声とともに、大勢が走ってくる足音が聞こえた。

『いかん、逃げるぞ!』

 あたしたちは、道を反対側に走って逃げ出す。

 街中だから、道は縦横に走っていて、交差点がたくさんある。無我夢中で走っているうちに、すぐに自分たちがどこにいるのかわからなくなってしまった。

 夜なのに、そこらじゅうから足音が聞こえ、叫び声が響き渡っていた。さっきの警備兵だけでなく、町中の兵士があたしたちを探し回っているに違いなかった。

「どういうことだ? あの娘、わしらを売ったのか?」

 ゼバスが吐き捨てるように言う。

「わからん。だがどちらにしてもこうなった以上は、宿でのんびりと休むわけにもいきそうにはないな」

 そう言ってから、あたしはチャムに相談する。

《チャム、どうする?》

『うむ……。かくなる上は、一気にけりをつけるしかあるまい。今すぐに王宮に乗り込み、ランセムを見つけ出すのだ』

《でも、どうやって? 王宮の場所もわからないのよ?》

『大体の場所はわたしが覚えている。しかし、この状況でどうやって入ればいいものか……』

《……とにかく行ってみるしかないわね。あとは、出たとこ勝負》

 話しながら走り続け、路地の角を曲がったところで、数人の警備兵とばったりと出くわしてしまった。

「おまえたち誰だ? 待て、止まれ!」

 古今東西、止まれといわれて止まるバカはいないっ!

 あたしはすばやく両手を上げ、風の印を作る。

『できるだけ兵士を傷つけるなよ』

《わかってる》

 あたしだって、人間に怪我させたり、ましてや殺すなんてまっぴら。

 近くに積んであった材木の山に向かって突風を送った。材木は強風にあおられて舞い上がり、突進してきた兵士たちに襲いかかる。兵士たちはあわてて身を伏せ、その間にあたしたちは逃げ出した。

 少し走ったところで、また別の兵士たちが路地から姿を見せた。

 ちらっと周囲を見たけど、今度はうまく使えそうなものが見当たらない。どうしよう? 「太刀風」でも使えば、撃退するのは簡単だけど、そうしたら兵士たちに傷を負わせ、ひょっとしたら殺してしまうかもしれない。

 あたしが躊躇している間に、ローザが先に呪文を唱えた。

 突然、あたしたちと兵士の間にもくもくと煙がたちこめた。その中から姿を現したのは……、金色の輝くうろこに包まれた、翼を持った獣。

 ド、ドラゴンだぁっ!

「んきゃぁぁぁっ!」

 あたしは悲鳴を上げてしまった。別に驚いたのはあたしだけじゃなく、ゼバスやシルファスも、兵士たちもおののいて後ずさった。

「みなさん驚かないで、幻影ですわ」

 そ、そうか。幻影なんだ……恥ずかしい。

「さあ、今のうちに!」

 幻影のドラゴンを相手にしている兵士たちを残して、あたしたちはまた走り始めた。

「こんなふうに……、はっ、はあ、逃げ回るなど……ひぃ、わしの主義に合わん」

「あ、あなたは何を……言ってるんですか、正面から戦って……は〜、どうなるというんです」

 こんな状況でも、ゼバスとシルファスはお決まりの口論を始めていた。

 もう、どうにでも好きにしてちょうだい。無視!

 走っていると、また前方から別の兵士が走ってきた。とっさに横の路地に走りこむ……と、そこは行き止まりだった。しまった。

 後ろをちらっと見ると、もう路地の入り口には兵士が駆けつけている。

『フレイン、「風乗り」だ! あの屋根の上に飛べ!』

 そうだ。その手があった!

「みんな、手をつないで!」

 「風乗り」の印を作る。魔法を発動させると、風があたしを中心として渦を巻き、足の下に入り込んで身体をふわりと持ち上げる。手をつないでいる他のみんなにも風は広がり、その体重を支える。

「行くぞ!」

 一陣の強風が巻き起こり、あたしたち全員の身体を羽毛のように吹き飛ばす。

 次の瞬間、あたしたちは前方に見えた建物の屋根の上に着地していた。

 周囲を見回し、兵士たちのいなそうな方角を探す。近くにある一本の街路に目をつけ、もう一度「風乗り」で降り立った。

「こっちだ!」

 角を曲がったとたん、そこを歩いていた小柄な人影と衝突する。

「きゃっ!」

 その人はしりもちをついて、あたしたちの方を見上げ……え?

「あ、あんたたちは?」

 あたしたちを見上げていたのは、驚いた表情のリーラだった。

 

 ゼバスがさっと飛び出し、リーラにつかみかかった。

「小娘、わしらを売ったな!」

 ゼバスに首根っこをつかまれて、リーラはもがく。

「ちっ、違う! あたしはそんな……裏切ったりしないよ……」

「なら、どうしてわしらがこの町に着いたと同時に、兵士が総出でわしらを捕まえにきたのだ?」

「し、知らない……、知らないよ、本当だよ」

 ローザがゼバスの手を押さえる。

「乱暴はいけませんよ、ゼバスさん」

 ゼバスはしぶしぶリーラから手を離した。リーラはぜいぜいと荒い息をつく。

「あ、あたしの方が聞きたいよ。あんたたち、いったい何をしたんだよ?」

「わしらは……」

 言いよどむゼバスに代わって、あたしが答えた。

「こうなった以上、教えよう。わたしたちは、ランセムのやろうとしていることを止めるためにきたのだ。ランセムは、闇の王ディノクラと契約しているのだ」

「……ディノクラだって? そんな、恐ろしい……」

 その言葉に、リーラはショックを受けたようだった。ということは、リーラもディノクラがどんなものかは知っているわけか。

「そうだ。ランセムはディノクラの力を借りて、ザンジアとロイグリードを征服する気だ。だが、それだけでは終わらない。ディノクラはランセムを逆に利用しているのだ。ディノクラがランセムに何をさせようとしているのか、はっきりとはわからない。だが、それが世界にとって大きな危機となることは間違いない」

「き、危機っていったい何が起きるんだよ?」

「それを確かめるために、ランセムに会うのだ。そして、彼を止める。必要とあれば彼を殺してでもな」

「こ、殺すって……」

 リーラは唖然とした表情で、あたしたちを見回す。

「何を驚くのだ。おまえも今までずいぶんと危ない仕事をやってきたのだろう? おまえを見ていればわかるぞ」

 ゼバスの言葉に、リーラはかっとしたように言い返す。

「ば、ばかにしないでくれよ! そりゃあたしも確かに、盗みとかけっこうヤバイ仕事やってきたけどさ、人殺しはやったことがないし、絶対やるつもりもないよ!」

「わたしたちも同じですわ。誰であっても殺したくなどありません。まして、私はルミールに仕える身、不要な殺生はルミールの教えにそむくこと。でも、それがどうしても必要であれば……しかたのないことですわ」

 ローザの様子に、リーラは決意を読み取ったようだった。リーラは肩をすくめる。

「……わかったよ。あんたたちがその気なら止めやしない。でも、あ、あたしには関係のないことさ。あんたたちのことは、見なかったことにするよ」

 そう言って、彼女は出口に振り返った。

「そ、それじゃあ、あたしはこれで……」

 立ち去ろうとしたリーラの前に、斧を抜いたゼバスが立ちはだかり、彼女の目の前に斧の刃先を突きつける。

「ひっ!」

 青ざめて後ずさったリーラの背後には、ローザとシルファスが控えていた。

 あっという間にリーラは三人に囲まれてしまい、行き場をなくして怯えた。

「な……なにさ、あたしを……どうする気だよ?」

 ちょっとかわいそうだけど、このさい仕方がない。

「話した以上は、そなたを行かせるわけにはいかない。すまないが、最後までわたしたちに付き合ってもらう」

「つ、付き合うって?」

「わたしたちと一緒に、王宮に入り込んでランセムに会ってもらう」

「い、嫌だよ! 言ったろ、あたしに関係ないことだって。ひ、人殺しになんか関わりたくないよ!」

「別に殺すと決まったわけではない。わたしたちだって、殺さずに止められるならそうしたいのだ。だが、是が非でもランセムは止めなければならない。ディノクラとの契約を破棄させなければ、この世界にどんな災いが起きるかわからないのだ」

 そこで、あたしは肩に乗ったチャムに質問した。

《ところでチャム、ディノクラとの契約の解除ってどうするの?》

『うむ……基本的に、精霊王と交わした契約を解除するのは容易なことではない。ランセムがどのような条件でディノクラと契約したかによるのだが……。おそらくは、契約の解除と引き換えに、ディノクラはランセムの命を要求するだろうな』

《げ。じゃあどっちみちランセムは死ななきゃならないってこと?》

『たぶんな。このことはまだ皆には内緒だぞ。とにかく、すべてはランセムに会ってからだ』

 とにかく、今は行動するしかない。あたしはまたリーラに向き直る。

「ことが終わるまで、そなたを行かせるわけにはいかない。嫌でも一緒に来てもらう。協力するのが嫌なのなら、ついてくるだけで何もしなくてもよい。だが、逃げようとしても無駄だぞ」

 どうやら、リーラはこれ以上拒否しても無駄と腹をくくったようだった。

「……わかったよ。しょうがない、一緒に行くよ。どのみちあんたたち、王宮にどうやって忍び込んだらいいのかも知らないんだろ? 案内してやるから、ありがたく思いな」

「決まりだな。よし、急ごう」

 先に立って走り出したリーラの後を追って、あたしたちは王宮に向かった。

 

 王宮は町の外れにあって、川に面して建っていた。川に面していない三方は堀に囲まれて、川から引かれた水が城をぐるりと回るようになっている。正面の門には橋がかけられ、両側に兵士が警護していた。

「こっちだよ。この先に王宮の裏口がある。正面よりも警備が甘いから入りやすいはずだ」

 リーラの指した方角は、川に面した城壁の片隅だった。小さな入り口があって、その手前には狭い床が張り出している。

「あそこが裏口だよ。本当なら、舟でだけ出入りできるようになってるんだ」

「それで、どうやって入るつもりだ? 舟はないぞ」

「え、ええと、どっかに川を渡れるものは……」

 リーラがとまどっているところに、あたしが口をはさむ。

「あそこに乗り移ればいいのだな?」

「そうだけど……」

「わかった。みんな、手をつないでくれ」

 「風乗り」の印を作る。魔法を発動させると、足の下に回りこんだ風が全員の身体をふわりと持ち上げる。

「ひゃっ?」

 リーラが驚いて、すっとんきょうな声を上げるのと同時に、突風があたしたちの身体を運び、裏口の前に運んでいた。

「さあ、入ろう」

「え? えっ? どういうことだい、これ?」

 リーラの驚きぶりに、ちょっとだけ笑いたくなった。

「簡単な風の魔法だ。風の力を呼んで、わたしたちを運ばせた」

「……あんた、魔術師だったのか」

「そうとも。わたしは『風使いのフレイン』と呼ばれている魔術師だ」

「ザンジアで一番の魔術師ですのよ、フレイン様は」

 いや、ローザ、いちいち付け加えなくてもいいって……。

「とにかく、先を急ごう」

 入った先は王宮の裏庭だった。真夜中の城内はほとんど真っ暗で、要所に備え付けられた松明の明かりがかろうじて周囲を照らしている。

 不意に、ローザが口元を押さえて顔をしかめた。

「うっ……」

「どうしたのだ? ローザ」

 ローザはわずかに苦しげな表情で、あたしを見返した。

「この城内には……闇の魔力が満ちています。誰か……、おそらくランセムが、強力な闇の魔法を使っているに違いありません」

 チャムが説明を補足してくれた。

『魔術師というのは、自分が使う元素、またはそれに対立する元素の魔法は本能的に感じ取れる能力を持っているものなのだ。そなたも、周囲に風の魔法か、風に対立する地の魔法が存在していたら感じ取れるはずだ』

「そうか……。やはり、ここでランセムが魔法を使って何かをやっているのは間違いないな」

「ええ……。それも、この場所に満ちている魔力は尋常なものではありませんわ。ランセムはディノクラから大変な力を受けているに違いありません」

 とにかく、今はランセムに会うことが先決だ。あたしたちはリーラを先頭に、城の内壁に沿って歩きだす。

「いいかい、見つからないように壁にぴったりついて歩いてくれ。静かにね」

「それで、どこに行くのだ?」

「あそこから建物に入って中庭に出ると、そこに礼拝堂がある。ランセムはたいていそこにいるはずだよ」

「夜中なのにか?」

「そう。ランセムは最近、昼も夜も礼拝堂にこもってて、外に出てくるのはめったにないらしいんだ。それで、夜中に礼拝堂から怪しい物音がしたり、怪物の姿を見かけたとかいう噂が流れてるもんだから、ランセムがここで魔法を使ってるんだってみんな思ってるのさ」

「よし……。とにかくそこに行って、ランセムがいるかどうか確かめよう」

 あたしたちは、城壁に囲まれた王宮の建物の入り口に向かって進んでいった。入り口のそばまでは壁に沿って進んだけれど、そこから入り口まで十メートルほどは、どうしても壁から離れて進むしかなかった。しかも入り口は両側に据え付けられた松明で明るく照らされていて、見張りがいればすぐに見つかってしまう。

 リーラは周囲を見回し、耳をすましてから、口をしかめた。

「まずいね。ちょうどこの上の城壁に見張りがいる。入り口にたどり着くまでに見つかっちゃうよ。そうしたら、たちまち警報が鳴らされる」

「それは困る。さて、どうすべきか……」

 ポケットからチャムが顔を出して、口をはさんだ。

『「曲射」を使うのだ。シルファスに矢を射させて見張りを狙え』

《あ、なるほどね!》

 あたしは、シルファスに向き直った。

「シルファス、弓を用意してくれ。わたしが合図したら、まっすぐ上に向かって射てくれ」

「それはかまいませんが……何をするのですか?」

「城壁の上にいる見張りを射るのだ」

「……え? ここからでは狙えませんよ?」

「だいじょうぶ。まあ見ててくれ」

 「曲射」の印を作る。最後の印を作り終える直前に、あたしはシルファスに声をかけた。

「撃ってくれ!」

 シルファスが矢を射ると同時に、あたしは魔法を発動させた。

 上に向かって射られた矢を、風の力が包み込む。矢は城壁の高さを超えたところで、弧を描いてくっと曲がり、城壁の上にある通路をめがけて落下した。

「ぐはっ……」

 かすかに、くぐもった悲鳴が聞こえた。

 矢が見張りに命中したんだ。人間は傷つけたくなかったけど、このさい仕方がない。死んでませんように。

「リーラ、ほかに見張りは?」

「いないよ。向こうに何人かいるけど、ここは見えない」

「よし、今だ! 行くぞ!」

 あたしたちは前方の入り口に駆け寄り、扉を開いた。

 中に入ると同時に、そこに控えていた兵士と出くわす。

 まさか突然誰かが入ってくるとは思わなかったんだろう。その兵士は槍と盾を近くの壁に立てかけていて丸腰だった。あたしたちの姿に驚いた兵士は、あわてて槍に手を伸ばした。

 とっさに、あたしは思いついた魔法の印を作っていた。

 兵士の周りに風の力が集まる。その力は細長い渦となって固まり、何本もの風のロープとなって兵士に巻きつく。あっという間に、兵士は風のロープで縛られて身動きが取れなくなり、愕然とした表情を見せた。身体をねじって見えない呪縛から逃れようとするけれど、風の力はその身体をしっかりと押さえつけていた。

 「風縛り」の魔法だ。

 シルファスとリーラは目を丸くして、その様子を見つめていた。

「すごい……。これも風の魔法なのですか、フレイン様?」

「そうだ」

「そうですか……。いや感服しました。僕も魔術師には何人もお目にかかりましたが、フレイン様ほど見事に魔法を使う人は見たことがありません。さすがにローザさんの言われたように、ザンジア随一の魔術師です」

「ですから、申し上げたではありませんか」

 ローザ……。そう、いちいち自慢しなくていいから……。

「とにかく、先を急ごう!」

 あたしたちは静かに先に進む。

 さすがに王宮だけあって、建物の中も広いし豪華だった。石造りの長い廊下には暗い赤のじゅうたんが敷き詰められ、あちこちの壁には繊細な絵のタペストリーがかけられ、窓には色とりどりのステンドグラスがはめられていた。

 廊下を曲がって、礼拝堂に通じる通路に入ったとき、リーラが不思議そうに周囲を見回す。

「変だな……?」

「どうした?」

「おかしいと思わないかい? 誰もいないなんて」

「そういえば……」

 確かに変だ。夜とはいえこんな広い王宮。あちこちに詰めている衛兵やら女官がたくさんいるはず。なのに、外と入り口で何人かの見張りを見かけたほかは、人の姿はまったく見られない。

「どういうことだ?」

「わかんない。だけど、あんまりいい予感はしないな」

 確かに、王宮に誰もいないというのは不安に感じた。だけど、いまさら引き返すわけにも行かない。どうしても、すぐにランセムに会う必要がある。

 廊下を突き当たった大きな扉のところで、リーラは足を止めた。

「ここだよ。この向こうが礼拝堂。用意はいいかい?」

「ちょっと待ってくれ」

 頭の中で、扉の向こうに待ち受けている事態を想像してみる。ランセムは何をしているのか。話を聞く気なのか、それともいきなり襲ってくるのか。

「ローザ、闇の魔法を感じるか?」

 あたしの問いに、ローザは首を振る。

「闇の魔法の痕跡は、この城の中全体に充満しています。ランセムが日常的に強力な闇の魔法を使っているのは違いありません。でも、今は……魔法は使われていません」

 ということは、ランセムは今は休んでいるのか、眠っているのか、それとも……。

 いろんな可能性を考え、それぞれの場合に応じてどんな魔法を使えばいいのか頭の中で検討してみる。ひと通りの考えがまとまってから、あたしは他のみんなに声をかけた。

「みんな、準備はいいか?」

 みんなは無言でうなずいた。

「よし、開けるよ!」

 リーラが扉のノブに手をかけて一気に開き、あたしたちは礼拝堂になだれ込んだ。

 入り込んだのは、天井の高い大きな部屋だった。部屋全体が八角形になっていて、いくつかの壁には入ってきたのと同じような扉があり、その上には鮮やかな絵が刻み込まれた大きなステンドグラスがはめられている。部屋には作り付けの椅子が何十も並び、その正面には石の祭壇、その両側には小さな噴水のような水盆が並んでいた。

 そして、この広い部屋には誰もいなかった。夜の静寂の中、噴水の水の音だけが周囲に響きわたっていた。

「……誰もいませんね。どういうことでしょう?」

 シルファスがいぶかしげにつぶやく。

「寝てるのかも知れないよ。この礼拝堂の周囲には、控え室や休憩室がついてるから」

 あたしは周囲の壁にある扉を指差す。

「あの向こうか?」

「そうだよ。ランセムが休んでるとしたら、その辺の部屋のどれかだよ」

 あたしたちがその扉に歩み寄ったとき、突然後ろから声がひびいた。

「ランセムはおらぬよ」

第三章 ランセムと「世界の核」:1

第三章 ランセムと「世界の核」:3

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