夜明け前の灯火
ターボ付きエンジンでは、(「付き」などと言うとヤボッたく聞こえるが、逆にターボ・エンジンと言うと
飛行機のジェット・エンジンを連想してしまうので「付き」と言う表現に拘る)圧縮が終わった段階での
混合気体の温度は高く(注:サブ・ウィンドウに表示されているインター・クーラーを参照)、発火しやすい
状態となる。そのためノッキング対策の一つとして、エンジン内の圧縮比(ターボの過給圧ではない)を
自然吸気エンジンよりも低く抑えるのが普通である。
しかし大切なのは圧縮比ではなく、燃焼時に発生する圧力の平均値なのだ。計算ではコスワースの場合で
146気圧だが、ルノー・ターボでは327気圧となる。これこそターボ付きエンジンが、自然吸気エンジンに
比べて優れているところだ。そうでもなければ等価係数が2という差別待遇で互角に戦えるはずがない。
ターボの悩みは、タイム・ラグとノッキング、そして燃費と相場が決まっているが、ターボ付きエンジンが
すべてノッキングを起こすわけではない。要するに等価係数が極端(1.4 が当時の限界だから、2は明らかに
超過域)に大きい場合に、とてつもなく大きな過給圧がないと埋め合わせが利かないのである。
ホンダの資料によれば、過給圧に制限がなかった最後の年、1986年のRA166Eでは4.4バール(1気圧=
1.013バール)までかけたようだが、1978年当時は2.5バールでも驚異的に大きな過給圧と言えた。
エンジンから見れば、ターボほどの招かれざる客も他に無いわけで、これのために毎日がフード・バトルに
なる。飲み込む前に次の飯を押し込まれれば、胸がつかえて噎せ返ってもおかしくはない。
ルノーは、このような問題を一つ一つ解決していった。1980年になるとルノー・ターボは、どのグランプリ
でも勝つ事が出来るエンジンに成長していた。
(Fulcrum 著)