2.音の基礎


1.音とは

 私達が耳にする音の正体は、空気の振動です。空気のないところには、音は存在しません。音は、もちろん、目に見えるものではありませんが(だから、始末に終えないのです)、代わりにそれを確認できるものがあります。太鼓の皮やスピーカーの動きです。大太鼓やスピーカーの大きなやつ(ウーハーと言います)はその動きが良くわかりますが、小太鼓や小さいスピーカーは、動きが少ないので、見ても動いているとは思いがたいのですが、動いている事に変わりはありません。
 太鼓をたたくと、皮が前後に動きます。そして、そこにあった空気も皮と同じように前後に動いて、交互に「粗」の状態と「密」の状態になります。そしてそれが空中で広がってゆき、自分の耳に到達したときに、音として感じるわけです。
 ところで、粗密波はあらわす事が難しいので、表現手段としては下のグラフのように表します。赤いカーブが音を表します。真中の横の直線は、粗でも密でもない値で、上が密の状態、下が祖の状態です。また、このグラフを良く見て、次の2.「音の3要素」を読んで下さい。



2.音の3要素

 
 理科か物理の授業になりそうですが、音についてこれだけは知っていないと、すごく後悔をします。と言っても、難しくはありません。音のことを考えるときには、常に上のグラフを頭の中にイメージしてください。 尚、音楽の三要素とは違います。

1.高さ(周波数) 2.大きさ  3.音 色 
音の3要素
※ちなみに音楽の3要素は、1,旋律(メロディー) 2,和音(ハーモニー) 3,拍子(リズム)です。


1.高さ(周波数)

私達ははじめサイクル(c)と言う単位で言っていましたが、そのうちいつの頃か忘れましたが、ヘルツ(Hz)という言い方をするようになりました。名称が違うだけで値は同じです。例えば400Hzとは、1秒間に400回振動する音のことです。

グラフでは「周期」という言葉を使っていますが。400周期という言い方は普通しません(400周忌とも違います・・・関係ないか)。波形における、パターンの1単位のことを言います。

オーケストラなどで、チューニングをするときには「ラ」(「A」)の音を基準にします。周波数で言うと440〜443Hzをよく使用します。すなわち、1秒間に440回振動している音のことです。 オクタープと言う言葉をご存知だと思いますが、ちなみにオクターブとは2倍を意味します。 したがって、440Hzの「A」のオクターブ上の音は880Hzと言う事になります。
人の耳
我々人間はいったいどの周波数まで聞き分けることができるのでしょうか。よくものの本などに、20Hz〜20kHzまで聞こえる、という記述があります。しかし実際はかなり耳が良くなければここまで、特に高い周波数は聞こえた感じはしないはずです。年をとればおそらく10k〜12kHzぐらいまででしょう。若くて耳の良い人でも15kHzぐらいまでてしょうか。ただ、これは上図のようなサインカーブ(音叉の音)単音での話です。不思議なもので、アナログレコードや、ハイサンプリングの音源は、即ち40kHzぐらいまで再生能力のある装置で聞くとなんとなく音が違って聞こえるのです。いや、一応違って聞こえた気がします。周波数だけの問題でもなさそうだし・・・


2.大きさ

 音の大きさは、グラフではその背の高さであらわします。単位は、場合場合でいろいろあります。デシベル(dB)で表したり、ホンで表したり、デシベルもいろいろな種類があって大変なのでここではグラフ上の振幅が大きいほど音が大きいと理解しておいて下さい。 尚、録音機やミキサーではdBで表します。

【録音機のレベルメーター】
 録音機やミキサーには必ず音の大きさを示すレベルメーターがついています。デジタル機器の場合、いちばん大きな音を0dBとしています。これ以上の音は録音できません。といっても実際は潰れた音で録音されます。また、小さい音は−6dBなどマイナス表示になります。無音は−∞です。
 カセットデッキなどアナログ録音機の場合は、+10dBなど0dBより大きな値が表示されています。アナログ機器の場合、ある基準を0dBとしているだけで、、テープの種類などによって歪み始めるレベルが異なります。+3dBだったり+8dBだったり、いろいろです。


 
デジタル信号では、左図のような0dBを超えた音声を録音しようとすると、右図のように、0dBの部分で平らな波形となり歪んだ録音になります。

3.音 色

 人の声や楽器によって音色が違います。当たり前ですが、では、何で音色が違ってくるのでしょう。それは自然界に存在する音は基準の音に対して倍音と言われるものが、複雑に含まれているからです。それがグラフで見る「波形」と言われるものです。文字通り、形が違うと音色が違ってきます。

 また、音は持続音であっても、音が出た瞬間とすぐ後では波形が違います。楽器演奏でよく言われる「アタック」の部分があって、その後しばらくは音が持続します。それも、減衰したり、しなかったり、様々な要素で音の違いを感じます。機械で作る事のできる音以外は常に変化をしています。(ビブラートもその1つです)。例えば三味線の音は「ペン ペン」と言う音がしますが、音が短いので三味線であると判断しますが、この音が持続したとすると「べべべべべべ」という音になります。これでは三味線の音とは感じないでしょう。(実際は、ありえない音ですが)。このように人がその音を判断するときには、(それが長かろうと短かろうと)音が出てから終わるまでの鳴り方で判断している部分もあります。また、言葉の場合「あーーー」と「かーーー」の「ーーー」の部分(母音)は同じです。

以上、音の三要素を簡単に述べましたが、録音する場合この概念を持っているのと持っていないのでは、その理解において大きな差になります。


3.音の速さ

 音には当然その速さがあります。通常1秒間に約344mです。(温度や湿度によって少し違いますが) 音が出た場所から344m離れたところにいると1秒後に聞こえます。昔は陸上競技のスタートのピストルの所に黒い板を置いて、その煙を見て、ゴールのところの計時係がストップウオッチをスタートさせていました。音で計測すると、100m走だと約0.3秒狂ってくるのです。最近は電気的な計時をしていますので、こんな事はしません。

 音に早さがあるということを日常で実感できるのは、「雷」ですね。稲妻が光ってから、音が聞こえるまでに間があります。この間が短いと近く、長いと遠くにあるといいます。「音の速さ」という言い方をしますが、「音の遅さ」といってもいいかもしれません。すなわち「速度」があるということです。「遅い」ということは、光の速さより遅いという意味です。光にも「速さ」(遅さ?)があります。1万光年かなたにある星、ということは、今見ているその星は、1万年前の星を見ているということです。余談になりましたが、もうひとつ早さを見ることができる例。池に石を投げ込むと波紋がゆっくりと広がります。水が空気、波紋が音波に置き換えてもいいと思います。

 録音のときに音の速さが問題になる場合があります。マイクを違う位置に立てたときです。例えば、オーケストラの前方数メートルのところにメインマイクをたて、ソリストのすぐ近くに(オンマイクで)補助マイクを立てた場合、おそらくメインマイクの音より、30ミリ秒(0.03秒)ほどソリストの音が早く録音されます。マイクのコードが補助マイクの方が長いと、遅れるんじゃないかという、単純な疑問もあると思いますが、音速に比べてコードの中の信号の速さはそれと比較できないくらい速いのです。 
 補助マイクのレベルにもよりますが、これではソリストの音だけが飛び出たような不自然な録音になってしまいます(大きさの問題だけではありません)。この場合は、ソロのマイクに「ディレイ」をかけます。「ディレイ」とは音の遅延装置で、どの程度遅らせるか調節できるようになっている装置です。どの程度遅らせるかの計算式は、(メインと補助のマイク距離の差)÷344です。(単位は秒ですが、非常に小さい値なのでミリ秒で表します。1000ミリ秒=1秒です。)  ミリ秒などという細かい話をしていますが、ステレオ音響装置に関しては、結構これが大きな話なのです。ステレオ装置でモノラルの音を単純に鳴らしても、音は真中に定位して、まさにモノラルのままですが、例えば右の音だけに15〜30ミリ秒ほどディレイをかけたとすると、左の音が早く聞こえ、左右同じ大きさなのに左側に寄った定位で聞こえてきます。これを音の先行効果といいます。この原理を利用して擬似ステレオを作り出す方法もあるくらいです。いずれにしても、数ミリ秒、数十ミリ秒もあなどれないという事です。
 しかし、これはほとんどプロの現場の話ですから、一般の人が録音するときにそう神経質になる事はないと思いますが、でも、このようなマイクの使い方(マルチマイク)をしたときになんか変だなと思ったら、思い出してください。




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