教習所ネタ6

 

 

 













半ば無理矢理ベッドルームへと追いやられ、『さあ寝ろ!直ぐ寝ろ!さっさと寝ろ!寝ちまえ!』と抗う隙もないままドアを閉じられてしまったから、仕方なしにこうしてベッドで横になっているものの、先程の衝撃が未だ尾を引いて眠れない。

あれほど綺麗な人でありながら女性らしさとは無縁の彼だけど、先程の彼はとにかくカッコ良くて惚れ惚れした。ワイルドであり得ない程破壊的なのに、とんでもない色香を含んだ言葉尻、目配せ・・・・・・嗚呼・・・堪らない・・・!

彼が車に乗る直前に躊躇したのは、あの癖が出てしまうのを恐れたからなのだろう。だとすれば、彼は今まで誰かを乗せた車を運転する度に、あんな風に粗野で甘いセリフでその誰かのハートを鷲掴みにしてきたに違いない。なんという罪なヒトなのだろうか。

普段は温厚なのにハンドルを握った途端攻撃的になる人をたまに見かけるが、彼の豹変もそれと同じ様な現象なのだろうか?
一説によれば、運転するという動作がスイッチとなり、自分の身体よりも大きな入れ物である車と自己を一体化させる事で、普段抑圧されている感情や衝動が表出されるともいわれている。
仮にその説が正しいとするならば、彼が先程口にしたセリフには、多少なりとも彼自身でさえも気付いていない彼の本音が含まれていると考えていいのではないだろうか。

ある意味トランス状態にあった彼のセリフは非常にあからさまな表現ではあったけれど、要約すればつまり、僕と抱き合う事もやぶさかでないという意味にもとれる。

これまでは、ただ自分が一方的に言い寄って、彼を無理矢理この部屋に縛りつけているだけだと思っていた。けれど、彼は僕が倒れたと報せを受けて、大急ぎで病院に駆けつけてくれた。彼の上気した頬や、僕を慮って僕の身体を一生懸命支えてくれた小さな体から伝わる温度。これまで僕には無関心だと思っていたのに、先程僕の為に彼が初めて作ってくれた料理は、僕の大好きなものばかり入っていた。

――――――だから、勘違いかも知れないけれど、期待してしまう。

もしかしたら彼は、本当に本当に僅かだけれど、僕に特別な感情を抱き始めてくれているんじゃないか・・・・・と。

そう思ったら、もう堪らなかった。彼が僕と同じ想いになってくれるのを待とうと思っていたのに、今すぐに彼の全てを自分のものにしてしまいたくなった。

数ヶ月前のあの日、路上教習中に助手席で眠ってしまった彼の身体のあちこちに口づけた時でさえ決して触れなかった唇に、触れたい。あの唇で、僕の唇に触れて欲しい。彼の白く滑らかな肌を露わにして全てをこの目に焼き付けながら、快楽の火を灯してやりたい。余すところなく触れ、暴き溶かし、もう僕なしではいられない身体にしてしまいたい・・・・・!

僕はベッドから身を起こし、決断した。
まずは彼に、自分の中で溢れかえって如何しようもなくなってしまった愛と欲望を正直に打ち明けよう。そして僅かでも彼の想いが僕にあるのなら、もう我慢はしない。もはや恰好をつけている場合ではない。
いつまでも誠実ぶって手をこまねいていたら、他の誰かに奪われてしまう。もしくは先程の彼のセリフから鑑みるに、彼のキーで僕の鍵穴が犯されてしまう可能性も大いに考えられる。できればそれは避けたい事態だ。

先手必勝・・・・!行くんだ、アルフォンス・エルリック!








――――――口から心臓が出たり入ったりしそうな動悸にクラクラしながら、僕は彼に自分の窮状を打ち明けた。途中取り乱した彼が『僕がエドをオナニーのネタにしている』と中々過激な事を口走ったが、それも事実なのでとりあえず懺悔ついでに肯定してみれば、案の定涙目になって悲鳴を上げていた。こんな場面だというのに、その可愛らしい反応に、今疼いてはいけない場所が疼く。そんな穢れた自分がちょっぴり後ろめたい。
全てを懺悔して愛を告白するというやり方は、やはり間違いだったろうか。僕はこれで彼に決定的に嫌われてしまうのだろうか・・・・。そう考えると、もうこの世の終わりのような気さえして、涙を堪えるのがやっとだった。

しかし、彼はそこで取ってつけたような咳払いをすると、僕に言った。

「アル・・・・・・あのな・・・・・・・お前、俺を抱きたいのか?」

彼が一体どういうつもりでその問いを投げかけてきたのかは分からない。ただ僕には、彼が何かの踏ん切りをつける為の最終確認をしているように思えた。
僕がここで首を縦に振る事で、どのような結末を呼び込んでしまうのだろうか・・・・・?けれど、僕はもう誤魔化しようのない段階まで追い詰められてしまっていて、もはや後の無い身だ。今更取り繕うべきものは何も持ち合わせていなかった。

まるで自分のこめかみに銃口をあてて引き金を引くような気分で、僕は正直に答えた。
抱きたい・・・・・・・・・・・と。

その僕の声に反応して浮かべた彼の表情が、全てを物語っていた。
彼はビクリと身を竦ませはしたものの、その頬を赤く染め、目を潤ませていた。僕から自分に向けて発せられる性的な衝動をハッキリと感じとりながらも、しかし彼はそれに対して嫌悪を抱いていない様子だった。
僕の知る限り、彼は至ってノーマルな人間だ。それでいながら同性からのセクシャルなアプローチに嫌悪感を持たないということは、つまり彼も僕に対して同じ種類の気持ちを少なからず持っている事を意味する。

ハレルヤ!ありがとう神様!!これで僕の人生は薔薇色だ・・・・!!!

活路を見出したそれからの僕は、俄然強気だった。
今彼を手に入れなければ、自分は一生後悔して悶々と過ごすだろうという確信のもとに、ひたすら押しまくった。

今までの人生だってまだそう長いものでもないが、それでもこんなにまで誰かを求めた事はなかったし、きっとこれからもないだろう。彼がいなければ、どの道僕の人生は真っ暗闇だ。それならば今彼を手に入れる為に、自分の持てるものの内、何をどれだけ引き換えにしても構わなかった。


掴んだ手首は男性らしくそれなりの力強さはあるものの思っていた以上に細く、加減を誤りはしないかと少し心配になって力を弱めても、彼はそれを振りほどなかった。
僕に向けた眼を逸らす事もできないのだろう。きっと、逸らしたが最後、僕に捕って喰われるとでも思っているに違いない。いや確かに、どの道捕って美味しくむさぼり喰らう気は満々なのだが。

「お願い。エドを・・・・僕に、下さい・・・・!」

我ながらなんて哀れっぽい声を出すのだろうと呆れるような声で懇願すれば、彼はテーブルの上で掴まれている腕を自分の身体に引き戻した。きっとそうすれば僕の手が離れると思ってのことだろう。しかし僕が離さなかった為に、思惑とは逆に僕を立ち上がらせて引き寄せてしまう結果になった。
僕はその瞬間を逃さず、空いた方の手で彼の腰に腕を回してぴったりと抱きこんだ。もう数カ月共に暮らしていながらも、きっちり一線を守っていたから、こんな風に抱きしめる事は勿論初めてだ。
僕よりもずっとずっと小さな、でも筋肉のついたしなやかな身体。驚くほど細い腰や、片手だけで余裕を持って掴めてしまいそうな引きしまった小さなお尻。首筋から立ち上る、もうすっかり覚えてしまった彼が放つ甘美な芳香。シャープな輪郭の顎に、小さく震える唇。今は伏し目がちになっている、金の睫毛に縁取られた金色の瞳。
何もかもが、舐めてしゃぶって齧ってしまいたい程の愛おしさだ。

「俺は・・・俺の、モンだ。誰のものにもならねぇよ・・・!止せ・・・ッそん、な目で・・・・見んな・・・あ!・・・ンふ・・・」

手首を掴んでいた手を離した瞬間に後ろ頭を強引に引き寄せ、ムードもへったくれもないまま口づけた。
心底拒絶したければ、僕の舌を噛んで逃げることだって出来たはずだ。けれど彼は、僕の舌を自分の舌先で押し返すだけの可愛い抵抗しかしなかった。そして次第に体重を僕の腕に委ね、子猫のようにカリカリと僕の腕や背を引っ掻いていた指先でやがて、逆にシャツを掴むようになる。

「好き・・・・エド。好きだよ・・・大好き・・・・エド・・・・好き・・・・」

「ンン・・・・フ・・・・・ア・・・・・ム・・・」

とどめとばかりに口づけの合間に睦言を繰り返しながら、薄眼を開けて焦点のぼやけるほど近くにある彼の様子をうかがい見れば、殆ど閉じかけた彼の目は潤み、蕩けて、震えるような瞬きを繰り返していた・・・・・・・なんて色っぽいんだろう。たちまち中心に熱が集まり、その所為で一瞬立ちくらみがするほどだ。
身体を密着させていたから、彼はその僕の変化を如実に感じ取ったのだろう。それまでふにゃりと柔らかくなっていた身体を一瞬にして竦ませ、僕から逃げようと身を捩る。しかし僕はそれを許さない。一瞬腰を落とすと同時に膝裏をすくい抱き上げてしまうと、そのままベッドまで猛ダッシュをかけた。










俺はもう、色々と滅茶苦茶だった。というか、滅茶苦茶にされていた・・・・アルフォンスに。



やはり、『俺を抱きたいのか』なんて質問をしたのがいけなかった。俺が考えなしだったのだ。
懲りもせずに情にほだされて、飽きることなく墓穴を掘ってしまう・・・・・・俺はこんなに馬鹿な人間だったろうか。

アルフォンスはいつものどこかおっとりとしたお上品さはどこへやら、ベッドへ俺を放り投げると同時に恐るべき早業で俺の服を魔法でも使ったかのようにスルスルと脱がせ、しきりに愛の言葉みたいな文句を耳元に送り込んでくる。

「好きだよ、エド。可愛い・・・綺麗・・・大好き・・・・!エド、エド、エド・・・・・!好きだ・・・!」

まるで子供のように稚拙な言葉の羅列に、こんな場面だというのに頬が緩んでしまう。俺も大概おかしくなっているようだ。俺のまっ平らな胸に手のひらを滑らせ、揉みしだき、乳首をつまんだり、吸いついたり舌先で転がしたり・・・そんなとんでもない事をされているというのに、この男が可愛いだなんて思ってしまうのだ。


ああ・・・・・・・そうだ。そうなんだ。


俺がこれまでアルフォンスを拒絶出来なかった訳。


こいつは、とんでもなく可愛いのだ。

何もかもを無条件で許してしまいたくなってしまう位に、俺の庇護欲とか、あるかどうか定かでない母性みたいなものを、堪らなく刺激してくるのだ。


男の手に大事なムスコを鷲掴みにされて扱かれ、あまつさえ先っぽを親指でグリグリされても鳥肌一つ立たない・・・・・つーか、そんな状況で勃ってる自分なんてこれまで想像だにしたことがなかったというのに。

「ア・・・・・うあ・・ン・・・・ッ!だ、メダ・・・・・・出る・・・ッ!」

「いいよ・・・出しちゃって?」

「あ、あ、あ、あ・・・・・・ッ!」

ほぼ全裸の状態でアルフォンスに組み敷かれ、股間を良いように弄ばれつつ指とか口なんかであっちこっちにフニフニチュバチュバとやられて頭の芯が焼き切れそうな感覚を強制的に与えられ、俺は耐えるすべもなく達した。





ひとたび熱を吐きだしてしまえば、現実を認識する感覚が蘇る。


―――――男に、イかされてしまった・・・・・・。


その事実に呆然としながらも、それと同時に同じ男として悔しさと羨望を覚えていた。

正直なところ、これまでちゃんと女を悦ばせてやったという実感を持てた性交をしたことがない俺にとって、アルフォンスのこのうざったい程の気配りはちょっとしたカルチャーショックだった。

自分の欲望を弾けさせたいという猛烈な衝動は、同年代の男として痛いほど理解できる。それなのにヤツは自分の『欲棒』そっちのけで、荒い息を噛み殺しながら俺を気持ちよくさせようと、そればかりに一生懸命なのだった。


今まで度々ヤツに絆されていた自分を反省していたが、その反省していた自分を俺は恥じた。

アルフォンスは、自分ひとりの欲の為だけに行動している訳ではなかった。一見自分勝手で奔放でハタ迷惑で破廉恥で非常識なヤツではあるが、それは全て俺への愛情があるからこそ、なのだ・・・・・・・恐らく。

「・・・・畜・・・生・・・・・・・!」

まだ先ほどの余韻をひきずり脱力している俺の体の至るところに延々とキスをし続けている男が、いつしかとんでもなく愛しい存在へとすり替わってしまっている事実に、俺は口先だけで毒吐いた。

もう駄目だ。自分は完全に、この男に『落ちて』しまった。

こんな事態になって嫌悪感がかけらも生まれない事がそれを証明している。そうとなれば、もう俺がすることは決まっている。

「チ・・・ッしゃあねぇな・・・・俺ばっかりってのも公平じゃねぇよな。オラ、お前のも貸せ。やってやる。」

「・・・・・え・・・?な・・・・・!?」

ふざけてならまだしも性的な触れ合いの一環として他人のブツを触るなど、これまでの俺の常識のカテゴリーにはなかった行動だが、やられっぱなしは性に合わない。
少々勇気が要ったが、エイヤとばかりにアルフォンスのソレに手を伸ばし、今にもはち切れそうなソレを握りこむと、同性だからこそ知りえるポイントを擦りあげた。

「ぎゃあああああ!!!ダメェェェェェェェェ!!!!」

途端に奇声を発しアルフォンスは俺の手を引きはがすと、仰向けになった俺の頭上に万歳するような体勢で押さえつけた。俺に覆いかぶさるようにして肩で息をつくアルフォンスの顔は、これ以上ないほど真っ赤だ。

「・・・・・・エド、ちょ・・・・待って・・・・・・頼むから、ソレは、なしで・・・・」

散々俺を焚きつけておきながらのそのセリフに、もともとカッとしやすい性分の俺は切れた。

「なんでだよ!?ざけんな!ここまできといて今更オアズケもねぇだろうが!?ああん?おとなしくヤらせろよアル!」










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