鬼ごっこの結末

 ウィングを見たチャップマン先生は、より積極的なダウン・フォースの獲得に乗り出した。先生の発想が

冴える点は、翼を後輪のアップライトに装着した点である。こうすれば、車体はダウン・フォースの影響で

車体が沈み込む事も無ければ、せっかく獲得したダウン・フォースをサスペンションに取られる事も無い。

 

 確かに、路面が鏡のように磨きがかかっていれば理想的だが、実際はバンプの度にタイヤは屈伸するわけで、

それも左右同時という事は無い。一定速の場合、翼は絶えずダウン・フォースを発生しているし、逆に速度が

変化すると発生するダウン・フォースも都度変る。となるとストレスの皺寄せは、間違えなく支柱に来る。

 奇抜なアイデアではあったが、レース中に過大なダウン・フォースを発生すると「物干し」のような柱が圧し

折れて、翼が脱落したり圧し折れたりした。ウィングがダウン・フォースを失うと、クルマは途端に暴れ出す。

 

 ウィングが出始めた時点ではギョッとするような変り種が沸いて出た。そしてウィングは、レース毎に大きく

なり、リア・ウィングは更に高い位置に取り付けられた。当然ウィングに纏わる大事故が多発する。

 1968年のフランスGPでジャッキー・オリバーが乗るロータス49B は、前車が発生するドラフティングに

入った瞬間にフロント・ウィングがダウン・フォースを失い、200km/hを超える速度でコース脇に激突する惨事

を起こした。オリバー車は、他車に比べて、とりわけ大きなフロント・ウィングを装備していた。

 そこで1970年以降、可動式の空力部品は禁止となり、空力部品の取り付け位置は車体に限るように規則が

固まった。

(Fulcrum 著)