腹痛と胃薬
過給機付きエンジンの泣き所は、何と言ってもノッキングだろう。
ノッキングの防止策は、現在でこそ出揃ったが、当時としては燃料の改質の他はマシな手立てが無かった。
そもそも石油の存在は古くから知られていたが、1880年当時は蒸留・精製の技術が未熟だったため、灯油
をランプの燃料に使った以外はアスファルトを道路の舗装に使ったが、先に出て来る軽い方の油は爆発
しやすくて使いにくい。だから大方は山の中に廃棄したそうである。しかし洗濯屋がドライ・クリーニング
のためにベンジン(たぶん、ガソリンと軽油には分けていなかったのだろう)を使っていたからベンジンは
洗濯屋に行くとタダで分けてもらえた。このベンジンに目をつけたのが、他でもなくベンツである。
最初に燃料に着目したのはイギリスのエンジン研究家リカルドだったが、これらを系統的に多くの燃料で
試験して耐ノッキング性を数値化したのは、GMの技師長をしていたケタリングだったようである。
そのケタリングによるオクタン価は、耐ノッキング性が最低の正ヘプタンと、最高のイソ・オクタンとの
混合比で示される。つまり、イソ・オクタン100%と同じ耐ノッキング性を示す燃料はオクタン価100となる。
ガソリン以外の燃料も調べてみると、メチル・アルコールは、更にオクタン価が高い燃料である。これに
やはりオクタン価が高い燃料であるベンゾールを加える。しかし逆に燃え難くなるので、隠し味にアセトン
つまりシンナーを混ぜ込む。その比率はメタノール60%、ベンゾール30%、アセトン10%というから、
現在のISO14000 に照らせば、有害物質以外の何物でもない。
その後、第二次大戦を挿み一時中断したグランプリは、1954年以降、2.5リッターの自然吸気型か、もしくは
0.75リッターの過給型と定められて、アルコール等をガソリンに混入する事を制限したために、1970年の中盤
まで、過給型エンジンはグランプリから消えうせた。 (Fulcrum 著)