不機嫌な恋情 第11話
「…ちょっ、ちょっとまて……って……あっ…」
梨月はすでに後悔していた。
（うあ、なにこれどうしよう……）
寝室に抱えてこられて、ベッドの上に無造作に投げ出された時は、そのあまりの乱暴さにむっとして相手を睨みつけたのだか、桐吾はその視線も意に介さずにそのまま衣服を剥ぎ取っていった。
シャツを脱がされる途中、腕をたくし上げ、まだ頭が抜けていない中途半端な状態で胸に触れられる。その手の意外な温かさにほっとすると同時にむず痒いような恥ずかしい気持ちが沸き起こる。
いつもいつもやられてばかりなのが悔しくて、梨月は絡まったままのシャツを脱ぎ捨てると、桐吾の頭を引き寄せ自分から唇を押し当てた。舌を差し入れるとこちらから仕掛けたにもかかわらず、桐吾はにやりと不適な笑みを浮かべたままそのピンクの舌を口腔に吸い込み、痺れるような刺激を与えられる。
「ふ…っん……ん」
今まで何度か交わしてきたものとは比べ物にならないくらい、それでいてどこか優しい口付けは、梨月の理性を少しずつ奪っていく。優しく唇を舐められたかと思うと、そのままするりと唇の端に忍び込み、うまく息をつけないで喘いだ熱い息ごと吸われる。ねっとりと口腔をうごめいて、触れ返すだけの梨月の舌を絡め取り、吸ったり軽く歯で甘噛みしたり、そのまま桐吾の唇に引き入れられ強く吸われたりと、本当にこのままだと酸欠で死にそうになる、と思った頃にやっと開放された。それでいて手は梨月の胸の上で妖しい動きを繰り返していて、その触れるか触れないかという微妙なタッチが追い討ちをかけるようにもどかしさに拍車をかけていた。
「あ…んた、男としたこと、あんのかよ……」
「いや、こういう対象として見たこともないな」
そう言うわりに、桐吾は全く抵抗無く、何がおもしろいのか膨らみもない梨月の乳首をいじっている。
「そんなとこ……っさわった…って、おもしろくねぇだろっ。女じゃねぇんだから……っ」
「んー、ここ、かんじねぇか？」
言いながらしつこく何度も胸の先をこねるようにいじられて、だんだんとひりひりした痛みを感じるようになってきた。しかも痛みの中に僅かに痺れる様な感覚があり、それが信じられない。ぎゅっと抓られるようにすると、下肢にじんと刺激が伝わる。
「や……もう、さわる…な…っ」
文句を言ったが桐吾は構わずに、喘ぐような呼吸を繰り返す梨月の唇をぺろりと舐めた。そして悪戯したままだった胸から手を離し今度はぺろりと舐める。さんざんいじってひりついていた感覚から一転、そのそのねっとりとした感触にびくりと腰がはねる。
「あぁっ、あ、あ、やっ……」
その反応がおもしろかったかのように、執拗に舐められ、その刺激に慣れてきた頃に今度は軽く噛まれ、たまらなくなる。そんなところが感じるなんて、しかもこんなもてあそばれるような弄られ方をしているというのに。桐吾が触れるたびにびくびくと無意識に跳ねてしまう腰は、自分ではどうしようもなく、されるがままになっていた。
「も…っやぁ……あ、あぁ」
「可愛い声出すじゃねえか」
そこを舐めながらしゃべらないでほしい。
「も……しつけぇ……だよっ……んっ」
（このくそエロおやじ！）
「なんだよ、ずいぶんよさそうなくせに」
そう言ってやっとそこから顔を上げた。そのちょっとした開放感だけでほっとなる自分を悔しく思う。ここにきて、快楽よりもむしろ恐怖がこみ上げてくる。
これから一体どうなってしまうのだろう。
「おまえ、慣れてそうなわりに反応が可愛いな」
「…るせっ…」
どこまでも余裕な態度が頭にきて睨みつけるが、そこにいつもの力がこもっていない。
たったこれだけの事で、すでにぐったりと疲れきった様子の梨月に反して、桐吾はまだシャツひとつ乱れていない。ふっと笑いを洩らして見下ろす余裕な姿がむかつく。
「服ぐらい脱げよ」
深く息を吐いて、少し呼吸が落ち着いたところで言った。
「そうだな。まだまだ先は長いんだから、焦ることないもんなあ」
さっきの時点でこいつはかなりの昂ぶりだったはずなのに、この余裕は何なんだろう。ベッドに投げ出された時は、まともな前戯も慣らしもないまま突っ込まれるのかと一瞬血の気が引いたが、今は違う意味で後悔していた。
このままこうやってやたらと時間をかけて抱かれたら、一体どうなるんだ。今まで抱かれた回数なんて問題じゃない。なんだか、もう、すでにいっぱいいっぱいだ。
桐吾は梨月を跨いだままゆっくりと衣服を脱ぎ捨てる。その間も視線を逸らさずに見つめられる。こっちは目のやり場に困っているというのに、このふてぶてしい態度はなんだ。
「あんた、見られて燃える、とか？」
「そんな趣味はねえが、おまえになら見られてると燃えてくるな」
オスの匂いのする体は想像以上に引き締まっていて、そこから発する艶はすさまじく、思わずごくりと喉をならした。
「ふ、なんだ、待ちきれないのか？」
「ん…なわけあるか、さっさとしろよ」
精一杯の虚勢で言うが、内心はもうこのまま帰ってしまいたい。
どうなるのかわからない不安もあるが、今ここでこうしていることが、不思議で、なにより恥ずかしい。
桐吾はベルトを外し、ベッドの横に無造作に投げた後、ズボンのボタンを外しただけでまた梨月に覆いかぶさってきた。
「あっ、ちょ、まってっ……」
「まったは無しだ」
カチャカチャと音を立てて梨月のズボンの前もはだけさせてしまうと、先ほどからのもどかしい愛撫で既に兆していたものをゆっくりとなでられる。
「……ひんっ」
自分でも思ってもみなかった妙な声が出てしまい、羞恥に顔が赤らむ。
（くそ。もうやだ、なんなんだよこれ）
「なんだおまえ、もうすっげぬるぬる。結構胸感じてるんじゃねえか」
「ばっ、いちいち、んなこと言うな！」
ふ、と笑いを洩らすと桐吾はパンツの中に手を差し入れた。直に触れて、すでに湿り気を帯びているそこを上下に扱く。
「乳首も真っ赤に勃ってて、誘ってるみてえだな…やらしいやつ」
「っるせぇっ……ん…」
いちいち言葉にされて余計に恥ずかしくなる。
「やらしくて可愛いって言ってんだよ」
桐吾は再び梨月の乳首を引っ張るようにつまむと、指で挟むように転がした。
「もっ、やだっ……しつこいって……」
なんとか手を引き剥がそうとするが、また口を塞がれてしまう。
（もうやだ、なんでこいつキスばっかすんの）
思うさま貪られた後、桐吾がふと体を起こす。体に隙間ができ一瞬だけ体の熱が逃げ、ほっと梨月は一呼吸だけ洩らしたが、すぐさまびくりと体をこわばらせた。
「あっ、あ、やだ…って」
桐吾は梨月のズボンを下ろすと何の躊躇いも無くそこを銜え込んでいた。まさかいきなりそんなことをされると思っていなかったので驚き、必死で桐吾の頭をはずそうともがくが、キスで思い知ったように桐吾の口腔はやはり巧みで、あまりの快感に力が入らない。
（こいつっ、男はじめてつったくせに！）
梨月はどちらかというとオーラルセックスは苦手なほうで、よほど気の合った相手としかしない。それなのに初めての男相手にためらいもなくそんなことができる桐吾が信じられない。しかも、梨月はバイトの後シャワーすら浴びていないのだ。
「やめっ、やだ……ってば！」
さっきとは打って変わって、本気で抵抗する。さすがに力いっぱいの抵抗をされて桐吾も一旦口を離す。
「……んだよ、きもちいいだろ？」
「ちがっ、だっておれ、シャワーとか……浴びてねぇ……しっ」
汚ねぇよ……と息も絶え絶えに訴えたのに
「そんなん……」
と桐吾は少し呆れたように見下ろした。
「な……んだよ」
「おまえさ、今までいっぱしに遊んでる風だったけど…」
「わ、わるかったな！」
決してむやみに遊びまくっていたわけではないが、それなりな体験をしてきているのは確かなので、強く反論できないのがくやしい、と思っていたが。
「いや違うって。経験豊富な感じかと思ってたけど、てんでお子様だな、と思ってな」
などと言われ、訝しげに眉を寄せた。
「……何が言いたいんだよ」
「悪い意味じゃねえよ。そもそもセックスってのは、いつもきれいなことばかりじゃねぇだろ？汗や唾液や体液でドロドロぐちゃぐちゃしてて、むしろ汚い…それがおまえ、シャワー浴びてねぇだけでそんだけ目いっぱい抵抗しやがって……今まで随分おキレイなヤり方してたんだなぁ、って感心してんだ」
悪い意味じゃないというわりに馬鹿にした様な言い方が癪に触る。
「なんだよおキレイなやり方って。別にシャワーくらい浴びるだろ普通？」
「まあ浴びる時もあるが、いつもってわけじゃねえだろ？」
桐吾は卑猥な笑みを浮かべて、梨月の首筋に顔をうずめて囁いた。
「シャワーの後の石鹸の香りもいいが、梨月自身の匂いも……結構クルけどな」
言ってペロリと耳の後ろを舐める。
「…っ」
なんだこいつ。もうほんと信じらんねぇ！
「あんた、っとになんでそんなエロいんだよ！」
「なんだよ、こんくらいどってことねぇだろ？でもまあそうだな、じゃあ俺が、おまえにぐちゃぐちゃになるセックスを教えてやるよ」
桐吾はベッド脇の引き出しから何やら取り出す。その手の中の物を見て、梨月は胡乱気に相手を見上げた。
「何で、んなもんがあるんだよ…つうかいらねぇよそんなセックスっ。いいからさっさと突っ込めばいいだろ！」
潤滑ローションを常備しているなんて。普段の性生活を垣間見たような気がしてムカつくし、変な事教え込まれそうで嫌だ。
「んな簡単に突っ込めねぇだろ。確かに男は初めてだが、女の後ろは経験あるんだよ。そっちが好きだって女もいるからな」
その台詞のとんでもない内容に梨月は目を見開く。
「…あ、あんた、ほんとサイテー！あんたの性生活なんて興味ねえんだよ！俺がいいっつってんだから、さっさとすりゃいいだろっ」
「そうはいかねえだろ。ここは元々そういう器官じゃねぇんだから、ちゃんとそれなりに準備しないと怪我するだろ」
「いいからとっとと済ませろよ！」
「ああもううるせえな、いいから黙って抱かれてろ」
言ってプラスチックのボトルに入ったトロリとした粘着質な透明な液を、そのまま梨月の下肢に垂らす。
「つめたっ…」
そのヒヤリとした感覚にビクリと体が竦む。
「わるい。すぐ熱くなっから」
悪びれた様子もなく言う桐吾の言葉はしかし、嘘ではなかった。
下肢全体に垂らされたローションのおかげで、さらにぬるぬるになった昂ぶりをゆるゆると扱かれる。そしてまだ触れられていなかった後ろに、ローションを押し込むように指が入れられた。
「や…っ」
経験があっても、そこを開かれる圧迫感にはいつまでたっても慣れない。しかしたっぷりたらされたローションの助けで痛みも無く、指はすんなりと中に入ってきた。
「ん……っ……」
中を探るように指でこすられて、異物感に苦しくて呼吸もままならない。
「なんつったっけなぁ、たしか男は……このへんに……」
ぶつぶつと言いながら、ぐりぐりと奥まで押し込まれた指がある一点を刺激する。
「ひぁっ」
ビクリと体が跳ね、とんでもない声が出た。
「ここか…」
その様子を見て桐吾はふと笑いを洩らすと、梨月が反応した箇所を確かめるようにゆっくりと擦った。
「あ、あ、あっ、や……そこやだっ！」
桐吾がコリコリと擦るたびに声が漏れる。
「やじゃねえだろうが。だんだんいい感じに絡み付いてきてるぞ」
「やだっ、や、あ、あ、やあぁ……っ」
「うそつけ」
言いながら入り口を舐められ、もうわけがわからなくなってくる。うっすら汗ばむ髪をぱさぱさと振り、何かに縋るようにシーツを掴む。
中をそうしていじられながら、透明な蜜が溢れっぱなしの前にも手を絡められる。
「だらだらじゃねえか、すげぇイイんだろ？」
桐吾は一度指を引き抜くと、二本に増やして再び侵入した。ばらばらに動かすとヒクヒクと絡み付いてきて、前からもとろとろと涙を流す。その滴りをぺろりと舐めとるように口をつけると梨月は背を撓らせた。先端をぺろりと舐めた後、口に含む。上下に擦る様にずるずると水音を立てながらしゃぶられて、がくがくと腰震える。一度口を離して、先端の敏感な部分を舌で執拗に舐められて、強い刺激に頭がちかちかする。
「あ、あぁ、やっ、も……じんじんするっ……ん」
おかしくなりそうなくらいに感じて、感じすぎて、体中に変に力が入ってしまい頭が痛くなってくる。まるで酸欠状態で苦しい。荒く熱い息を洩らしビクビクと無意識に腰が動く。体中熱くて、全身しっとりと汗ばんでいた。
（もうやだ、くるしい）
本当に苦しくて、もうどうにかなりそうだった。
それなのに。
後一歩のところで達けない。
ここまで感じすぎているのに、先端を舐められるだけの刺激だけでは、最後の何かが足りないのだ。それが梨月の理性をゆっくりと確実に奪っていく。
「もっ、やぁっ…い…かせてっ…」
ついには、意識しないまま懇願してしまう。
「達きたいのか？梨月」
「いき…たいっ、やだもうっ、ん……いきたい…ぃっ」
桐吾が意地悪く聞くのにも素直に返してしまう。普段の梨月だったら死んでも口にしないセリフだ。それだけ、意識を飛ばすほどにこの状態がつらかった。
「後ろの刺激だけじゃイけねえのか……いいぜ。ほら」
桐吾は梨月のモノから一旦口を離すと指を絡めて、後ろに入れた指の動きと合わせるように強く扱いた。
「や…だっ、あ、あ、あああぁっ！」
胸を反らせて体を震わせた後びくり、びくりと中の指を締め付けながら自分の腹の上に白濁を放った。がくりと力が抜けて強張りは解けたが、整わない荒い呼吸のまま胸を上下させて朦朧とする梨月に、桐吾は触れるだけのキスを落としながらとんでもないことを言う。
「おまえのイき顔、すっげぇエロいな」
「……おっさん……っとに、さいてー…な」
じろりと睨み上げると、凄絶な笑みを返される。
「ばぁかおまえ、そういうの逆効果だってわかってやってんのか？」
「なにが…っだ……んっ」
中に入ったままだった指をぐるりと動かされて顎を反らす。
「んな誘うような目で見んな」
「見てなっ……」
誰がいつ誘った！と言いたいが、また口をふさがれてしまう。
（どんだけキスすんだよこいつ）
今度は優しく触れるだけで離れた口からは、その優しさとは打って変わって即物的な言葉が吐かれた。
「んじゃあ次、俺の番な」
「なんだよ、それ」
あまりにもな台詞なのに、呆れはするものの怒りは沸いてこないのが不思議だ。
しかし、達ったばかりで敏感な状態だというのに、本当にやるのだろうか、できればもう少しだけ待って欲しいと思ったのだが、甘かった。
ずるりと指を引き抜かれ、その刺激にぞくりと体を震わせる梨月の耳元で、
「そのまんま力抜いてろよ」
と言って大きく開かれた梨月の足の間に体を入れ、自身の昂ぶりを押し当ててくる。ゆっくりとぬめりに助けられながら開かれる蕾がピリピリする。指とは比べ物にならない圧迫感が梨月を襲う。初めて受け入れるわけでもないのに、桐吾の昂ぶりは想像以上に大きく、梨月は無意識にまた体を強張らせてしまう。
「や…だっ、無理っ。まってっ…あぁっ」
ぎゅっと桐吾を押しのけようと力が入ってしまい、返って入り口を窄めてしまう。ピリとした痛みを感じ、喘ぐように息を吐いた。
「ばっか、力入れんな」
言って萎えてしまった前に指を絡める。
「んんっ…ふ……んっ」
ふと一瞬力が抜けたのを見逃さずに、桐吾は体を進めた。
「あ、あ、あ……」
まだ射精の余韻を残す敏感なままの内壁が擦られ、痛いほどの刺激に足の爪先をぎゅっとシーツに押し付け体を捩る。ゆっくりと入ってくるそれの最初の部分が中に収まると、ほんの少しだけ苦しさが消えた。
「よしよしいいコだ。もうちょっと我慢しろよ」
子供をあやすような言い方にむっとしたが、それどころではなかった。
（うそ、まだ……入ってくるっ…）
じっくりと時間をかけて入ってくるそれは、お腹まで届く錯覚を覚えるほどだった。
「は……ぁ……」
もう痛みはなくなっていたが、かわりにじわじわともどかしい快感が沸き起こる。
全部を収めた所で、桐吾がゆっくりと息を吐いた。
見上げると桐吾は少し眉根を寄せ、額にはうっすらと汗をかいている。余裕そうに見えて、やはり侵入にはかなり根気を要していたらしい。
そんな様子を見て梨月は、じんと胸が熱くなるのを感じた。
（なんだよ、やっぱすげ我慢してたんじゃん）
そう思うと自然ときゅっと中のものを締め付けてしまい、桐吾がピクリと肩を揺らす。
「っ……」
初めて桐吾から切なそうな声が漏れ、梨月はますますドキドキしてくる。
（……かんじてんだ）
そりゃそうだよな、同じ男としても、よく今まで我慢して人のことばっか構ってられたと思うもんな。
だが今現在の自分を思い返してみて、梨月は顔を赤らめる。
（こ、こんなになったの、初めてだ）
そうやって侵入された状態にもかかわらず、もやもやと考え込んでしまった梨月を桐吾は面白そうに眺めていたが、不適な笑みを浮かべて奥に入れたままの腰を軽く揺らした。
「んぁっ」
完全に油断していた梨月はびくりと背を撓らせる。桐吾に突き出す形になった胸に触れ、乳首を捏ねるように弄られ、達ったばかりの性器がゆっくりと頭を擡げはじめる。
「や、あ、あ……」
「んな状態で何考えてんだ。集中しねぇと泣かすぞ」
激しく出し入れするのではなく、奥の方を小刻みに揺するようにされてじわじわとした快感におかしくなりそうになる。
「やっ……ん……ぁ」
「女もこうするとイイんだぜ、知ってるか？」
もうこいつどうにかしてくれ。サイテーだ。
しかし呆れたのは一瞬で、ゆっくりと出し入れされるのと同時に勃ち上がった性器も一緒に扱かれ始めるとまた快楽の中に溺れてしまう。
先ほど放ったものを塗りこめるように、胸をぬるぬると弄られる。じんと下半身に繋がる感覚の鋭さに、はぁ、と濡れた息を漏らしていたずらな手をどかそうとする。しかしその手を逆に取られ、指を舌でねっとりと舐められる。ゆっくりと出し入れされる桐吾のものと、口に銜えられる指が同じリズムで吸われているのに気づき、そのあまりにもな卑猥さに眩暈がする。
（もういやだ、くるしい…もうやめたい………）
鋭すぎる刺激は、ともすれば良さよりもむしろ辛さのほうが強い時があるが、そのどちらもを行き交う絶妙な感覚が梨月を狂わせていた。
ずんと腰を打ち付けられるたびにくちゅくちゅと水っぽい卑猥な音が漏れる。生理的な涙を瞳から伝わせる梨月を見ながら、桐吾は銜えた梨月の指を唾液の糸を引きながら梨月の胸に置き、指を添えて感じるピンクに色づく先端に宛がった。そうやって梨月に自分の指で乳首を撫でさせて言い放つ。
「そのまま自分でいじってろ」
あまりにもな言い草に誰がそんなこと、と思ったのに、乳首に触れると下半身にもじんと痺れがきて、それがたまらなく良くて夢中で弄ってしまう。どうなってしまったのだこの体は。自身のあられもなく凄絶な淫乱ぶりに羞恥が湧くが、それこそ自分ではどうしようもなかった。
「は、あぁ、ぁ…あ、あ、んん、ん」
（こんな……どうしよう、とまんない）
「も…やっ、やだ、ぁっ」
「や、じゃねぇだろ、腰ゆれてんぞ」
「や、や、やぁっ」
「そうじゃねえ、いい、っつえよ」
言いながら奥の一番感じる部分を擦られて「ひんっ」と高い声が漏れる。
「…いいんだろ？」
「…や…っん………い……いぃ…」
一度口にすると箍が外れたように、何度もいい、いいと繰り返してしまう。
無意識に腰を揺らし、仰け反るようにして感じまくる梨月は、最初に桐吾が言った通りもうぐちゃぐちゃでどうしようもなくなっていた。
「や…も……っ」
死んじゃうっ、と悲鳴のように声を上げる梨月の淫らさに、桐吾が舌打ちをする。
「ああもう、くそ。ほんとおまえ……っ」
「え、なに、やっぁ」
なぜか中の桐吾がまた大きくなったような気がする。既にいっぱいいっぱいなのに、これ以上もう、本当にどうにかなってしまいそうだった。
「そろそろ、俺もやばい」
言ってさらにがくがくと揺さぶられ、その激しさに梨月が息を呑む。
「や、だぁっ、も…こわれ…るっ、あぁぁｌ」
「……っ…」
真っ白にはじけるように深い快楽と共に梨月が絶頂を迎える。同時に中のものをぎゅっと締め付けて、その刺激に桐吾が梨月の中に入れたまま奥に放った。その溢れるように打ち付けられた飛沫にも感じて、ぶるりと体を震わせた後がっくりと力を抜いて意識を完全に手放した。
「おい……ぶっとんじまったのか？」
桐吾が声をかけて軽く揺すったが、目を開ける気配は全くない。
そんな梨月を見下ろして、ふう、とため息をつきながら桐吾はポツリと漏らす。
「まずいな、くそ……つい本気で抱いちまったじゃねぇか…」
そのまま起きそうもない梨月を、ドロドロのまま寝かせておくわけにもいかず、濡れたタオルで体液を拭いとりあえずきれいにしてやると「シーツは…変えてられねぇか」とそのまま毛布をかぶせてやる。
そうしている間もぐったりと一向に意識を戻さない梨月が心配で顔を近づけると、規則正しい呼吸が聞こえ、どうやらそのまま眠ってしまったらしいことを知る。
「……ん…」
ふと身じろぎしたのに目をやると、目は開いていない。夢か何か見ているのだろう。
「う…ん、お…とう…さん……」
梨月の漏らした言葉に、桐吾は複雑な思いになる。汗で張り付いた前髪を梳いてやりながら、どうすっかな……とまたため息をついた。