新しい空力セオリー
現代のレーシング・カー空力が大切な要素となっている理由は、ダウン・フォースがタイヤの性能に大きな
影響を与える事が明白だからである。二つの物体(具体的には地球とタイヤ)が密着する場合、接する面に
発生する圧力が大きいほど摩擦力が大きくなる。クルマは、路面とタイヤに発生する摩擦力を利用して、推進
し安定するわけである。特に旋回中は、エンジンの馬力ではなく、タイヤの接地性能だけが頼りである。
しかし、車両重量を増加させる方向は、慣性を大きくする事であり、これまで追求した加速・減速性能を
低下させるのみならず、旋回時の遠心力の増大に拍車をかける結果となる。となれば、質量を小さく保つ一方
で、重力中心(つまり下)に向かう力学的ベクトルのみ、大きくする方策を施す以外に手段はないだろう。
静止した物体に特定の方向から力を与える続ける事は容易いが、移動する物体を相手にする場合は、力も
物体と一緒に移動する必要があるので簡単な事ではない。そこで飛行機に御登場願うわけだ。尤も、鉄道なら
磁石で線路に貼り付く手もあるだろう。しかしアスファルトに鉄を撒くわけにいかないから、ネコも杓子も
空力追求、とりわけダウン・フォース獲得に走った。ただし、翼は間違えなく障害物であるから空気抵抗の
増大を招く。
この問題に、ロータスは一つの解決策を提案する。ウェッジ・シェープつまり、楔型(クサビ型)である。
鉋(かんな)で木材の表面を削るように、空気に楔(クサビ)を打ち込んでいけば、大して大きな抵抗は
無いし、桂剥きになった空気の帯が車体を地面に押し付けるだろうというもので、翌年から各車で流行する
新セオリーである。
ただしウェッジ・シェープの場合、車体先端の形状が薄くなければならず、従来、前輪の直前に配置した
ラジエーターを後方に移動せざるをえなかった。
(Fulcrum 著)