ノッキングとデトネーション

 ここでノッキングについて再度認識を新たにすると、デトネーションとは定義が異なる事にに気付く。

レーシング・エンジンで問題となるのは、デトネーションではなくノッキングの方だ。

 

 デトネーションは、バルブの裏に付着したカーボンが灼熱するため、圧縮途上で燃料に引火する現象で、

一般にオーバーヒート冷却不足の場合に起こりやすい。ラジコンに使われるグロー・エンジンは、電波

ノイズの対策として、スパーク・プラグの変わり焼いた鉄心を点火装置として使う。尤も鉄心の正体は

電熱線で、これに通電して加熱した後、始動する。運転中は燃焼が電熱線を加熱するので、一度始動すると

後は通電の必要は無い。つまりデトネーションを積極的に利用しているエンジンである。創世記のクルマは

グロー・エンジンを使用していたが、始動前の予備加熱に時間がかかり、スロットルの応答が悪い等の理由で

廃れた。

 

 燃料と空気の混合気体は、非常に短時間に燃焼するが、つぶさに観察すると、通常は紙切れが燃えるように

端から燃え広がる。この現象を火炎伝播と呼ぶ。 忘れてはいけない事は圧縮された混合気体が燃焼すると、

発生する圧力は正常な場合でも140〜160気圧になる点だ。混合気体の半分が燃焼した時、残る未燃焼気体は

160気圧で急速に圧縮されるわけで、ここに何かの熱源が有れば自己着火するのである。

自己着火が起こると火炎伝播とは無関係に二次的な燃焼が起こる。これがノッキングという現象である。

 ノッキング時の燃焼室における内圧は更に高い値となる。ノッキング時の燃焼速度は 数百〜1500 m/s と

速く、衝撃波を作るのである。この衝撃波エンジンを破壊する事はあっても、本来の仕事には全く寄与

しない有害な現象である。

 

 燃焼室の温度分布に注目すると、排気バルブは熱せられて高温となるので、排気バルブ近傍では燃焼が促進

されるが、吸気バルブは未燃焼気体で冷却されるため、吸気バルブ近傍は燃焼が緩慢である。となると、

排気バルブ近傍の高温気体が吸気バルブ近傍の低温気体を圧迫するので自己着火を誘発する。

ノッキングは燃焼の度に起こるのではなく確立的に発生する現象であるが、燃焼室内の何処で発生するかは

特定出来ない。

(Fulcrum 著)