ひかりへと続く扉G〜恋人

 



 

 

 

 

 

 

 

 その人の身体が小刻みに震えだすと、僕は自分の中で走り出してしまいそうな衝動を抑える為、きつく奥歯を噛み締める。なかなか理性を手放さない恋人が、ようやくその手を緩めてくれようかという時に、こちらから動くわけにはいかないのだ。折角ここまで理性を総動員して積み上げてきた努力と忍耐も、勇み足によって瞬く間に水泡に帰すということを、僕は今までの経験から嫌というほど熟知させられていたから。

 

「ア・・・・ル、アルッ・・・・・アル、フォンス・・・・ウア・・・・ア・・ッ!」

 

その人から、とうとう耐え切れないというように切ない声が届けられる。これは手ごわい恋人の理性が溶け出した徴だ。

 
 ・・・・これでようやく、僕の手の中に堕ちて来たその恋人に、愛を注ぎ込むことができるのだ。

 

 


 乱れたシーツの上に、金の髪がせわしなく線を描いていく。

 じっと快感に耐えているその人の背中と腰の下に腕を差し入れ、汗ばんですっかり上気した身体を起こして膝に抱き上げると、深くなった繋がりにビクリと一際大きく全身を震わせ、悲鳴を上げる。

 

 ゴメン。ごめんね、兄さん。涙が零れている。ああ、また泣かせてしまった。

 

 「うあ・・・・ッ、く・・・・馬ッ鹿ヤロ・・・・アル・・っオ・・・・トメイル・・・が、お前に・・・あたる、だろ・・・・!?ウ・・・・あ」

 

自分の機械の右手と左足が、むき出しの僕の身体にあたって傷つけはしないかと気にかけているのだ。今の自分自身の状態でさえ持て余しているだろうに、この人は何時でも僕の心配ばかりをする。なんて、愛おしい人。

その首筋に甘く喰らいつき、機械の左足を持ち上げて腕に抱え込み動けないように押さえつけると、頭を振って嫌がるそぶりを見せたけれど、もちろんそんな抗議を聞き入れてあげるつもりなどさらさらなかった。そのまま緩やかに揺さぶりを掛けてあげると、いっそ哀れになるくらいに快感に打ち震えるその人の姿を見ることができた。

 

もう、愛おしいのか、憎いのかさえ分からないほどだ。
 大切にしたいのに、滅茶苦茶に壊してしまいたい衝動もそれと同じ場所に存在していて、その矛盾した感情が僕の身のうちで絶えずせめぎあっている。

 


 愛しているよ。兄さん。
 愛しているよ。エドワード。
 もっと、感じて。
 もっと、僕のことだけでいっぱいになって。
 もっと、もっと、もっとたくさん僕を欲しがって。

 


 腰に手を添えて少しきつく突き上げると、その背をいっぱいに逸らしてシーツの海に再び沈み込み、どうにもできない快感に、ただ、がくがくとその身を震わせていた。堪えるように食いしばろうとしながらも、力を入れることが出来ないのか、顎を震わせるたびにかちかちと歯を鳴らす唇に、そっと唇で触れる。

 

あ・・・・る。あ、る。ある・・・ふぉんす・・・・・・。ある・・・。

 

僕の耳には吐息しか届かないけれど、そうしていると、その唇の動きで、僕の名を何度も何度も紡いでいるのが分かるのだ。僕に愛されるとき、その行為に完全に夢中になったその人がいつもする、無意識に何度もその唇で僕の名前を形作る様子が、僕は堪らなく好きだ。僕の存在が、この愛しい人の奥深くにまで浸透していると実感できるから。

 

ねえ。にいさん。あなたの細胞のひとつひとつに、僕の名前を刻み込めたらいいのにね。僕の中にあなたのすべてが混ざり合って同化しているみたいに。あなたにも、それと同じになって欲しいよ。

 

「ハア・・・・・フ・・・・・お・・・同じだ・・ッ、俺も、お前でいっぱいいっぱいなんだ・・よ・・。これ以上、ど・・・・しろって・・・・・ん、・・ア・・・」

 


 意地悪く侵入を浅くして、動きを緩慢にすると、それまで閉じていた目を薄く開いて、泣きそうな恨めしそうな視線を寄越してくる。この人は、自分が今どんな表情でこちらを見上げているのか気付いていないのかもしれない。僕にそんな貌を見せてもいいと思っているのかな・・・・・知らないよ?

 

 

途中幾度か迎えた絶頂で、既に息絶え絶えになっていた恋人が僕の愛撫から逃れようと反転させたその背中に、唇を寄せ歯を立てた。僕の我儘で、いつも辛い体勢で受け入れることを強いてしまうけれど、それでもやはり、愛しい人の目をみて愛し合いたいのだ。

思いのほかきつく歯を立ててしまったらしく、口の中に血の味が広がる。

 

ごめんなさい兄さん。痛いよね?ごめんね・・・・。でも、お願いだから、こっちを向いて。

 


 「ん・・・・アアアッ!ふ・・・・・あ、・・・・る・・・・!」

 

 

にいさん。にいさん。にいさん。

 

 

可愛い。愛おしい。切ない。遣る瀬無い。壊したい。慈しみたい。啼かせたい。包んであげたい。

 



 この愛しい人を抱くとき、僕の中はいつも混沌としている・・・・・・。

 


 この感情は、何なのだろうか・・・・・・。

 

この心の中にせめぎあっている幾多の感情に、一体何という名をつければいいのだろうか・・・・・・。

ただ、それを伝えようとすると

 

「愛しているよ」

 

そんな言葉にしか置き換えることができないのだ。

 

だけど、愛しているよ。兄さん。

 
 この心が僕の中から消えることはもう・・・・・・・・・未来永劫、ないんだよ。

 

 

  

 

 

***************↑という夢を見ちゃったあるほんす君。さあ大変だ。*************

 







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