殴り倒した。
「何してんのおっ!?」
「教育的指導です」
「いや、意味分からないし!」
「ううう。またやっちゃった…」
起き上がったクレアに慌ててアルバが駆け寄る。
「クレアさん、大丈夫?」
「うん。いつものことだからね」
「は?」
「シー…じゃなくて、昔の呼び名で呼ぶなって、言われてさ。でもすぐうっかり呼んじゃって、でその度に殴られんの」
なるほど、一応理由はあったらしい。が、乱暴すぎる。いや、ロスらしいといえばロスらしいのだが。
やっとの事で救い出した親友にも相変わらず容赦が無い。
それともこの勢いで何度も殴られても間違えるクレアに問題があるのか?
はあ、とため息を吐くと姫が苦笑いしながら椅子とお茶をすすめてきた。
ひとまず、お茶をいただこうと席に着く。
「いただきま~す」
あぁ、お茶がおいしい。
なんだかんだ言って、こんな和やかな時間は久しぶりだ。
アルバはまた、顔を緩ませた。
だから、
(うん。きっと気のせいだ)
さっきロスの手を振り払った時。
何となく、寂しいというか、物足りないというか。
そんな気になったなんて。
きっと、気のせいなのだ。
(気のせいに、決まってる)
ロスも似たようなことを考えていたなんて、
お互いに、思いもしないまま。
--続く--
-------pixiv投稿時コメント-------
うん、まあ。
最後の取って付けたようなロスアル主張は、しょうがないんだ。
だって取って付けたんだから(笑)
ロスアルタグつけましたが、正確にはロスアル(予定)です。両片思い(どっちも無自覚)みたいな。
一応、正式にロスアルになるまで書くつもりですが。予定は未定。
いや、正直今回の内容はほぼ伏線しか書いてないので、がんばって回収します。
ってか、初回投稿で初ちゅーまで行く予定だったんだが、書き出すと細かいネタや描写を入れたくなって長くなったから、そこまでたどり着かなかったんよ。
24時間拷問とか、「シーたん」呼びを止めさせるのに全力で暴力に訴えるロスとか。(楽しかった…)
あ、アルバが「シオン」で呼ぶのはなんだか私が違和感あるので、「ロス」呼びにしましたですよ。
-------サイトUP時コメント-------
リアルに伏せ字にしちゃうくらいX年ぶりに書いた二次創作。
本気で2話目の内容までをこの程度の文字数で書くつもりだったのですが、ロスアルの会話が楽しすぎて+後半の登場人物が多すぎて無理でした。
あと、3章始まる前だったのでクレアのキャラが若干手探り。まあ、かけ離れて無いようで一安心。そしてコミュ力の高さから何て狂言回しにぴったりな子なんでしょうというオチ。
pixiv初投稿作品で、速攻でタグつけてもらったり、ルーキーランキングに入れてもらったり、いろいろ思い出深い。
pixiv投稿:2013/02/21 | サイトUP:2013/03/21