※人魚王子をお読みになる前のご注意。
文中に展示させて頂いている絵には地雷が仕込まれているものがあります。シリアスに物語を楽しみたい方は、くれぐれもマウスポインタを絵に触れさせないようお気を付け下さい。
「人魚王子」
エドワードは波間からはるか彼方、船上に立つ人影を見ていた。 そこには金色の髪を月光になびかせ、夜風に吐息をつく一人の男性が物憂げな様子で佇んでいた。アメストリス国の王子、アルフォンスだ。白い絹のシャツははだけられ、若者らしい美しい胸板が闇の中でも滑らかに輝いている。 エドワードはひたすらその姿に見蕩れていた。けれど自分は水の底、ポセイドン・ホーエンハイムを王に持つ息子、人魚の一族だ。どうやっても地上の人間と相容れることは許されない。それがわかっていてもエドワードはアルフォンスを諦めることができなかった。一度で良い、あの瞳が自分を見返してくれたらと、そう願うのをやめられない。
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果てのない波間を眺め、アメストリスの王子アルフォンスはため息をついた。湾からそう遠くないあたりで船をつかの間走らせることだけが今の彼の楽しみだった。アルフォンスは優秀な王子であったため国民に親しまれていたが、最近では年頃の王子の結婚相手のことで国中が大きく沸き立っていた。国王が勝手に決めてきた婚約者が三日後にはこの国へとやってくることになっている。初めて出会ったのに既に結婚の約束をした相手など、考えただけでため息が出てしまう。国のためとはいえ、自分は愛のない夫婦生活を送らねばならないのだろうか。 隣国の姫の到着が刻一刻と近づくにつれアルフォンスの憂鬱も大きくなる。そんな思いを何処にも発散できずに海を眺めるしかないアルフォンスはまさか自分の運命を変える存在がすぐ側にいてじっと瞳を凝らしていたことなど知る由もなかった。
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船を襲ったハリケーンは、あっという間に船底をまっぷたつに引き裂き、乗り組んでいる人々を荒れ狂う海へと放り出した。アルフォンスもやはり、波濤の中に投げ出された。上下左右もわからない渦巻きの中に巻き込まれ、呼吸が苦しくなる。ぼんやりと目を開けた。このまま自分は死ぬのだろうか。国をすべる立場として、やりたいことはたくさんあったのに。なによりも自分は真の愛を知らぬままに、この世から去らねばならないのだろうか。
沈みゆく船とともに深い水底へ引き込まれたアルフォンスは、自分の体が強靭な腕につかみとられ、一気に水面へ上昇して行くのを感じた。
ふいに呼吸がらくになった。顔に叩き付けられる雨粒を感じながら、自分がぜいぜいとあえぎ、咳き込んでいるのに気がついた。稲光が舞った。雷光に照らし出される黄金色のかたまり。美しい、金の瞳が熱く自分を見つめていた。
なんて美しい人。それがアルフォンスの最後の記憶だった。軽い潜水病にかかり、体力を消耗しきっていた彼は、そのまま気を失った。
******************** ゆかいさん ********************
目を覚ましたのは翌日。王宮の、自分のベッドの上だった。 「アルフォンス様! お気付きになられましたか、よかった…!」 侍従の声に何度か瞬いて霞んだ視界を澄ませると、ベッドの周りには父と母がいて、医者が自分の手の脈を取っているのが見えた。 「……僕、は…」 「乗った船が沈没したんだ」 父王が言った。 激しいハリケーンの中、アルフォンスは岸に打ち上げられ、そこで気を失っているのを発見されたという。母は良かった、と言って泣いていた。 「僕の傍に…誰か……金色の髪と瞳の人はいませんでしたか…?」 「いや、聞いていないが」 父王の言葉に、そうですか、と小さく呟いた。
あれは夢だったのだろうか? 脳裏に強烈に焼き付いた、美しい人。 海で意識を失い、再び砂浜で微か意識を取り戻した時、アル、と囁いて、自分の唇に触れた……。
夢だったのか――
アルフォンスは目を閉じる。 強い何かを感じた。運命のような……。自分は、あの金色の人に、心を奪われるだろうという確信があったのに……。
直さん ********************
「つまり私にどうして欲しいのだね、王子」 「俺を人間のメスにしろっつってるんだ」 思い切り無言になって、海底火山の錬金術師ロイ・マスタングはエドワード王子を見つめた。昔から常人――人魚だが――とは違った感性の持ち主だとは思っていたが(この世で一番美しい生き物は、クラーケンだと言い張るあたり)、まさかこんなことを言い出すとは。人魚のお約束として付けている髪飾りもこの間までフジツボだったのだ。それをどうにかまだしも見場のいいホタテに変えさせたのは、奥女中頭のリザの手腕である。 マスタングは考えた。この王子がいるかぎり、責任感の強いリザはきっと勤めを辞して自分と結婚する事はがえんじないに違いない。ここで王子を人間界に送り出せば、自分とリザはやっと長い春を(マスタングの主観だ)脱することができる。
リザの意思はまったく確認していないマスタングだった。
「よかろう。ではこの薬を。……これを飲めば、人間になれる。しかし、メスはちょっとムリだぞ」 「いいぜ、別に。後は気合だ!」 「それから錬金術は等価交換だ。この場合、代価が必要になる。お前は王子と結ばれねばならん。そして、だ。もし王子を貫くことができなければ……」 「……貫く?」 「お子様には教えられんな」 「教えろ! リザさんに意地悪されたっていいつけるぞ」 「……むむ。仕方がない。耳を貸せ」 エドワードは嫌そうに近寄った。そのまま耳打ちを聞く。みるみる顔が真っ赤になった。 「ななななななんだそりゃ!」 「フフフ、まあお前如きには、無理だろうな」 「馬鹿言ってろ!」 エドワードは吼えた。 「いいだろう、それで王子のハートをつかめるなら、せせせっせ///……ぐらい、やってやるぜ!」
KKさん ********************
エドワードは聳え立つ王宮の下に立ち、その立派な佇まいを感心して見上げた。 まだ尾びれを失って得た二本の脚はうまく動かないが、とにかく愛する人のすぐ傍まで来る事ができて、単純に嬉しかった。
もし等価交換がうまくゆかなければ自分の身の上に起こる恐ろしい事も今はどうでもよく、ただひたすらあの王子にもう一度会いたかった。 (まあな、交尾すんのにどっちが入れたって関係ねぇだろ。要はやったもん勝ちってことだよな)
確かそんな魚がいたよなぁと暢気に考えていたが、そこが一番重要だという事にエドワードの思考はまったく力点を置いていなかった。 とにかく夜が更けたら王宮に忍び込み、あの王子、アルフォンスの寝所に夜這いをかけて思いを遂げればお互い幸せになれる、そう信じて疑わない純真無垢なエドワードだった。
BLUEさん ********************
エドワードは深夜の王宮に忍び込み、王子の寝室に繋がる廊下を窺い見た。
そして、あらかじめ錬金術師ロイから貰い受けていた宵闇草を廊下の片隅で燻す。 仄かに白く漂ってきたその煙を不審に思う間もなく、寝室の前に立っていた護衛達は次々と深い眠りに落ちた。
そっと、音も出さずにエドワードはその寝室の扉を開けて中へと入る。 部屋の中央には、大きな天蓋付きのベッドが置かれ、その中に愛しい人が眠っていた。
足音を忍ばせて、エドワードはその王子の傍まで歩み寄り、整った端整なその顔をただ見つめる。 あの日に見た、優し気で、それでいて強さを含んだ金の瞳は今は閉じられている。
そう、今はとにかく、この愛しい王子に、自分のこの想いをぶつけるのだ。 愛しい人を貫けと、あの錬金術師は言っていた。
ギシリ。
エドワードは眠るアルフォンスの顔の脇に片手を置くと肩膝をその人のベッドに乗り上げた。
ぱいんさん
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「誰?今夜は伽など呼んだ覚えはない。下がりなさい」
今まで眠っていた人間が出したとはとても思えない凛とした声が部屋に響いた。エドワードは不意の事に身体を強張らせ、王子に覆いかぶさるような体勢のまま固まった。
寝室は薄暗く、天蓋から垂れ下がる厚い布に覆われたベッドの上はさらに暗かったから、王子は自分に覆いかぶさっている相手の顔を確認する事ができなかった。 けれど、頬に触れる相手の髪の感触に、ふとその柳眉をひそめた。
あの荒れ狂う海で、一瞬だけ目にしたあの姿。熱を帯びて輝く金の瞳とそして。 水を含んでいるというのにまるで重さを感じさせない、流れるように美しい色をしたしなやかな金の髪。
もしあの髪に触れたなら、それはきっとこんな感触ではなかろうか。
王子はそのまま腕だけを伸ばし、ベッドを覆う天蓋の布を引いた。闇に慣れた目には、部屋に差し込む月明かりだけで十分に相手の姿が見て取れた。
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「んっ・・・」
目が合った途端、首の後ろを掴まれて唇を塞がれ、エドワードは仰天した。 深い口付けの後、そっと離れた後耳元に囁かれる。
「逢いたかった・・・来てくれたんだね」 「あ、あの・・オレ・・・」
いきなり覆いかぶさってとにかく生殖器を捜して交尾をすれば万事OKだと思っていたが、いざ王子を目の前にすると緊張して身体が動かない。 まるで金縛りのようにその金色の眼に見つめられて固まってしまった。 「君の事が忘れられなかったんだ。あの海で僕を助けてくれたのは君でしょう?」 「あ、覚えて・・・たのか?」 「見た瞬間わかったよ。また逢えるって信じてたからね」
BLUEさん ********************
エドワードはくすぐったそうに笑った。 「お前が無事でよかった」 アルフォンスは愛おしさでいっぱいになり、力を込めてその体を引き寄せ、抱きしめた。一糸まとわぬ白い滑らかな体は、水棲哺乳類を思わせるしなやかな強靭さと艶やかさをもっている。エドワードはアルフォンスの胸の上で、真っ赤になった。なんて可愛い人なんだろう。男性だったのはちょっとイレギュラーだが、アルフォンスはあまりこだわらない人間だった。 「君はなんていう名前?」 「……エドワード。親しいヤツは、エドって呼ぶ」 「エド。……僕は父母からアルって呼ばれてる」 「アル」 エドワードは口の中で転がすようにその名前を呟いた。とくとくと心臓の音が響く。うっとりしながらエドワードはその音を聞いていた。しかし、だんだん落ち着かなくなった。腰や背を撫で回すこの不埒な手はなんだ? 「ア、アル、あの」 「何? エド」 「く、くすぐったいんだけど」 「何をいまさら」 アルはにっこりと笑い―――いきなり体を反転させ、エドワードを下に敷きこんだ。 「わ!」 「こんな可愛い人に夜這いをかけられて、何もしないような甲斐性のない男ではないよ、僕は」 「ええ?」 「可愛い人……僕に愛されるために、こうして何も身に付けず来てくれたんだろう?」 ゆっくりと指が這う。びくっとエドワードは震えた。出来たばかりの足は敏感で、太腿を這うその手のひらに、ぞくぞくと背筋を何かが這った。その指が奥へとのびた。……エドワードが、本当なら相手のそれを貫かねばならない場所に。 「ちちちちょっとまった! 違う! 逆!」 「は?」 「おっ俺がホントはお前を押し倒さなきゃならないんだよ! でないと、俺戻っちまう!」 「戻る? 何に?」 「っつつまりその、……本当の姿に」 「本当の姿……いいね」 アルフォンスはにっこりと笑った。 「君の本当の姿……赤裸々であからさまな、誰にも内緒の痴態を見せて欲しいな」
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↑ 直さんの金魚ちゃんから、禁断のPAGEへどうぞ。
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天蓋に覆われた寝台がいつになく激しく軋んでは、部屋の外にまでその音を響かせていた。緻密な彫刻が施された石造りの廊下には、先程宵闇草の煙によって眠らされた護衛や御付きの者達が所々に倒れている。 しかしそこに響き渡るのは、寝台の軋む音だけではなかった。それと呼応するように、細く高く悩ましいすすり泣きのような喘ぎ声が先刻から間断なく続いていた。
「エド・・・・・エド・・・・・ああ・・・愛しい人・・・!もっと・・・もっと・・・・もっと乱れて・・!」
「ア、ア、アッ!!い、ヤ・・・・ア、ん!アルッ・・・・も、オレ・・・・変に・・なるぅ・・・・ッらめぇ・・・・ッ!」 生まれて初めて経験するまぐわいにもかかわらず、エドワードは少しの苦痛も感じる事無く死んでしまいそうな快感と共に、後ろで男を受け入れていた。これはひとえに、アメストリス国の王家に代々継承される房事にまつわる一切を網羅した『教え』の成果であるといえた。
アメストリス国を支配する王家は当然のことながら血の存続に固執しているだけに、後継者に対しては房事の教育をまだ年端も行かぬ頃から徹底して行っていた。この王朝の次期後継者であるアルフォンスもまた、幼い時分より閨房で行われる行為について仔細まで教え込まれていたから、世間では漸く精通を迎えるかどうかという歳の頃には既に、一晩で10人もの女官を相手にしてもまだ余力を残す程のつわものになっていた。
エドワードの薄桃色をした、まだ薄皮が剥けきらない小さな雄芽はゆるゆると絶妙な指の動きで扱かれ、時にその根元を意地悪く締め付けられ、そしてまた再び・・・・・と繰り返されていた。さらにその後ろの蕾には逞しく脈打つ男根が深々と埋め込まれ、甘く激しく注挿が行われるたびエドワードは悲鳴を上げ、涙を流し、みっちりとした美しい筋肉に覆われた男の身体の下で陸に打ち揚げられた魚のように身を捩らせた。
「エド・・・・中に・・・・いい、よね・・・?・・・・・ン・・・・・ッ!」
「あ・・・・あ・・・・・何・・・・・ッ!?イヤァ・・・・ッ!アアアアアアアン!!」
それまで散々絶頂に導かれていたエドワードに対し、漸く今夜最初の『小さな死』を迎えた男の逞しい先端から迸る熱いものに内部を刺激され、その未成熟な身体は引き摺られる様に再び達していた。
変化は、それからわずかな間も置かずに現れた。
エドワードの人のそれと同じものであった両脚が、みるみる青みがかった銀色の鱗に覆われ、瞬く間に人魚の形へと変貌を遂げたのだ。
「アアアッ!?」
「エド・・・・ッ!?」
やはり・・・・だ。想い人を貫く事が叶わなかった為に、自分は人になる事ができなかったのだ。望みを果たせないまま自分は泡となって母なる海へと還り、やがてこの愛しい男は彼と同じ種である人間のメスを娶る事だろう。
あまりの悲しみに、エドワードは壊れたように泣き崩れた。彼にとって、今生は終わったに等しかった。 しかし、その乱れてしまった髪を優しく撫でるアルフォンスの表情は変化をみせず・・・・・いやむしろ、恍惚とした幸福感さえ漂わせた笑みを浮かべていた。
「ああ、泣かないで愛しい人。あなたはなんて美しいんだろう・・・!この宝石のような鱗!花びらのような尾鰭!それらがあなたの絹糸のような金の髪と相まって・・・・・!!!美の女神さえ裸足で逃げ出すに違いないよ・・・・さあ!その姿でもう一度契りを交わそう!!」
「・・・・・・・・・・は?」
アルフォンスの言わんとしている事が分からず、それまで泣き濡れていたエドワードは思わず間抜けな声をあげた。
「ええと・・・・確かこの辺りに総排出口が・・・・・あったw」
呆気にとられるエドワードに構わず、アルフォンスはいそいそとそれを探し当てると、極上の笑みを浮かべた。
「ええええええええええええええ!?」
人魚には、魚類などと同じく、排泄と生殖を行う為の機能を兼ねている器官があるのだ。何故彼が、そんなおよそ一般人のあまり知らない余計な知識を持っているのか。そう、アメストリス国の次期後継者として多くの国民から絶大な支持を受けるアルフォンス王子は、自他共に認める人魚マニアだったのだ。そのマニアっぷりはいささか常軌を逸していたから、フェチといってもいいかも知れない。
「無理!無理だってば!人魚の身体の穴はもっとちっちぇーンだぞ!?マジ死んじまう―――――ッ!!」
らく
「何も心配はいらないよ。エド・・・・・美しい人・・・。ほら、この部分には鱗はないし、皮膚はこんなに滑らかで、きめ細やかで柔らかだよ。大丈夫、じっくりと時間をかけて可愛がって解してあげるから。そして僕があなたをこの姿のままでも絶頂の極みまで連れて行ってあげる・・・。」
そんな言葉と共に、アルフォンスの指がエドワードのその秘められた部分をつつつ、となぞる。
「あ・・・あ・・・・・・ひぅ!」
人魚のそこは色も白く皮膚も薄くなっているために、ダイレクトにその指の感触が伝わって、思わずエドワードは悲鳴じみた声を上げた。
「ほらね、こんなに敏感だ・・・・・・絶対にあなたの体に傷なんて無粋なものはつけたりしないよ。 全て僕にまかせてくれればいいんだ、エド。」
そう言ってベッドの端に備え付けられた引き出しを開けると、中からガラスの小瓶を取り出した。 透き通ったガラスの中には、液体が入れられている。その色は透明でありながら、僅かに薔薇の花びらのエキスが混じったように薄紅色をしていた。 アルフォンスは蓋を開けると、その液体をエドワードの小さな入り口にとろとろと垂らす。
人よりも体温の低いエドワードの体には、その液体はやさしい温度でとろりと入り口に浸りかかる。粘 性を持ったその薄紅色の液体の一筋が、下腹部をゆっくりと伝って流れ落ちて鱗の部分で留まる。 エドワードはその感触にすら、ぴくりと反応して小さく息を漏らし、わずかに腹鰭を広げて震わせた。
「あ・・・あっ・・・な、なに?アル・・・・・・はあぁ!!」
アルフォンスは自分の手にもその液体をとった後、中指を一本だけその小さな穴に添わせて円を描くように小さく回し擦り、少しずつ慎重にその穴へと指を埋めていく。
「大丈夫、原料は自然のものしか使っていないから、エドの体にも悪くはないはずだよ。怖くないから力を抜いて・・・・・・。」
ぬるぬるとした指を埋め込んで、中で指を蠢かしつつ、アルフォンスはいまだに戸惑う目を向けるエド ワードの上に被さりながら、その常軌を逸した人魚マニアっぷりをのぞかせた。
「あぁ、愛しいエド・・・。このあなたの小さい小さい蕾にも、人と同じように快感に打ち震える秘密の場所があるはずだよ。一体、どこにあるんだろうね・・・・・・。」
「あ、アル・・・・・・うぁ・・・・・・ひあぁぁぁん!!」
アルフォンスが中指を軽く曲げた場所にそれはあったらしい。 そこに触れた瞬間、エドワードはその下半身を跳ね上げさせた。 同時にぴちぴちと尾鰭を二度振ってから、その透き通った鰭を震えさせながら広げて閉じてを繰り返した。
ぱいんさん ********************
「……もう一回契る前に、聞いてもいいかな」
息も絶え絶えになりながら、エドワードは快感を少しでもやり過ごすためにきつく閉じていた瞼をあげる。
「…な……なん、だ……」
「どうして寝所に忍んで来たの? さっきは夜這いをかけられたなんて言ったけど、本当に僕と契るために、会いに来てくれた?」
「……う……」
「それはどうして? 僕に好意をもってくれたから?」
胸を大きく上下させながらしばらく黙っていたエドワードは、深く目を閉じると、再び瞼をあげてアルフォンスを見上げる。 澄んだ金色の瞳に強い力を宿して、焦がれ続けた地上の王子の姿を映した。
「…好きだったんだ……ずっと、前から。手が届かないと分かってたのに、どうしても想いを断ち切れなかった。……人魚じゃ相手にしてもらえないと思ってた」
アルフォンスはエドワードの長い金色の髪に触れる。髪をかきあげるように何度も何度も頭を撫で、瞳を見返して微笑むと、いま告白を紡いだ赤い唇に、ゆっくりとキスをした。 ********************
みなもさん
艶めいた唇は、海洋植物のように開いた。震えながらエドワードは腕を回した。深くて甘いキスを受けるうちに、ゆっくりと白い体が珊瑚の色合いに染まる。瑠璃色に光る鱗は、月の雫の輝きで、わずかな灯りにきらめいた。アルフォンスは溜息をついた。
「なんて綺麗なんだ、エド。昔、吟遊詩人が語ったお伽話の人魚そのままだ……」 「お……とぎ話?」 「そうだよ。波間から月の光を浴びて、歌をうたう人魚。人に恋して、愛の歌を歌い、引き寄せてとうとう相手を溺れさせてしまう……」 「ばか」
ゆるゆると、エドワードは真珠貝のような瞼を伏せ、恥ずかしそうに囁いた。
「俺はお伽噺じゃねえよ。ここにいる。第一、お前を助けたろ……でもお前に恋をしてるのはほんとだ……」 「……エド」 「……愛して、アル」
エドワードは瞼を開き、あのとき――嵐の時と同じ、焦がれる熱を放つ視線でアルフォンスを見上げた。
「俺は、恋する相手を貫かないと、海の泡になってしまう。……でもこの契りでそうなれるなら、後悔しない」 「……エド」
アルフォンスは驚いたように言った。
「……海の泡だって? そんな……」 「等価交換だ。人間になる代わりの代償だ」 「……それは海底火山の錬金術師?」 「……知ってんのか?」 「知ってるよ……ロクでもないトリックで、海辺の町を一つ、溶岩に沈めてくれた」
アルフォンスはいまいましげに、
「どんな魂胆かしらないが、そんな詐欺みたいな手管で僕と君の愛を引き裂こうなんて、させるもんか」 「アル」
アルフォンスは上半身を起こした。エドは目が釘付けになった。剣や馬で鍛えたたくましい体が、月明かりで白く浮き上がった。若い青年の清潔な皮膚の下の筋肉の隆起。人間の体がこれほど美しいと思ったのは、初めてだった。 そしてアルフォンスも見た。星の輝きとみなもの煌きの魚の肢体、滑らかなしなやかさの胸郭としなやかな腕、のびやかな首筋と、見たこともない金の瞳の小さな顔を。
「なら、そのままで僕に愛されればいいんだ」
アルフォンスは汗に濡れた前髪をかきあげ、微笑んだ。ぞくりとするほど、艶やかだった。
「人魚のままで、僕のそばにいて。ずっと、一生」
指が、鱗をたどり、その部分をかきわけた。その動きに合わせて声が―――高く、低く、甘く闇の中に広がった。
ゆかいさん
人魚のままで、僕のそばにいて。ずっと、一生――
エドワードは自分の耳を疑った。 これまでの人生をずっと水の一族として生きてきた。この先もそれ以外の運命はありえないと思っていた。
目の前にいる、アルフォンスと出会うまでは。
アルフォンスも自分の口からついて出た言葉に一瞬我にかえる。 まさかこんなに彼のことが、たった一度の出会いだけで失えない存在に変わっていたとは。
美しい人魚の一族。希少価値とも言うべきその鱗は宝石として一枚一枚が珍重され、裏世界でこっそり取引が行われている程だ。しかしアルフォンスは彼の外見にのみ魅せられたわけではなかった。その瞳の奥に、確かに自分がずっと欲していたものが存在したからだ。この身分も財産も何も願わず、ただアルフォンスという人間そのものを愛してくれる、そんな単純な願いを叶えてくれるのは、見つめ返す金色の瞳の持ち主以外には二度と現れないだろう。
(僕は漸く見つけたんだ、僕の望む尊い世界を)
月光の中じっと見下ろすと、雲の切れ間にエドワードの顔が白く照らされた。 その表情にアルフォンスは言葉を失った。 淡く光をとどめる眦のふちに涙が膨れ上がり、滑らかな頬を伝ったのが見えた。
「……どうして……泣くの?」
華奢な肩を震わせ、エドワードはアルフォンスを見つめたまま静かに涙を落とした。
「……どうしてって。……俺、このままでいいのか? ……人間にならなくても?」 「いいよ」 「そんな言葉、ありえねぇって思ってた。人間は人間にしか、恋しないって思ってたから」 「僕は」 そっとアルフォンスはその場に片膝をつくと、エドワードの涙を指先で拭い取った。それだけでは足りず、唇でもう片側も吸い取ってやる。 「たとえきみがもっと小さな小魚だって、イソギンチャクだったとしても、そのままのきみがいい」 こう囁き、その掌に口付けた途端、エドワードの瞳がゆっくりと閉じられた。 「……アルフォンス、俺――」
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「……アルフォンス、俺――」
エドワードは腕をアルフォンスの肩へ回し、引き寄せた。
「人魚のままでお前に何をしてやれるかわからない。ずっと陸には入られないし。でも誓うよ。お前が好き。愛してる。ずっと思いは変わらない」 「明日命令を出すよ」
アルフォンスは囁いた。
「海と繋がる海水を満たした大きなプールをつくろう。僕は国政があるからずっと側にいてあげることはできないけど、なるべく君のところへ行くよ。僕に泳ぎを教えてくれる?」 「うん。そうすれば、もうお前溺れたりしないぞ」
くすくすと二人は笑った。それから視線を合わせ、口付けた。誓いの儀式のように。
「愛してるよ、アル」 「愛してるよ、エド」
もう一度、アルフォンスはその体を愛撫し始めた。しなやかな首筋に舌を這わせ、貝殻のような耳朶をたどる。後ろに二枚貝が閉じ合わさったような鰓が開閉していて、思わず舐めてみた。海の味がした。小さく声を漏らし、エドワードはそり返った。
「……ここ、感じるの?」 「ア…………」
頓着しないでアルフォンスは体を辿りはじめた。白蝶貝の艶やかさを持つまろい肩や首筋は、真珠のような光沢だった。そして、小さなくれないの飾りは、ももいろ珊瑚の細工もののように可愛らしい。アルフォンスはそっと口に含んで転がした。
「あ……ぅ……うん……!」 「もう一度、繋がりたい」
低く、アルフォンスは言った。鱗の形を指でたどり、先ほどとろとろと薄紅色の液体をこぼした部分へ、愛撫の手を伸ばしながら。 「ううん、もう一度だけじゃない。何度でも。朝が来るまで。朝が来ても」 「うん……、して、アル」 エドワードはアルフォンスの顔を見続けていた。目をすがめ、汗がしたたり、金の前髪が揺れるその顔を。――そこに、アルフォンスが宛がわれ、自分が二枚貝のように口を開き、触手のある無脊椎動物のように受け入れ、ざわめき、違うものに変貌していくのを感じながら。
違うもの。――アルフォンスに愛されるためだけの生き物。
エドワードは、侵入の衝撃に息をつまらせたが、先ほどまで何度も愛されていた体は、人魚に戻っていても間をおかず慣れた。すぐにそこから蕩けるような快楽がわきあがる。じんじんと背筋に甘い痺れが這い上がり、耐え切れず尾鰭が巻き上がって、はたはたとアルフォンスの腰を打った。シフォンのような薄い尾鰭は、本来の青い色合いに血が上って紅が混じり、まるで虹のようだった。アルフォンスは尾鰭を捉えると、端に甘く噛み付いて舌で撫でた。エドワードの中がそれにあわせてひくひくと震える。 「イヤ! あ、あ、あ、あぁ」 まさしく打ち上げられた魚のように金の髪を振り乱し、エドワードは覚えたての愉悦に乱れた。
KKさん
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エドワードはその身に触れる水の感触で目を醒まし、金の瞳を虚ろに開いた。
「ここは・・・・・・」
大理石の豪華な浴槽には、ひんやりとした水が下半身のみ浸る程度に張られている。 先程、愛する人と陶酔するほどに激しくも睦み合ったが為に、半ば渇き始めていた銀の鱗は、再びその滑らかさと潤った輝きを取り戻していた。
「目が覚めた?エド・・・・・・大丈夫、ここは僕の寝室に続いている専用風呂だから、僕の許可なしには誰も入っては来ない。」
自分のすぐ傍から優しい声がすると思ったら、アルフォンスは自分を腕に抱いたままに、その浅い水を張った浴槽の中に共にいた。
「アル・・・ずっと一緒についていてくれたのか?お前、こんな冷たくなっている。」
アルフォンスもいまだ何も身につけていない状態で、長いことこの冷めた浴槽で彼を抱きしめていたのだ。 人よりも体温の低いエドワードがその身体に触れても、その身が冷えかけているのが感じられる。 さっき自分と繋がっていた時には、あんなに熱くて汗まで滴らせていた、その逞しくも均整のとれた胸元は、今はひんやりと手にすいついてくるようだった。
「僕のことなど気にしなくてもいいんだよ。ほら、僕はエドにこうするだけでいくらでも熱くなれてしまうんだから・・・。」
そう言うと、アルフォンスは今一度エドワードの身体を抱えなおして、彼の白くありながらもほんのりと薄桃の差している頬を両手で包み、先程までの続きのようにその唇を重ねた。 軽く触れていた唇は段々と深くなり、舌が絡み合う頃には、さっきまで冷えていたお互いの身体に再び程よい血色が浮かび上がる。
ぴちゃん、とエドワードの尾鰭が上がるたびに水音を立てる。
まだ夜は完全には明け切れていないが、薄暗い浴室の中から見上げる空は、そろそろと白み始めてきていた。 その中でエドワードの半透明の腹鰭と尾鰭はぴくりぴくりと揺れながら様々に色を変えた。・・・白に、水色に、銀色に、そして虹色に。
二人は陽が完全に昇りきり朝を迎えるまで、離れがたい想いのままに、その場で抱きしめあい愛を囁き、口付けを交わし続けた。
ぱいんさん
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二日後、アメストリス王国に立派な旅の一列が到着した。 アルフォンスの婚約者、エリシア王女の一団だ。 漸く辿りついたというのに、城の中は奇妙な静けさで、長旅で疲れきっていた王女は歓迎のファンファーレひとつ鳴らないことに腹を立てながら王宮中を侍女と歩き回った。 「誰かいないの? 一体どうなっているの!」 エドワードがあまりよく考えずに城の廊下に落としていった宵闇草が勝手に城に根を下ろし、一晩でアルフォンスたち以外を全員眠らせてしまったことなど誰にもわかるはずがなかった。それほど海底の草花には恐ろしく秘めた魔力があるのだったが、エドワードには既に耐性があり、アルフォンスは海の一族である彼の体と繋がることで一瞬のうちにその力を分け与えられていた。 エリシア王女はとにかくそれらしい場所をくまなく探してみたが、困ったことに王や王妃までが昏睡していて話にならない。 自分の婚約者、アルフォンスはどこにいるのだろうと、ふらふらになりつつ城の最上階まで来ると、漸く誰かの話し声が聞こえた。 「……アルフォンス様!」 とうとう見つけた王子の部屋のドアにエリシアは突進した。仕える侍女たちが「はしたのうございますぅ」と嗜めるも遅く、彼女は固く閉じられていたドアを両手で力任せに開いてしまった。
「ア、ああ……ッ。アル、アル……ッ。もう、俺、し、しにそ……っ」 「何言ってるの、まだたった五十回くらいだよ。きみの強靭な腰つきならあと五十回は続けられるよ」
部屋の中央には豪華な丸いベッドが置かれ、薄い天蓋がかかっていたが中は丸見えだ。 そこには細い腰をしっかりと捉えられ、青い尾びれを震わせ続けている美しい金髪の人魚と、その人魚を思いのままに味わい尽くすアルフォンスの姿があった。
「……まあ、これは……!」
王女の呆然とした響きに、さすがに昼夜を問わず愛を交し合っていたエドワードとアルフォンスも気づき、繋がったまま入り口を見た。
「……だれ、あんた」
あまりに長時間繋がり続けたため、その行為が人に見られてはならぬものだということを忘れ、ぽつりとエドワードは呟く。 そんな無邪気な言葉を聞き、アルフォンスは思わず微笑んだ。
「ああ、彼女は僕の婚約者だったエリシア王女だ」 「ええっ」 「でも安心して、僕が結婚するのはきみしかいない。もうきみしか愛せない体になってしまったんだ。……この責任、とってくれるよね? エド」 体の中でゆるゆると蠢かされ、エドワードは真っ赤に染まった唇で小さく悲鳴を漏らした。
「まあ、なんて、なんて……なんて美しい、男たちのまぐわいでしょう!」 唐突にこう叫んだ王女に、エドワードたちはびくりと体を震わせた。 「男なんて所詮ケダモノ、女の敵と思っていましたが、世の中にはこんなに美しく愛を語り合う男たちもいるのですね! エリシアは今はじめて本当の愛を知りました!」 頬を紅潮させてこう言い切ったエリシアは、二人のいるベッドへと近寄り、ムリヤリ彼らの手を取った。 「エリシアは誓います、あなた方をけして離れ離れになどさせません。この婚約のことはわたくしが父上に話し、きっぱりと破棄させますので、どうぞお二人は末永くお幸せに」 「あ、ありがとう……?」 あっけに取られつつもとりあえず御礼を言うアルフォンスを見てエリシアは満足そうに微笑み、その後美しい会釈をひとつ残すと部屋を出て行った。
こうしてアルフォンスは夜にも珍しい、海の一族を妻に持つ王として世界中から注目されることになった。 彼は市政の傍ら、いつまでも美しい人魚の妻を終生大切にしたという。
おしまい。
叶さん
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